〔第二十四条〕
第二十四条は、地位協定の運用に伴なう経費の日米間の分担につき定める。なお、同条は、2項において日本側の分担すべき経費を定め、1項において日本側の分担経費を除く米軍の維持に伴なう経費を米側負担としているので、先ず2項について述べ、ついで1項について述べることとする。
一 日本側が負担すべき経費
1 日本側は、第二条及び第三条に定めるすべての施設・区域及び路線権(飛行場及び港における施設・区域のように共同に使用される施設・区域を含む。)をこの協定の存続期間中米国に負担をかけないで提供し、かつ、相当な場合には、施設・区域及び路線権の所有者及び提供者に補償を行なうことが合意される(2項)。この規定のうち、施設・区域の提供が新規に行なわれる際は明瞭であり特に問題はない。路線権についても既に述べたとおり(第三条の項参照)である。「飛行場及び港における施役・区域のように共同に使用される施設・区域を含む。」の意味は必ずしも明らかでない。この点については、飛行場及び港における施設等が米側によって日本側と共同で事実上使用されることがあった場合にも、当然通常の場合と同じようにその施設・区域の費用は日本側によって負担されるということを規定しただけであって、特別の意味はないとの趣旨の政府答弁がある(昭和四五年十二月七日、衆・内議事録)が、「飛行場及び港における施設・区域」の「施設・区域」が協定第二条でいう「施設・区域」を指しているのであれば(そうとしか考えられない。)、かかる「施設・区域」の提供自体の経費が日本側によって負担されることは、「飛行場……を含む。」の規定がなくとも、余りにも明瞭であろう。(注118)
(注118) 港湾施設使用に関する合同委員会の合意には「共同使用施設は、日本政府が指名した機関によって管理され、当該施設の維持に要する費用は、米軍及び日本政府双方によって夫々の使用比率に従って負担される。」旨の規定があるが、ここでいう共同使用施設とは、通常の日本の港の施設で、米軍が五条使用することにより事実上共同使用されるものを指しているところ、かかる施設は、日本の通常の施設であり、その建設・設置等が日本側によって経費負担されるべきは又論をまたない。
2項の規定のうち、施設・区域及び路線権の所有者及び提供者に対する補償に関する部分は、本来的にはわが国の国内問題である(日米間の問題としては米側に負担がかからないという規定で十分)が、念のため規定されたもの(施設庁としてもこの規定のため施設・区域提供費の根拠をより容易に協定に求めうる。)と解される。
2 特に沖縄返還後の最近の施設・区域の整理統合の進展との関連で既存の施設・区域内において日本側の経費負担で米側のため日本側が行なう建設工事と協定第二十四条2項との関係が頻繁に問題とされている。(注119)(注120)
(注119) 本件は、従来は、特定の施設・区域の返還の条件として他の施設・区域の中に代替施設を建設することを米側が要求する場合、日本側が右特定の施設・区域の返還を促進するため日本側経費でかかる代替施設を建設する(いわゆる「リロケーション」)という実体があり、このリロケーションのための施設・区域内建設の日本側経費負担についてはさ程問題にされたことはなかったが、最近において、既存の施設・区域内の米軍兵舎(日本側の提供にかかるもの)が老朽化したためこれを建て替えること(岩国)、米軍内部の部隊移動との関連で特定の施設・区域の中に新たに施設又は住宅を必要とすること(三沢)等につき米側から日本側に日本側の経費負担での措置方要請があり、諸般の事情を考慮して日本側がこれを行なうこととしたため、本件問題がクローズ・アップしたものである。
(注120) 本件についての最近までの政府答弁には、運用上の建前を述べたものはあっても、第二十四条の条約解釈を述べたものはないとみられる。
念の為紹介すれば、次のとおり。
(1)昭和四五年八月十八日、衆・内における山上施設庁長官答弁。
本答弁は「飛行場滑走路の延長工事の経費負担如何。」という設問に対し、「このような場合は、土地は日本側が提供し、工事は米側が実施するのが従来の例である。」ということを説明したものであって、「ただいまの日米間のあり方といたしましては」と冒頭に述べているとおり、本答弁の時点での運用ぶりを述べたものと解される。(本答弁においては、「地位協定上は」との言葉は用いられていない)。
(2)昭和四一年二月二五日衆・予・二分科における外務省安川アメリカ局長答弁。
