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橋梁談合

 その4
 技官集団の夢とコスト削減意識のなさ

横田一
 
初出:日刊ゲンダイ
掲載日2005.8.24

 「いい橋を作るために調整(談合)をした」。

 元公団理事の神田創造容疑者(独占禁止法違反容疑で逮捕)は取調べに対し、こう供述しているという。

 しかし世の中は「いい橋」ばかりではない。島根県西部の港町・浜田市には、地元住民が呆れている橋がある。神田容疑者が天下った横河ブリッジが3社JV(共同企業体)で受注した「浜田マリン大橋」(事業費43億円)のことだ。現地を訪ね、「この先通行止」の看板を横目に橋を渡ると、本当に行止まりになっていた。県

 農水部は苦しい言い訳をした。

 「浜田漁港内の島で埋立工事をする大型車両用の橋梁として建設されました。工事期間中だけ使う仮設橋でも良かったのですが、地域のシンボルにしようということで七〇億円の鋼鉄橋になりました。NHKのニュースなどで映像がよく流れますし、全く無駄とは思っていません」。

 静岡県富士市で工事が進む第二東名・富士高架橋も、「これほど巨大な橋が必要なのか」と思いたくなるほどスケールだ。延々と連なる橋桁は壮観だが、コスト意識のない技術オタクの産物と言った方がぴったり。内田道雄副総裁の逮捕の舞台になった橋梁だが、分割発注を指示した神田創造容疑者が顧問の「横河ブリッジ」も、三社JV(共同企業体)でちゃっかり受注していた。

 すぐ先の富士川にかかる「富士川橋」は、世界一の複合アーチ橋(鉄骨とコンクリートの両方使用)。長さは265メートル、事業費は140億円にも及ぶ。「新技術を駆使した」と公団は胸を張るが、巨大な橋が頻繁に登場すれば、第二東名の建設費が膨大な額(5兆6千億円)になるのは当たり前の話だ。

 しかも夢の道路の完成を急ぐあまり、相場の倍以上で用地買収をした。予定地周辺に、第二東名御殿が誕生したのはこのためだ。実際、「沼津長泉インターチェンジ予定地」(静岡県長泉町)を回ると、平均的な一戸建ての5軒分以上はある豪邸を発見できた。

 公団職員はこう補足する。「神田さんも内田さんも土木部出身。彼らは、公共事業を発注する役所や受注する建設業界でしか専門が活かせず、仲間意識の強いギルド社会を形成している。身内の掟や利益が世間の常識よりも上位に位置し、民間企業では当たり前のコスト意識に欠けるのはこのためです」。

 04年7月、近藤剛総裁は定例会見で、第二東名(5兆6千億円)と第二名神(2兆7千億円)について、「あらゆる見直しを行うことで、2兆円程度コスト削減したい」と表明した。

 一年たった今年7月、「コスト削減の具体例を教えて欲しい」と公団に聞いたところ、「現在検討中で発表できる橋桁の数を少なくする新工法を43の橋で実施することなどで、10%から15%のコスト縮減が可能」との答え。しかし、これはあくまで建設を前提にしたもので、橋梁建設を止めるといった抜本的見直しではない。

 10月に道路公団は新会社に移行する予定だが、技官集団のコスト削減意識は、あまり改善されていないようだ。