カナダの最東端、北大西洋に面するノバスコシア州は人口約百万人、七つの地区、五五の市町村からから成り立っている。州都のハリファックス市は四つの市町村が統合しできた州内最大、人口三十六万の町である。主要産業は北大西洋に面する最大規模の漁港を背景とした漁業と森林業、鉱業などだ。
一九八〇年代後半、州内には日本同様、州都ハリファックス市を中心に最終処分場の立地をめぐり激しい行政と住民の対立があった。もともとカナダや米国は国土が広いこともあり埋め立てが盛んだったが、環境意識の高まりの中、安直な埋め立てや野焼き同然の焼却に市民からの激しい批判が起こった。
その少し前、一九八九年に開催されたカナダ各州の環境長官による会議では一九九五年から二〇〇〇年の間に家庭ゴミ排出量を一人当たり半分に削減する目標を設定した。
ノバスコシア州はその後市民団体の激しい批判に対し日本の最新型の焼却炉を解決案として提示する。だが、これが逆に市民運動を刺激し問題をこじらすことになった。試行錯誤の末、紛争現場の自治体、ハリファックス市は、市民にゴミ問題を解決するため「政策提言」を求める。行政側は独自の問題解決をあきらめ、サジを投げたことになる。
その結果、行政と住民団体の合作でできたのが「ゼロ・エミッション・プラン」であった。本プランは徹底した市民、事業者の参加と環境監視を軸に、ゴミの発生、排出抑制をベースに、「脱焼却」と「脱埋立」を明確にしたのである。
同プランでは、市民、行政、事業者が一体となって問題解決の糸口を模索するにとどまらず、施策や事業をできるだけ税金でなく排出者負担により実行することを明確にしたのである。ここにノバスコシア方式の大きな特徴があると言ってよい。
ゼロ・エミッション・プランでは従来、ゴミとして燃やされ埋立てられてきたゴミを「資源」として出来る限り排出者が費用を負担する仕組みを軸に、環境に配慮しながら再利用、資源化する。
ノバスコシア方式は、非常に分かりやすい。ゴミの大部分は、もともと資源である。何気なく焼却され、埋め立てていたものを資源化すれば、焼却炉や処分場は激減できるはずである。
しかも、ノバスコシア州のゴミ資源化戦略では、ゼロ・エミッション・プランの理念を州法や条例を制定することで現実のもととさせた。。州法として最初に制定したのは、「固形廃棄物資源化法」であり、市町村条例として最初に制定されたのは、「野焼や不法投棄禁止のための条例」である。それら州法や市条例に基づき、以下に示す徹底したゴミの発生抑制、再使用や資源化と州内全域でのデポジットが実行に移されたのである。
@乳製品以外のすべての容器、タイヤへのデポジ ット制の導入、
Aゴミリサイクルを促進する非政府組織、資源回収基金委員会(RRFB)の設置。
B一般家庭ゴミの過半を占める生ゴミの堆肥化の事業化。
C各種紙、ビン・カン、タイヤなどのリサイクル事業化、これには再利用可能なPET、高密度ポリエチレンなどのプレスチックも含まれる。
D拡大生産者責任につながる「スチュワードシップ」の徹底化。
Eリサイクルには高度で高額な技術や設備でなくすぐに利用可能なローテク設備の採用。
Fリサイクル事業は国庫補助に依存することなく、自治体と非営利組織、企業により実施。
ノバスコシア方式の政策面での特徴と成果は以下の通りである。
@排出者責任の明確化、たとえば企業から住民まで排出者としての責任を明確化。
A汚染者が費用を負担するPPP原則の明確化。
B「脱焼却」や「脱埋立」などのゴミ社会を変え
る戦略目標の明確化と州民、事業者への徹底。
Cゴミ問題解決に際しての地方分権と地方自治の重視。
Dゴミの資源化により新たな雇用の創出。環境政策と労働雇用政策との連携。
2003年の冬と夏、筆者はゴミ弁連事務局長の広田次男弁護士と環境総合研究所副所長の池田こみち氏らとノバスコシア州を現地訪問し、州、市、NPO、市民、事業者らと集中的な議論、交流を行った。
その結果分かったことは、ノバスコシア州で試みられているゴミ社会を変える試み、社会実験はすぐにでも日本社会で実現可能なことであった。その前提は、都道府県、市町村が国庫補助や特別地方交付金の呪文から解き放され、創意、工夫を行うことであり、真の地方分権、地方自治を実現することである。
【参考文献】
青山、池田、カナダ・ノバスコシア州の廃棄物資
源管理〜脱焼却、脱埋立に向けた「ゼロ・ウエ
イスト戦略」〜、月刊廃棄物、二〇〇三年九月号
青山貞一、ゴミ社会を変える、技術教室、農山漁
村文化協会、 二〇〇四年五月号
青山貞一、カナダ。ノバスコシア州のリサイクル、
ごみ問題、100の知識、東京書簡
青山貞一、脱焼却、脱埋立てへの挑戦、カナダ・
ノバスコシア州の循環型社会実験、月刊廃棄物
二〇〇四年九月号、十月号 |