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田中康夫知事、誠意なき
朝日新聞の「検証記事」に怒る!

 
青山貞一
長野県政策アドバイザー


掲載日2005年10月17日、10月20日推敲
10月24日写真追加



 県庁1階のガラス張り知事室で朝日新聞社の面々と議論する田中康夫知事


  県庁1階のガラス張り知事室で朝日新聞社の面々と議論する澤田副知事

はじめに

 ここ一年、朝日新聞が起こした主な「事件」を列記してみると、主なものだけをとっても、以下の通りたくさんある。

(1)取材内容を記録したMDの第三者への無断提供
 朝日新聞社の2人の記者は、私立医科大学が国の補助金を流用した問題を取材していたが、社会部の記者が取材相手にやりとりを録音しないと約束していながら、これを破り話しの内容を録音し、その後この相手に批判的な別の取材先に録音したMDを渡した事件。

(2)週刊朝日が武富士から「編集協力費」の名目で5千万受領
 朝日新聞社が、2000年から01年にかけて週刊朝日で連載した企画記事を巡り、消費者金融大手「武富士」から「編集協力費」として5000万円を受け取っていたこと。

(3) 「月刊現代」記事に関連し朝日新聞、社内資料流出認め謝罪
 
NHK特集番組が政治家の圧力により改変されたと報じた朝日新聞の詳細な取材内容が「月刊現代」に掲載されたが、朝日新聞は「社内資料が社外に流出したと考えざるを得ない」として、取材先の松尾武NHK元放送総局長、中川昭一経済産業相、安倍晋三自民党幹事長代理の3人に謝罪の文書を郵送したことを明らかにしたこと。

(4)朝日新聞長野総局記者が「新党」記事で虚偽メモ
 朝日新聞社は29日、田中康夫・長野県知事らの新党結成問題について、取材をしていないのに、取材できたかのような情報をもとに記事を掲載した。この記事は9月21日付朝刊2面に掲載された新党結成をめぐる「『第2新党』が浮上」と9月22日付朝刊3面に掲載された「追跡 政界流動」の2本。

 いずれも天下の公器としての新聞、それも日本を代表する大メディアとして弁明の余地のない論外のものであろう。

 ここでは、まず(4)について言及した上で、機会を改め(1)と(3)についても言及したい。


●朝日新聞長野総局記者による「新党」虚偽・捏造記事事件

 最初に言えること、そして重要なことは、田中康夫知事は、周知のように「脱」記者クラブを宣言し、以降、長野県庁では日本の悪しき伝統となっているいわゆる記者クラブ制度を廃止した人物であることだ。人間、田中康夫は、伊達や酔狂に「脱」記者クラブ宣言をしたのではないことだ。

 「脱」記者クラブにより、今の長野県では、国の省庁にある記者クラブはじめ、どの自治体にある記者クラブよりも、記者にその気がある場合、知事や県幹部職員への取材が大幅にやり易くなっている、と思える。本メディア(「今日のコラム」:「青山貞一ブログ」)を主宰している私としてそれを強く実感する。

 私自身、ここ数年、長野県の特別職、非常勤職員の環境保全研究所長として長野県に勤務した。ここ半年は長野県政策アドバイザーとして、知事や県幹部、職員へのメディアの取材の実態をつぶさに見てきた。

 知事会見は、通常の記者クラブとまったく異なり、従来記者クラブに安住し、役所のいわば垂れ流しプレスリリースを「広報記事」化していた大新聞やテレビの記者だけでなく、雑誌記者、さらにNPO系記者やまったくの一市民、個人でも知事や県幹部職員に直接会見場で質問が出せる仕組みになっている。これの意味するとこは想像以上に大きいはずだ。

 さらに田中知事自身が後述する会見でも述べているように、通常の会見以外にも、いわゆる「ぶら下がり」や「直撃」取材の機会、可能性も増えている。実際、私の経験でも、会議、打ちあわせが終わり、県庁の1階のガラス張り知事室から外に出てくる、それを待ちかまえて、記者の何度もぶら下がりや直撃の取材を受けている。通常の都道府県では、隔離された知事室と記者の距離は著しく遠く、長野県のような取材は非常に困難である。

 しかも、県庁3階での表現センターで行われる知事会見は、会見の直後に音声ファイルとして長野県のホームページにノーカットの音声として掲載されている。さらに、わずか数時間後に、会見及び質疑の一字一句のすべてがテキストとして公開されているのである。おそらくこんな自治体は日本広しといえど、長野県以外には存在しないないだろう。実に今の長野県は国や他の自治体はおろか、民間企業ですらはるかに超える情報提供能力を持っている。これは何ら誇大、過大な評価ではないと思う。まさに実感である。