本答弁は、ゴルフ場のリロケーションの場合の経費を日本側が負担することについての質問に対してなされたものであって「一般論として、米側から施設の要求があった場合、それが合理的な要求と認められるときは、土地だけを日本側が提供し、そこに米側が自らの負担で建設するというのが原則
である」としつつ、「日本側の事情で特定の施設・区域の返還を求め、代って別の施設等を提供する場合は、その建設費用も日本側が負担している。」と述べているが、これも、前記答弁と同様施設・区域の提供とこれに関連する経費の負担に関する当時の一般的運用ぶりを説明したものであると解される。(本谷弁においても、「地位協定」とか「地位協定の解釈としては」とかいう表現は全く用いられていない)。
右については、第二十四条2項からすれば、日本側の経費負担が協定上の義務となっているのは、施設・区域と路線権の提供のみであるところ、路線権は施設・区域外の問題であるからこれは問題とならないので、結局問題は、既存の施設・区域の中で行なう日本側の建設等が2項でいう施設・区域の提供に該当するか否かということに尽きる。この点についての政府の考え方(解釈)は、既存の施設・区域において日本側が建物等を新築してこれを米側に提供すること及び既存施設・区域における既存の建物等の日本側による改築(即ち、改築しなければ本来の提供目的が達しえない如き場合であり、通常の維持として観念しえないもの)等は、右にいう施設・区域の提供として日本側が経費を負担して差支えない(逆にいえば、協定上の義務として米側の経費負担とすることはできない)。ということである。協定第三条に関する合意議事録は、米側が施設・区域内でとりうる措置を例示しているが、これは、かかる措置がすべて米側の経費負担で米側によってとられなければならないということを意味するものではない。即ち、これは、一方において米軍が個々の施設・区域を使用するに当って必要と判断する追加工事等をすべて日本側の負担とすることは、わが国に不当な財政的負担を強いることになりかねず、他方において米軍にとっても一々日本政府に要請する等不便でもあるので、一定の範囲で米側が工事を行なうことを許容したものであり、わが方が必要と認めて協定の規定(第二条第1項(a)に従って合意の上施設・区域の提供の一環として行なう工事が結果的に右合意議事録に例示の工事と同様のものとなることはありうるが、かかる合意が米国の義務の肩代わりであるとか、地位協定違反であるとかということにはならない。しからば、米側から右の如き措置を日本側の負担で行なうべき旨要請された際、いかなる基準で日本側が諾否を決めるかといえば、これは、安保条約の目的達成との関係、わが方の財政負担との関係、社会・経済的影響等等を総合的に勘案の上個々の事案に即して判断するといわざるを得ない。右に述べたように、既存の施設・区域内において日本側が、自らの経費負担において新たな建物等を建設して米軍に追加提供することがそもそも問題となったのは、(イ)本土における施設・区域の大部分が既存の土地・建物(占領中又はその後に米軍が建設したドル資産を含む。)であり、当初の提供に際し、日本側が新規の建物等を建設する必要がある場合が殆んどなかったこと、(ロ)米側において、予算上の制約が少く、必要があれば、日米間の合意を要する施設・区域の提供という形式をとることなく、協定第三条に基づく権利を行使して建物等の建設を行ないえたこと、及びハその結果、施設・区域の提供とは、既存の土地・建物に限られる(したがって、新規建設の費用は、すべて米側が負担すべきもの)との誤解が一般的に生まれたためである。しかしながら、「施設・区域の提供」をこのように限定的に解しなければならないとするような規定は、地位協定中どこにも見当らない。更に、施設・区域の提供が、既存の土地・建物等に限られず、日本側が提供目的上妥当と認めて合意する限り、新規の建物の提供を排除していないとすれば、かかる提供が既存の施設・区域においては禁じられるとするのは合理的ではないことは明白である(注121)(注122)
(注121) これらの点については、昭和四八年二月三日、同五日、同七日、同十二日、同三月十三日等の衆・予議事録参照。
なお、次の内客のことを含む文書による資料が外務省・施設庁名で昭和四八年二月二六日付けで社会党楢崎議員に堤出されている。
「地位協定第三条に関する合意議事録に掲げられている措置の経費負担について
