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郵政民営化の本質的課題

青山貞一
 
掲載日2005.8初出(大幅拡充版)

青山貞一ブログ版はこちら


 もともと「郵政民営化」は、行財政改革、とくにいまや350兆円になんなんとする郵貯、簡保の国民の貯蓄が、財政投融資により過去、公団、公社などの「はこもの」づくりのための資金の温床となってきたことを辞めさせるが大きな目的とされて来た。

 与党の政治家と霞ヶ関の官僚は、80数兆円の国の一般会計予算とは別に、もうひとつの大きな予算(実際は借金)を国民の見えないところで実質的にもっていることになる。

 政治家と官僚の裁量による連携によって、国民から集められた郵貯、簡保の貯蓄が国民の知らないところで勝手に大規模な公共事業、「はこもの」建設に使われ、しかも、それらが累積債務としてだけでなく、不良債権と化している現実は到底看過できるものではないだろう。

 同時に、いまや1000兆円になんなんとする日本の国、地方などを合わせた累積債務を支える各種国債購入の原資に郵貯、簡保がなっていたことも大問題である。

 問題は郵貯、簡保を原資とした「財政投融資」問題だけでない。350兆円といわれる郵貯、簡保を原資に、国債を下支えしていることとも関係がある。郵貯、簡保を原資とした国債の購入額は下のグラフにあるように150兆円に及んでいると推定されている。


日本の累積債務総額の推移


国、自治体累積債務に占める郵貯・簡保購入分

 その意味で、郵政民営化、とくに行政再建、財政再建との関連する郵政民営化が重要な課題であることは言を待たない。また郵政民営に限らず官から民へ、小さな政府、役人天国からの脱皮などは、日本の国の形を変えるうえできわめて重要なことだ、と誰しも一度は思ってしまう。

 だが、よくよく考えると、郵政民営化は、小泉首相が言うような官から民へ、小さな政府、役人天国からの脱皮と言った単純で分かりやすいキャッチフレーズとは別に、さまざまな大きな課題が山積していることが分かる。それら本質的な課題について、政府も政治家、それにただ選挙に関連し連日騒いでいるマスコミはほとんど言及していない。

 最初に言えることは、これら前代未聞の国、地方の累積債務や不良債権の大部分は、約50年続いている自民党政権の下で行われてきたことであることだ。

 それを抜きに、改革問題は考えられない。果たして、小泉首相の郵政民営化で果たして上のグラフの郵貯・簡保分(150兆円)がなくなるのか? 大幅に減るのか? またまともな情報公開がなく実態が不明な過去から現在の不良債権化額を含めた財政投融資の累積債務が民営化で公的資金の投入なく処理できるのか? さらに郵貯、簡保がそれぞれ株式会社化された場合、日本の金融規模の数倍もある米国の巨大金融資本の餌食にならないのか? M&Aなどによるリスクはないのか? などなど、素朴な疑問がぬぐい去れない。

財政投融資の実態

 財政投融資制度は2008年以降なくなり、その手の資金は市場で調達することが義務づけられることになっているが、今までの財政投融資の累積債務及び焦げ付き(不良債権)がどうなるかが大きな課題となるはずである。

 過去の財政投融資の規模は、財務省データを見ると、32兆円(平成13年)→27兆円(平成14年)→23兆円(平成15年)→20兆円(平成16年)→17兆円(平成17兆円)である。

出典:財務省

 最初に言えることは、小泉首相が上記の日本の累積債務の元凶がすべて郵便貯金事業、郵便保険事業にあると、ドグマチックに思い込みすぎているところにも大きな課題があると思える。

 もちろん、元凶のひとつであることに間違いない。しかし、ここまで国,自治体、公社、公団等の累積債務、かつ実質的に回収不可能な不良債権を増やしてきたのは、古くは「政」、「官」、「業」の癒着、昨今の「政」、「官」、「業」、「学」、「報の癒着体質と現状追認にあることは間違いない。これら癒着利権体質と現状追認のペンタゴンは、まさに政府自民党の一大お家芸ではなかろうか。

 結論としては、言うまでもなく(1)一般会計予算の半分が国債等の税金以外の原資となっている日本の財政、また(2)出口としての公社、公団、特殊法人、独立行政法人、具体的には4道路公団、政府系金融機関等の抜本的改革なしに、(3)いくら入口としての郵貯、簡保を民営化しても何ら本質的な問題解決にはならないこと、(4)諸外国、とくにドイツポストは特殊条件で民営化が一定程度成功しているかに見えるが、大幅な郵便局数の削減、郵便料金の高額化など、課題も山積している。さらに(5)郵政、簡保の民営化が米国政府の要望であることは間違いなく、その彼岸にあるのは、エネルギー資源を求め中東などに戦争を仕掛ける米国の財政を今まで通り下支えすることになりかねない、などが、指摘できる。

 いずれにしても、なりふり構わぬ改革にイエスかノーかの2者択一で衆議院選挙の争点となるものではなく、今後、国民的議論、理解のもと、出口改革を優先したうえで対応すればよいと,考える。

 
実際の郵政民営化の基本方針及び法案には、羊頭狗肉となる可能性が数多く残されている。以下、可能な範囲で郵政民営化に係わる課題について私見を述べてみたい。


その1 郵便業務・窓口業務(ユニバーサルサービスは維持できるか?)

