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ゴミ社会を変える
〜カナダ・ノバスコシア州から何を学ぶのか〜


青山 貞一
武蔵工業大学環境情報学部教授

(「技術教室」2004年5月号、農村漁村文化協会発行に掲載)
無断転載禁

掲載日:2004.5.4、 8.1(写真付版)

 ■青山貞一関連講演(長野県主催:松本市)リンク
  市民参加による循環型社会建設〜カナダ・ノバスコシアの事例から

 ■青山貞一、読売新聞「論点」2004-1-26朝刊(PDF)

◆焼却大国「日本」

 21世紀は「成長の限界」があまねく先進諸国に行きわたり、20世紀以上に資源・エネルギー・食糧の有限性が認識されねばならない。自然との共生、資源の循環が一段と重要な課題となるだろう。しかしどうだろう、日本社会では本来資源であるべきものの多くが廃棄物、ゴミとなっている。そればかりではない。1997年にゴミを燃やしダイオキシンが排ガスと焼却灰から発生することがオランダで判明して以来、先進諸国はいかにしてゴミを出さないようにするか、ゴミを焼やさないようにするか腐心してきた。

 しかし、日本では資源であるべきものが安直にゴミとして焼却されダイオキシンなど有害化学物質を含む焼却灰が自然豊かな里山や海浜に毎日のように埋め立てられている。今や日本で家庭から出るゴミの総焼却量は、人口で約2倍の米国よりも多い。

 日本のこのような廃棄物処理の現状を筆者らは「焼却主義」と呼んでいるが、環境の世紀21世紀を考えれば、「焼却主義」は根本から是正されなければならない。「焼却主義」は、@資源エネルギーの浪費、A有害化学物質リスクの発生、B二酸化炭素など温室効果ガスリスクの発生、C膨大な国費を使い焼却炉等を建設する財政リスクがある。「焼却主義」を進めるわが国がいくら「循環型社会」を叫んでみても空虚である。


ノバスコシア州環境労働局にて

◆カナダのノバスコシア州の概要

 カナダの東端、北大西洋に面するノバスコシア州は人口94万人、7つの地区、55の市町村からなる。ノバスコシアの由来は、Nova=New, Scotia=Scotland、すなわちニュー・スコットランドである。現在イギリスの一部となっているスコットランドは、スコットランドの詩人、アラン・ポールドによると、「スコットランド、それは全能なる「否」が支配する場所なり」とある。英国の一部でありながら、あくまでも独自性を主張してやまない。簡単に長い物に巻かれない。寄らば大樹を好まない国のようだ。その流れをくむノバスコシア州の州都ハリファックス市は4つの市町村が統合してできた。人口36万人、主要産業は北大西洋に面する最大規模の漁港を背景に漁業を中心に森林業、鉱業などがある。


日本から30名が現地調査団員として参加。ノバスコシアのNPO/州市と交流

◆廃棄物資源化問題の背景と発端

  1980年代後半、州内にはハリファックス市を中心にゴミの最終処分場立地をめぐり激しい行政と住民の対立があった。もともとカナダは国土が広いこともあり埋め立てが盛んであったが、国際的な環境意識の高まりの中で、安易な埋め立てに対して市民からの激しい紛争が頻発した。その少し前、カナダ各州の環境長官による会議は1989年に、1995年から2000年までの5年間に一人当たりのゴミ排出量を半分に削減する目標を設定していた。

 激しい地域紛争のなかハリファックス市は日本製の最新型焼却炉を紛争解決の案として提示したが、これが市民運動を一層刺激させてしまった。試行錯誤の末、ハリファックス市は市民運動の側に問題解決のための「政策提言」を求めた。その結果行政と住民団体との合作でできたのが「ゼロ・エミッション・プラン」である。同プランでは、従来ゴミとして燃やされ埋め立てられていたものを「資源」化することに主眼が置かれた。同時期、従来から大きな地域紛争となっていた大規模最終処分場の立地が5年の歳月の末、合意に達した。合意の前提は徹底した住民の「参加と監視」であった。


スーパーではプラスチックレジ袋の回収を行っている

◆ゴミ資源化戦略の概要

  ゴミ資源化戦略では、ゴミの発生抑制と減量化が重視された。州政府は1995年、環境法を制定、長官会議の削減目標を法的にも担保したのである。さらにゴミ資源化は1996年に制定された以下に骨子を示す「固形廃棄物資源管理規制法」によって大きく前進する。

