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公共工事の諸問題
予定価格の原点から考える
その5
 デザインビルド方式のプロジェクト

(1)ユタ州の事例
ユタ州ソルトレイク市州際道路
15号線改修プロジェクト
(I-15 Reconstruction Project)

阿部 賢一

2006年8月2日


デザインビルド方式のプロジェクト

最近、わが国の公共工事入札に、多様な入札契約方式が試行・実施されるようになった。

デザインビルド方式[Design/Build Method]も今後積極的に展開されるべき選択肢の一つである。

この方式は、前回(その4 予定価格の在り方)で論じたわが国の「予定価格にもとづく入札-----予定価格は、標準的な施工能力を有する建設業者が、それぞれの現場の条件に照らしても、最も妥当性があると考えられる標準的な工法で施工する場合に必要となる経費を基準として積算されるもの」とは違った手法で、入札者(設計業者、施工業者)に技術とマネジメントの革新性を強く求めて、プロジェクトの「工期短縮」「コスト縮減」「工事品質の向上」「工事現場の安全確保」を目指すものである。「予定価格」の原則である「標準」との訣別である。そして、設計・施工分離発注の原則から設計・施工一括発注の原則への大転換である。

数年前、筆者が米国のデザインビルド方式入札を調べているとき、米国における公共工事の発注者と入札者が、プロジェクトの工期、コスト、安全対策等の問題について、プロジェクトの計画段階から議論を始め、協議を重ねて、最善の解決策を求めてまとめていく実態を知ることができた。

その具体的な二つの事例----ユタ州[I-15 Reconstruction Project](本稿)とワシントン州デザインビルド・パイロットプロジェクト[Washington State Design-Build Pilot Project](次稿)を紹介する。

事例報告:ユタ州道路局(UtahDOT) I-15 Reconstruction Project

1.冬期オリンピック開催地に決定

ユタ州ソルトレイク市中心街を通る州際道路15号線[Interstate Highway No.15:I-15]は、1960年代初めに完成した。

1980年代、I-15号線の混雑がひどくなり、さらに毎年冬期に繰り返された凍結防止用塩散布による構造物の損傷や地盤沈下等により大改修の必要性が高くなった。

1990年、ユタ州道路局はI-15の拡張計画に取り掛かった。

1995年12月、計画プロセスが進められ、Persons Brinckerhoff Quade & Douglas Inc.,(NY) がGeneral Engineering Consultantに任命され、工区を九分化してそれぞれの工区について設計会社に設計作業が発注された。工事の完成予定は2004年と計画された。

工事概要:道路延長16.3マイル(約26km)の改修、盛土量500万m3以上、橋梁130ヶ所、電気、ガス、水道等の公益事業関係配管・配線の横断1000ヶ所。

その6ヶ月前の1995年6月、ブダペストで開催されたIOC総会で、2002年冬季オリンピックのソルトレイク市での開催が決まった。このためプロジェクトの前倒しの必要性に迫られた。

ユタ州知事はオリンピック期間中に道路建設工事で資材や建設ゴミを散乱させないようにUtahDOTに指示を出した。


2.デザインビルド方式に決定

ソルトレイク市での2002年2月冬季オリンピック開催が決定したため、UtahDOTは工事の中断も検討した。着任早々のユタ州道路局[UtahDOT]のウォーン局長[Thomas R. Warne, P.E.]が、2001年には工事を完成させることを強く主張した。そのため、UtahDOTが2ヶ月にわたり他州のデザインビルド方式の事例研究などを行い検討を重ねた。

1996年1月、ユタ州政府は、デザインビルド方式でI-15改修工事を進めることを決定した。

ウォーン局長は、前任地のアリゾナ州道路局においてパートナリング*を取り入れたデザインビルド方式で工事を成功させた実績を有していた。工期と工事費を節減し、1992年以降はアリゾナ州では工事についての訴訟もなくなった。その時の上司がオレゴン州の陸軍工兵隊エンジニア、後にアリゾナ州道路局長になったチャック・コーワン[Chuck Cowan, P.E.]であり、パートナリングの実践者であった。