(1)政府の郵政民営化案では、従来の郵政事業を@窓口サービス、A郵便、B郵便貯金、C簡易保険の4つに分けている。郵便事業の4つの機能を、それぞれ株式会社として独立させ、窓口ネットワーク会社、郵便事業会社、郵便貯金会社、郵便保険会社とするとしているのである。

(2)これに対し郵政民営化に反対する議員の主張の多くは次のようなものである。「収益のあがらない郵便事業ですから税金で赤字の穴埋めがされていると思われていますが、日本では税金は使われていません。むしろ税金で負担すべき部分も税金で負担していないものがあります。例えば、年金基礎年金部分は1/3を国が税金で負担しなければなりませんが、郵便事業職員には税の負担はありません。そんな収益のあがらない郵便事業が今日まで続いてきたのは、郵便局が貯金事業と簡易保険事業とを合わせて行ってきたからです。」

(3)最初の課題は、郵政事業を@窓口サービス、A郵便、B郵便貯金、C簡易保険の4つに分け、それぞれを株式会社化するのであるから、切り離された@とAの事業単独では経営が成り立たつかどうか、しかも民営化後の各種郵政関連企業が納税義務を負うことを前提として経営が成り立つかどうかにある。

(4)言い換えると、ユニバーサルサービスである郵便事業としての@窓口ネットワーク会社及びA郵便事業会社がそれ単独の業務で果たして会社の経営が成立するのか、にある? 郵便貯金、簡易保険との抱き合わせがないということだけでなく、今後、小口配送業がより多様化、効率化し、書状等が一層電子メール化するなかで、離島、山間僻地、過疎地などで、従来の窓口ネットワーク機能、郵便機能が維持されるか、離島、山間僻地、過疎地などで郵便のユニバーサルサービスが可能となるか否かが課題となる。

(5)たとえば、長野県には合併後も80以上の市町村があり、南信地域などには、数100から2000人程度の町村が多数ある。これらの中山間地において郵便のユニバーサルネットサービスを可能とするためには、おそらく県、町村の地域政策との連携、補完政策が不可欠となるはずだ。


その2 郵便業務・窓口業務(ドイツポストはモデル足りえるか?)

(1)郵便事業の民営化でひとつのモデルとなっているのがドイツの郵便事業であるドイツポストだ。しかし、このドイツポストには、次のような課題が指摘できる。民営化の根拠を与えたドイツの連邦議会だが、現在、その事業の民営化に関し、反省の時期に入っているという。

(2)郵便事業の民営化以前、ドイツ国内には約29,000あった郵便局は、現在、約13,000まで減少している。ドイツの連邦政府は設置基準を設けて減少を食い止めようとしたが、結局、各種の郵便料金を2回にわたり値上げした。さらに今後も赤字が出れば、ドイツの連邦政府や州政府は郵便事業の赤字を補助すべきと言う要求を民営化されたドイツポストからつきつけられている。以下は、先進諸国で郵便事業の民営化を採用しているドイツの国際郵便料金が官営(パブリックサービス)となっている日本、米国、カナダの料金より約2倍高くなっている現実を示している。

  参考:青山貞一:国際郵便料金の国別比較

(3)さらに民営化のモデルとされているドイツ・ポストの民営事業の国際物流事業(DHL)だが、ドイツポストは航空機を200機以上有し、あの有名な国際宅急便DHLを子会社としている。しかも、ドイツポストの国際物流事業は、世界各国の空港の利用を前提にどうにか成功したのである。インフラ整備のための膨大な投資が事業成功の前提となっている。

(4)それに対し、国内が中心、しかも全国通津浦裏に行き渡るユニバーサルサービスの郵便事業経営が郵便事業単独で成功する可能性は少ない。日本の郵便事業も国際物流事業があると思われるが、そもそもDHLなどの国際小口物流業界に日本のEMSや日通の航空便が太刀打ちできるはずがない?EMSや日通のペリカン便は、ドイツポストの1/20から1/100程度の経営規模しかもっていない。 

(5)このように郵政事業のうちユニバーサルネットサービスは、郵政民営化の単独事業、施策だけでなく、それを補完する施策、応急施策、地域政策と連携し、すなわちセイフティーネットを具体的に考慮してはじめて可能となると思える。急激、過激な民営化を行ったニュージーランドの挫折はもとより、イギリス、オランダなどの先行事例でも、結局、郵便事業の安易な民営化の結果、国が財政赤字を政策に負担している現実をもっと直視する必要がある。これでは、まさに「元の木阿弥」である。


その3 郵便貯金、郵便保険事業(国債、地方債下支え問題)

(1)郵政民営化に反対する国会議員の言い分として、次のようなものがある。

(2)すなわち、「郵便事業が預金や簡易保険という金融事業を行うことに対して根強い批判があります。郵便事業を民営化すべしとの声はこの金融業界からの根強い批判から出ているといってもいいかもしれません。
(しかし)この10年間の日本経済の低迷は民間金融業界が本来の使命を忘れて投機に走ったことが原因であったことを忘れてはいけないと思います。郵便貯金も簡易保険も民営化されて、投機に走るようなことがあればどうするのでしょうか。郵便貯金や簡易保険の資金は国の公社公団を通じて無駄な事業の温床になってきたとの批判もあります。しかし、(これは)郵便事業の責任ではありません。郵便事業資金の自主運用を妨害し、国の財政投融資に資金を振り当ててきた予算当局(旧大蔵省、現在の財務省理財局資金運用部)の責任です。」 ()内は青山

 以下、順次、上に指摘される課題を検証しよう。

(3)まず、郵貯、簡保が民営化された場合、郵政銀行が従来同様、いや従来以上に国の国債や各種起債を大量に買うこと、国家財政を借金で下支えすることにならないか、と言う大きな疑問がある。

