エントランスへはここをクリック!    

これでよいのか、夏野菜の大量廃棄


青山 貞一

掲載日:2005.7.2

長野でレタスとハクサイ廃棄、価格維持の需給調整
 長野県で夏ハクサイ2100トンと夏秋レタス2400トンの廃棄処分が1日、始まった。出荷量を抑えて価格を維持する緊急需給調整事業に基づく措置で、国内では先月のレタス、キャベツに続く廃棄処分となる。廃棄するのは全国農業協同組合連合会(全農)長野県本部。関東地区向けで、東京都中央卸売市場の7〜10日分の入荷量に相当する量を10日までに廃棄する。
(読売新聞) - 2005年7月2日

 
なんともやりきれない措置だ。まず農水省的解釈によると、次のようになる。

 すなわち
重要野菜緊急需給調整事業は、価格の暴騰・暴落に対処するためキャベツ、タマネギ、レタス、ダイコン、ハクサイ、を対象に行われる措置。季節ごとに特定品目を選定、暴騰時には契約野菜の放出、暴落時には産地廃棄によって価格を安定させることがその目的ということだ。

重要野菜緊急受給調整事業
 対象野菜(ダイコン、ハクサイ、キャベツ、タマネギ)の作柄変動などに伴う著しい価格の変動に対処するため、「産地調整」「分荷調整」「貯蔵」「加工用販売」または「産地廃棄」の緊急需給調整を行った生産者などに、その費用交付金を交付する事業。生産者が2分の1、国が2分の1を負担し、資金を造成している。

全国農業新聞HPより

 具体的に説明するとこうなる。まず日本全国を農水省の地方事務所単位で九地域に分ける。次に各地域の代表的な市場で基準価格を設定する。さらにJA(全農)と野菜の主産生産県が価格動向を見ながら検討する。その結果を農水省に報告。最終的に事業の発動を要請する。

 かかる産地廃棄制度は需給調整の「最後の切り札」だそうだ。季節にもよるが、たとえば全国野菜需給調整機構から支払われる補填金額は、キャベツだと1キロ25円前後。ただしその全額が農家の取り分になるわけではない。半額を来年用にまわすからだ。結局、農家はその半額しか受け取ることができないことになる。

 他方、重要野菜緊急需給調整事業以外に価格が急落した場合、農家の再生産を守る事業として指定野菜価格安定制度がある。これは当初想定した予約出荷量に対し平均価格と保証基準価格の差額の90%が支払われる制度だ。

野菜価格安定制度 
 野菜は気象の影響を受けやすい作物で、その年の天候によって豊作になったり不作になったりする。また、作付面積の増減や輸入の影響もあり、価格の変動が大きくなっている。そこで、主要な野菜の価格が著しく値下がりした場合に、生産者に価格差補給金を交付することなどにより、主な野菜産地(指定産地)における生産と消費地域に対する出荷の安定を図るため、野菜価格安定制度が設けられています。この制度は、野菜産地などの内、指定等を受けた地域(指定産地)で生産される野菜の生産者が拠出した負担金とともに、国や県の資金を合わせて基金を造る。これを財源として、野菜の販売価格が一定の水準以下に価格が低下した場合に、この基金を取り崩し、その差額を補給金として交付し、生産者の皆様の生産に対する影響を緩和するものである。

徳島県HPより

 こうして採算価格割れの野菜品目について野菜の生産農家は、産地廃棄して需給調整事業を受けるか、それとも赤字覚悟で出荷を続け、指定野菜価格安定制度を選ぶか、まさに究極そして苦渋の選択を迫られる。

 冒頭の読売新聞の記事を見ると、私たち消費者は、なんともやりきれない心情になる。せっかくつくったキャベツやレタスを収穫前に、全農と農水省の話し合いにより、産地に捨てトラクターで踏み潰す、それで販売価格を維持しようということがさまざまな意味で合点が行かないからだ。

夏野菜栽培

 それでも、農水省はそれが「最良」の選択とする。

 上記の説明でひとつ重要なポイントがある。それは生産農家とJA組合との関係である。

 たとえば、農家から考えれば、どんなに値段が下がっても、より多くの野菜を出荷したい。しかしながら、個々の農家ではなく、個々の野菜の産地の全体から見れば、野菜を市場に出荷することにより、運送や市場の手数料などの費用がかかる。したがって、出荷すればするほど実際には何も野菜を生産しない流通す組織であるJA組合が赤字になる。そのJA組合が赤字となると、個々の農家への野菜出荷への対価が支払えなくなる。

 かかる「理屈」から、市場相場がある一線まで価格まで下がった場合には、収穫するよりも収穫しない方が得ということになるわけだ。


 だが、上記の理屈は、あくまでもJAと言う実際には野菜を作らない流通組織の論理である。日本全体で考えると農家の圧倒的多くはそのJAと言う組合に入っているから、その組織の指示に従わざるを得ない。そこでは、個々の生産者にとっての採算より、流通業者であるJAの採算性が優先されることになる。

 すなわち、個々の農家がそれぞれが出荷すれば本来、それなりに売上は立つち補助金ももらえる。だが生産地全体で各農家が出荷すると、上述の理由でJAと言う組合の経営が成り立たなくなり、個々の農家への支払いがなくなるというわけだ。その結果、個々の農家としては出荷したくても、出荷すればJAの経営が成り立たなくなる。しかたなく廃棄を受け入れるしかないと言う悪循環に陥ることになる。

 ではどうすればよいか。確かに問題解決はそう容易ではない。

 考えられるひとつはの方法は、いうまでもなく個々の農家がJA依存から脱却し、個々の販路を開発することである。本当にすばらしい野菜をつくっているなら、生産者と消費者が直結する販路を開発することが重要だ。いきなりそれが無理な場合でも、官僚組織化しているJAとは別に、環境生協などと連携し自律的な産地直結の新たな販路を開発することだ。その他、モノカルチャー的な営農からより多様な営農を模索することもある。

 昨今の気象状況から推察されるように、今後ますます気候変動が著しくなり、農業への甚大な影響が予測される。そのような21世紀にあってもっとも大切なことは、農家自らがさまざまなリスクを回避するための情報ネットワークを構築することである。

 環境生協との連携もそのひとつだろうし、株式会社形式の営農支援組織もそのひとつだろう。それらとの情報交流が重要だ。本来その種のことはJAが担うべきことである。だが、その役割、機能をほとんど果たしていないところに最大の問題がある。寄らば大樹の日陰は暗いのである。

 いずれにしても大切なことは、どこでも誰でもやっている営農から脱却することだ。

 オンリーワン的な地域ブランドを個々の営農者がネットワーク化することで確立することだ。それは機能不全を起こし、農水省の下部組織に成り下がっているJAから別の流通ネットワークを構築することだと思う。

 今こそ戦略と戦術をわきまえた営農と流通の構築が緊要だ!