1 地位協定第三条に関する合意議事録第一項から第六項までに掲げられている事項は、米側が地位協定第三条1項(第一文及び第三文)の規定に基づいて執りうる措置を例示したものであるが、米側がかかる措置を執る場合には、その所要経費は当然米側が負担する。
2 他方、右の合意議事録各項に例示されている措置のうちには、日本側として行なうべき施設・区域又は路線権の提供の対象となりうる事業と同様のものがあるが、日本側が地位協定第二条1項(a)又は同第三条1項第二文の規定に基づいてこれらの事業を行なう場合は、当該事業に要する経費は当然日本側の負担となる。
3 日本側としては、米側から前記2の如き事業をわが方で行なうよう要請がある場合は、地位協定第二十四条2項の規定の趣旨に照し、かつ、個々の事業ごとに諸般の事情を総合的に勘案の上、施設・区域又は路線権の提供として処理されるべきものと判断したときは、日米合同委員会を通ずる両国政府間の合意を経て右の事業を実施することとなる」。
(注122) 既存の施設・区域の中の既存の建物の改築等が施設・区域の提供と観念しうるという場合、以上においては専ら日本側が過去において提供した建物(従って、所有権は日本側にある。)を念頭においているが、米側が構築した建物(いわゆる「ドル資産」)の所有権を日本政府に移転した上でこれを改築したりすることも施設・区城の提供と観念しうるものと考えられる。即ち、地位協定第四条2項は、施設・区域返還の際米側がかかるドル資産を撤去することを必ずしも排除していないと解されるので、所有権を米側に残したままで日本側が改築等をすることは施設・区域の提供とは観念されないが、この所有権を日本政府に移転した上であれば、施設・区域の返還に際して米側はこれを残して行かなければならないので実質的なちがいがある訳である。沖縄の普天間飛行場の滑走路(ドル資産)の日本側による補強は、この場合に該当する事例である。
3 以上の政府解釈によれば、既存の施設・区域内における施設・区域の追加提供等は、リロケーションの場合に限られないこととなるが、この点につき「歯止めがない」(米側が要求すれば日本側負担で何でも行なわれることとなるではないか)との議論で審議が紛糾したため、これに対し、昭和四八年三月十三日、衆・予で外務大臣答弁の形で次の政府見解が表明された。
「地位協定第二十四条につきましては、先般来御説明申し上げたところでありますが、この際政府としては、その運用につき原則として代替の範囲を越える新築を含むことのないよう措置する所存であります。なお、岩国、三沢の施設整備につきましては、右の点を踏まえて、日米合同委員会に臨みその決定を経て実施いたします。」(議事録二四頁)
右政府見解の考え方は次のとおりである。
(1)本件は、そもそも既存の施設・区域内における建設等の問題を扱ったものであるが既存の施設・区域とは関係のない通常の提供についても、当然同様の運用上の原則が適用されるものと考えられる。
(2)「代替」とは、この場合、通常のリロケーションのほか、老朽施設の代替のための建設が含まれる(昭和四八年三月十六日、参・予議事録十七頁)。
(3)「代替の範囲」とは、木造であったものを鉄筋にするという如き構造上の改良を制約するものではない。又、この範囲とは、主として面積を基準に考えるが、それ以外の点についても個々の事案につき判断する。更に、「代替の範囲」とは、個々の返還施設・区域の代替ということのみならず、要するに、わが国全体として整理統合を行なって行く段階で施設・区域が全体としては拡大しないようにするという意味でもある(右議事録十七・八頁)。
(4)従って、個々の施設・区域の返還とは必ずしも対応しない提供(三沢の住宅の場合)もありうる。
4 防衛施設周辺整備法、特損法及び漁業制限法によって、日本政府は、施設・区域の周辺整備費、米軍の適法行為による私人の損害の補償等につき財政支出を行なっているが、これは、協定第二十四条1項の規定によってかかる費用は米側には負担させえないという意味において第二十四条とは関係があるが、他方、日本側のかかる財政負担は、例えば同条2項の路線権によって説明しなければならないものとは解されない(周辺整備費が路線権の提供であるかの如き趣旨の答弁がある―昭和四一年四月二七日、衆・内議事録六頁)。日本側のかかる財政支出は、安保条約・地位協定の運用を円滑に行なうための単なる国内政策上の配慮によるものと考えるべきであろう。(尤も、漁業制限法による領海内の制限水域に対する補償は、第二十四条2項にいう施設・区域の提供に伴なう費用と観念されよう。この点については、第二条の項参照)