(4)下図は、郵貯、簡保、年金資金等を原資とする資金運用の流れを示したものだ。郵貯、簡保、年金資金等は、入口に相当する。一方、出口には、日本国の累積的借金のもととなっている国債、地方債、外国債はじめ道路公団などの公社、公団、特殊法人がある。さらにそれら入り口と出口の中間に旧大蔵省理財局(現在の財務省)の資金運用部がある。

郵貯、簡保、年金資金等を原資とする資金運用の流れ

出典:河村信郎・青木秀和共著の公共政策の倫理

(5)ここでの最初の課題は、出口すなわち一般会計予算の半分が国債など借金になっている日本国政府や私企業とは程遠い無責任な道路4公団や政府系金融機関をそのままに、入口を民営化すれば問題、すなわち財務省資金運用部の指示で国債や起債、さらに後述する財投債を買い込まざるをえない郵貯、簡保等、入口が抱える問題が解決するとは思えないことだ。

(6)今の日本に問われていることは、主要先進国で唯一一般会計予算の半分が国債など借金になっている日本政府及び国債、起債、財投債と各種特別会計により将来世代に無責任に巨額な累積債務を増やす、まさに政府与党、すなわち自民党的な体質そのものである。この問題の抜本的、本質的な解決、改革抜きに、国民が額に汗して蓄積した郵貯、簡保など入口を分離し、民営化しても問題の解決にはならない。

(7)そもそも郵貯、簡保が民営化されたからといって、いきなり150兆円に及ぶ国債、起債さらにそれとは別枠となっている財政投融資及びその後の財投債を償還期限まえに他の銀行や民間金融に移し変えることはできない。もちろん中長期的にそれらを減少させることは可能であっても、民営化によってこれらの構造が大きく変わる可能性は少ないと思える。

(8)仮に郵貯、簡保が民営化、すなわち郵政銀行となった場合、一見、独立した私企業である郵政銀行の自主的判断で出口を選択することが可能になるように思えるが、たとえば、民営化された郵政銀行に霞ヶ関から天下った官僚と財務省理財局の官僚との官製談合で、結局、今まで通り大量の国債、起債を買わされ、もとの木阿弥とならない保証はない。事実、道路公団民営化にからんで起きている橋梁談合はその例証である。まさに官製談合そのものではないか? 

(9)上記とは別に、ユーザーの立場、すなわち預金者の側から見ると、郵貯の郵政銀行化は、従来あった政府保証がなくなることをいみする。郵政銀行の資金運用は今までとは異なり、この場合には、「民間」、「自己責任」を理由に、絶えず大きなリスクをしょいこむことになる。もし、今後、金利上昇局面に転ずれば、国際流通市場での価格暴落のリスクが一気に増大し、結果的に大きな評価損を抱え込むことになりかねない。

  ※2008年問題:1998年に当時の小渕恵三首相が発行した大量の国債
   (10年債で40兆円)が償還を迎える。それを前にして国債の市場が暴落
   する恐れがあること。日本の国家破産が起こるタイミングのひとつ。

(10)このように、民営化され超メガバンクとなる郵政銀行に、郵政関連の官僚らが大量に役員として天下り可能性は否定できない。道路公団をみるまでもなくその可能性は否定できない。さらにこの場合、郵政銀行が保有する150兆円規模の国債をもちつづけることで、結果的に政府の累積債務を下支えすることになるだろう。逆に、今後、国債、地方債を購入する原資となる郵便貯金や郵便保険の預金額が、集中満期による集中流出となる可能性もある。また預金者は、今後、より利率の良い金融商品に移行する可能性もある。


その4 郵便貯金、郵便保険事業(財政投融資、財投債下支え問題)

(1)一方、郵政民営化は国債、地方債引き受け問題とは別に、過去における公社、公団、特殊法人などへの巨額な財政投融資に起因する不良債権を、国民の目の見えないところでチャラとさせる手段とならないか? そもそもそれらの実態に関する情報開示はどうなっているのか? さらにそれら過去の巨額な財政投融資などに起因する不良債権の処理はどうするのか?

(2)これに関連し、東京新聞2005年9月9日号に郵政問題を考えると言う特集がある。そこでは、つぎのようなリードからはじまる。

 
「財政投融資には不良債権があるって聞くけど本当なの」、「財政投融資による財投機関に対する融資については、これまですべて回収されており、不良債権はありません」 こんなやりとりが財務省発行の「財投リポート2004」に起債され、民間の金融関係者らをあきれさせている。リポートは続ける。財投機関が一般会計などから事実上の補助金を受けていることへの反論として「(財投機関は)利益を追求する民間企業ではできないような事業で、政策的に必要と考えられる事業を実施している」「補助金は基本的に政策に必要なコスト(政策コスト)だ」と。

(3)国の上記の言い分がいかに子供だましのウソであるかは、明らかである。すなわち、郵貯,簡保や公的年金保険を上述の旧大蔵省理財局資金運用部が一手に集め、4道路公団や政府系金融機関、特殊法人などにまさにバラマク制度がこの2000年まで続けられてきたことはご存知のとおりだ。これを財政投融資制度と言う。

(4)河村信郎と青木秀和の共著の公共政策の倫理学第五章の財政投融資論の冒頭に次のような下りがある。長い引用となるが重要なことなので、読んでもらいたい。すなわち、
「郵貯のカネは財政投融資という形で特殊法人群につぎこまれている。特殊法人の赤字はおそらくン十億円をくだらない。が郵貯は特殊法人に直接貸し付けているわけではない。郵貯の貯金は全額旧大蔵省の資金運用部に預託され、そこから財投に流れた。

 つまり郵貯の融資先は旧大蔵省=国であり、特殊法人の赤字からは遮断されている。国に貸している以上、事業体としての郵貯の不良債権はゼロなのだ(週刊東洋経済2001年7月7日号)。

 郵貯は国民→郵便局→(旧大蔵省)資金運用部→特殊法人と流れているが、郵便局→資金運用部→特集法人は切断されているので、郵貯は安泰だという。本当だろうか。だが、もしこの記事にある”特殊法人の赤字ン数十兆円”が返済されたいとしたら国はどうなるのか。国がこれを放置されることはゆるされない。.......

