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公共工事の諸問題
予定価格の原点から考える

その8 英国の多様な工事入札方式

阿部 賢一

2006年9月27日


1. 英国の公共契約規則

EUには、公共関係のEU調達指令[EC Procurement Directives]がある。

ひとつは、「工事・物品・役務調達指令」(全文127)*、従来、物品[Supplies], 工事[Works]、役務[Services]の三つに分かれていたが、20043月、一つにまとめられた。

* Directive 2004/18/EC of the European Parliament and of the Council

of 31 March 2004 on the coordination of procedures for the award

of public works contracts, public supply contracts and public service contracts

(工事・物品・業務関係調達指令である)

もうひとつは、公益事業契約指令[Utilities Contracts Directive]( 全文113)*である。

*Directive 2004/17/EC of the European Parliament and of the Council

 Of 31 March 2004 coordinating the procurement procedures of entities

operating in the water, energy, transport and postal services sectors

(公益事業関係の調達指令である)

EU加盟各国は、これらの指令に基づき国内法を整備し運用しており、WTOにも対応している。

 英国の公共調達は、EU公共調達指令を国内法制化した「公共契約規則2006(Public Contracts Regulations2006)(2006131日施行)にもとづいておこなわれている。

これはEU公共調達改正指令(2004/18/EC)に基づく新規則であり、従来の公共工事契約規則、公共物品契約規則、公共役務契約規則の3規則を一本化したものである。

公共の物品・工事・業務(我が国のいわゆる公共工事)の入札手続きとしては、以下の四つに大別される。

1) 公開競争手続[Open procedure]

わが国の一般競争入札と同様であり、誰でも参加できる

2) 制限競争手続[Restricted procedure] 

わが国の公募型指名競争入札と類似した制度である。すべての事業者が応募することができるが、経営・財務状況や技術能力についての発注者の提示する基準を満たした業者の中から発注者が選定した者のみが入札に参加できる。

発注者は最低5者を参加させる義務がある。

3) 交渉手続[Negotiated procedure]

 規則で列挙している例外的な場合(価格の事前評価が困難な場合、入札不調の場合、技術的・芸術的要件により業者が特定される場合、既存契約への追加の場合など)に限って採用することができる。

 最低3者を参加させる義務がある。

4) 競争的交渉手続[Competitive dialogue procedure]

 公開競争手続及び制限競争手続を採用することが困難な特別に複雑な契約[particularly complex contract]に採用する。

発注者が技術的、法律的、財務的要件を明確に規定することができない場合には、入札から落札者決定までの間に複数の応札者と並行して交渉を行い、最も優れた提案を採用できる。

発注者は最低3者を参加させる義務がある。

 

英国政府はコンサルタント業務や施工契約の場合、EU指令にもとづき、できる限り、制限競争手続又は競争的交渉手続きを推奨している。その理由として、公開手続とすると、入札者が膨大な数となり、発注者側の事務負担が過大になること、入札者を制限する方が、入札参加者の真剣な入札姿勢が期待されるからである。

わが国で最近も問題になっているような発注者と公益法人等との間の安易な随意契約などがなされる余地はない。

英国でも従来から設計施工分離方式による発注がおこなわれてきたが、サッチャー・メージャー保守党政権、それに続くブレア労働政権の中で公共調達は改革が進められている。それは、バリューフォーマネー(Value for Money:VFM)*1の最大化、ベストバリュー(Best Value)*2という行政全体にわたる基本的なコンセプトのもとでPPP(Public Private Partnerships)*3による契約として、PFI(Private Finance Initiative)*4方式、プライムコントラクティング(Prime Contracting)*5、設計施工一括発注方式(Design and Build Contracts)3方式が推奨されている。プライムコントラクティングについては、後述する。

注記

*1 Value for Money(VFM)

対象事業の施設整備費および維持管理・運営費に関し、「公共が実施する場合の公的財政負担」と、「PFI事業として実施する場合の公的財政負担」とを比較することにより、PFI方式の事業性を確認するものです。-----国交省

 

「最小のコストで行政需要を充足すること」と解釈されている。また、「住民をサービスの顧客と考え、顧客満足を最小のコストで満たすこと」とも言い換えられる。住民の観点に立てば、「このサービスにいくらまでなら税金を払ってよいか」ということになろう。いわば、「税金の払いがい」である。

VFMの達成のために必要な視点は3Eである。

Economy(経済性)・・資源の調達をいかに無駄なく行うことができたか、

Efficiency(効率性)・・投入された資源(インプット)によりどの程度成果(アウトプット)を得ることができたか

Effectiveness(効果)・・一定の政策により、どの程度の効果(アウトカム)を上げることができたか

     -------連載・英国の地方行財政改革に学ぶ(4)

