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台所からの地球環境
京都議定書の発効を経て
(その1)
青山 貞一

掲載日:2005.3.4

 以下、無断転載禁



 2005年3月1日、長野県上伊那郡伊那市で「台所からの地球環境、〜京都議定書の発効を経て〜」と題し講演した。

 地球環境問題の講演は久々である。いわゆる「京都会議」の開催よりはるか前に、環境総合研究所の仲間と共同で執筆した「台所からの地球環境」をテキストに、大盤振る舞い146枚のパワーポイントを使って約1時間20分話した。講演終了後、参加者と有意義な質疑応答も行った。

 ※ 環境総合研究所編、青山貞一著者代表、台所からの地球環境
    出版社 ぎょうせい




 その日は、サクラで有名な高遠に宿泊し、翌日、上伊那地域の環境に配慮したまちづくりの現場や上伊那森林組合による間伐材を使ったペレット工場視察、さらに世界に誇る「寒天」食品の工場を見学した。これについても後述したい。


 地球温暖化の究極の対策は、いうまでもなく私たちが成長の限界を認識することだ。
 私は大学を出て数年経ってから、元祖地球環境NGO、ローマクラブに勤務した。ちょうど、「成長の限界」報告が出版された頃である。   

 

 ローマクラブの日本事務局には結局9年在籍したが、成長の限界からは実に多くのことを学ばしてもらった。なかでも以下の図にある幾何級数的な成長と算術平均的な成長の違いがもたらす地球規模での危機、災害の可能性は大きなものだった。



 今でこそ、誰でもCO2がもたらす地球規模での温暖化問題を知っているが、ローマクラブは今から35年も前に、CO2濃度の上昇がもたらす地球規模での温暖化や気候変動がもらす農業への深刻な影響などを警鐘していたのである。


35年前にCO2による地球温暖化に警鐘を鳴らしていた!
出典:成長の限界、ダイヤモンド社


 ローマクラブの成長の限界は、上図にあるように、先進国、途上国を問わず、いわゆる成長主義を改め、定常状態の経済社会さらには、持続的・循環型社会に移行すべきことを提唱した。まさに先見の明とはこのことであろう。



 だが、いうまでもないことだが、物的な成長がもたらすさまざまな環境負荷は、ひとつひとつは小さな環境問題、負荷の集合として構成されている。今我々が遭遇している温暖化など地球環境問題の多くは、ひとつひとつは小さな環境問題の集積、累積として顕在化するのである。しかも幾何級数的成長に象徴されるように、最初はゆっくり、ある起点から急速に地球環境問題は顕在化する。したがって、問題の深刻さに気づいたときにはすでに対応が手遅れになる。これが地球環境問題の特徴と言ってよい。

 蛙を熱湯に入れると、飛び出るが、最初、水に入れゆっくりあたためると、気づいたときには死んでいることになる、いわゆる「ゆで蛙」の例えがあるが、地球環境問題はまさにそれである。

 

 本題の「京都会議」だが、下図にあるように日本は1990年(平成2年)対比でCO2排出量をマイナス6%削減すると1997年に宣言した。そして、この2005年2月16日、京都議定書の内容が締結各国で発効することになった。しかし、日本は標としているマイナス6%が実現できないどころか、現実は次のようになっている。 すなわち1990年対比で見た場合、プラス6%、すなわち目標に比べプラス11〜12%となっており、削減どころか排出量が大幅に増加している。



 ※京都会議開催年、当時の環境庁がいつになっても我が国の
   排出量データを公開しないので、環境総合研究所では、
   エネルギー関連データを収集し、CO2排出量を集計、解析
   した一部が以下のグラフである。


 当時、集計、解析にあたった環境総合研究所の葛城研究員のコメントを以下に示す。

(1)CO排出量は依然増加傾向にある。
   基準となる1990年度の排出量が30,677万t-C/年であったのに対し、その後も
   増加傾向
が続いており、1995年度には33,456万t-C/年(平成2年度比109.1%)
   に増加。
?
(2)一人当たりCO排出量も増加している
    平成2年度の国民一人当たりCO排出量は2.48t/年であったのに対して、平成
   7年度に
は2.66t/年(平成2年度比107.3%)に増加
?
(3)運輸部門、民生部門の排出量の伸びが著しい
   運輸部門、民生部門のCO排出量は、平成2年度比でそれぞれ115.1%、116.8%
   となっており、他の部門が110%の伸びに達していないのに対し、
伸び率が大きい
?
4)景気動向、気象状況との相関が見られる。
   平成4年度から平成5年度は景気の下降期にあたり、特に産業部門のCO排出量
   が大きく減少している。また、
平成5年度は記録的な冷夏であり、冷房需要の減少
   によると考えられるCO
排出量の減少が認められる。