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* Partnering 発端は米国自動車業界で脅威となった日本の自動車工業に対抗して効率的な車の生産をするために生産会社と部品会社の協力的関係を長期にわたって築いていこうとする手法。

英国の入札改革提言であるレイサム報告書(1994年7月)、イーガン報告書(1998年7月)で英国建設業界にその考え方を提唱した。

パートナリングは、プロジェクトの目的達成のための共同作業[team work]の管理手法であり、この手法によりプロジェクトにおける管理・技術問題の解決をお互いに行い、予算内、工期内にプロジェクトを完成させ、利益を配分しあうこと。

例えば、施工中、クレームの発生時に、発注者および請負者の現場駐在責任者などがそのクレームについて現場レベルで話し合い、お互いが納得する適正な解決方法を見つけ出し、処理を迅速に行い工事の停滞を防ぐことを目指す。できるだけ現場レベルの話し合いで問題の解決を計る企みである。これにより現場作業を一時的に中断したりせず、クレーム処理の膨大な書類作成も省略化させる。施工上の問題やクレーム処理の長期化を避け、工事を進捗させ、プロジェクトの成功を目指す。結果として、プロジェクト関係者間の信頼関係が深まる。
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UtahDOTプロジェクトチームにとってもっとも重要なことは、設計者や施工者が新機軸を打ち出せるような性能仕様書[Performance Specification]の書き方についてのルールブックなどどこにもなかったことである。そこでチームは今まで使用してきた州政府の仕様書、品質保証[Quality Assurance/Quality Control:QA/QC]、標準図面などを再吟味した。

デザインビルドが最適だなどという一般的議論はさて置き、設計者と請負者をひとつのチームにまとめた。

一方、ウォーン局長はカルチャーショックによってコンセプトが崩れないような措置を取った。
彼はI-15改修プロジェクトの遂行が最優先であることを明確にした。プロジェクトマネジャーをひとり任命し、ウォーン局長への唯一の報告経路とした。彼は主立った請負業者との打ち合わせを行い、デザインビルド方式に確信を持った。さらに工事の早期完成の便益についての調査を行い、デザインビルド方式の発注ができるように調達法規の修正に取り組んだ。

ユタ州の調達法規が修正されデザインビルド方式の調達環境が整った。

1996年1月、ユタ州政府はI-15改修工事をデザインビルド方式で行うことを決定した。
問題は「どの調達方式でやるか」ということから「デザインビルドをどのようにやるか」に転換した。すなわち「今まで行ってきた設計契約をデザインビルド契約にどう組み込むか」、「設計料はいくらかかるか」、「性能仕様書をどう作成し、どう評価するか」、「入札者が逃げ出さないで積極的に応札させるためにはリスク配分はどうするか」などである。

山積する諸問題を処理するために、UtahDOTはカリフォルニア州San Joaquin有料道路の契約書を作成したロスアンゼルスの弁護士を雇った。

1996年2月、UtahDOTはデザインビルド方式による工事発注するためのプロジェクト招請書類[Request for Proposal:RFP]作成のためにコンサルタント会社とコンサルタント契約を締結。

1996年3月と4月、新聞、定期刊行物、雑誌、Commerce Business Daily (CBD----入札公報)で入札招請(Request for Letters of Interest: LOI)をおこなった。UtahDOTには、およそ100通の書簡が寄せられた。

1996年5月1日、プロジェクト概要を説明する資料がLOIを寄せた者全員に送付された。

5月15日、彼らを対象とした説明会が開かれ、150名以上が出席して質疑応答が行われた。大手団体や地元業者との個別の会議ももたれた。

5月30日、資格審査申請書(Statement of Qualifications: SOQ)を提出するための改訂版RFQがLOIを提出した者全員に郵送された。その結果、1996年7月2日までに三つのグループからの応答があった。