 かくして、記者がその気になれば、天下の大メディア、朝日新聞の記者に限らず、誰でもが知事にいかなる内容の質問、しかも何度も繰り返し質問、取材することが可能である。もし、知事に取材をたしなめられたとしたなら、それは余りにも稚拙、自明な質問をした場合だと記者自身が考えるべきであると、私は推察する。

 今の長野県では、このように、あらゆるジャーナリストが大変恵まれた状況にあると思えるのである。

 にもかかわらず、地元の有力かつ大メディア記者が、憶測、推測で知事らへの取材なしに、あのような虚偽あるいは捏造記事を2本も出稿し記事としてしまった。これは日本新聞協会が掲げる「新聞倫理」の規定の存在以前の根本的な問題である。取材のイロハにはじまり朝日新聞の組織全般、責任体制に至るまで、事態は深刻である、と思える。

 もっぱら、西山氏の記事、すなわち「亀井氏は今月中旬長野県内で田中知事と会談し、国民新党など反対派への協力を要請したと見られている」についてコメントすれば、なぜ、亀井氏が長野県内で田中知事と会談すると言うことを、事実を確認せず、捏造してまで記事にしたかと言う素朴な疑問がわく。田中康夫知事と亀井衆議院議員は以前から知古の関係にあり、どこで会談をしようと、それ自身さして大きなスクープとなるとは思えないからである。

 以下は、田中康夫知事が朝日新聞が最初に起こした問題に言及した部分の全容である。知事会見そのものは、
平成17年(2005年)8月23日(火)9:00〜10:20、長野県庁3階の表現センターで行われた。この日のテーマは、衆院選についてである。

 なお、会見全体はこちらをご覧いただきたい。

信州・長野県知事 田中康夫

............
 なお、1点だけ朝日新聞の方にご訂正をお願い申し上げたいというか不快感を表明させていただきたいと思います。

 21日、日曜日の朝日新聞の2面には亀井静香さんのことですね「亀井氏は今月中旬長野県内で田中知事と会談し、国民新党など反対派への協力を要請したと見られている」とお書きです。

 そして昨日の新聞では同じく朝日新聞は3面で郵便局守るだけではとまさに郵政民営化を今の法律でしようと大変な決意を示される題字がついておりますがこの中で今月13日、亀井静香元自民党政調会長は長野県で田中氏にあったとございますがこのような事実は一切ございません。

 私は亀井氏と東京ではお目にかかっております。しかし、長野県内ではお目にかかったことはございません。

 私にはこの件に関して朝日新聞の方は、ぶら下がりも直撃の取材も含めてそうした機会は日曜日の5時の会見時にもですね、少なくともですね私がバスに乗り込む前にでもですねお聞きになることは十分に可能であったと思います。

 しかしながらこうしたご質問は私には一切ございませんでした。

 私はこのようにしてですね、事実が作られていくということには大変な戸惑いを覚えております。

 私は亀井氏とはもちろんお目にかかっております。そして私は小沢氏らにですね政党に関してですね相談をしたことはありません。あるいは私たちがお目にかかってお話はしてますが、このような政党を立ち上げるということに関してですね、小沢氏らに相談したことはありません。

 是非ともですね朝日新聞の長野総局長の金本 裕司さんは、名古屋時代や東京時代にはお目にかかったことがある優秀な政治記者でらっしゃいますから、是非とも私のことに関してお書きになるときはですね、無論電話がつながらないときもあるかもしれませんが、やはりこのような客観的な事実関係に関してはですね、是非ともこれはあの私も表現に携わってきた者としてですね、長野県内では亀井静香氏とは断じてお目にかかってない、そのことが2日間にわたって、1日目は伝聞推定で、2日目は断定の形でお書きいただいたということは、これは少し亀井氏に対しても失礼かと思います。 

 事実、上記の会見では、件(くだん)の朝日新聞長野総局の西山卓記者自身が田中康夫知事に、衆院選挙に関連した質問を<直前>にしていることが分かる。

 確認は、こちら。

 西山記者が書いた記事は当然のことながら大きな問題となった。

 その後、朝日新聞は、この虚偽、捏造記事問題に関連し、本紙で3頁にわたり大部な「検証記事」を新聞紙面に掲載した。

 だが、いかにも朝日新聞社と言えることが起こった。それは検証過程で、当の張本人である田中康夫長野県知事に面談、電話、fax、メールなど媒体を問わず、一切接触していなかったことが、知事が行った県庁での会見で分かったのである。