経営の原点はバリュー・フォー・マネー

http://www.pm-forum.org/kiso/inazawa-england4.html

*2 ベストバリューとは「考えられる最も効果的、経済的、効率的手段により、コストの低減化と品質の向上を達成する」こと。つまり費用対効果における最高のサービスを提供することである。------出典:http://www.usrc.co.jp/uk/bestv.htm

 

ベスト・バリュー達成のコンセプトは「4つのC」。

挑戦(challenge)、比較(compare)、協議(consult)、競争(competition)。

目標設定実施業績の見直し監査事業計画の作成目標設定と繰り返される行政事務の各ステージでこの4つのCをいつも念頭に置くことである。

-----Modern Local Government In Touch with the PeoplePart3, Chapter7英国政府自治体白書(1998730)

 

*3 PPPとは、行政が提供している公共サービスを民間に開放することで、コストの低減や質の向上、サービス提供形態の革新を実現しようとする取り組みのことを言う。
一般的な方法としては、アウトソーシング*PFIによる業務の民間委託、組織の独立行政法人化などが挙げられる。
また、PPPの担い手として企業に加えNPONon-Profit Organizationへの期待も高まっている。

アウトソーシング(業務委託)

既存の業務形態を見直し、定型的な業務(主に情報システム)を外部の専門家に委託して効率化を図る業務形態を指す。外部の専門家に管理・運用を任せるので、人件費や時間などのコストを節減できる、といったメリットがある。

出典:

http://cgs-online.hitachi.co.jp/glossary/kana/na_009.html

 

*4  PFIは、直訳すれば、民間資金主導型の手法であり、従来公共部門が提供していた公共サービスを民間主導で実施することにより、設計(design)、建設(build)、維持管理・運営(operate)に民間の資金とノウハウを活用し、効率的かつ効果的な公共サービスの提供を図るという考え方である。

またPFIは民間の技術・経営ノウハウを活用し、市場原理により事業の効率化やVE(バリュー・エンジニアリング)手法の採用等によるコストダウンを実現させ、利用者に最良のサービスを提供することを目的としている。
こうしたことから、公共部門は、施設の所有、運営の主体からサービスの購入主体へと、一方民間部門はサービスの提供者へと従来とは異なる新しい官民パートナーシップの関係を構築していくこととなる。

------出典:http://www.pfinet.jp/

 

*5 プライムコントラクティングとは、単一の元請契約者が設計、施工、維持管理を包含するプロジェクトのマネジメントおよび納入に全責任を負う契約方式。

PFIとの違いは、PFIがサービスを購入しサービスの購入に対して対価を支払うのに対し、プライムコントラクティングでは、施設を購入し、施設に対する対価を支払うという点である。

しかし、プライムコントラクティングでも、維持管理を含めて契約を行うと、PFIとの違いはあまりないことになる。この場合の最終的な違いは、PFIの場合は施設取得に民間資金が活用されるのに対して、プライムコントラクティングでは、施設の取得を公的資金によって行う点である。したがって、プライムコントラクティングの実施例は、施設の所有を要請される防衛施設庁*の事業が多い。

  *UK Ministry of Defence Defence Estates

------出典:日・米・欧における公共工事の入札・契約方式の比較

    会計検査研究 20059月号


2.商務庁Office of Government Commerce (OGC)について

英国政府において公共調達関係の総合的な政策・戦略の枠組みを担っているのは商務庁Office of Government Commerce (OGC)である。200041日、財務省調達グループTreasury Procurement Group PFI特別対策本部PFI Task Force、政府調達局Buying Agency (TBA), 不動産管理局Property Advisers to the Civil Estate(PACE)、中央電子計算機局Central Computer and Telecommunications Agency (CCTA)を統合して設けられた財務省の独立組織[independent office of the Treasury]である。

それまでの、各政府組織が作成してきた公共調達関係規則・手引き等を引き継ぎ、公共調達規則等の改訂、新規作成などをおこなって、政府関係部署の公共調達改革推進を支援している。

公共工事調達関係については、上述の不動産管理局作成の「コンサルタント業者および請負業者指名手引書」*12(19982月発行)および「政府財産管理手引書」*2第4版(20003月発行)に詳細がまとめられている。

*1 Guide to the Appointment of Consultants & Contractors(全文566p)

 http://www.ogc.gov.uk//documents/PACE_-_GACC.pdf

*2 Estates & Property Management Guidance Index(Civil Estate)(全文202p)

 http://www.ogc.gov.uk/documents/PACE_-
_Estates_and_Property_Management_Guidance_Index.pdf


つづく