SOQは、(1)法務および財務、(2)組織および経験、(3)プロジェクト手法、(4)実績などの規準にもとづいて評価がなされた。SOQとその評価はRFP評価プロセスにつながるものである。資格審査に合格したグループは、その評価内容についての概略説明をUtahDOTから受け、提出資料の追加提出や提出したSOQの評価を上げる機会が与えられた。

1996年8月1日、UtahDOTはこの3グループに対して入札招請書類案[draft Request for Proposal(RFP)]を配布、RFPに対するコメント、質疑事項、提案等の提出を求めた。そして、3グループ個別の面談が行なわれ、それらにもとづいてRFP改訂版がまとめられ、1996年10月1日、正式のRFP(最終版)が配布された。

これにもとづく業者のプロジェクトポーザル提出期限は1997年1月15日であった。

RFPに対するコメント、技術提案、大気汚染法にもとづく現場運営計画その他の書類提出のための追加期限も設定された。

RFPには、UtahDOTが最終提案書類[Best and Final Offer:BAFO]の提出を求める選択肢が規定されており、

1997年3月7日、BAFOが提出された。同年3月26日、落札・契約者名が公表された。落札は最高価値決定方式[best value determination]をベースにして行なわれ、基本価格と施工選択条件付で、契約額13億25百万ドルで発注された。

UtahDOTは業者選択にあたり、工程、品質、コストについての評価基準を定め、技術的評価基準と提案されたコストを組み合わせて「最高価値[best value]」を総合評価して落札者を決定した。このために、8名からなる技術評価チームとその下部組織61名、入札価格の正確性、他の入札者の入札価格との比較、正当性や積算根拠など、詳細にわたりチェックする4人からなる価格評価チームが別々に設けられ、それぞれ独自に入札を評価する仕組みを作った。価格評価チームには、さらに民間から第三者が加わった*。

* 工事を入札しないことを条件として、UtahDOTは施工業者と契約し見積業務、コスト評価業務に加えた。

技術及び価格の二つの評価チームの評価結果にもとづき、UtahDOTはこの評価をもとに落札者を決定するか、協議の上、さらにBAFOを提出させるかの選択ができる方式を取った。このBAFO段階では、評価チームは、入札者に口頭もしくは文書で問い合わせる事項が定められた。それらの幾つかの限られた事項とは、重大な弱点及び欠陥を指摘してプロジェクトポーザルの修正を求める項目、提案内容の明確化を求める項目、疑問点や間違いの訂正、入札者に価格提案や技術提案の内容について、「価格があまりにも高い」、あるいは「価格があまりにも低い」、「価格が現実的でない」、などと助言して、入札者に妥当な訂正の機会を与えるというものである。公平さを確保するために、ひとつの入札グループと打ち合わせを行った場合、他のグループとも打ち合わせを行なう。書面で各入札者に質問がなされる場合、価格に対する指示(指値)をおこなったり、他のグループがどんなプロポーザルを出したかなどについて言及はしなかった。

このプロセスで、評価チームは、1)すべてのプロポーザルの技術水準を本質的に同じにすること、2)他のチームのアイデアを漏らすこと、3)入札者に価格の引き下げを求めようとすること、などの結果になるような行動は厳禁された。

BAFO評価段階に進んだ場合、最初の入札評価体制同様な枠組みで行なわれるが、最初に提出した入札書の修正作業に限定されるので評価期間は短縮される。

デザインビルド方式による発注であるので、RFPでは、幾つかの性能仕様書(舗装、構造など)が作成された。そのために特命グループが組織され、UtahDOT職員はもちろん、連邦政府道路局(FHWA)職員、建設業界から100名以上が参加、その作成には9ヶ月以上もかかったのである。

3.見積給付金[stipend]

