環境省の ダイオキシン・マップから 一体何が見えるのか? 池田こみち 掲載日:2006年4月7日 |
環境省の外郭団体への随意契約問題が取りざたされているが、このマップシステムは、どこにどのような発注方法で委託したのか、また委託費はいくらだったのか気になるところである。 年度末の3月30日、環境省のプレスリリースに以下のようなものがあった。 既にご覧になった向きも多いかも知れない。まだだったら、是非ご自身の目でできばえを確認して頂きたい。 ・ダイオキシン類環境測定結果及び有害大気汚染物質モニタリング調査結果GIS公開システム (ダイオキシンマップ及び有害大気汚染物質マップ)の稼働について http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=7004 行政によるダイオキシン類の測定は、平成9年度から自治体が、平成10年度からは国(環境庁)が始めており、その後は平成12年1月に施行された「ダイオキシン類対策特別措置法」に基づき、大気(一般環境、発生源周辺、沿道)、公共用水域水質と底質(河川、湖沼、海域)、地下水、土壌について、常時監視が行われ、年間におよそ12000検体ほどが測定され、そのデータは膨大なものとなっている。 膨大な測定データを毎年報告書でチェックしている一人として、それが地図上に表示されることについては少なからず期待を抱いた。しかし、見てみると、いったい誰のために何のために作られたシステムなのか、疑問を持たざるを得ない。 まず、ダイオキシン特措法施行以降、すでに丸5年が経過しているが、このシステムに掲載されているデータは2003年(平成15年度)分のみである。従って経年変化は見られない。また、表示も極めて意図的に環境基準値との評価のみで示しているため、視覚的にとらえることが重要となるマップ情報としては極めてお粗末なものとなっている。 例えば、大気のデータを見てみると、日本地図から検索したい地域を選び、測定局を選び、測定結果がマークで地図上に示される。ところが、問題の測定値の評価が環境基準値の0.6pg-TEQ/m3のみで行われているために、それ以下の値は、すべて同じブルーの●が表示されているだけである(以下の図参照)。 出典:環境省HP ちなみに、入力されている平成15年度の測定結果(出典:平成15年度ダイオキシン類に係る環境調査結果、平成16年9月公表)を見ると、913地点で3622検体が測定され、基準超過地点は1地点(0%) 平均濃度は0.068pg-TEQ/m3、濃度範囲は0.0066〜0.72pg-TEQ/m 3となっており、全体では986地点の内の852地点(86%)が0.1pg-TEQ/m3以下となっている。 つまり、3622検体の内、環境基準を超過したのは1検体だけなのだから、青●以外はないに等しい。大気中のダイオキシン類環境基準を定めている国は日本以外にはないが、この基準値を金科玉条に振りかざして評価することにどれだけの意味があるのかが重要である。実際のところ、欧米諸国の都市部の大気中ダイオキシン類濃度は既に0.01〜0.02pg-TEQ/m3、農村部はさらに一桁低いレベルとなっている(但し、Co-PCBは含まれない場合が多い)。 すでにEUにおいてはTDIが2pg-TEQ/kg/日となっており、WHOにおいても現行の1〜4pg-TEQ/kg/日の見直しが検討されている。そうなれば、日本の大気中の環境基準値は0.3〜0.15pg-TEQ/m3に改訂されなければならなくなる。とすれば、せっかく大金をかけて作成したダイオキシンマップに青●だけを並べて、濃度の低いことをことさら強調しても意味がない。少なくとも、0.1〜0.2、0.2〜0.4、0.4〜0.6といった分級がわかる表示をするべきではないだろうか。 図は、1999年度に市民参加の松葉ダイオキシン類調査で得られたクロマツの針葉中のダイオキシン類濃度をベースに、首都圏の大気中のダイオキシン類濃度の目安として濃度分布を示したものである。年度はことなるものの、市民にとってよりわかりやすい情報提供のあり方というものがどうあるべきか、自ずと違いは明白である。 出典:環境総合研究所 ダイオキシン類対策特別措置法が施行されて丸5年が経過した。この間、大気中へのダイオキシン類の排出量も大気中の濃度も順調に低下したことは間違いないが、国際標準とは言えない日本独特の大気環境基準をいつまでも物差しとしてそれ「以下」であることだけが強調されているマップを今の時点で作成するのは税金の無駄なのではないだろうか。 |