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〈アクティブを聞く〉6
 坂本龍一さん


朝日新聞


掲載日2006年5月9日


音楽家・坂本龍一さん(54) 放射能心配 早く止めて

 ――アクティブ試験(試運転)が始まったことに対して、どのように感じていますか。

 「1日で通常の原発1年分といわれる放射能が出ることを考えると、一日でも早く止めてくれた方がよいと思います。当面は使いみちのない核燃料を作り、そのおかげで空気や海が汚染されてしまうのですから、いいことはないと思うのです」

 ◇未来の子に被害◇

 ――ご自身のブログに、試運転開始前から「青森産食品を守れ!」と書き込んでいます。

 「娘の美雨が青森生まれで、青森とは縁があります。知人もおりますし。日本の縄文文化に興味を持っていて、何千年前の古代に農業が営まれていた。豊かな自然もある。広い意味で環境の問題が気になっていて、その一環です」

 「大気や海の汚染は、とても心配なことです。長い時間かかって地球全体に拡散するんですね。海に毒を垂れ流していることは明らかで、何世代後にも被害を及ぼす。顔を見ることのない、未来世代の子どもにも」

 ◇安全なら東京に◇

 ――地元の青森県からは、反対の声は強くありません。

 「確かに隣の岩手県の人とか問題にしているが、青森の中で声が上がらない。ただ、そんなに安全というなら、再処理工場を東京に造ればいい。基地も遠い沖縄で、核施設も他に産業がないような経済的に弱いところに造る」

 「スマトラ沖地震のような地震が起きる可能性のある国土に、55基も原発があるということもおかしい。地震がもし起きたら、どう責任を取るのか」

 ――一度快適な生活をしてしまうと、そのレベルを落とすのは難しいのではないでしょうか。

 「何が快適かといっても、放射能で汚染された空気や水を吸ったり飲んだりすることが快適か。音楽家として世界を旅していますが、旅先で電気が1日数時間しか来ないところもあるが、人間は1日か2日ですぐ慣れちゃうもんです」

 ――あなたはライブの電力をクリーンエネルギーでまかなう試みをしています。日本では今後、広がりますか。

 「以前は、電気は勝手に来るものだと思っていました。当然だれかがつくって、対価を払っている。決まったところから買わなきゃいけないのはおかしい。消費者にとっては『環境のために、きょうは風力の電気を買おうかな』とか、一人ひとりが選べてもいいはずなのに、既得権者が防波堤になって、そういうことをさせないようにしている」

 ――試運転に関して、今後、具体的にかかわっていくことはありますか。

 「音楽家なので、なるべく音楽に専念したい。でも、生きていると、気になることもありまして、ああやってポツポツとブログに書く。愛する青森のために、そういう機運が高まれば。でも、青森の方が気づいて盛り上げていってくれないと、外から押しかけていってもダメだと思うんです。足元からやるのがいいと思うんです」

 「試運転が始まり、被害が出たというのを証明するのは、ずいぶん後かもしれないが、実際に困るのは農家や漁民や県民。ぼくは、外から押しかけていくというやり方は好きではないが、もし自分にできることがあればもちろん協力するつもりです」

 ◇知事の責任重い◇

 ――試運転開始を認めた知事に対して、伝えたいことはありますか。

 「今後、放射能の被害をお子さんやお孫さんの世代、さらにずっと先の世代にまで引き起こすことになってしまい、罪の意識は感じないのでしょうか。この責任は、世界の誰にも負えないほど、重いものだと思います」

(聞き手・栗田有宏)

〈さかもと・りゅういち〉 東京芸術大院修了。78年、イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)結成。88年に映画「ラストエンペラー」でアカデミー賞オリジナル作曲賞を受賞。01年、平和を望む言説を集めたアンソロジー「非戦」を監修・出版。90年からニューヨーク在住。