 実はこの記事でも後のほうでは、「無傷の郵貯と言っても、それは特殊法人ン十兆円の赤字を税金で埋めるという、国民の大多数の多大な犠牲の上に成立する、と認めている。「安泰論」の根底が崩れている。現状でこういうことが起こると、国は赤字国債を発行して手当てする以外方法はない。もともと国は歳入不足を大量の赤字国債で経常的に補っている。この状態では取り立て不能となった財政投融資もまた赤字国債で埋めるしかない。」


 参考:財政投融資の課題

(5)上記のように郵貯・簡保・年金資金は財政投融資として特殊法人等の資金源として活用されてきたが、2008年度からは制度が変わり、従来の財政投融資に相当する金は完全に市場調達せざるをえなくなる。 また2001年度から公社,公団、特殊法人等は「財投債」という国債に類する債権を発行し、自ら資金を調達する方法に変わった。しかし、それらの多くは国債、地方債同様、依然として郵貯、簡保、公的年金を原資としていることに変わりはない。

(6)ここでの大きな課題は、財政投融資、財投債など公社,公団、特殊法人等に郵貯、簡保等を原資として貸し付けてきた巨大な資金が河宮・青木論文にあるように、不良債権化し、私たちの税金によってあなうめされていないかどうかである。これについて、先の東京新聞は次のように述べている。

(7)すなわち
「9つの政府系金融機関の2005年3月決算も、最終損益が焼く1400億円の赤字に転落。不良債権の増加など財務内容の悪化が目立った。民間ではできない政策ー。この目標に向け、政府系金融機関では、貸出金利が低利に設定されるケースが多い。農林漁業金融公庫の場合、貸出金利が調達金利を下回る「逆ざや」の額は、2004年度約80億円。貸せば課すほど「本業で損失が生じる」収益構造は変わっていない。この損失分は国の一般会計からの「補助金」で穴埋めされている。1996年度に1000億円近かった補助金は、2004年度には約500億円まで圧縮されたが、実体は補助金そのものだ。.......郵政民営化は、特殊法人などへ野放図に金を流していた郵貯と言う「蛇口」を閉め、兵糧攻めにする作戦だ。だが、政府系金融機関など特殊法人のあり方を見直さないと、「蛇口」だけ閉めても効果は薄い。

 参考:衆議院郵政民営化に関する特別委員会に参考人
     出席時の意見陳述及び質疑(映像+音声)
     山崎養世氏(シンクタンク山崎養世事務所代表
     前ゴールドマン・サックス投信株式会社社長)


その5 郵便貯金、郵便保険事業(民間への資金の流れ問題)

(1)政府の郵政民営化のうち、郵貯、簡保の民営化の効果として、300兆円に及ぶ貯蓄資金の民間への流れが多くなるというのがある。これは本当だろうか?

(2)ここでも先の東京新聞の特集記事を引用したい。

(3)すなわち
「郵政民営化で300兆円もの郵貯、簡保資金が「官から民へ」シフトするのか。竹中平蔵郵政民営化担当相のブレーンであるはかまだ直済慶大教授らが、仮に郵政民営化した場合の資金の変化を分析したリポートがある。2004年度と2017年度とを比べると、郵貯、簡保から財投への流れは200兆円から10兆円に激減し、民間向けも30兆円増えると言う。一見、「官から民へ」が実現しているように見える。だが、.....。郵貯、簡保の国債、地方債購入は逆に130兆円から150兆円に増え、さらに民間金融機関から国債購入などを通じて政府に流れるお金は、280兆円から670兆円に激増している。郵政民営化によって民間金融機関や家計への国債の依存度は、逆に重くなると言うシナリオだ。郵政民営化さえすれば資金が一気に民間に回り、経済が活性化する。国債残高の膨張が続く限り、こんな”バラ色の未来”がぐるとは言い切れない。」


その6 郵便貯金、郵便保険事業(諸外国の事例と民営化組織の諸問題)

(1)かつてニュージーランドは郵便事業を金融部門(郵便貯金・簡易保険事業に相当する)を外しおり、これこそ日本が見習うべきビジネスモデル、改革であると日本政府は推奨していた。だが現在どうだろう。見習うべきニュージーランドは再度税金を投入し、郵便局に金融部門を復活させてたのである。だが、一旦崩れたシステムの復活は容易ではなく、ニュージーランドの極端な民営化モデルは現在失敗の見本と化している。

 参考:ニュージーランド

(2)ドイツでは当初、郵便会社、すなわちドイツポストを分離したが、その後、ドイツポストは親会社として、郵便局会社、急送便会社、物流会社、金融会社(ドイツバンク)までを子会社化した。さらに、ドイツポストの子会社となった金融会社には生命保険会社や損害保険会社が孫会社化している。当初、金融会社であるドイツバンクは郵便会社であるドイツポストの子会社ではなかったが金融会社が郵便局維持費の2分の1を負担することに応じなかったためドイツポストは金融会社を買収した。現在、ドイツポストは郵便局会社、急送便会社、物流会社の株式を100%、金融会社の約70%を保有してグループ経営を展開している。