二 米側が負担すべき経費
1 第二十四条1項は、日本に米軍を維持することに伴うすべての経費は、2項に規定するところにより日本側が負担すべきものを除くほか、この協定の存続期間中日本側に負担をかけないで米側が負担することが合意される旨規定する。この規定により米側は、施設・区域及び路線権の提供に要する経費以外の米軍隊の通常の維持のため必要なすべての経費を負担することとなる。従って、施設・区域との関連では、協定第三条に関する合意議事録に例示されている措置を米側が自ら執る場合には、その措置に要する経費は、当然のことながら米側によって負担される。合同委員会の合意(「港湾施設使用」)の中の「米軍は、提供施設の維持、管理及び所要の改良又、それ等に関する費用に対して責任を有する。」とは、右の如き場合を念頭においたものである。(注123)
(注123) 右合意議事録の中には、いかなる意味でも施設・区域の提供とは観念しえないもの(例えば建物の単純な移動、通常の補修等)があるところ、これらのものは、協定上は、専ら米側により措置されるべきものであることについては、これまで述べて来たことから明らかである。
2 直接雇用の場合は勿論、間接雇用の場合も米軍の日本人労務者に要する経費は、米軍の維持に伴う経費として当然米側に負担される。間接雇用の場合には、基本労務契約等において、「この契約の円滑な履行に対する唯一の、かつ、完全な代価として、米側は、労務者の給料、保険料等日本側(施設庁)がこの契約の実施の結果として負担し、かつ、法律上支払わなければならない経費を日本側に補償する。」との趣旨の規定が設けられている。右により米側が日本側に償還すべき経費の一つとしていわゆる「労務管理費」が規定されている。労務管理費の内容は、基本労務契約についてみれば、施設庁本庁労務部職員等の人件費、旅費、庁費間接費(事務費等のほかタイピスト等の間接的な人件費の全庁職員数に対する前記労務部職員等の百分比で算出したもの)、地方労管事務所職員の人件費等からなっている。かかる労務管理費の内容は、日米当局間の交渉を通じていわば歴史的に形成されて来たものであり、一つ一つの項目が地位協定第二十四条1項の理論的な解釈として決定されているものではない。昭和四四年当時政府部内(法制局・施設庁を含む。)でとりまとめた考え方として「労務管理費の償還は、直接には基本契約に基づくものであり、協定第二十四条と直接の関係を有するものではない」との趣旨があるのは、右のことを指すものと解すべきである。他方、具体的にその都度決定された労務管理費については、同条1項により米側が負担すべきものと考えられ、この意味では、「償還の法的根拠は、地位協定第二十四条である。」(昭和四四年七月八日、衆・内議事録十一頁)ということができる。(注124)
(注124) この考え方は、沖縄返還協定擬問擬答の第七条に関する問七―17の答においても「地位協定によって労務管理の費用は米側が負担することとなっているので」云々として述べられている。
3 なお、第二十四条3項は、この協定に基づいて生ずる資金上の取引に適用すべき経理のため、日米両政府間に取極を行なうことが合意される旨規定しているが、合同委員会は、この規定を受けて「会計手続と金融方法」につき技術的事項を規定している。又第二十四条に関する合意議事録は、この協定のいかなる規定も、米国が合法的に取得したドル又は円資金を利用することを妨げないものと了解される旨規定するが、右の「合法的に収得したドル又は円資金」とは、例えば、第一次及び第二次余剰農産物協定に基づく米側使用円等が考えられていた模様である。
三 共同使用施設・区域の経費分担
III条使用、II―4―(a)及びII―4―(b)施設についての経費分担については、次のように考えられる。
1 III条使用及びII―4―(a)の場合、当該施設・区域のいわゆる管理者は米軍であり、自衛隊等がIII条使用・II―4―(a)使用により専属的に使用している独立の建物等の光熱費、小修繕費等は、当該自衛隊等により負担されるべきものであるが、当該施設・区域の全体としての維持に要する費用は、原則として米側によって負担されるべきものである。III条使用・II―4―(a)使用において現実に共同に使用される共同施設(例えば道路、滑走路等)についてもその通常の維持費は、たまたま日本側の使用が米側の使用度を上廻ることがあっても、原則として米側により負担されるべきものである。尤も、個々の施設・区域の「共同使用」の態様に応じ、右の原則と異なる取扱いをすることは、それが使用の実体からみて合理的である限り、必ずしも妨げられず、いずれにせよ日米双方による経費の負担ぶりについては、地位協定に照らし、個々の施設・区域の「共同使用」にかかる取極において定められる。(注125)
