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沈黙を破った兵士たちの写真展
森沢典子

掲載日:2004.6.27

こんにちは。

先日友人が、イスラエルのテルアビブで、ある写真展に行ってきたそうです。

「沈黙を破って」と題された写真展で、イスラエルの兵士たちが、パレスチナ自治区へブロンでの兵役中に、自分たちで撮った「占領地」の写真が展示されていたというのです。

ジャーナリストや、外国人たち、またはパレスチナ人自身が撮ったパレスチナの写真は見たことがありますが、イスラエルの兵士たち自身によるパレスチナの写真展なんて初めて聞きましたから、とっても驚き、近くにいるのなら今すぐ飛んでいって見に行きたいと思いました。

友人が、写真を撮った元兵士から直接説明を受けながら見た写真や会場の様子を知らせてくれましたのでご紹介します。

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さて、一昨日テルアビブで一風かわった写真展をみてきました。ヘブロンに駐屯していたイスラエル兵が取った写真の展示会です。すでにご存知かもしれませんが、主催者のヘブライ語サイトは以下の通りです。http://www.shovrimshtika.org/hebrew/
(このサイトの英語版は2,3週間のうちには出したい、とのことでした。)

ハアレツのカメラマン、Miki Kratsman が写真の撮りかたを兵士に教えたそうです。このカメラマンは Physicians for Human Rights-Israel の活動(西岸における移動クリニック)にもしばしば同行しているそうです。会場では、写真を撮った、元兵士の若者が英語で写真の説明をしてくれました。

■18歳で、いきなり今まで教わってきた善悪と違う善悪をしめされ、混乱したこと。

■ヘブロンに住むパレスチナ人に嫌がらせをする入植者(こどもを含む)に混乱したこと。

■それでも、自分たちは「テロリスト」捜索に忙しいので、パレスチナ人に嫌がらせをする入植者に対してどうすることもできないこと。入植者が、パレスチナ人の民家のドアにいたずら書きをしたり、壁に「アラブ人はガス 室へ(Arabs to the Gas Chambers!)」と書かれた落書き、ーーそれは「こうしたことが何を想起させるかは言うまでもないでしょ」と、ナチによるユダヤ人への扱いを想起させる状況に混乱したこと。

■「奴らをみんな殺っちまえ。神に奴らを始末してもらおう(Kill'em all.Let Godsort themout)」と書かれたステッカーをつけた銃をぶらさげて歩いている入植者の写真。

■入植者たちによるパレスチナ人への嫌がらせは、すべて「1929年を忘れるな」(ヘブロン におけるアラブ人によるユダヤ人虐殺事件)のもとに、繰り返されることに戸惑いをおぼえること。

■入植者の中には陽気で、兵士に対してとてもナイスな人もいる。でも同じ人がパレスチナ人に対して平気でひどい扱いをできるのをみて、ジレンマを感じること。

■(兵役は)8時間働いたら8時間休む、という日々が何日も続くという勤務体系の中で、外出禁止令 破りのため捕まえられたパレスチナ人が目隠しされ日中外にほうりだされていても、釈放のためになにかしてあげよう時間もなければ、疲れきってしまって何もしてあげないでいることが続くうちにーー自分のシフトが終われば次のシフトの兵士が何かやってくれることを期待しつつ早く休みたいという心境――、そうしたパレスチナ人を見ても無感覚になっていってしまうこと。

■18歳という若さでいきなりそんな状況にはいり、自分たちにはそれに対して何ができる?−逆らうことはできないという諦念(あきらめ)が心を支配すること。

■兵士の駐屯所の窓から見える、パレスチナ住民が住むヘブロンの町の遠景の写真。兵士にはどれが空き家になっているか知らされている。退屈な勤務の中で、空き家を狙い撃ちする「ゲーム」が始まる。窓から見える家々の景色はコンピュータゲームの一画面のよう。ゲーム感覚で狙い撃ち。狙いに当たらなくても、それはただ的をはずしたってこと。

■IDF(イスラエル防衛軍)は、パレスチナ人のドライバーの車の鍵を没収はしていないというけれども、外出禁止令破りのドライバーなどから鍵を没収するのは日常のこと。一ヶ月も たつと鍵の山ができる(と、写真とは別に鍵がたくさんかかった「鍵掛けの展示」――人々の間でパレスチナ難民のシンボルキャラクターとなっているハンダラのキーホールダーがついた鍵もある)。

説明してくれた元兵士は、政治的な主張を述べることなく、ただイスラエルで育った一若者が突然兵士として占領地に赴き、そこで見たこと経験したことに、とまどい、混乱、フラストレーション、ジレンマなどを感じ、それをそのまま話してくれました。それが一層効果的で、写真の技術は未熟なものがあるかもしれませんが、強いメッセージが伝わってきて、また兵士自身が見せ、語ると言うことで説得力があるものでした。多くのイスラエル人が見に来てくれるといいのですが。(私がいったときは外国人のほうが多かったような気がします、、もともとこういうことを信じたくない、見たくないイスラエル人はわざわざ会場まで足を運ばないのかもしれませんね、、、。)