 参考:ドイツポスト

(3)だが、日本の郵政民営化の基本方針では、持ち株会社を親会社とするものの100%を所有できるのは窓口会社と郵便事業会社だけであり、郵便貯金会社と郵便保険会社の株式保有を認めていない。さらに、郵便事業会社、郵便貯金会社、郵便保険会社が窓口会社に業務委託する義務を課さないとしている。郵便事業と郵貯事業,簡保事業を分離することに熱心なあまり、持ち株会社を中心に資本で連結した企業がグループの有機的連携ある経営によって資本力を発揮することができなくなる可能性がある。

(4)一方、政府の郵政民営化で、資本的に切り離された郵便貯金事業会社や簡易保険事業会社がJRやNTTのように、分割民営化されない場合、最終的には350兆円もの預金額をもつ超メガバングをつくることになりかねないのではない。 仮にメガバング化する場合でも、完全民営化に至る過渡期にあって過小資本の問題が起きないと言えるか? 逆に、株式市場などでの株式売却により、過小資本問題を克服し、それなりの適正な資本規模をもったメガバンク、郵政銀行が誕生した場合には、それが新たに民業を圧迫することにならないか?

(5)ちなみに、ドイツポストは自己資本率30%で発足している。一方、日本郵政公社の試算では日本の場合、約7兆円の資本が必要であると推定している。だが日本政府はこの約半分の資本で発足させようとしているふしがある。さらに株の売却収入を資本の充実に充てると言う考えもないようだ。企業論的に見れば,郵政民営化をすることは、市場で株式を発行し、それを売却することを意味するが、日本政府は累積債務解消のためにその収入を国庫に取り込むことだけを考えており、肝心な郵便事業経営の健全経営資金に使うことは毛頭考慮していない。


その7.郵政民営化は米国政府・産業の要請?

(1)他方、諸外国との関係、とくに米国との関係でこの郵政民営化問題を見ると、次のような危惧が指摘できる。

(2)すなわち、現在までに米国債を一番買わされているのが日本であり、全体の30〜40%と言われている。これら米国債は得るに売れないと言う意味で日本経済にとって一種の不良債権となっていると言ってもよい。諸外国が購入を減らしているなかで日本だけが米国債の比率を上げている現実がある。米国追随の小泉政権が郵政民営化を強調する理由のひとつとして、現状では制限されている米国債を民営化後の郵便及び保険会社が買い支えするのではないかと言う危惧がある?


日本による米国国債買い支えの実態

 日本の米国債保有の増加分だが、米国内での米国債購入分の約2倍(1671億ドル・約18兆3800億円)となっていることが分かる。これは2003年の日本政府の円売り・ドル買いの介入額、約20兆円のほとんどが米国債購入のために当てられたと推定される。米国の国債発行額は米経済の落ち込みが顕著となった2001年後半から急激に増加している。米国債保有残高に占める日本のシェアが急増しており、とくに2003年以降顕著だ。実に40%に迫る勢い。その理由は日本政府が巨額の円売り・ドル買い介入で得たドルの大部分を、米国の国債を購入するために使っているためと推定される。ブッシュ大統領の大減税とイラク戦争の軍事費は日本からの国債購入の下支えがなければ困難であったと考えられる



(3)さらに下に示す基本方針では、「日本郵政公社を廃止し、4事業会社と国が全額株式を保有する純粋持株会社を設立する。設立時期は2007年4月とする。........窓口ネットワーク会社及び郵便事業会社の株式については、持株会社が全額保有するが、郵便貯金会社、郵便保険会社については、移行期間中に株式を売却し、民有民営を実現する。その際には、新会社全体の経営状況及び世界の金融情勢等の動向のレビューも行う。また国は、移行期間中に持株会社の株式の売却を開始するが、発行済み株式総数の3分の1を超える株式は保有する。」とされている。

(4)ここで問題となるのは、持株会社に対しては移行期間100%、移行後1/3を超える株を国が保有とあるが、郵便貯金会社、郵便保険会社は移行期間中に株式を売却し、民有民営を実現するとあることだ。これは、国民が苦労して貯めた数100兆の貯蓄を外国、とくに米国の金融資本、金融産業に売り渡すことになりかねないのではないか? 周知のように、米国政府は何年も前から、具体的に郵貯を解放すべしと日本政府に迫ってきた背景があるからだ。

(5)国債、起債依存の日本の財政が実質破綻していることは周知の事実であり、2008年にそれが顕在化し出すことは今やその道の専門家にとっての当たり前のことと認識されている。くりかえすが、日本は巨額の米債を買っている。先に述べたように日本が米債を買い支えすることで、ブッシュ政権は財政赤字を継続することが出来、アフガン、イラクと言ったいわばエネルギー資源収奪戦争を次々に起こすことが可能となっていると言える。

(6)もし、日本政府が米国債を売ると米国債の相場が暴落し、米政府、米金融産業、さらには日本の金融産業も大損することになる。ここで日本国民がため込んだ個人資産である郵貯・簡保がでてくる。従来から財務省理財局資金運用部により郵貯・簡保の資金を原資に膨大な日本の国債、起債を購入してきたが、郵貯、簡保を民営化することで財務省の手から離れて米国政府の要請を支える、すなわち米国債とさらに買い支えれば米国政府にとり上記の暴落は抑制されありがたいことはないはずである。

 ※在日米国大使館、ファクトシート:日米間の規制改革及び競争政策
   イニシアティブに関する日米両国首脳への第3回報告書

(7)以下の質問主意書は、その点について政府に問いただしたものである。政府の答弁書では、質問主意書の内容をいずれも否定しているが、米国に徹底的に追随してきた小泉首相が米国の要望を受け、「郵政民営化」を推進していることは十分想定できることである。

(8)さらに民営化された郵政銀行の預金がスムーズに民間に融資される保証などどこにもないのではないか?また過渡期にあっては、政府保証あるいはペイオフなしの預金と、ペイオフありの預金とが混在することにユーザーへの不公平はないのか?