(注125) 共同使用の経費分担につき昭和四五年夏米側との間で話合いが行なわれたことあり、米側は、右の共同施設の維持費についても使用度に応じた分担を主張し、わが方は、かかる維持費については原則として米側負担であるが、個々のケースによっては右原則の例外もありうるとした。その後板付飛行場につき事実上右原則の例外が適用されたことがある。今後、かかる例外が増えることが予想される。
2 II―4―(b)使用については、当該施設のいわゆる管理者は自衛隊等であるので、施設の全体としての維持費は、自衛隊等が負担する。米側が専属的に使用するII―4―(b)施設があれば、当該施設にかかる光熱費等は、米側によって分担される。共同施設(滑走路等)の維持費は、日本側によって負担される。II―4―(b)の場合、共同施設の米側使用が日本側使用度を圧倒的に上廻る如き事態は考えられないので、共同施設維持費の分担問題は、実際には生じないとみられるが、問題があれば、個々のケース毎に(二文字判読不明)されることとなろう。(注126)
(注126) 以上1及び2の趣旨は、過去の政府答弁とも大体合致する。昭和四五年八月十八日、衆・内議事録三三頁、同九月二九日、衆・内議事録三五頁、同十二月十日、衆・内議事録九頁等。
〔第二十五条〕
第二十五条は、合同委員会の設置につき定める。
1 合同委員会は、地位協定の実施に関して日米相互間の協議を必要とするすべての事項に関する両政府間の協議機関として設置される。合同委員会は、特に、安保条約の目的の遂行に当って米国が使用するため必要とされる施設・区域を決定する協議機関として任務を行なう(1項)。合同委員会は、右に規定されるとおり、協議機関であるので、特に施設・区域に関する協定のように「合同委員会を通じて両政府が締結」(第二条1項a)すべきものについては、協議機関としての合同委員会が決定したものを更に両政府の代表者が政府間の合意として確定する行為を必要とする。(注127)
(注127) 施設・区域に関する政府間協定は、通常合同委員会において同委員会に対する日米双方の政府代表者の署名により締結されるが、この署名には、理論的には、合同委員会としての意思決定の意味と通常の政府の代表者としての署名という二重の意味があると考えられる。この場合、通常の政府の代表者としての署名が合同委員会において行なわれるのは、事柄の性質上便宜的に同委員会の場を借りているだけであって、それ以上の意味はない。なお、日本側においては、合同委員会代表者たるアメリカ局長は、外務公務員法に基づく政府代表に任命されており、委員会における行動が政府間の合意をも意味する場合(通常は、施設・区域に関する協定への署名の場合)には、しかるべく閣議決定を行なっている(第二条に関する注13参照。)
2 施設・区域に関する協定の場合は別として、地位協定の通常の運用に関連する事項に関する合同委員会の決定(いわゆる「合同委員会の合意事項」)は、いわば実施細則として、日米両政府を拘束するものと解される。合同委員会は、当然のことながら地位協定又は日本法令に抵触する合意を行なうことはできない。同様に、合同委員会の合意の実施が予算の執行を伴う場合には、特にこの点での条件が付されていない限り、予算成立後にかつ予算の範囲内で、右の合意が行なわれるべきものである。
3 なお、第二条に関する項で既に述べたとおり、合同委員会の合意文書は、原則として非公表扱いとすることが日米間で合意されているので公表されないことになっている。各施設・区域に関する協定の主要点は官報で告示されている。通常の合同委員会の合意については、安保国会当時以来、数回にわたってその要旨が要求により随時資料として国会に提出されて来ている(これら国会提出資料の大部分は、「日米合同委員会合意書に関連し実施されている主要事項」として一冊にとりまとめられている。)。
4 合同委員会は、日米両放府の代表者各一人で組織し、各代表者は、一人又は二人以上の代理及び職員団を有するものとする。委員会は、その手続規則を定め、並びに必要な補助機関及び事務機関を設ける。委員会は、日米両政府のいずれか一方の代表者の要請があるときは、いつでも直ちに会合することができるように組織する(2項)。委負会は、問題を解決することができないときは、適当な経路を通じて、その問題をそれぞれの政府に更に考慮されるように移すものとする(3項)