このようなプロジェクトの入札書類作成作業のために、入札者は相当の人員投入が必要となり、費用も掛かる。そのため落札できなかった入札者には、UtahDOTは、それぞれ95万ドルの給付金[stipend](ご苦労賃)を支払うこととした。これについては、UtahDOTは、プロジェクトに対する補助金を出すFHWAの承認も得た。
入札見積費用を支払ったのである。この場合、その入札が落札に至らなかったとはいえ、技術的内容のレベルが高く革新的なアイデアが含まれていて、入札書類の質が高いことが条件である。
しかし、入札書類作成作業にかかる費用は各社300万〜500万ドルと予想され、その三分の一程度を補填するに過ぎない金額ではあるが、発注者UtahDOTとしての誠意、入札者側のとっての入札意欲を支援するものであった。
入札見積作業のために、発注者から入札者に提供された現場条件や地盤条件などの調査報告・資料等は、入札者の予想以上のレベルのものであり、潜在的なリスクの軽減化に役立ったことが、UtahDOTと入札者の打ち合わせの結果明らかになった。さらに発注者側の工事遂行上のリスクマネジメント分野への貢献が大きく、工事に伴って生ずる他の公益事業関係者との連携作業やリスク分担が明確化されたことによる効果が契約発注後ただちにあらわれ、請負者の施工力を十分に発揮する場が形成されるに至ったことである。

4.目標達成報奨金[Award Fee]

さらに落札・契約者に対しては工事遂行のための目標達成報奨金(以下、報奨金という)5000万ドルが契約に含まれた。
報奨金は、工事の最重要項目としてのa)工期遵守[Timely Performance]、b)工事品質[Quality of Work]、c)(工事)マネジメント[Management]、d)コミュニティマネジメント/(工事中の)交通量維持[Community Relations/Maintenance of Traffic]、以上4項目を対称にしたものである。

これら4項目を期待以上に達成し、工期短縮を達成した場合に請負者に与えられるインセンティブである。

報奨金は、工事完成期日、すなわち2001年10月15日よりも90日あるいはそれ以前に完了させた場合、500万ドルが請負者に支払われる。報奨金全体の約半分は、請負者が工事期間中の節目節目で設定されている予定完了期日を達成した場合あるいはそれ以前に達成した場合に支払われる。残りの半分は、工事の品質、マネジメント、コミュニティマネジメント/交通量維持の項目を十分に満たしている場合に支払われる。これらに対する報奨金は工事中6ヶ月毎に事前に設定され、評価され、各期間が終わると支払われる。

これらの項目の評価基準は当初米国海軍の手法を採用し、それをユタ道路局が微調整したものであったが、契約期間中にさらに見直しが行われ、より具体的な判定手法が用いられた。評価は三段階で行われ、現場管理レベルでは毎月、その上の幹部レベルでは半年毎、最終的には道路局長まで上げられたが、どの段階でも、評価は難しく面倒で時間が掛かるものとなった。

この報奨金については、発注者、請負者双方にさまざまな思惑が絡み、さらに州民からのさまざまな疑念等が生じる可能性も懸念された。結果としては、当初UtahDOTが考えたインセンティブの必要性はなく、今後のデザインビルド工事については、はっきりした工期短縮効果とか、より具体的な目に見える評価基準を設定できる場合を除いて報奨金を設定しない方がよいということになった。

5.入札情報の配布方法

UtahDOTはRFP作成に当たり、入札書関係情報が全文で4万頁以上に及び、図面その他地質関係資料も数千枚に及ぶことも明らかになったので、入札予定者にはCD-ROM版を作成して配布した。それらの入札情報はディスク4枚、7万頁以上にもなるものであった。RFPの入札書類1セットはUtahDOT本部でチェック用として閲覧できる態勢がとられた。こうすることによって、発注者側には時間の節約、入札予定者側にはコピー代の節約になるのではないかと考えられた。しかし、この方法は、予期に反して、入札予定者が、必要な情報をダウンロードし、印刷し、整理するのに数週間もかかってしまい、プロジェクトポーザル作成に必要な情報をそろえて、入札準備に着手するのが3週間も遅れてしまうという事態が発生してしまった。

さらに、情報をまとめ、脱落がないかどうかをチェックするのにも困難を極めた。各入札予定者は基本設計を担当するエンジニアリング会社数社を事前に確保していたが、情報伝達が遅れたため彼らが関係者からの情報収集に手間取ってしまった。