質問第三七号

郵政民営化政策推進についてのアメリカ政府の要請に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十七年七月一日

喜 納 昌 吉   

       参議院議長 扇   千  景 殿

  郵政民営化政策推進についてのアメリカ政府の要請に関する質問主意書

 小泉政権が推進している郵政民営化政策は、アメリカ通商代表部(USTR)が一九九四年に作成し始めた「日米規制改革および競争政策イニシアティブに基づく日本政府への米国政府の年次改革要望書」(以下「年次改革要望書」という。)に基づいて、アメリカ政府が日本政府に一九九六年以来、毎年のように要望してきた内容に沿っている。そこで、以下質問する。

一、一九九九年版年次改革要望書には、民間保険会社が提供している商品と競合する簡易保険を含む政府及び準公共の保険制度を拡大させる考えをすべて中止し、現存制度を削減又は廃止すべきかどうか検討することを強く求める旨が示されている。また、二〇〇四年版年次改革要望書には、日本郵政公社に保険、貯金、宅配便の分野で付与されている民間競合社と比べた優遇面の全面的な撤廃は必要不可欠であり、民営化の結果、競争が歪められずに市場にもたらされることを保証する旨がうたわれている。小泉政権の郵政民営化政策は、明らかにアメリカ政府の要望を受けて推進されていると思われるが、これを認めるか。認めない場合は、郵政民営化政策を推進している理由を示されたい。

二、アメリカには、郵政民営化で売り出される株式を買い占めて一定の経営権を握り、郵貯と簡保資金計三五〇兆円をアメリカに振り向けたいとの狙いがあるとの意向もあると聞いている。そこで、政府の郵政民営化政策における「民」とは何を指すのか。日本の民間企業なのか、特殊法人等なのか。それとも、アメリカを中心とする外国の民間業界なのか、具体的に示されたい。

三、このような年次改革要望書がアメリカ政府から日本政府に突き付けられること自体を、政府は内政干渉と受け止めないのか。その見解を示されたい。

  右質問する。




答弁書第三七号

内閣参質一六二第三七号
  平成十七年七月十二日
内閣総理大臣 小 泉 純 一 郎   


       参議院議長 扇   千  景 殿

参議院議員喜納昌吉君提出郵政民営化政策推進についてのアメリカ政府の要請に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員喜納昌吉君提出郵政民営化政策推進についてのアメリカ政府の要請に関する質問に対する答弁書

一について
 郵政民営化は、小泉内閣における政策判断に基づき、「改革の本丸」と位置付けて推進しているものであり、米国政府の要望を受けて推進しているものではない。

二について
 郵政民営化は、「官から民へ」という方針の下、日本郵政公社の四つの機能について、それぞれ株式会社として独立させ、民間企業としての経営を実現しようとするものであり、郵政民営化の「民」が民間における特定の者を指すわけではない。

三について
 日米規制改革及び競争政策イニシアティブでは、日米双方が主体的に取り組む規制改革等について、互いに建設的な提案を行う形で議論がなされており、日米規制改革及び競争政策イニシアティブに基づく日本国政府への米国政府要望書における要望がいわゆる「内政干渉」に当たるとは考えていない。



郵政民営化関連法案

郵政民営化の基本方針

平成16年9月10日
                           閣  議  決  定

 明治以来の大改革である郵政民営化は、国民に大きな利益をもたらす。

@ 郵政公社の4機能(窓口サービス、郵便、郵便貯金、簡易保険)が有する潜在力が十分に発揮され、市場における経営の自由度の拡大を通じて良質で多様なサービスが安い料金で提供が可能になり、国民の利便性を最大限に向上させる。

A 郵政公社に対する「見えない国民負担」が最小化され、それによって利用可能となる資源を国民経済的な観点から活用することが可能になる。

B 公的部門に流れていた資金を民間部門に流し、国民の貯蓄を経済の活性化につなげることが可能になる。

 こうした国民の利益を実現するため、民営化を進める上での5つの基本原則(活性化原則、整合性原則、利便性原則、資源活用原則、配慮原則)を踏まえ、以下の基本方針に従って、2007年に日本郵政公社を民営化し、移行期を経て、最終的な民営化を実現する。

1.  基本的視点
 
 4機能が、民営化を通じてそれぞれの市場に吸収統合され、市場原理の下で自立することが重要。そのための必要条件は以下の通り。
 
(1) 経営の自由度の拡大
・ 民営化した後、イコールフッティングの度合いや国の関与のあり方等を勘案しつつ、郵政公社法による業務内容、経営権に対する制限を緩和する。
・ 最終的な民営化においては、民間企業として自由な経営を可能とする。

