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時代錯誤の
「質問主意書」の提出制限


青山 貞一

掲載日:2004.8.30

 あまり新聞記事にはなっていないが、休会中の国会でいわゆる「質問主意書」をめぐり与野党で激しい議論が展開されつつある(毎日新聞参照のこと)。

 質問主意書は、国会法の規定(国会法74条、同75条)を根拠に、会期中であれば与野党を問わず、何本でも政府に対し、衆議院議長、参議院議長を通じて質問を出すことが出来、政府は統一見解を各議長に対し答弁すると言うものだ(これも巻末の説明を参照のこと)。

 与党側は、野党から出される質問主意書の数が多く、それに実務レベルで対応する各省庁(政府)が根を上げているとして、質問主意書の提出制限をしようとしている。

 もともと少数会派の会期中の質問時間が本会議、委員会ともに限られていることもあり、少数会派や議員に国会質問に準ずる政府への質問機会を提供するものとして質問主意書制度が考案されてきた。

 事実、今まで質問主意書の活用は野党系が圧倒的に多く、とくに民主党議員から多く出されてきた。なかでも、私が代表理事をしている政策学校「一新塾」出身の長妻 昭衆議院議員が出す質問主意書の数がずば抜けている。

 質問主意書は、市民団体、NPOらが政府から公式、統一見解を聞き出すために、衆参議員に依頼し出してもらうこともあり、民主主義の貴重な道具としてそれなりに機能してきたと考える。とくに、少数の会派の議員にとっては重要な議員活動のツールをなしてきたと思える。

 今回の与党サイドによる質問主意書提出制限は、衆議院議員運営委員会で自民党議員が提起しているようだが、民主党はじめ野党は質問主意書提出数の制限に猛反発しだした。

 そもそも、与党や政府が自分たちの都合で、法的根拠を持って永年継続してきた質問主意書制度を改悪しようと言うこと自体、論外である。もともと、与党、政府は官僚組織と言う圧倒的なシンクタンク機能を有しているのであるから、全省庁あわせ数100本程度の質問主意書が提出されたからといって行政の効率が落ちる等と言うこと自体おかしい。

 周知のように、先の参議院議員選挙以降、各種世論調査結果では民主党の支持率が自民党を上回っている。今のまま推移すれば、次の衆議院議員選挙で自民党は野党に転落する可能性が高い。まして自民党は公明党の協力なしに与党にいることそのものが危ぶまれている。

 そんななか、もし、質問主意書制度を現時点で改悪し、近い将来、自民党が野党となった場合、質問主意書制度を再変更することになるだろう。

 有権者、国民から見えにくいところで、政権与党が次々に、党利党略的に選挙制度や国会運営手続などを改悪することは許されない。
 
毎日新聞 2004.8.29

質問主意書:与野党の認識に開き、対立再燃へ

 「議員の権利」優先か、「行政の効率」重視か−−。国会議員が政府に提出する「質問主意書」の扱いをめぐって、こんな論争が生まれた。野党による提出件数が急増し、政府・与党が「行政を阻害している」として制限に乗り出したためだ。先の臨時国会で与野党は議院運営委員会で主意書の可否を検討することで折り合いをつけた。ただし、可否の判断基準はあいまいなまま。政府攻撃の有効な「武器」と考える野党側と、押しとどめたい与党側の認識には開きがあり、今秋の臨時国会で対立が再燃しそうだ。
【尾中香尚里、古本陽荘、田中成之】

 ◇年金、薬害エイズで威力…野党

 質問主意書の提出は、国会の会期中に限るという申し合わせになっている。今年は8月6日に閉会した臨時国会までに衆院で271本、参院で56本の計327本が出され、すでに過去最多を更新した。民主党議員による提出は衆院の85%、参院の64%を占める。

 民主党が質問主意書を多用しているのは、答弁書に閣議決定が必要になるためだ。同党の国対幹部は「質疑の際、小泉純一郎首相は『はぐらかし答弁』で逃げるが、答弁書は形に残るため、いいかげんに対応できない」とその効用を解説する。

 今年は特に年金行政の不透明さを暴くのに主意書が利用された。社会保険庁が年金保険料を職員の練習用ゴルフボールの購入費などに充てていたことや、政府が年金改革関連法の成立前に合計特殊出生率が1・29まで低下した事実を把握していたことなども、質問主意書に対する政府の答弁書で明らかにされた。

 衆院に民主党が提出した231本のうち45本は同党の長妻昭衆院議員の手によるものだ。「質問主意書を出せば、きちんと無駄遣いがいくらと出てくる。こちらも相当勉強しないと主意書は作れない」と長妻氏は言う。