@すべての飲料容器、その他容器、タイヤなどへのデポジット制の導入。A条例などによる埋立禁止、野焼禁止の徹底。B廃棄物の資源化を促進する非政府組織、資源回収基金委員会(RRFB)の設置。C一般家庭廃棄物の過半を占める生ゴミの堆肥化の事業化。D各種紙類、ビン・カン類、タイヤなどの再資源化事業化、これには再利用可能なプラスチック(PET、HDPEなど)も含まれる。E単なる市民参加を超えた「スチュワードシップ」の徹底。F「ローテクノロジー」、すなわち高度で高額な技術や設備でなく、すぐに利用可能で廉価な技術、設備を採用すること。G上述の多くの事業を国庫補助に依存することなく、また州からの大きな補助に依存することなく基礎自治体と非営利組織により可能としている。


紙類の収集、分別施設、MRFにて。

◆ゴミ資源化戦略の特徴

 ノバスコシア州方式には以下のような大きな特徴がある。

@排出抑制、排出者責任の明確化、たとえば企業から住民まで排出者としての責任を担い責任を果たすこと(PPP原則)、A市民、事業者などの自己責任、費用負担、すなわち、行政はもとより州内の市民、企業組織に対する「スチュワードシップ」の徹底。これは作業を分担し、労苦を惜しまない奉仕の精神、金銭的負担や応分のリスクを背負うことを意味する。B「脱焼却」や「脱埋立」など、戦略目標の明確化が大きな意味を持つ。Cもともと連邦国家であるが地方の創意工夫を生かした地方分権、地方自治、住民参加とともに廃棄物資源化のための自治の地理的規模を考慮したこと。D廃棄物資源化や環境分野で、もともとある企業だけでなく市民による起業などを、環境労働局という名称からも分るように、行政が徹底支援していること。E廃棄物の資源化により、新たな雇用機会の創出を戦略目標化していること、など。


固形廃棄物資源化戦略の発信拠点。ノバスコシア州政府環境労働局

◆デポジット・資源化のためのNPO

 なかでも興味深いものとして州法によって容器、タイヤのデポジット、リサイクル事業を推進するための非営利民間組織、資源回収基金委員会(RRFB)を設立したことがある。RRFBは次の6項目が主な業務となっている。

@飲料容器のデポジット・返却制度を管理監督、A中古タイヤ資源化(リサイクル)事業の管理、B市町村によるリサイクル施設建設への直接助成(資金援助)、C環境配慮型のNS内環境ビジネス企業の支援、D新規企業とのスチュワードシップ協定の締結、E市民の環境教育、環境学習の普及啓発、である。

 しかも、州法によりRRFBの年間純益の半分をゴミ削減率等に応じ市町村に配分することとなっている。これがゴミ減量や回収率向上の大きな原動力となっている。さらに純益の残りを資源化施設の整備や環境ビジネスの支援、環境教育に使っている。


資源化施設での詳細分別作業現場

◆「脱焼却」「脱埋立て」を支える生ゴミ・汚泥の堆肥化

 ノバスコシア州には日本の「燃えるゴミ」、「燃えないゴミ」と言う区別はない。逆に「資源化が可能なもの」、「資源化が難しいもの」に分けられる。さらに資源化可能なものは、有機性生ゴミが堆肥化、その他資源化が可能なものをリサイクル、リユースする。その結果、最終的にゴミとなるものは大幅に減少した。 同州の「ゼロ・エミッション」の中核は、生ゴミや下水汚泥などの「堆肥化」にあり、これが成功の鍵を握っている。堆肥化には大別し、都市部、農村部からでる生ゴミと都市部の下水処理汚泥の3種ある。このうち農村部では裏庭でコンポスト化し、都市部と下水汚泥は州内20カ所ある施設で堆肥化される。大きな施設では日換算で60トン、小規模なものは日換算で110トンである。都市部の家庭からでる生ゴミ類は、「グリーンカートコンテナ」と呼ばれる特別に開発された容器により州全体の75%が回収されている。


出来上がった各種堆肥を見る投入するゴミの種類で何種類かの等級がある。

◆循環を支えるデポジット制度

  生ゴミの堆肥化とともにノバスコシア方式を支えているのは、容器、タイヤなどの「デポジット」制度であり、現在、乳製品以外のすべての飲料容器をデポジットの対象としている。デポジット料金は、小型容器の場合、10セントのデポジットに対し5セントが消費者に戻る。500mL以上の大型容器では20セントがデポジットされ10セントがもどされる仕組みとなっている。デポジットされたお金はRRFBを通じ小売店から消費者に戻される。デポジットの実績だが、州内で年間2億6万本の飲料容器が販売されているが2001年度実績では数で83%、量で11,000トンが回収されている。制度制定以来今までに約10億本の容器が回収されたことになる。