(2) 民間とのイコールフッティングの確保
・ 民間企業と競争条件を対等にする。
・ 民営化に伴って設立される各会社は、民間企業と同様の納税義務を負う。
・ 郵貯と簡保の民営化前の契約(以下、「旧契約」と言う。)と民営化後の契約(以下、「新契約」と言う。)を分離した上で、新契約については、政府保証を廃止し、預金保険、生命保険契約者保護機構に加入する。(通常貯金については、すべて新契約とする。)

(3) 事業毎の損益の明確化と事業間のリスク遮断の徹底
・ 各機能が市場で自立できるようにし、その点が確認できるよう事業毎の損益を明確化する。
・ 金融システムの安定性の観点から、他事業における経営上の困難が金融部門に波及しないようにするなど、事業間のリスク遮断を徹底する。


2.  最終的な民営化時点における組織形態の枠組み
 
(1) 機能ごとに株式会社を設立
・ 4機能をそれぞれ株式会社として独立させ、窓口ネットワーク会社、郵便事業会社、郵便貯金会社、郵便保険会社とする。

(2) 地域会社への分割
・ 窓口ネットワーク会社、郵便貯金会社及び郵便保険会社を地域分割するか否かについては、新会社の経営陣の判断に委ねることにする。

(3) 持株会社の設立
・ 経営の一体性を確保するために、国は、4事業会社を子会社とする純粋持株会社を設立する。郵便貯金会社、郵便保険会社については、移行期間中に株式を売却し、民有民営を実現する。その際には、新会社全体の経営状況及び世界の金融情勢等の動向のレビューも行う。国は、持株会社の発行済み株式総数の3分の1を超える株式は保有する。 

(4) 公社承継法人
・ 郵貯と簡保の旧契約とそれに見合う資産勘定(以下、「公社勘定」と言う。)を保有する法人を、郵政公社を承継する法人として設立する。
・ 公社勘定の資産・負債の管理・運用は、郵便貯金会社及び郵便保険会社に委託する。


3.  最終的な民営化時点における各事業会社等のあり方
 
 最終的な民営化時点における各事業会社等のあり方は、以下の通り。なお、分社化に必要となる枠組み等については、郵政民営化法案(後述)に盛り込む。
 
(1) 窓口ネットワーク会社

(ア) 業務の内容
・ 適切な受託料の設定及び新規サービスの提供により、地域の発展に貢献しつつ、収益力の確保を図る。
・ そのため、郵便、郵便貯金、郵便保険の各事業会社から窓口業務を受託する。また、例えば、地方公共団体の特定事務、年金・恩給・公共料金の受払などの公共的業務、福祉的サービスなど地方自治体との協力等の業務を受託する。
・ 民間金融機関からの業務受託の他、小売サービス、旅行代理店サービス、チケットオフィスサービスの提供、介護サービスやケアプランナーの仲介サービス等地域と密着した幅広い事業分野への進出を可能にする。

(イ) 窓口の配置等
・ 窓口の配置についての法律上の取り扱いは、住民のアクセスが確保されるように配置するとの趣旨の努力義務規定とし、具体的な設置基準のあり方等は制度設計の中で明確化する。
・ 代替的なサービスの利用可能性を考慮し、過疎地の拠点維持に配慮する一方、人口稠密地域における配置を見直す。
・ 窓口事業の範囲は、原則として郵便局における郵便集配業務を除く郵便、郵便貯金、郵便保険に係る対顧客業務及び上記(ア)の業務とする。
 
(2) 郵便事業会社

(ア) 業務の内容

・ 従来の郵便事業(窓口業務は窓口ネットワーク会社に委託)に加え、広く国内外の物流事業への進出を可能にする。高齢者への在宅福祉サービス支援、情報提供サービス等地域社会への貢献サービスは、適切な受託料を得て、引き続き受託する。

(イ) サービスの提供範囲

・ 引き続き郵便のユニバーサルサービスの提供義務を課す。
・ ユニバーサルサービスの維持のために必要な場合には、優遇措置を設ける。
・ 信書事業への参入規制については、当面は現行水準を維持し、その料金決定には公的な関与を続ける。
・ 特別送達等の公共性の高いサービスについても提供義務を課す。このために必要な制度面での措置は、今後の詳細な制度設計の中で検討する。
 
(3) 郵便貯金会社

(ア) 業務の内容
・ 民間金融機関と同様に、銀行法等の一般に適用される金融関係法令に基づき業務を行う(窓口業務や集金業務は窓口ネットワーク会社に委託)。

(イ) 新旧契約の分離
・ 民間企業と同様に納税義務を負うとともに、新規契約分から郵便貯金の政府保証を廃止し、預金保険機構に加入する。
・ 公社勘定は公社承継法人が保有し、その管理・運用を郵便貯金会社が受託する。運用に当たっては、安全性を重視する。
 
(4) 郵便保険会社

(ア) 業務の内容

・ 民間生命保険会社と同様に、保険業法等の一般に適用される金融関係法令に基づき業務を行う(窓口業務や集金業務は窓口ネットワーク会社に委託)。

(イ) 新旧契約の分離

・ 民間企業と同様に納税義務を負うとともに、新規契約分から郵便保険の政府保証を廃止し、生命保険契約者保護機構に加入する。
・ 公社勘定は公社承継法人が保有し、その管理・運用を郵便保険会社が受託する。運用に当たっては、安全性を重視する。
 
(5) 公社承継法人

(ア) 業務の内容

・ 郵貯・簡保の既契約を引継ぎ、既契約を履行する。
・ 郵貯・簡保の既契約に係る資産の運用は、それぞれ郵便貯金会社及び郵便保険会社に行わせる。

(イ) 公社勘定の運用

・ 公社勘定に関する実際の業務は郵便貯金会社及び郵便保険会社に委託し、それぞれ新契約分と一括して運用する。
・ 公社勘定の運用に際しては、安全性を重視する。
・ 公社勘定については、政府保証、その他の特典を維持する。
・ 公社勘定から生じた損益は、新会社に帰属させる。