 これでは朝日新聞の大幹部が関連する幹部を更迭し、当該記者を免職とし、読者に紙面で謝罪したとしても、何ら新聞社としての本質的な課題を解決したことにはならない。

 つまり当人に何ら取材せず記事を憶測で書き、チェック、クロスチェックせずに記事としたことがこの事件の中心的な問題であるのに、その検証過程で、一度も当の本人に接触せず、事実関係、実態の把握、検証もせずに<検証記事>を公表していることが大いに問われるのである。


 その結果、次の記事にあるいわば悪のスパイラルに突入することになってしまった。

田中知事が朝日新聞の検証記事を批判「確認取材なし」

 衆院選をめぐり朝日新聞長野総局の記者=懲戒解雇=が作成した虚偽のメモに基づき誤った記事が掲載された問題で、田中康夫長野県知事は11日、同社が9月にまとめた検証記事について「私に確認取材をしていないし、誰も説明に来ていない」と批判。13日までに文書で朝日新聞側の見解を回答するよう求めた。
 知事によると、検証記事が掲載された9月15日は公務で香港に滞在中だった。知事は「私に確認取材もしないで、なぜ3ページの検証記事ができるのか」と指摘。その上で「朝日新聞が本当に信頼に足る新聞であるならば、責任ある立場の方から文書で説明していただきたい」と述べた。
サンスポ 2005.10.12

 以下は、上記の記事のもとになった平成17年(2005年)10月11日(火)18:40〜19:25、長野県庁3階にある表現センターで行われた9月定例県議会を終えての知事会見における関連部分の全容(ノーカット)である。

 
なお、会見全体はこちらをご覧いただきたい。
 
信州・長野県知事 田中康夫

 これは議場でも言ったように・・・

 鈴木さんお帰りになっちゃう。ちょっと一個いい。お願いしたいんですけど。

 昨日出ました月刊文藝春秋の中で私インタビューを受けてですね、「驕れる巨象朝日新聞の失墜」という何ページにも亘る記事ですが、ちょっと私こういう発言をしています
(註:これについては巻末を参照のこと。青山貞一)

 もしこれが違ってんのであれば朝日新聞としてですね文書で頂きたいと思ってるんですが、驚くべきというか何というべきか、朝日新聞は、今回の『検証記事』なるもの、丁度私が中国に行っている間のもので3ページのものです。

 なるものを書くに際して、私に対する確認取材すらまったくなさっておられないんです。いわんや亀井さんにも恐らく取材していない。そして今日に至るも、私を知る秋山氏からも、これは社長です、吉田氏、常務だった、からも何の連絡もなく、私に対して誰も説明にも来ない。

 更になぜこの事件が起きたのか、西山君と、書いた西山卓君の責任、もしくは金本元総局長だけの責任に矮小化しておられるけれども、政治部あるいは朝日新聞本体の編集担当者の責任はどうなのか。

 まさに肝要なこうした部分に触れる記述がまったくありません。手続き民主主義の官僚的な朝日新聞の体質をよく表しているのではないか、ここは私の意見ですが、検証記事を3ページに亘ってお書きになる時に私に、それはわかっていることだっておっしゃるかもしれないけど、私は取材は受けていません。

 そして検証記事を書くに関してもどうであったかということを第三者どころか当事者である私に確認取材もなさらないでなぜ3ページも記事ができるのか、そしてもっと言えばこれは亀井さんとも話したことですけど、なぜ亀井さんに裏取りをなさってないのか、なぜできなかったのか、なぜその上で記事ができてしまったのか、あるいは西山さんと金本さんというものが責任を取る形になっていますけれども、あの時はデスクの方にもキャップの方にも西山さんはメールを同送していると一方で新聞には書いてあります。

 じゃああるいは政治部の亀井さんを担当していた人は政治部のデスクであったり出向した人であったりはどういう、私は別にそれぞれ非常にか弱いサラリーマンの社会ですから、何かその方だけを血祭りにあげろなどといっているんじゃありませんが、朝日新聞はやはり本日を入れて3日以内になぜ検証記事をお書きになられるに際して私への確認というものも無くできてしまったのか、そして残念ながら吉田さんから紙1枚でいただいた文書、かなり初期の段階で8月30日だかの段階で検証とは違う経過説明これはまただいぶ違ったものなんですが、このようなものを出しますという紙が地域報道部の次長の方を通じて来ただけです。