〔第二十六条〕
第二六条は、協定の発効、予算上及び立法上の措置につき定める。
1 この協定は、日米両国によりそれぞれの国内法上の手続に従って承認されなければならず、その承認を通知する公文が交換されるものとする(1項)。この協定は、1項の手続が完了した後、安保条約の効力発生の月に効力を生じ、行政協定は、その時に終了する(2項)。右において、発効条件を「批准」としなかったのは、米側がこの協定を行政取極として処理する意向であった(実際にもそうした。)からである(注128)。
なお、米側が行政取極として処理するか否かは全く米側の国内問題であり、協定の国際法的効力には何ら影響がないことはいうまでもない。なお、右の公文の交換は安保条約の発効と同日付けで行われたので地位協定も同日発効した。
(注128)ナト協定は、上院の承認の対象となったが、これは、日米協定が米軍の我が国での.一方的駐留にのみ適用があるのに対し、ナト協定では、米国もナト諸国軍の受け入れ国となる建前になっており、その際外国軍隊に関する特権規定が国内法に影響する点があることから、右の如く処理されたものと考えられる。
なお、旧安保条約に基づく行政協定に、地位協定とほぼ同様の内容の国際約束でありながらその締結について国会の承認を求めていないところ、この点は国会においてくり返し批判された点であるが(第三四回国会・参・安保特・七号・一七頁、第三九回国会・衆・内三号・八頁等)、右に関する考え方(条約法条約の国会審議に備え法制局と協議して作成したもの)は次のとおり。
行政協定は、国会の承認を得た旧安保条約第三条に基づき、その締結が行政府に委任されたものであり、したがって、同協定を行政府限りで締結したことは憲法違反とは考えていない。
また、かかる処理が昭和四九年二月二〇日の衆議院外務委員会における大平外務大臣の答弁で示されている憲法第七三条第三号にいう条約の範囲と矛盾するものとは考えない。(大平大臣の答弁においても、「既に国会の承認を得た条約…の節囲内で実施し得る国際約束」については、行政取極として、憲法第七三条二号にいう外交関係の処理の一環として行政府限りで締結し得る旨述べているところである。また、砂川事件に関する最高裁判所の判決においても、行政協定の締結が「違憲無効であるとは認められない。」との判断が示されている。)
地位協定の締結につき国会の承認を求めたのは、行政協定の締結手続が違憲であると考えたからではなく、新安保条約第六条においては、地位協定の締結が行政府に委任されていないこと、及び地位協定の内容は、日本に駐留する軍隊の特権、裁判権の問題等を扱っており、当然国会の承認を得なければならない内容を含んでいることにかんがみ、その締結につき国会の承認を求めた次第である。
2日米各政府は、この協定の規定中その実施のため予算上及び立法上の措置を必要とするものについて、必要なその立法措置を立法機関に求めることを約束する(3項)。行政府としてかかる措置を立法機関に求めることは当然のことであって、その義務はかかる規定の有無によって左右されるものではない。
〔第二十七条〕
第二七条は、協定の改正手続につき定める。
いずれの政府も、この協定のいずれの条についてもその改正をいつでも要請することができる。
その場合には、両政府は、適当な経路を通じて交渉するものとする(第二七条)。地位協定の改正については、沖縄返還の頃までは特に具体的に論議されたことはなく、共同使用に関する議論の中で「もし地位協定に改善すべき点があれは、沖縄返還後の将来の問題として改めてとり上げることとしたい。」趣旨の一般答弁がある程度である(第六四回国会・参・外(閉)・一号の8頁・愛知外務大臣答弁)が、その後米国が米側が負担する駐留経費の軽減を求めるようになったこともあり、国会において、特に第二四条との関係で政府としては地位協定を改正することを考えているのかとの趣旨の質問がしばしば行われるようになってきている。このような質問に対して、政府は地位協定の改正は考えていない旨答弁している(例えは第二四条の項注の答弁参照)。
〔第二十八条〕
第二八条は、協定の終了につき定める。
地位協定は、安保条約が有効である間有効であるが、それ以前でも両政府の合意によって終了させることができる(第二八条)。
以上