エントランスへはここをクリック!

忍び寄る国家主義(8)
〜都立高校の教育現場〜
 

青山貞一

掲載日:2006.5.29

過去の連載→教育
 

 この連載を最初に独立系メディア「今日のコラム」に執筆したのは2年前、ひさびさだ。

 周知のように、大新聞、テレビが小泉首相の後釜は誰かといった記事、番組を毎日垂れ流している。そのなかで、実は次世代を担う教育の現場は、どんどん悪化している。すでに、とりかえしがつかなくなっているかも知れない。
 
 その最前線?の現場、東京都の都立高校の現場はどうなっているのか? この1週間における新聞記事を見てみよう。

 『君が代』反対元教諭は 『強制の怖さ気付いて』 東京新聞
 教員むしばむ『君が代神経症』 東京新聞

 もっぱら、これがサンケイ新聞記事だと以下のようになる。
 国旗・国歌 サボタージュ横行 サンケイ新聞

 そんな中、ひょんなことから東京都立高の教諭と一時間ほどひざづめで議論することができた。

 何でも、国旗、国歌の教員への強要問題に関連し、東京都の教育委員会は80件に及ぶ提訴、すなわち裁判を受けていると言うのだ。

 調べたところ、東京都教育委員会はこの種の問題に関連し、過去300件以上の処分を教員にしてきたことも分かった。詳細は以下の毎日新聞5月27日の記事を読んで欲しい。

 文部科学省の調査によれば、国旗、国歌関連で全国各地で処分を受けた教員125人のうち、114人、すなわち9割以上が東京都関連だと言う。突出している。

 宅配版の毎日新聞の表題は、「東京都、延べ345人処分「、「03年以来教員「異常な締め付け」とある。省庁の数字でこれだから東京都教育委員会がしてきたことは3シグマである。3シグマは良い意味でも用いられるが、ここではどうみても、?としかいいようもない。

 ところで肝心な教育の現場だが、共謀罪ではないが誰と分かると大きな不利益が当人及ぶことが明らかなので、あまり多くは話せない。

 とりあえず、ちょっとだけ話すこととする。追って詳細を報告したい。

 多くの都立高校では、教員会議が開かれても、教頭など管理者以外が発言することはほとんどないそうだ。つまり教員は、会議で誰も意見を言わないということだ。

 たまたまある教員が発言しても、聞き置かれるだけ。それでは今日はこれでとなる。すべてがトップダウンというか、上意下達が常態化しているという。そこにはシラーとした空気が流れ、結局、意見を言っても現状は変わらないことを察知しているから、会議は名ばかりになっている。

 今更ここで云うまでもないが、そもそも教育とは、教師から生徒への単なる知識の押しつけではありえない。とくに現代にあっては、生徒にいかに自ら考える力をつけるか、養うかが重要である。事物に対し疑問を呈することを教えることが今ほど問われている時代はないのではないだろうか。

 しかし、東京都立の高等学校では、教師は決められたことを一方的に生徒に伝えることを強いられ、圧倒的大部分の教師はそれに従わざるを得ない環境や状況となっていると言うことだ。ここには細かく書けないが、それはすさまじい現場となっているようだ。

 また、くだんの国旗、国歌関連で処分の対象となった教員は、研修の名の下に、、「服務事故再発防止研修」とやらを強要される。

 他方、教育委員会のお眼鏡にかなった人材の育成のためには「東京教師養成塾」を東京都教育委員会が設置されている。

 .すにで、東京都の教育委員会は膨大な提訴を受け、税金を裁判費用に充てることについても批判が起こっている。さらに類似の裁判の判決が北九州市であり、原告側の損害賠償は認められなかったかった(棄却された)ものの、教育委員会側が重要部分で実質敗訴したこと(以下の判決文参照)も、東京都教育委員会にとって大きなプレッシャーとなっているようだ。

判決主文

 被告北九州市教育委員会が平成11年9月19日付で原告Aに対してした減給1ヶ月の処分を取り消す。被告北九州市教育委員会が平成9年7月18日付で原告Bに対してした減給1ヶ月の処分を取り消す。被告北九州市教育委員会が平成10年7月17日付で原告Bに対してした減給3ヶ月の処分を取り消す。被告北九州市教育委員会が平成11年7月16日付で原告Cに対してした減給1ヶ月の処分を取り消す。

 原告らの損害賠償請求を棄却する。

 ..........................

