マイケル・ムーアの世界 青山貞一 掲載日:2005.5.3 |
青山貞一ブログ版 ゴールデンウィークの最中、娘がマイケル・ムーアのふたつの名作のDVDを持ってやってきた。蛙の子は蛙か、娘と私の趣味はよく似ている。 持ってきたDVDは、「ボーリング・フォー・コロンバイン」と「華氏911」だ。 この2つの映画に共通しているテーマは、「自分勝手な暴力機構」としての米国社会のあり方である。その底辺には、建国以来の人種差別といわゆる一部のワスプ(WASP)による支配、それに米国的価値の世界への押しつけである。 マイケル・ムーア監督 マイケル・ムーアは1954年、米国ミシガン州フリント生まれた。カメラ片手にアポナシで突撃で取材する手法はあまりにも有名だ。 そのマイケル・ムーアを一躍有名にしたのは、コロンバイン高校で起こった銃乱射事件を素材にした 「ボーリング・フォー・コロンバイン」だ。 1999年4月20日、コロラド州のリトルトンで2人の少年が朝6時からボウリングに興じていた。その2人の少年が銃を手に彼らの通う学校、コロンバイン高校へと向かい銃を乱射した。何と12人の生徒と1人の教師が射殺され23人が負傷を負った。乱射した当人は自殺。 監督、マイケル・ムーアはこの事件を素材に「アメリカはなぜ、かくも銃犯罪が多いのか」と全米ライフル協会はじめ米国社会に問題提起をして行く。 ムーアは、このドキュメンタリー映画でカンヌ国際映画祭55周年特別賞を受賞、さらに2003年3月には、第75回アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門を受賞した。 「ボーリング・フォー・コロンバイン」でとくに興味深かったのは、銃所持とその使用に関する米国とカナダの著しい違いだ。私自身、カナダに多くの知り合いがおり、常々両国の違いを気にかけていたが、映画ではムーアが徹底的に隣接するカナダ国民の安全概念、認識を現地取材でえぐっていた。 一方、「華氏9.11」は昨年、日本でも映画が封切られ、多くの方がご覧になっているはずだ。 ムーアは、9.11以降、ブッシュ政権を標的にブッシュ一族とビン・ラディンを含むサウジ有力一族との利権的関係、世界第二位の埋蔵量を有するイラクの石油をねらう何ら正当性のない侵略戦争、ハリーバートンはじめブッシュ政権にいる閣僚が軍需、エネルギー産業と癒着している様子、大量破壊兵器が発見されないなかで一方的な米国の林略戦争として行われたイラク戦争の顛末を、得意のアポナシ、突撃取材を随所に盛り込み、皮肉たっぷりにドキュメンタリー映画化したのが、「華氏911」だ。 私自身、2001年以降、ほぼ同じ問題意識で論考、論説を多数書いてきたこともあり、映像ドキュメントで見る「華氏911」には大いに感激した。 関連する青山貞一著作集 米国のテロ報復戦争の愚 正当性なき米国のイラク攻撃 エネルギー権益からみたアフガン戦争 ムーアは、この「華氏911」を2004年、ブッシュvs.ケリーの大統領選挙に標準を会わせ、多くの罪のないイラク国民、市民それに米国の底辺を支える黒人やマイノリティー、貧困層が理不尽にイラクに兵隊として送り込まれ、無惨な死を遂げるありさまを、イラクと米国の家族へのインタビューを通じ執拗にえぐっている。このインタビューはムーア独特のものである。 それにしても驚かされるのは、このような手法で世界中をあっと言わせる、かくも迫力とリアリティーあるドキュメンタリー映画が出来ることだ。 現代の米国映画はハリウッド映画に象徴されるように、一作品100億円超の経費をかけ、3時限のコンピュータグラフィックスや精巧なセットをつくっての大型娯楽映画が圧倒的である。 だがムーアが描くドキュメンタリーの世界は、自分が描くシナリオにそって現実を聴取者の目線で細かく追っている点で、また自分の疑問や考えの延長で標的にした人物を徹底的に話しかける点で独自の世界を醸し出していると思う。 いうまでもなく「ボーリング・フォー・コロンバイン」では全米ライフル協会会長のチャールストン・ヘストン。「華氏911」ではブッシュ大統領がその対象となっている。 振り返って、我が国でもこの種のドキュメンタリー映画が制作できないものかと勝手に思ったりする。 だが、それ以前に、ムーアが切り開いたドキュメンタリー映画の手法は、今後、日本のテレビ各局のキャスターが少しでも取り入れたらと思う。 それによって、ステレオタイプでマンネリ化している日本のテレビ各局のニュース番組や情報番組が、少しはまともなものとなることを期待したい。 ■マイケル・ムーアの映画作品 ・華氏911(2004) ・ボウリング・フォー・コロンバイン(2002) ・ザ・ビッグ・ワン(1997) ・ジョン・キャンディの大進撃(1994) ・ロジャー&ミー(1989) ■受賞した映画賞 ・カンヌ国際映画祭(パルム・ドール)(2004) ・アカデミー賞(ドキュメンタリー長編賞)(2003) ・カンヌ国際映画祭(55周年記念特別賞)(2002) ・LA批評家協会賞(ドキュメンタリー賞)(1989) |