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公共工事の諸問題
予定価格の原点から考える

その6 デザインビルド方式ー
米国ワシントン州の事例

ワシントン州のデザインビルド(DB)パイロットプロジェクト
(Washington State Design-Build Pilot Project)

阿部 賢一

2006年8月21日


1.デザインビルド議案成立

199825日、ワシントン州議会では、道路プロジェクトにDB方式を導入するという議案提出され可決成立した。

その要旨は、次の通りである。

(1)199911日までに道路プロジェクトのDB発注方式手続を作成する。

(2)パイロットプロジェクトとして2つのプロジェクトを選定し実施する。

工事金額は11,000万ドル以上の規模とする。

(3)パイロットプロジェクトとしての要件は、

a. 工事内容が専門的に高度なもの、

b. DB手法が発揮できるもの、

c. 革新性を発揮し、設計者と施工者の効率性を高めるもの、

d. 工期を著しく短縮することが図れるもの。

(4)パイロットプロジェクトの進捗状況を公共工事パイロットプロジェクト監視委員会に報告し、

2件のプロジェクト完了後、州議会に最終報告書を提出する。

(5)この法律の期限は2001430日とする。

2.デザインビルド方式の手続開始

法律制定とともにワシントン州道路局(WSDOT)はすみやかに行動を開始した。

(1) 建設業者と設計業者へのDB手続原案の説明・討論

 WSDOTは、この州法制定を受けて、WSDOT本部内に、本部内各部や地域事務所、外部の法律部門、連邦政府高速道路管理庁(FHWA)、全米建設業者協会(AGC)など、連邦政府その他の機関や民間団体から選抜された技術チームを設け、DBプロジェクトマネジャーを任命し活動を開始した。

 すでにDB方式を導入している他州の情報を収集し、DBプロジェクトの現地を調査するなどして、DB調達手続の作成を進めた。

 その一方で、州内関係者へWSDOTが考えているDB方式について説明し、討論するための会議を開催した。

 まず、1998724日、建設業者との会議が持たれた。

ついで、729日には、同様の手順で、設計業者やコンサルティングエンジニア業者との会議が持たれた。

 二回の会議では、WSDOT側がまず、二十分間のプレゼンテーションをおこなった。DB方式を考えた理由などの検討内容、DB方式開発プログラムの概要、DB方式試行のために選定されたプロジェクトの取り扱いに関する手続についての検討内容、DBプログラムが開発され、実施された場合に生ずる問題点の説明などである。

WSDOT側のプレゼンテーションに続いて、建設業者側、コンサルタント業者側から、通常のWSDOTが発注するプロジェクトと比較した、DB方式の契約を行うことについての考え方、質問、懸念などを表明する機会が与えられた。

 討論では、予想される問題やDB方式についての質問や懸念などについて、WSDOT側から追加説明があり、コスト、資格審査・技術力などにもとづいてデザイン・ビルダーを選定するための方法などの具体例などが示された。

 この二回の会議で表明された参加者かの質疑応答やコメントは、それぞれの立場からの代表的なものであるが、出席者は概ねWSDOT案に賛成の意向を示して、どんなパイロットプロジェクトを具体化するのかという、積極的な姿勢が示された。

 WSDOTは、この二回の会議での関係者との議論をまとめて、DB方式手続の手直しをおこない、第三回目の会議を企画した。

(2) 関係者からの意見聴取

19981112日、DB手続開発に関心のある各方面の関係者との第三回目の会議をWSDOTが主催し、シアトル市の連邦政府建物一階会議室で開かれた。設計・エンジニアリング会社、建設業者、保険会社、保証会社、その他関係者が65名出席した。この会議の目的は、DB契約のために開発された手続案を討議することであった。出席者のほとんどはすでにWSDOTの報告書を読んでいた。

WSDOTDBプログラムマネジャーがプレゼンテーションをおこない、手続案を説明し、DB契約書の重要条項が提示された。プレゼンテーション後、討議に入り、WSDOTの手続案と契約書類案についての質疑応答があり、コメントなどが提示された。

