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環境省「ダイオキシン大気濃度」大本営発表    池田こみち


 ダイオキシンと言えば、「所沢のほうれん草事件」を思い出される方も多いと思います。

 あの衝撃的な報道から丸5年が経過しました。今ではダイオキシン問題の報道は陰を潜め、人々の関心も薄れ始めています。ほんとうに問題はなくなったのでしょうか。第2回目はダイオキシン汚染の現状を取り上げてみます。

 1999年5月、国連環境計画(UNEP)は、先進各国のダイオキシン排出量目録を発表しました。その報告書は、「大気中に排出されているダイオキシン類の約半分は日本が出している」という衝撃的な事実を明らかにしたのです。所沢ほうれん草汚染の報道から3ヶ月後のことです。

 その頃、国内には一般家庭からの廃棄物を焼却する施設が1800か所以上、焼却灰等を埋め立てる処分場が谷戸や海域に2000か所以上もありました。日本のダイオキシン対策は、欧米に10年以上の遅れをとり、日本がダイオキシン汚染大国であることが国内外に明らかにされた後、99年の暮になってようやく「ダイオキシン類対策特別措置法」として各種規制や環境モニタリングなどが制度化されました。

 それから5年、ダイオキシン汚染の状況はどのように変化したのでしょうか。環境省の発表によれば、一般廃棄物焼却施設は1600カ所余りまで減少し、大気中に排出されるダイオキシン類の量も毒性等量で年間8kg超から1kgを下回るまでに改善されたとしています。そして、私たちが日々呼吸している空気に含まれるダイオキシンの濃度は、平成9年度にはおよそ0.6pg-TEQ/m3だったものが、平成14年度には約0.1pg-TEQ/m3まで改善されたとしています。これらの数字は、ダイオキシン特措法がそれなりに効果を発揮したことを示しています。

 しかし、国際的に見てみると、まだまだ日本の取り組みが不足していることがわかります。ドイツ(人口8300万人)では、焼却炉の数が60カ所、大気中へのダイオキシン排出量は10g以下、オーストリアの大気中ダイオキシン濃度は都市部で0.014pg-TEQ/m3と桁違いに低い数値となっており、圧倒的にダイオキシン対策が進んでいることを裏付けています。

 その背景として最も重要なことは、EUやカナダ、オーストラリアなどの環境先進都市では、「脱焼却」「脱埋立」の実現をめざして「ゼロ・ウェイスト政策」が推進されていることです。それに対して、日本では、住民の反対も強く、これ以上埋立地の新規立地が難しいとのことから、今まで以上にごみを焼却・溶融して埋立物の減容化を推進すること、すなわち「焼却強化」が国策となっています。

 また、大型焼却炉で高温連続焼却すればダイオキシンが出ない、という迷信も焼却主義を助長しています。 確かに、ダイオキシン発生の主因はごみ焼却とされていますが、焼却炉の煙突から排出される有害化学物質はそれだけではありません。高温焼却すれば、多種多様の重金属類が飛散し、地球温暖化を促進する二酸化炭素も増加します。最大の問題は、焼却主義では、ごみの発生抑制・減量化・資源化など本来の循環型社会づくりへの市民や企業の努力が生かされないばかりか、焼却施設のためにごみを必要とする「似非循環型社会」の根元となり、次世代に環境リスクと財政リスクを残すことになるということです。
(逓信同窓会誌4月号の特別寄稿(私たちの生活と環境問題(2)に掲載予定)