エントランスへはここをクリック   
  
茨城空港も
“必要のない空港”になるのか!?

大前研一
今週のニュースの視点

掲載日:2010年3月19日


┏━■〜大前研一ニュースの視点〜
┃1┃ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
┗━┛『茨城空港も“必要のない空港”になるのか!?
   〜需要予測を厳しくチェックし不幸な空港は作るべからず』
 ――――――――――――――――――――――――――――――
茨城空港
茨城空港が開港
全国98番目 
 -------------------------------------------------------------
 ▼ 茨城空港は、明確な目的・位置づけを持つべき
 
-------------------------------------------------------------

  国内で98番目の空港となる茨城空港が11日、開港しました。羽田、成田に次ぐ首都圏第3の空港として地元の期待は大きいですが、現在決まっている定期便は韓国のアシアナ航空のソウルと、スカイマークによる神戸の2路線のみになっています。

 また、国土交通省は9日、国内98空港について、空港を建設したり拡張したりする際の判断基準となってきた国内線の需要予測と2008年度の利用実績をまとめました。

 朝日新聞の集計によると、建設時期が古くて当時の需要予測が明らかでない空港や実績がない空港などを除く69空港のうち、実績が予測を上回ったのは8空港にとどまり、約9割の61空港は予測を下回りました。

 茨城空港は百里基地にある「百里飛行場」を兼ねている、軍民共用の空港です。私としてはその利点を活かして、空港としての目的・位置づけを明確にして欲しかったと思います。

 例えば、成田空港は風による影響で閉鎖されることが比較的多い空港ですから、成田空港に着陸できない場合の非常用の空港という位置づけが考えられます。あるいは、団体のチャーター便を専門に受け入れる空港というのでも良いでしょう。

 ところが実際には、利用者が伸び悩んでいる静岡空港などと同じように「普通の空港」としてスタートしてしまいました。こうなってしまうと、私としては「本来、必要のない空港」と言わざるを得ないと思います。

 定期便は韓国のアシアナ航空のソウルと、スカイマークによる神戸の2路線のみとのことですが、神戸と茨城の間を行き来したいという人の需要がどのくらいあるのか私には分かりません。

 また、確かに茨城から直接韓国へ行けるのは便利だと思いますが、常磐道を使えば茨城から成田へ出るのはそれほど遠くないとも言えるでしょう。こういう点を見ても、茨城空港の狙い・目的はどこにあるのか? ということに疑問を感じます。

-------------------------------------------------------------
▼ 需要予測をチェックできる厳しい目を持つ
-------------------------------------------------------------

 なぜこのような空港が建設されることになるのかと言えば、「需要予測」によって「需要があると判断した」というのが理由になります。

 しかし実際のところ、「需要予測」と「実績値」の間には大きな乖離があります。2008年度の国内空港の需要予測に対する達成率を見ると、需要予測に対して実績が100%を超えたのは、比較可能な69空港中次の8空港のみです。

※「国内空港の需要予測に対する達成率」チャートを見る
→ http://vil.forcast.jp/c/am6xavu3gAaEokac

 具体的な数字は下記の通りです。

 熊本空港:167%、長崎空港:136%、庄内空港:128%、岡山空港:119%、 那覇空港:118%、旭川空港:112%、名古屋空港:109%、羽田空港:103%
 「需要予測」のレポートは「○○総研」、「○○研究所」というような企業や航空行政の関係官庁出身者も多く在籍する財団法人が依頼を受けてまとめているケースもあります。

 「○○総研」、「○○研究所」としては、ゼネコン、地元の政治家、産業界の「空港が欲しい」という期待を一身に背負っています。

 ですから必然的にレポートをまとめるときには、中国からの観光客が数万人見込めるなど、ありもしない数字を並べて実態以上に大きな絵を描く傾向が強くなります。

 こうした事態にならないためには、需要予測レポートをまとめた企業を公開し、きちんと責任を明示することでしょう。そして需要予測を大きく外してしまった場合には、今後その企業に需要予測レポートを発注しない、というくらいの厳しい態度で臨むべきだと私は思います。

 ここを放置してしまうから、毎年1つや2つ似たような不幸な事例が生まれてしまうのです。地方空港だけの問題ではなく、八ツ場ダムなどの建設についても全く同じ点に根本的な問題があると私は見ています。

 実際、私自身も需要予測をまとめたことがあるので分かりますが、ちょっと工夫すればどのような数値を見せることもできてしまいます。ですから、そこにどれだけ冷徹なビジネスマンとしての厳しい目を向けられるかということが大切です。

 特に、業界が右肩上がりで成長してきたという環境に慣れている人は要注意です。かつて「トラックの需要が大きく伸びる」という「ある需要予測」に基づいて事業計画を立てていた企業がありました。

 私はその需要予測を一目見て、「これはおかしい。もしこの予測が正しければ日本の成人男子の8人に1人がトラックの運転手という試算になってしまう。」

 「本当にその需要予測が実現するなら、それだけのトラックの運転手を確保する必要も出てきますが、大丈夫ですか?」と指摘したことがあります。

 需要予測は厳しい目でチェックすれば、「本当にそうなるのか」ということを見極めることが可能です。ぜひ、厳しいチェックをしてもらいたいところです。

 すでに間違った需要予測に基づいて建設されてしまった全国の地方空港について、あるいは全国の空港統廃合については、「自由競争」に任せるべきだと私は思います。

 自由競争の結果、つぶれる空港が出てきても資金援助をするべきではないでしょう。「倒れるものはそのまま倒す」という方針です。

 また、例えば「羽田空港をマッコーリーが買いたい」というなら、それもアリだと私は思います。ダメな空港をむやみに救済するのではなく、「資金を出してでも経営したい」という人がいるなら任せてみて、従来とは異なる運営手法によって経営が改善することを期待すれば良いのです。

 こうしたことに政府は決して干渉するべきではありません。自由競争の結果として「自然に」生き残るところが出てくる、という状況があるべき姿だと私は思います。


  以上