各種容器の回収拠点。環境デポ

 州内には年間94万本のタイヤが販売されているが、州法により約900店のタイヤ小売店がデポジットを行っている。デポジット料は、新タイヤは小型用3ドル、大型用9ドルとなっている。小売店は消費者から使用済みタイヤを引き取る義務があり、回収されたタイヤは民間タイヤリサイクル工場に運ばれ再利用されている。回収率は約85%である。

◆資源回収と資源化施設の現状

  生ゴミ以外の収集、運搬、資源化だが、週1回ないし2週に1回、道端で各種容器や繊維類を回収している。2000年の回収量は42,000tに達している。現在、州全体で90ヶ所の資源回収拠点と11カ所以上の資源回収施設(MRF)がある。MRFでは通常、紙類が3系統、その他のデポジットがかかっていないものの分別が9系統となっている。各家庭から道端で回収されるものには、@生ゴミ(グリーンカート)、Aリサイクル可能物(ブルーバッグ)、Bリサイクルできない物(ブラックバッグ)がある。その他として、家庭からのC有害廃棄物(レッド)がある。


生ゴミ回収のためのグリーンカート(池田こみち氏、ハリファックス市にて)

 これらはMRFで14種〜17種類に分別され、紙類、びん、カン類はもとよりリサイクル可能なプラスチック類がリサイクル工場に運ばれる。その結果、現在では州内に20基あった焼却炉が特殊用途のもの1基のみとなり、過去100カ所以上あった最終処分場は1996年までに20カ所となり、現在ではその後5年の歳月をかけ市民参加で立地選定したもの以外はすでに終了したが、小規模な管理型のみとなっている。現時点で資源化できないプラスチックなどは束ねて処分場に仮置している。最終的に残された大規模処分場は、第三者によって厳しい環境モニタリングとその公表が市民参加で定期的に行なわれている。

◆初期費用と維持管理費

 この新しいゴミ資源化システムにかかった初期費用は
7000万カナダドルとなる。当時の為替レートを1カナダドル=69円として約49億円である。一方、ハリファックス市では初期投資額とは別に、廃棄物資源化事業の維持管理に年間一人約8000円を使っており、そのうち5000円強が市民税として徴収され、残りは主に各種デポジットにより得られた資金をあてている。各種施設建設費はハリファックス市など自治体の一般会計や州政府からの補助金によりまかなわれている。ただし、州から市への補助率は全体建設費用の20%程度であり、日本のように国が実質的に全体の半分から80%を補助するシステムはない。

◆効果と実績

 ノバスコシア方式の効果と実績を以下に示す。

@従来廃棄物として廃棄していたものを資源として有効に再利用する意識が高まった。Aスチュワードシップの徹底により州内の企業、市民の自己責任、費用負担意識が大きく向上した。これは単なる市民参加、パートナーシップとは異なり、本来の意味での自治意識を高めている。B脱焼却の実現によりダイオキシン、重金属はじめ有害化学物質の発生及び環境中への排出が実質的になくなり環境及び健康リスクが大幅に低減した。C新たに1000人規模の雇用が創出され、同時にNPO・地域企業の参加による地域経済への貢献が高まった。Dゴミとして廃棄するより資源化する方が10倍多くの仕事ができることが分かった。E堆肥化やリサイクル施設の初期建設資金は連邦政府からはほとんどゼロ、州政府からの補助もきわめて限定的(10%20%)であり、基礎自治体の創意工夫を生かした廃棄物資源化政策が行えるようになった。これこそ真の地方分権の効果であろう。Fゴミ資源化事業費の多くはデポジットから得ている。さらに段ボール、紙、容器を含めたリサイクル事業からの収入も多い。

◆最後に

 このように、ノバスコシア州では市民、NPO、企業の参加のもと、21世紀に通用する持続可能な地域経済システムが構築されている。ノバスコシア州の経験が私たちに教えるのは、真の地方分権と市民の発意こそ、真の循環型社会実現の最大の武器であるということである。日本でも中央集権による国庫補助の麻薬から脱却して環境を保全し、雇用を創出する循環型社会を実現しなければならない。


2003年9月のノバスコシア州現地調査団員(ルナバーグにて)

参考文献
(1)青山貞一池田こみち、カナダ・ノバスコシア州の廃棄物資源管理、月刊廃棄物、2004年9月号

(2)青山貞一、ゴミ半減、カナダの州5年で実現、論点、読売新聞2003年1月26日朝刊