UtahDOTではこの事態を反省して、今後同様なプロジェクトの発注の場合、たとえ入札予定者にCD-ROM版を配布する場合でも、少なくとも入札書類1セットを配布することとなった。

UtahDOTでは入札書情報(図面及び地質関係資料は除く)及び落札・契約者[Wasatch Group]のプロポーザルを一枚のCD-ROM版に編集したものを関係機関に現在も配布している。海外からでも入手可能であり、筆者もワンセット入手している。

6.請負者選定プロセスについての第三者評価委員会*による総括

この委員会は、ソルトレイク市にある民間会社のプロジェクト・エンジニア3名により構成されている。そして彼らの評価報告書が出されており、インターネットからダウンロードできる。

その報告書の概要は次の通りであった。
a. UtahDOTはデザインビルド方式という初めての試みに取り入れるさまざまなやり方を学び、新しいやり方を受け入れる積極的な人材を配置する必要がある。このことは、新しいアイデアと手続の受け入れ方を開発する必要があるということである。

b. 見積給付金を支払うことについては、プロポーザル作成に相当大変な作業が求められるかどうか、あるいは発注者は入札者が作成した様々なアイデアをプロジェクトに採用しようとしているかどうか如何である。

c. 発注者の出す入札情報については、プロジェクトの内容を明確に把握し、重要であると考えられるリスクを明確にするために必要な水準の設計図面を提供すること。プロジェクト遂行中に発生すると思われるリスクに関する情報を提供すること。工事施工段階で発生する設計変更についての紛争を避けるために、可能な限り、契約当事者以外が作成した設計図面を提供することを避けること。

d. リスク分担をどう配分するかはデザインビルド方式では極めて重要なことである。

 UtahDOTは、発注者と請負者のどちらがリスクを分担するのが最も適当なのか、そのリスクの項目や数量を決めるために、プロジェクト着手時にリスクのマトリックスを作成した。
そして、それらのリスクを分担するのに最も相応しい者がそれを担うことになった。

e. プロジェクトのコスト見積:UtahDOTは、業者選定プロセス及び契約締結段階においてコスト見積についての情報をすべて公開することの重要性を認識した。

f. プロジェクト成功のためには目標達成報奨金が重要であるが、その報奨金の支払いに際しては、紛争を回避するためできるだけ客観的なプロセスを取る配慮が求められる。

g. CD-ROM版の入札書情報を配布する場合には、入札書類1セットを含めるべきである。CD-ROM版その他の電子情報は、プロポーザル作成に際してそれほど重要でないと考えられる追加情報あるいは補完的な情報へのアクセス手段と考えるべきである。

h. UtahDOTは、プロジェクト成功のために重要なのは、低入札価格よりもベストバリュー方式の方がよいと感じている。

i. プロポーザル評価期間中は完全な機密性を保持することが、業者選定・契約発注プロセスにおいて不可欠であると認識した。

出典:Report No.UT-98.16 Use of Best Value Selection Process
for the I-15 Design/Build Project, July 1998

このプロジェクトは、耐用期限を迎えた大都市中心部幹線道路の再生・拡張プロジェクトである。幹線道路沿いの経済活動の現状を維持しながら(現行交通量を維持しながら)、既設道路構造物の撤去と新設(6車線を12車線に倍増)を同時並行で行うという初めての試みである。デザインビルド方式を採用することにより発注者側のリスクの軽減化、設計と工事の同時進行による工期節減、革新的な材料・工法の採用、工事品質の改善、発注者側業務のアウトソーシング/民営化に努めたプロジェクトである。このために、官と民がお互いに知恵を出しあい、リスクを分担し合って、最適かつ妥当なコストでプロジェクトを完成させることを目指した。

I-15改修工事内容を再度まとめると、工事延長約17マイル(約26km)、6車線から12車線へ拡幅、橋梁144ヶ所、インターチェンジ新設1ヵ所、フリーウエイ交差点13ヵ所とジャンクション3ヵ所の改造、連絡道路の改修、鉄道立体交差3ヵ所、高度道路交通管理システム[ATMS]の設置などである。