 質問主意書は、もともと質問時間が少ない小政党の権利保護という役割を持っていた。95年の薬害エイズ問題で、旧さきがけの新人だった枝野幸男氏(現民主党)は、厚生省(当時)が存在を隠していた個人ファイルの存否などについて約120項目にわたる主意書を提出し、全体像を暴く端緒をつかんだ。

 枝野氏に質問主意書の制度を教えたのは、社会民主連合(社民連)時代から主意書戦術を多用していた菅直人氏(前民主党代表)だ。菅氏は翌96年に厚相に就任すると、官僚に「枝野の質問主意書の内容について調べろ」と指示し、ファイルの「発見」につなげた。

 枝野氏は今、「薬害エイズの一件で、質問主意書が議員の武器として認知された」と語る。

 ◇事前協議で乱発制限も…与党

 細田博之官房長官は8月5日の記者会見で、質問主意書について「行政上の阻害要因になっている」と発言。「国会法に定められた議員の権利の侵害だ」と野党の猛反発を買うと、翌6日の会見では約1500ページに上る答弁書の束を会見場に持ち込み、「答弁書の印刷を頼むと、1部数百円かかる可能性もある。(答弁書の作成は)行政サービスとしてやっている」と言い放った。

 答弁書の作成が官僚にとって大きな負担になっているのは事実だ。年金改革法案の審議中、社会保険庁では土日返上で職員が徹夜で答弁書作りに追われた。幹部の1人は「他の仕事が手につかない。(民主党の)長妻さんを何とかしてもらいたい」と悲鳴を上げた。

 主意書の提出を制限してほしいという政府側の要望を受け、衆院議院運営委員会は単純な資料要求とみられる質問主意書については、与野党の理事が事前に提出の可否を協議することを申し合わせた。与党理事は「主意書は7日間で答弁できる簡明なものということが前提だ。野党が乱発して(政府が)対応できないということになれば、与党は(主意書提出を)拒否できる」と主張する。

 与党は事前協議によって「乱発を制限できる」とみるが、民主党は「これまで通り出すだけ」と一歩も引かない構えだ。 国立国会図書館のまとめによると、国会議員の文書による質問数は、英国(下院)=約5万5436本(02〜03年)▽フランス(同)=約1万7255本(03〜04年)▽イタリア=3505本(03年)など。「外国の場合、提出された質問に政府がすべて答えているとは限らない」(同図書館政治議会課)という事情はあるが、少なくとも日本の国会での質問主意書の提出数が特段多いというわけではないようだ。

 ▽議会政治に詳しい成田憲彦・駿河台大副学長(比較政治学)の話 国会での質問権は本来、個々の議員にある。日本では政党や院内会派が質問を仕切っており、質問主意書は現在わずかに残された議員個々の権利だ。それを議院運営委員会の政党間協議で制限するというのは、議会政治の変質につながりかねない。そもそも、質問主意書の数が年間300本で「多過ぎる」と問題にするのは情報化時代に逆行する。答弁書を閣議決定せず、各閣僚が口頭で答弁すべきだ。

 【ことば】質問主意書 国会法74条、同75条に基づき、国会議員が政府に説明を求めるための文書。議員は所属院の議長に提出し、議長が承認したうえで、政府に送られる。単純な資料要求は先例上、認められていない。内閣は質問を受け取ってから原則7日以内に答弁しなければならない。衆参両院の委員会に属すると解釈される「国政調査権」の行使とは別の行為になる。

毎日新聞 2004年8月29日 0時51分

質問主意書問題:
細田官房長官の発言に、野党猛反発

毎日新聞 2004年8月7日 東京朝刊

 国会議員が文書で政府答弁を求める「質問主意書」の提出制限問題が波紋を広げている。民主、共産、社民の野党3党は6日、質問主意書の提出を「行政上の阻害要因」とした細田博之官房長官の発言について「民主主義の原則に反する」(藤井裕久・民主党幹事長)と猛反発。細田氏は同日の記者会見で「国会の調査権を制約するという意味ではない」と釈明したが、この問題はさらに尾を引きそうだ。

 藤井氏は6日の記者会見で、質問主意書の増加は国会会期を短く設定した政府・与党の姿勢に問題があるとの認識を強調。共産、社民両党も「質問権を封じる発言だ」(穀田恵二・共産党国対委員長)、「政府は説明不足。細田さんがそんなことを言う資格はない」(又市征治・社民党幹事長)と同調した。

 6日の衆院議院運営委員会理事会では(1)提出された質問主意書を理事が事前に審査する(2)資料要求とみられるものには修正を促す(3)会期終了日前日を提出期限にする−−ことを申し合わせた。【古本陽荘、平元英治】