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忍び寄る国家主義(2)
職務命令


青山貞一

掲載日:2004.4.4

  国旗・国歌法自体には何ら罰則規定はない。

 しかし、地方公務員法32条、地方教育行政法43条2は公立高校などの教職員に対し、教育委員会その他上司の職務上の命令に忠実に従う義務を負うと定めている。その結果、職務命令に従わない場合,地方公務員法29条に基き任命権者である教育委員会による懲戒処分の対象となる可能性がでてきたのだ。したがって日の丸・君が代が法制化されたことで学習指導要領にあるるように、各種式典で学校が日の丸を掲揚するとともに、教員は生徒が君が代を斉唱するよう指導することが事実上“義務”づけられた、と言うのが一般的な解釈となる。

 では職務命令とは一体なんだろう?

 職務命令は、簡単に言えば、管理職から一般職員に発せられるものだ。それは業務命令とも呼ばれる。

 これらの職務命令は労働規約にもとづき出されるもので、通常、@各種法規、条例等に適合していること、A職務命令の発令者が職務上の上司であること、B職務命令の内容が受命者の職務の範囲のうちであること、C職務上の独立に違反しないことなどを要件としている。

 逆に言えば要件を満たしていなければ、職務命令あるいは業務命令そのものが法令違反となる。

 よくあるのは管理職が組合活動に対し集会をやめろ、掲示を除去しろといった職務命令ををだすことである。この場合、労働組合法によって設立された組合活動には、憲法で保障された労働者の権利がある。したがって、このような場合には、管理職の指示に従わなくとも服務命令、業務命令に違反したとして懲戒の対象になることはない。逆に、かかる職務命令や業務命令は不当労働行為とみなされることが多い。

 国旗掲揚、国歌斉唱問題については、たとえば政令指定都市や都道府県の教育委員会が卒業式や入学式に向け校長に職務命令を出している。ある政令指定都市では、市立学校の全校長に文書で職務命令を出し「国旗は式場の正面に」などと細かく指示している。東京多摩部ある基礎自治体も市立小中学校11校の全校長に「学習指導要領に基づき適正に実施」するよう求める通達を出すなどの方法で職務命令を出した。

 東京都の教育委員会は都立の全高校長に「通達」を出しており、毎年それに従うよう通知していると言う。この通達には「命令を伝える文書」としての性格があるとしており、何と文部科学省もこれを「職務命令と同等」と把握していると言う。

 これらは、まさに忍び寄る国家主義どころか、露骨な国家主義の教育現場への押しつけではなかろうか? 逆説すれば、ここまでして国旗の掲揚と国歌の斉唱をひとびとの心のなかにねじ込まなければならないものとは、いったい何なのか? 

 これでは、国家主義的な思想をもつ為政者らが考える教育現場の「左翼偏向」是正どころか、その対極、すなわち「右翼偏向」の強制を権力をもってしているだけのこと、ではないのか?

 これはまさに、戦前教育への回帰である、と言う素朴な疑問が沸いてくる。