当初の契約金額は13億6千万ドル、最終金額は13億2千5百万ドル、当初のプログラムコストは15億3千万ドル、最終的なプログラムコストは15億ドルであった。工事費が節減されたのである。

我が国ではこのような大型工事の場合、設計変更などで最終契約金額は増額されるのが通例であるが、このプロジェクトでは、逆に減額となっている。当初の契約がいかに精度の高い濃い内容のものであったことを示すものである。

入札者は3グループであったが、入札価格の差額は6%以内に収まる程、極めて密度の高い入札金額が提示された。それだけ、入札書類の内容は精度が高く適切であったこと、事前の発注者と入札者の質疑応答、意見交換などの成果がでている。

工事が完了したI-15号線は2001年5月に全線供用開始。同年10月開催の冬季オリンピックには十分間に合ったのである。

UtahDOTは1997年8月、I-15改修プロジェクトについての最初の報告書を公表し、その後、1998年から2002年まで毎年、年次評価報告書の公表を続け、2002年9月、最終報告書を公表した。

さらに、節目節目で様々な報告書(例えば、業者選定手続評価報告書)等を公表している。

連邦政府道路局監察部門(FHWA Office of Inspector General)も、毎年並行して同プロジェクトの監査報告書を公表している。

上述の報告書類は、それぞれUtahDOT、FHWAのHPで閲覧・全文のダウンロードが可能である。

I-15改修プロジェクトについて、建設関係者はもちろん、広く州民、国民への情報公開とアカウンタビリティが示されている。

プロジェクトの成功は、パブリック・プライベート・パートナシップ[Public-private Partnerships:PPP]の成功事例の一つと連邦政府道路局[FHWA]は位置づけて下記の報告書が出されている。

Case Study Name: I-15 Reconstruction Project
http://www.fhwa.dot.gov/ppp/i_15.htm
Collaborative Leadership: Success Stories in Transportation Mega Projects
Successful Collaborative Leadership Examples
Interstate 15 (I-15) Reconstruction Project
http://www.fhwa.dot.gov/programadmin/mega/collaborative02.cfm

【追記】

入札書類等の情報公開は、連邦政府レベル、州政府レベルで、研究者はもちろん関心を持つ州民や関係者等には積極的に提供されている。筆者の経験ではペンシルバニア州のあるコンストラクションマネジメント(CM)契約について電子メールで問い合わせたら、すぐに返事があり、関係資料の送付を年末に依頼したところ、2週間以内にDHLで受け取ってびっくりしたこともある。もちろん、無料(クリスマスプレゼント)であった。

連邦政府道路局規則では、外部からの問い合わせに対しては、二週間以内に回答する旨規定されていることが分かった。これで、職員の業務評価もなされるようだ。問い合わせ先も、担当エンジニアの実名が多い。
わが国では「お問い合わせ」の項目がHPにあるが、担当エンジニアの実名など皆無である。

余談になるが、筆者はわが国の国交省本省、地方整備局、工事事務所などに電子メールで問い合わせしたことがたびたびあるが、いままで1件を除き回答のメールをもらったことはない。完全に無視されている。

その例外の1件も、半年ほど経って忘れていた頃、突然、メールが届き、遅れたことを陳謝するとともに関係資料を郵送したということで、数日後にパンフレットが届いた。

わが国では、現状を見る限り、インターネットに公開される公共工事関係の情報量も格段に少ない。情報公開法にもとづき、該当する資料の存在を確認するのにまず一苦労、そして、それをようやく入手すると、黒塗り箇所がいっぱい、その上、高額な費用がかかるという、諸外国と比較して、わが国発注者官庁側のアカウンタビリティの極めて消極的な体質に大きな格差を実感するばかりだ。

次回はワシントン州のデザインビルド方式パイロットプロジェクトを紹介する。



つづく