 コメントは技術チームと開発チームの最終報告書『WSDOT道路プロジェクトに対するデザイン・ビルド方式』の検討および修正作業の際に参考にされることになった。同報告書は完成次第関係者全員に郵送されることになった。WSDOTは、DB手続についての最終報告書を数週間以内にまとめて、出席者全員に郵送することを表明して、一連の関係者との会議を終了し、DB手続の最終とりまとめに入った。

 三回の会議における質疑応答や出席者からのコメントなどの概要については、各会議後、道路局DBパイロットプロジェクトのHPに公開された。

(3) デザイン・ビルド調達手続の決定

 WSDOTは、三回に及ぶ関係者との会議で出されたコメントなどを織り込んで、それから3ヶ月を経た1999224日、DBパイロットについての方針と手続を詳述した『道路プロジェクトのデザイン・ビルド手続(Design-Build Process for Highway Projects) 』を発表し、HPに全文を掲載した。

 この書類は全文118頁で、DB開発チーム、DB技術チームによって作成された。その前文には、WSDOT関係部局のスタッフを中心として、民間コンサルタント会社CH2M-HILLのスタッフの支援を受けたこと、全米総合建設業者協会(AGC)、ワシントン州プロフェッショナル・エンジニア・ユニオンその他さまざまな会社や団体もこの作業に参加したことが記述されている。ワシントン州の官民総力を挙げて、DB方式の手続がまとめられたことを強調している。

 その内容は、DBプロジェクトの選定基準から始まり、選定手続、工事範囲、標準仕様書修正事項、入札資格審査招請書類Request of Qualifications(RFQ)と入札招請書類Request for Proposals(RFP)の作成要領、最終プロポーザル要求事項、プロポーザル評価チームの責任、品質管理/品質保証計画書Quality Assurance/Quality Control Plan(QA/QC計画書)、デザイン・ビルドプロジェクトの管理と書類までに至る詳細なガイドラインが記述されている。

3.パイロットプロジェクトの決定

 WSDOT1999年春、デザイン・ビルド・パイロット・プロジェクト2件を選定した。いずれのプロジェクトも、既設道路が建設されたのが1960年代でシステムとしても老朽化しており、拡幅化、立体化、安全対策、耐震対策などの必要性がある工事が選定された。

それぞれのプロジェクト工程、発注者側地域プロジェクトチーム、DBチームを選定するための資格審査要請書(RFQ)や入札招請書類(RFP)が作成されることとなった。

 プロジェクト第1号は、州の最北端、カナダのブリティッシュコロンビア州との国境の近くのべリンガム(Bellingham)、プロジェクト第2号は、州の最南端、オレゴン州と州境を接するバンクーバーである。バンクーバーといえば北部境界で国境を接するカナダのブリティシュコロンビア州に大都市バンクーバーがあるので紛らわしいが、このバンクーバーは南部で州境を接するオレゴン州ポートランドのすぐ隣である。

いずれのプロジェクトもワシントン州の州境に接した地域の工事である。

プロジェクト第1号は州際道路5号線(I-5)ベリンガム市の北側車線、MP252.26からMP256.67までの本線の舗装改修工事、インターチェンジ新設のための車線拡幅、ランプ出入口の路肩の拡幅、橋梁拡幅、歩道橋の架け替え、擁壁増設、右折二車線と左折一車線の増設、既設橋梁に橋脚一本を後付けする耐震対策などである。

 工事費は約1,0001,500ドル。新たな用地取得の必要性はなく、環境への影響はたとえあったとしてもごくわずかである。1999年秋にはこのプロジェクトのデザインビルダー(請負者)を選定したいというのがWSDOTの当初のスケジュールであった。

プロジェクト第2号は州道500号線(SR500)とサートンウエイの立体交差インターチェンジ工事である。この地点の現状は平面交差である。工事費用見積は1,5002,000ドルである。

 設計については、システム・プラン向け基本設計が済んでいるがそれ以上には進んでいない。プロジェクトはSR500/アンダーセン道路インターチェンジとSR500/I-205インターチェンジの間である。設計の重要部分は、現在供用中の道路部分であり、交通量が多い幹線道路であるため、革新的な手法を駆使する必要がある。前面の道路と補助車線を、この工事を行うことにより近接の既存インターチェンジに接続するために極めて特異な対応を強いられる工事である。本線上の交通量に加えて、南側のバンクーバーモール、そしてもうひとつのショッピングプラザへの入口となるので、交通整理が大変である。既存の幹線では、すでに車両の出入は限界に達している。プロジェクトは現在の予測では環境に対して重大な影響はない。