 セクター毎のCO2排出量を解析すると、環境省、経済産業省はじめあちこちで指摘されているように、自動車など運輸部門と事業所、家庭などの民生部門で排出量の増加が著しい。これは確かなのだが、こと日本の場合、もともと産業部門の排出量が大きく、産業部門はそれほど増えていないと言った場合でも、産業部門そのものの排出量が他国に比べ、相対的に大きいことを考慮しないといけないと思う。

 簡単に言えば、勤勉実直な日本人は永年「ウサギ小屋」を強いられてきたわけだが、産業部門がCO2がそれほど増えていないと言うこととの対比で、さらに家庭部門でツメに火を灯す生活を強いられることはいかがなものかと言うことだ。  

 もちろん、運輸部門と民生部門のCO2排出の伸びが大きいことは事実であり、これをできるだけ下げるべきことは言を待たない。だが、もともとEUなどに比べ全体に占める産業部門の割合が大きい日本の現実も直視すべきである。

 CO2濃度だが、周知のように全球的なCO2濃度の平均値は、ハワイのマウナロア山頂で米国の国家気象海洋局が継続的に測定されている。現在はおそらく350〜370ppm(0.035〜0.037%)のレベルにあると思われる。

 私たち環境総合研究所は、10年ほど前、東京都渋谷区の恵比寿ガーデンプレイスの近くに環境測定局を設置し、約1年間、CO2の濃度を自動計測したことがある。その分析結果によると、東京の中心市街地では、当時すでに450〜600ppmの高濃度となっていたことが分かった。ばらつきがあるのは、自動車交通量など発生源の日々の変化や風向、風速など気象の影響を受けているためだ。ちなみに強風の日は、東京でもマウナロア山ではかっている濃度に近づく。他方、無風で交通量が多いウィークデーは600ppmを超えていた。最近では地方公共団体でも都市部のCO2濃度を計測しているが、当時は、人体影響がないCO2を東京のど真ん中で計測し何の意味があるの? とある学会で国立環境研究所の研究者に言われたことがある。

CO2を計測した恵比寿ガーデンプレイス


東京都渋谷区にある恵比寿YGPにおけるCO2濃度計測例  出典:環境総合研究所

 地球温暖化問題は全球的平均濃度の値が500〜600ppmレベルとなった場合、顕在化すると推察されている。地球全体の平均濃度が500〜600ppmレベルとなると、地球上の各地で気候変動の影響が顕在化するわけだ。たとえば、ある地域では大干ばつが進行し、他の地域では大洪水が頻発する。気候変動は当然のこととして農作物の著しい収穫異変をもたらす。さらに両極の氷が溶け、海水面が膨張することなどで海水面の上昇も起こる。

 EUで地球温暖化問題に熱心な国のひとつはオランダだ。昨年夏、国際学会の帰りにオランダに寄り、北海に面する地域を現地視察した。オランダではすでにしっかりとした巨大な堤防が北海側に構築されていた。しかも以下の図にあるように、第一堤防が決壊したりオーバーフローしても第二堤防、第三堤防がバッファーとなるよう、工夫されていることも現地で分かった。


国土全体が海水面以下にあるオランダの北海に面する堤防 出典:環境総合研究所


オランダ・ペッテン地域の大堤防。羊が放牧されていた出典:環境総合研究所 


出典:環境総合研究所

 ところで、東京都心部で500〜600ppmレベルとなっていることが、イコール顕著な地球温暖化とは言えない。しかし、地球全体のCO2平均値が東京、ソウル、上海など1000万人超の人口を持つアジアの大都市並となることを想定すれば、それは極めて異常なことであると私たちは認識せざるを得ないだろう。

 世界の科学者や研究者が一堂に集まるIPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change)は、京都議定書で示された2008年から2012年の間に1990年対比でマイナス6%程度では、予測される温暖化に大した効果は期待できず、温暖化を回避するためには、CO2などの排出量を1990年に対比し40%以上削減しなければならないとしている。その意味からすれば、京都議定書に参集する先進国などの努力は、ほんの一里塚にすぎないと言える。

