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ポストにビラ入れただけで
2ヶ月拘留!?

青山貞一

掲載日:2004.4.30

 まず、東京新聞2004年4月29日朝刊の記事のリードを読んでもらおう。

  東京都立川市の反戦市民団体メンバー3人が防衛庁庁舎のポストにイラク派兵反対のビラを入れ、住居侵入の疑いで逮捕(起訴済み)された事件から2ヶ月がたった。3人は以前拘置され、席巻禁止の措置を受けている。「もの言えば唇寒い」時代の再来なのか。

 この事件については、ちょうど一ヶ月前のサンデー毎日の堀記者が以下の記事を書いている。


サンデー毎日(2004年3月28日号

〜前略〜

 そんな折も折、自衛隊員に直接、「派兵反対」を訴えようと、官舎の郵便受けにチラシを配った東京都立川市の市民団体「立川自衛隊監視テント村」 のメンバー男女3人が2月27日、住居 侵入容疑で警視庁に逮捕された。3人は1月17日に同市内の防衛庁官舎へ無断で立ち入り、1階の集合郵便受けにチラシを入れた疑いが持たれている。

 「テント村」 は1972年の発足以来、「反戦・反基地」運動に取り組んできた。代表の加藤克子さんは 「不当逮捕だ」と言って憤る。

 「派兵が具体化した昨年秋から月1回程度、ビラを入れてきました。官舎には宅配業者も自由に出入りしてチラシを配っている。ごく普通のポスティングです。」
 配られたチラシはA4版の紙1枚。自衛隊員とその家族に向けて、開戦理由の大量破壊兵器が見つからない点、自らの命の危険のみならず、イラクの無実の民衆を殺傷する恐れがある点を説いている。特に扇動的な内容ではない。

 ともあれ 「現場」 の官舎を見に行った。陸上自衛隊東立川駐屯地に隣接し、同駐屯地や立川駐屯地の隊員、防衛庁職員らが住む。塀で閉ざされてはいないし、守衛もいない。敷地と道路を区切るフェンスに<ビラ貼り・配り等の宣伝活動>を禁じるという札があるにはあるが、大手宅配ピザチェーンの店員はさも意外そうな口調でこう話す。

 「あそこにはずっとメニューを入れていますが、一度も苦情は来てないです」住民に話を聞いてみた。反戦・チラシが郵便受けに入っていると迷惑ですか−−。大方はただ「う〜ん・・・・」とうなるのみ。ある主婦は 「捨てればいいから。」 と淡々としたものだ。チラシ配りそのものが殊更、住民に害を及ぼしているという印象はない。

 もっとも、チラシを配って住居侵入で逮捕--という事例がこれまでなかったわけではない。オウム真理教事件の際は往々にして使われた捜査手法だ。だが、刑事法が専門の松宮拳明・立命館大教授はこう話す。

 「オウムの時とは違う、とハッキリ言っておきます」すでに組織的犯罪に手を染めていた教団の信者の行為と同一視はできない。

 
「ピザ屋のチラシとは訳が違う」

 松宮教授によれば、出入りが制限されていない状況で、郵便受けにチラシを入れるために敷地へ立ち入っただけでは 「住居侵入罪」は成立しないという。また、チラシ配り禁止とされていることについても、「(宅配業者のチラシが入るなど)実際には効力を持っていない。現実にどのようなルールが支配しているかが問われる」 (松宮教授)。

 また、同じく立命館大の市川正人教授 (憲法) は、チラシ配りは憲法が保障する表現の自由の行使であり、それを抑圧するのは重大な問題だと指摘する。

 「表現の自由はできる限り広く認められなければなりません。住民側が『受け取りたくない』と思う情報で、住民の平穏を乱すような行為は認められないが、そういうことではないでしょう」実は今回の事態に至った背景の一端がうかがえる話がある。ある立川市民が2月28日夜、メンバー逮捕に抗議する電話を立川署にした際、対応した署員とおおむね次のような趣旨のやり取りがあったという。

市民「なぜ逮捕したのか」

署員「ビラ配りは禁止事項として明示してある」

市民 「私も自宅の郵便受けに『広告お断り』と書いている。チラシを入れた人を取り締まってくれるか」

署員「自衛隊のイラク派遣に関する内容であり、ピザ屋や寿司屋のチラシとは訳が違う。士気が下がるとかいろんな都合がある」

 この市民が振り返る。「図らずも『士気が下がる』という言葉が飛び出したので本当に驚きました」 前出の市川教授が言う。「チラシの『中身』が問題だからということで摘発する、しないを判断したということであれば、まさに表現の自由の侵害です」市川、松宮両教授や憲法学の大御所、奥平康弘・東京大学名誉教授ら著名な法学者56人が3月3日、テント村メンバー逮捕に抗議する声明を発表した。

 警視庁の見解をただすと、「住居侵入事件として捜査中であるのでお答えできない」と言うのみだが、警察行政に詳しいノンフィクション作家の小林道雄氏はこう批判する

 「警察の腹の中にはイラク派兵に関する政治的配慮があるはずです。戦前、特高警察のように極端に政治警察化した反省から、戦後の改革で政治との関係はニュートラルでなければならないとされたが、それがすっかり風化してしまった」

 〜後略〜
     

 この事件については、サンデー毎日の記事にもあるように、逮捕直後から著名な憲法学者らが相次いで「表現の自由」(憲法21条)に反するとして抗議声明を出している。

 東京新聞の記事によれば、アムネスティ・インターナショナルは、逮捕された3人を日本では初めての思想信条を理由に拘禁された「良心の因人」と認定した、よいう。

 ここ数年、まさに国家主義、軍国主義が忍び寄っているが、これほど露骨な「表現の自由への圧力」そして「思想信条の自由への圧力」はめずらしい。まさに今の日本は戦前への回帰である。

 言えることは、「イラクの民主化」などとして復興支援に日本政府は自衛隊を送ったが、肝心要の日本はまさに非民主主義国家さらに軍国主義に戻っていることだ。

 こんな暴挙が許されてはならない。