 プロジェクト選定時点の暫定的な日程では1999年秋にデザイン・ビルダーを選定することになっていた。

 二つのプロジェクトの概略日程は19994月現在で下表の通りであった。

ワシントン州交通局デザイン・ビルド パイロット・プロジェクト日程

  項  目

プロジェクトNo.1

プロジェクトNo.2

SEP-14*申請

199935

199935

SEP-14*承認

199945

199945

パブリックコメント

19995

1999/4/211999/5/21

RFQ/RFP案発行

19995月末

1999615

RFQ締切期限

1999616

199976

ショートリスト作成日

1999623

1999713

最終RFP発行日

1999623

1999716

プロポーザル提出締切日

1999818

1999924

DB業者最終決定日

199991

19991011

工事着工

199910

199911

*連邦政府道路管理庁(FHWA)Special Experimental Project-14

 特別実験プロジェクト第14(Special Experimental project-14:SEP-14)は、従来方式である設計・入札・施工方式とは異なる革新的な契約方式を米国連邦政府道路局(FHWA)が推進する方針を示したものであり、それにもとづく連邦補助金の申請をWSDOT19993月におこない、1ヶ月後の4月に承認されている。

通常、工事費の90%が連邦政府から補助金として交付される制度を活用したプロジェクトである。

 ワシントン州道路局の連邦政府道路局への申請から承認まで1ヶ月という短さである。

 パイロットプロジェクトの情報はWSDOTHPに掲載された。プロジェクト第1号については、現場写真9枚も掲載された。

 プロジェクト第2号のHPでは、計画検討書、1999813日提出締切りのRFQ(23)RFPドラフト(261)などが、PDFファイルで掲載された。

 このような状況であったので、筆者は、その年の11月初旬に現地に出かければ、二つのパイロットプロジェクトとも、デザイン・ビルダーが決定し、着工準備にかかっているだろうと予測して、その選定経緯などを担当プロジェクトマネジャーに聞くとともに、デザイン・ビルダーにもコンタクトしようと現地訪問の予定を立てた。

 筆者は、1999111日、プロジェクト第2号の現場事務所を訪問、プロジェクトエンジニアと面談、翌日112日、シアトルでプロジェクト第1号事務所のプロジェクトエンジニアに面談して、DBパイロットプロジェクトについての現状と方向についての質疑応答を行うことができた。

 すでにHPで各種報告書や入札関係書類が公表されていたので、それらにもとづいてかなり突っ込んだ質疑応答ができた。とりわけ、第1号プロジェクトのプロジェクトエンジニア以下のスタッフは、午前中会議を行っており、午後も会議が継続するというので、昼休みの貴重な時間を割いて日本からわざわざ訪ねてきた筆者と昼食抜きで応対してくれたのには驚くとともに、その対応に深く感謝をした次第である。筆者との面談の後、午後1時から彼らは昼食もとらずに会議を再開した。

 本件についてのシアトル訪問現地報告は『ワシントン州のデザイン・ビルド方式』と題して、月刊誌「建設オピニオン」(建設公論社)(20004月号)に発表した。

 帰国後、第2号プロジェクトのエンジニアから、ワシントン州全体予算の見直し作業の結果、二つのパイロットプロジェクトは保留になったとの連絡があった。

 その後、デザインビルドパイロットプロジェクト第1号は紆余曲折を経て、20055月、契約締結、2010年完成予定。第2号プロジェクトは、20012月、契約締結、200210月完成している。

 その評価報告書は下記のサイトからダウンロードできる。

Washington State Department of Transportation

Design-Build Pilot Project Evaluation,

A Measurement of Performance for the Process, Cost, Time and Quality

SR500 Thurston Way Interchange, January 2003

http://www.wsdot.wa.gov/Projects/delivery/designbuild/

 いずれのプロジェクトについても、計画段階からの各種書類は、ユタ州道路局のI-15改修プロジェクト同様、HPに掲載、公開されている。

つづく