8 処分の相当性について

(1)戒告処分については,地方公務員法上の処分として最も軽い処分であること,教育活動についての職務命令違反を理由とする処分であること,原告らは同様の職務命令違反を繰り返し,すでに厳重注意,文書訓告を受けていたことからすれば,裁量権の範囲を逸脱したということはできない。

(2)減給処分については,式の進行に混乱がなかったことや,原告らの教員としての適格性を疑わせる他の事情の存在が認められないこと等を考慮すると,式の進行を阻害したり,積極的な扇動行為と評価される場合は格別,給与の減額という直接に生活に影響を及ぼす処分をすることは,社会観念上著しく妥当性を欠き,裁量権の範囲を逸脱したものといえる。

強調部分は筆者
注:上記裁判は、北九州市の公立学校教職員ら17名が同市などを相手取って1996年11月に「君が代」の強制にかかる損害賠償等請求事件を提訴したものであり、「学校現場に内心の自由を求め、「君が代」強制を憲法に問う裁判」のことである。原告の方たちは、「君が代」強制によって奪われた個々の内心の自由を取り戻すのが訴訟の目的という思いをこめて「ココロ裁判」と名付けている。

 ちなみに、私の所に来られた教諭は、フィンランドの数学教育を例にあげ、今のままでは、ますます生徒、子供は自分で考える能力が低下することについても言及されました。

 これはまさしく、私が常々云っているところのヒツジでヒラメだ。

 自分で考え、判断することなく、為政者、広義の意味でのお上に無批判でついずいしてゆく昨今の状況を醸成するだけであると思える。

 もっぱらこれは名にも都立高校の教諭や生徒だけのことではなく、日本全体の教育の現場に共通のことと推察できる。

 教育基本法改正が国会で審議されているが、これはある意味で東京都教育委員会がこの間してきたことの法制度版と言って良い。

 国民に法制度により愛国心の押しつけを強制しなければならなほど、日本の政治が腐敗していること、思考停止状態になっていること、そのもとで単純な「改革」と言う言葉のもと、多くの社会経済的弱者でもある国民がそれに追随している現状は、きわめて危険であると云わざるを得まい。


東京都:日の丸・君が代で新たに教職員5人処分

別のバージョンでは”東京都 延べ345人処分”
毎日新聞 2006年5月26日

 東京都教育庁は26日、今年の入学式の「君が代」斉唱時に起立しなかったとして、都立高校の教職員5人を減給や戒告などの懲戒処分にした。03年10月に日の丸掲揚や君が代の起立斉唱の徹底を求めて同庁が通達を出して以来、処分を受けた教職員は今回も含めて延べ345人に上る。これほどの処分数は他の自治体では例がない。処分を受けた教員らは「異常な締め付け」と反発している。

 同庁によると、今回の処分内容は減給10分の1(1カ月)3人、戒告2人。いずれも「国歌斉唱時に国旗に向かって起立し斉唱する」との校長の職務命令に従わなかったことが処分理由。同庁は今春の卒業式後にも33人を停職や減給などの処分にしている。

 文部科学省によると、04年度に日の丸・君が代に絡んで懲戒処分を受けた教職員は全国で125人。このうち東京都の教職員は9割以上に当たる114人と突出している。

 都の場合、処分を受けた教職員は「服務事故再発防止研修」の受講が命じられるほか、上司の校長、副校長、主幹も「適正な教育課程の管理に向けた研修」への出席が義務付けられる。しかし、昨年7月21日に文京区内で行われた再発防止研修では、処分を受けた教員が「『日の丸・君が代』不当処分を撤回しろ!」と書かれたゼッケンを付けて出席し、再処分を受けるなど混乱した。

 日の丸・君が代について厳格な対応を求める同庁は今年3月、それまでの通知・通達に加え、各学校長に「適正に児童・生徒を指導することを教職員に徹底する」との異例の通達を出した。これについては、都議会内にも「生徒の不起立まで教職員の責任が問われかねない」との慎重意見がある。

 教育評論家の森口朗さんは「都教育庁のような強硬手段では、起立しない教諭を英雄にするだけ。生徒不在の争いだ」と批判する。

                                     【木村健二】


<関連新聞記事>

 『君が代』反対元教諭は 『強制の怖さ気付いて』 東京新聞

 教員むしばむ『君が代神経症』 東京新聞

 これがサンケイ新聞記事だと以下のようになります。

 国旗・国歌 サボタージュ横行 サンケイ新聞