主催者の方に、この写真展を本で出版できないですか?と訊ねたら、したいけれども資金がなくて、、、ということでした。

安藤直美

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この解説で語られた内容は、占領地で、兵士自身によって写され語られている点、そして兵士たち自身が、それまで自分たちが受けた教育内容とは異なる現実に身を置いて戸惑っている点、忙しさや自分の年齢や地位を理由にそうした状況に対して向き合うことができず、あきらめてしまう気持ちが率直に語られている点が特徴的でした。

それと同時に、こうした状況を作り出している当事者でありながら組織、命令、日々の忙しさのなかで、誰もが「自分不在」のまま、その事態を黙認し生み続けている・・・ということも教えてくれています。

国家は「テロ」を理由に、兵士たちは「命令」「義務」を理由に、何を見ても、何を知っても、何をやっても、いつまでも誰も責任を取る事のない状況が生み出す残酷な現実は、それを受けるパレスチナの人々にとって、どこまでも個人的な体験となっていることがすっぽり抜け落ちたまま進行しています。

さて、そういう状況を生み続ける原因になっていることの一つに、多くの人がその現実を「知らない」ということがあるのだと教えてくれる事件がありました。

この元兵士の写真展が、イスラエル軍によって襲撃されたのです。

直美さんからのメールを受け取った数日後、イスラエルの平和活動グループ、グーシュ・シャロームから、その写真展がイスラエル軍によって襲撃されたという内容のメール通信が届きました。
<http://www.haaretzdaily.com/hasen/spages/442123.html>


このような小さな写真展でさえ、イスラエルにとっては、外に知られてはまずいことだったのです。いえ、多分何よりも、イスラエル国内の人々に知られることを恐れたのでしょう。

しかも、国家にとってまずいと感じたものに対しては、それが兵役を終えた国内の「兵士たち」の行動であっても、結局「軍」の力によって押さえ込もうとすることに寒気を感じました。
それが今のイスラエルという国をよく現しているのかもしれませんが。

以前イスラエルでお会いしたジュディさんという心理学者の方が私に話してくれた言葉を思い出しました。

「本当にひどいことですね 私たち(イスラエルの大人たちが)が若者達にさせていることは。
兵士は18歳から20歳くらいの若者達でまだ成長段階です。ときに 自分たちの置かれた状況と折り合いをつける唯一の方法が残虐になること、他者 つまりパレスチナ人を人間として扱わないことだったりします。

自分自身にとってもパレスチナ人にとっても不幸なことです。どんな国でも―――イスラエルもそうなってしまいましたがー――軍事国家化した国は、自分たちを害し、傷つけています。自分たちがどのように変容したかを自覚できません。」

自分の感覚を失わずにいるために「闘う」ことは、自分の感覚を失うことよりも難しいことなのかもしれませんが、少なくとも「知る」こと、向き合うことで足元を確かめることができるのかもしれません。

だから、どこの誰にもまして兵士たち自身によるこうした証言に、国として、傍から見るとびっくりするほどの、ヒステリックな対応をとってしまうのかもしれません。

この事件に関して、おなじみのナブルス通信の編集長ビーさんがすぐブログの中で下記のようなコメントを出していました。


************ブログここから******************************************


http://nekokabu.blogtribe.org/entry-140c8d89b02b9883d05e655e2a8fc88c.html


**元兵士の写真展が、イスラエル軍に襲撃を受けた***

(ビー記)20日付のブログに書かれていたイスラエル元兵士たちの写真展『沈黙を破って』にイスラエル軍が襲撃をかけた。「イスラエル兵士たちをイスラエル軍が襲う」?と頭がこんがらがる話だが、要するに「沈黙を破って」「真実を語られる」ことをイスラエル軍は許さないということだ。(いったい、どんな名目でこれが国内法的に行えるのかは不明)

写真展からはこの展覧会について書かれた記事や、兵士たち70人ほどの証言を記録したビデオが押収されたという。そして、この展覧会のオーガナイザー4人が軍警察から尋問を受けている。

70人もの兵士たちが「本当のことを語る」のは、心底、イスラエル軍にとっては都合が悪いのだろう。そのような行いは「罰して」いかないと、今後の軍の成り立ちに影響が出ると思ったのだろう。

この展覧会を思い立った中心的人物、イェフーダさんはユダヤ教ウルトラ正統派で、ずっと右寄りの立場にいたという。この人の話もとても興味深いのでまた、紹介してみたい(ハアレツ紙の週末版に長い記事がでていた)。

**************ここまで************************************************

ビーさんの指摘どおり、この写真展をオーガナイズしたイェフーダさんが、イスラエル国内でも右寄り(今のイスラエルのシャロン政権は、右も右、う〜〜んと右の政権です)、ユダヤ教ウルトラ正統派のかただったこと、、軍の内部中の内部、前線にいた兵士たちによって開かれた写真展・・・って言うところが、やっぱりどう見ても面白い企画です。

見たいなあ・・・この写真展。

森沢典子