 でその後、別に私は謝って欲しいとかそういうことではなくて直接私に対して検証の結果はこうでしたというお話もない。

 これは肩書きが長野県知事という名前で朝日新聞は終始一貫報じてますから、これは知事としての会見の場で申し上げても私は今までもこの件に関してご質問いただいたし一向に抵触するものではないと思います。

 そして私は今言ったように大変に優秀であったと私のコメントをお読みになった方は私の複雑な思いというものを知っていただけると思いますけれども、今は解雇された記者の方なりその一部の方だけであっていいのかということです。

 3ページもの検証のときに私への取材が無い、確認が。電話一本でもできるかもしれません。そして、そのことの報告すら未だにありません。あるいは私が中国に行っている間に読んでくださいという電話は私どもの県の職員にはあったといいます。

 でもそういうことで済む問題なんでしょうか。私はやはり責任ある朝日新聞の方から、私は特別に秋山さんや吉田さんと知り合いだからこんなことを言っているわけじゃありません。

 そのこととはまったく別の問題としてやはり朝日新聞は本当に読者から信頼たる新聞で、私はあるといままでも思ってきたし、であるならばやはりこの問題に関してきちんと文書でなぜなのかということを私には少なくとも当事者であり、少なからずそのことによって様々なことに巻き込まれた人間に、ぜひ朝日新聞社としてきちんと、なぜ亀井さんに最初の段階で裏を取らなかったのか基本的なことだと思いますね。ぜひこの辺りに関して責任ある立場の方からその点に関して納得のいく文書でのご説明を、できれば今日を入れて3日以内にいただきたいということをお願いしたいと思います。

文藝春秋誌における田中康夫氏の発言

「驚くべきというか何というべきか、朝日新聞は、今回の『検証記事』なるものを書くに際して、私に対する確認取材すらまったくなさっておられないんです。いわんや亀井さんにも恐らく取材していない。そして今日に至るも、私を知る秋山氏からも吉田氏からも何の連絡もなく、僕に対して誰も説明にも来ない。

 さらに、なぜこの事件が起きたのか、西山君の責任、もしくは金本元総局長だけの責任に矮小化しておられるけれど、政治部あるいは朝日新聞本体の編集責任(「編集担当」とした方が良いかな。この後の「責任」と合わせると、責任が2回続くので)者の責任はどうなのか。まさに肝要なこうした部分に触れる記述がまったくありません。手続き民主主義の官僚的な朝日新聞の体質をよく表しているのではないかと。『朝日新聞は潔いんだ』というパフォーマンスに過ぎないのではないかと深い疑念を感じざるを得ません」


 結局、アリバイ的に検証記事を掲載したり、関係社員の処分をしたものの、朝日新聞社は新聞にとってもっとも大切な「事実報道」と言う原則をその<検証記事>においても置き忘れてしまったのである。

 私見では、これは何も朝日新聞だけのことではない、と思っている。新聞、テレビ、雑誌などどのメディアでも程度の差こそあれ、やってきたことだ。

 ただ、今回の事件でもっとも「朝日らしさ」がでていることがあるとすれば、それはやはり直接的に被害を与えた当事者をさておき、いかにも読者に向かって<検証記事>なるものを大々的に公表していることだ。

 いまさらいうまでもなく、田中康夫氏は知事になる以前から、ことメディアに関しては人一倍、いや人十倍も感度が高いひとである。知事になった後も、このようなアティチュードはまったく変わっていない。おそらく我が国の知事に限らず、あまたいる政治家のなかで、もっともメディアそして情報感度が高い人物であると思う。

 朝日新聞の大きなそして不可逆的な廃嫡は、何度となく、問題解決する機会があったにもかかわらず、一貫して最も直近の被害を与えた当事者であるはずの田中知事に<ほうれん草>、すなわち報告、連絡、相談をせず、あたかも自分たちはこれだけ真摯に対応したんだぞとばかり、膨大な<検証記事>を公表したことだと、私は思っている。

 もちろん新聞にとって読者は大切であり重要である。だが、報道により直接被害を与えたひと、それがたとえ知事と言う、いつでも会見が開ける公人であったとしても、そのひとに直に接することなく、お詫びのアリバイづくりに精をだしたろころに、取り返しがつかないこと、があったと考える。