 しかし、以下の気候変動枠組条約国会議に参加する各国のCO2排出量ランキングを見れば分かるように、一国でCOP参加国の全排出量のおよそ36%を占める米国のブッシュ政権が一昨年、京都議定書から離脱した。



出典:環境総合研究所

 上述のように、米国が参加したとしても来るべき気候変動への各国のCO2削減量はきわめて不十分であるのに、最大の排出国である米国が京都議定書から離脱したことは、行く末を暗澹たるものとする。もちろん、CIS(旧ソ連)が京都議定書の発効に参加したことはヨシとしてもだ。


世界の軍事費ランキング  出典:環境総合研究所
 
 上図は世界の軍事費ランキングである。各国のCO2排出量グラフと似ている。もちろん、CO2は京都議定書参加国なので、CO2グラフには中国などいわゆる途上国は入っていないが、おおむね両者のランキングは似ている。つまり、軍事大国はイコール環境にやさしくない国なのである。

 事実、スイスのダボスで毎年開催されている経済フォーラム、通称ダボス会議で米国の大学が世界各国の環境ランキングを発表している。2002年2月ニューヨークで開催されたダボス会議総会において世界142ヶ国を対象に、環境の保全力を指数で示した「環境保全力ランキング2002」をコロンビア大学とエール大学が発表した。

 結果をみるとトップはフィンランド、日本は何と何と62位である。問題の米国は51位。全体的傾向は北欧が上位を占めていること、アジア諸国のランクがかなり低くいところに注目する必四つ用がある。

 これは個々の環境保全技術の問題ではなく、総合的な環境保全のための社会経済システム、政策、意思決定がどうなっているかが重視されているからだと思得る。 

 詳しくは、池田こみち、「日本の環境保全力は世界の62位」を参照下さい。池田さんは、日本の現状を次のように指摘している。すなわち

 ・世界でももっとも食品を廃棄している国
 ・世界でもっともゴミを焼却している国。
 ・世界の半分以上のダイオキシン類を排出している国
 ・世界でもっとも焼却炉を輸出している国
 ・世界でもっともごみの焼却に税金を投じている国

 最近のダボス会議情報によると、日本の順位は以下に示すように上昇したが、それでもまだ30位に過ぎない。

EIS
ランク
国名       ESI Score   OECDランク
1 フィンランド     75.1 1
2 ノルウェー   73.4 2
3 ウルグアイ    71.8
4 スウェーデン     71.7 3
5 アイスランド    70.8 4
6 カナダ       64.4 5
7 スイス       63.7 6
8 ギアナ     62.9  −
9 アルゼンチン   62.7  −
10 オーストリア    62.7 7
11 ブラジル      62.2  −
12 ガボン       61.7  −
13 オーストラリア 61 8
14 ニュージーランド  60.9 9
15 ラトビア      60.4  −
16 ペルー  60.4  −
17 パラグアイ     59.7  −
18 コスタリカ     59.6  −
19 クロアチア     59.5  −
20 ボリビア   59.5  −
21 アイルランド    59.2 10
22 リトアニア      58.9  −
23 コロンビア    58.9  −
24 アルバニア   58.8  −
25 中央アフリカ共和国  58.7  −
26 デンマーク    58.2 11
27 エストニア     58.2  −
28 パナマ       57.7  −
29 スロベニア     57.5  −
30 日本         57.3 12
31 ドイツ        56.9 13
33 ロシア      56.1
36 フランス      55.2 14
45 アメリカ合衆国   52.9 17
122 韓国        43.0 29
133 中国     38.6  −
145 台湾        32.7  −
146 北朝鮮     29.2 (最下位)
出典:2005 Environmental Sustainability Index Report より
http://www.yale.edu/esi/ESI2005.pdf

 考えてみれば、世界一ゴミを焼却し、埋め立てている日本が上位に来るわけがない。

 ちなみに京都会議が開催された1997年当時、環境総合研究所が日本のCO2排出量全体に占めるゴミ焼却によるCO2排出割合を調査したところ、何と3%以上もあった。どうも日本でCOP会議が開催されたこともあり環境庁(今の環境省)がそれまで入れていたゴミ焼却によるCO2排出寄与をあれこれ言い訳を言って除外したと聞いたことがある。


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