4.  移行期・準備期のあり方
 
(1) 移行期のあり方
 民営化の後、最終的な民営化を実現するまでの間を、移行期と位置付ける。移行期のあり方は、以下の通り。

(ア) 移行期における組織形態
・ 国は、日本郵政公社を廃止し、4事業会社と国が全額株式を保有する純粋持株会社を設立する。設立時期は2007年4月とする。情報システムの観点からそれが可能かどうかについては、専門家による検討の場を郵政民営化準備室に設置し、年内に結論を得る。窓口ネットワーク会社及び郵便事業会社の株式については、持株会社が全額保有するが、郵便貯金会社、郵便保険会社については、移行期間中に株式を売却し、民有民営を実現する。その際には、新会社全体の経営状況及び世界の金融情勢等の動向のレビューも行う。また、国は、移行期間中に持株会社の株式の売却を開始するが、発行済み株式総数の3分の1を超える株式は保有する。
・ 公社承継法人を設立する。公社承継法人は、郵便貯金、簡易保険の旧契約を引継ぎ履行することを業務とする。旧契約の管理・運用は郵便貯金会社と郵便保険会社に行わせる。

(イ) 経営の自由度

・ 窓口ネットワーク事業においては、試行期間を設けつつ、民間金融商品等の取り扱いを段階的に拡大し、地域の「ファミリーバンク」、「ワンストップ・コンビニエンス・オフィス」として地域密着型のサービスを提供する。
・ 郵便事業会社においては、国際的な物流市場をはじめとする新分野への進出を図る。

(ウ) 郵便貯金及び郵便保険事業の経営
・ 郵便貯金及び郵便保険事業は、当面、限度額を現行水準(1千万円)に維持する。その際、貯金及び保険は、預金者、被保険者ごとに新契約と旧契約とを合算して管理する。その上で、経営資源の強化等、最終的な民営化に向けた準備を進める。
・ 民間金融機関への影響、追加的な国民負担の回避、国債市場への影響を考慮した適切な資産運用を行うが、民有民営化の進展に対応し、厳密なALM(資産負債総合管理)の下で貸付等も段階的に拡大できるようにする。
・ 大量の国債を保有していることを踏まえ、市場関係者の予測可能性を高めるため、適切な配慮を行う。

(エ) イコールフッティングの確保
・ 新会社は、移行期当初から民間企業と同様の法的枠組みに定められた業務を行い、政府保証の廃止、納税義務、預金保険機構ないし生命保険契約者保護機構への加入等の義務を負う。

(オ) 移行期の終了
・ 移行期は遅くとも2017年3月末までに終了する。
・ 郵便貯金会社及び郵便保険会社は、遅くとも上記の期限までに最終的な枠組みに移行するものとする。そのため、移行期における両社のあり方については、銀行法、保険業法等の特例法を時限立法で制定し、対応することとする。
 
(2) 準備期のあり方

 2007年4月の民営化までの時期は、準備期と位置付け、民営化に向けた準備を迅速に進める。

(ア) 経営委員会(仮称)を設置し、民営化後の経営や財務のあり方について検討する。

(イ) 円滑な分社化を図る観点から現在の勘定区分を見直し、郵便事業の超過債務を解消した上で、4機能別の勘定区分を行う。また、各機能が市場で自立するのに必要な自己資本の充実策については、詳細な制度設計を踏まえて検討する。

(ウ) 新旧契約の分離の準備を行う。

(エ) 国際物流事業への進出を可能とする。

(オ) 投信窓販の提供を可能とする。

(カ) その他の新規事業分野への進出を準備する。

(キ) 関連施設等

・ 郵便貯金関連施設事業、簡易保険加入者福祉施設事業に係る施設、その他の関連施設については、分社化後のあり方を検討する。


5.  雇用のあり方
 
(ア) 民営化の時点で現に郵政公社の職員である者は、新会社の設立とともに国家公務員の身分を離れ、新会社の職員となる。

(イ) 人材の確保や勤労意欲・経営努力を促進する措置の導入等、待遇のあり方について制度設計の中で工夫する。

(ウ) 職員のモラールと労使関係の安定に配慮する。


6.  推進体制の整備
 
(ア) 基本方針の取りまとめ後は、全閣僚で構成される郵政民営化推進本部(仮称)(本部長は内閣総理大臣)を設置し、民営化に向けた関連法案の提出及び成立までの準備、公社からの円滑な移行及び最終的な民営化実現への取り組みを進める。

(イ) 民営化後、郵政民営化推進本部の下に、有識者から成る監視組織を設置する。監視組織は、民営化後3年ごとに、国際的な金融市場の動向等を見極めながら民営化の進捗状況や経営形態のあり方をレビューする。また、許認可を含む経営上の重要事項について意見を述べる。監視組織の意見に基づき本部長は所要の措置をとるものとする。


7.  法案の提出等
 
・ 以上の基本方針に沿って、政府は早急に郵政民営化法案策定作業を開始する。また、法案化等のため、この基本方針に基づき、更に詳細な制度設計に取り組み、早急に結論を得る。なお、その過程で必要に応じ、経済財政諮問会議に報告を行うこととする。
・ 基本的な法案及び主要な関連法案は次期通常国会へ提出し、その確実な成立を図る。