「ニュースの情報源を明かせば同行を許可する」−−。小泉純一郎首相の訪朝をめぐり、飯島勲首相秘書官がそんな言葉を用いて日本テレビを同行記者団から排除していた。首相官邸の露骨なマスコミ管理のあり方に、識者からは「独裁的な権力行使」「報道の自由への認識が全くない」などと批判の声が上がった。
政治評論家の森田実さんは「訪朝に際し、飯島秘書官がどこのメディアを同行させるか選別する動きがあると聞いていたが、今回の対応は極めて強権的、独裁的な権力行使だ。報道に異議があるなら、内閣のスポークスマンである官房長官が記者会見で堂々と否定すればいいし、判断は国民に任せるべきだ」と憤る。
岡野加穂留・元明治大学長(臨床政治学)は「小泉政権は参院選を控え、マイナス面を一掃するために今、勝負をかけている。そうした異常な緊張感の中での対応だろう。長期政権のおごりが出た」と分析する。
一方、服部孝章・立教大教授(メディア法)は「小泉内閣の情報統制体質がはっきりした。同行取材をちらつかせながら報道内容の取り消しや取材源の開示を要求したことによって、他のメディアへの見せしめとしての効果は大きい」と危惧(きぐ)する。
田島泰彦・上智大教授(メディア法)も「報道内容が政府にとって気に入らないからと言って、取材の機会を奪うのは明らかに不当だ。政府を監視するのがメディアの役割であり、他社も一致して戦わなくてはならない」と指摘する。
大石泰彦・東洋大教授(メディア倫理)は「政府に都合の悪い報道をするメディアが存在することが健全な民主主義社会だ。政府が政治目的追求のために特定のメディアを排除することは民主主義国ではあり得ない」と断じる。
ジャーナリストの桜井よしこさんは「小泉政権は憲法が保障する自由な言論や報道に対する認識が全くないのではないか。取材源の秘匿は、これまでの政権も尊重してきた報道・取材ルールで、今回の日テレ外しはこれを大きく逸脱するものだ」と批判している。
毎日新聞 2004年5月18日 23時38分