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機密文書「地位協定の考え方」
解説、第一条



琉球新報 2004年7月〜8月

 
掲載日:2004.10.18
改訂日:2009.11.16

初出:独立系メディア「今日のコラム」 


 本紙(琉球新報)が入手した外務省機密文書「地位協定の考え方」を特集で全文公開する。

 長く県民を苦しめる政府の基地行政の実態と地位協定の本質を知る資料として広く活用され、改定に向けた論議の一助となることを期待したい。

 同文書は表紙に「秘 無期限」の指定印がある。沖縄が本土復帰した翌年の一九七三年四月に作成され、以後、基地行政に携わる外務官僚らの「虎の巻」「バイブル」として、策定後三十年を経てなお活用されている。

 外務省が存在すら否定する資料の中に、基地を抱える沖縄住民の苦悩の源流を随所に読み込むことができる。

 政府や外務官僚らの苦悩ぶり、地位協定の条文規定を超える米国優位の基地運用、そのための条文の拡大解釈運用の“妙技”も読める。

 「沖縄」もふんだんに登場し、在沖米軍基地の運用実態も垣間見ることもできる。

 残念ながら一部ページの欠落、判読不明個所もあり、完全な形ではない。また機密文書の存在も同文書は示しているが、本紙もすべては入手できていない。

 だが、沖縄県も外務省に開示を要請しており、基地問題の抜本解決に向け、いっそうの情報開示が進むことを期待したい。

(地位協定取材班)


【本文の見方】

(1)目次に続く数字は原文ページ

(2)網かけ部分は「注」を示す

(3)原文の強調ルビ「。。。。」は、編集の都合上、紙面ではサイドライン「―」で示した。

(4)四七、四八ページと目次の「第二十六条(発効・予算上及び立法上の措置)一三三ページ」「第二十七条(改正)一三四ページ」「第二十八条(終了)一三五ページ」は欠落。

(5)明らかな誤植以外は、旧字体も含め原文のままとした。

[秘 無期限]

昭和四八年四月

日米地位協定の考え方

外務省条約局

アメリカ局


【はしがき】

現行安保条約とともに締結された地位協定については、その締結当時作成された擬問擬答集、地位協定逐条説明等があるが、その後十余年が経過し、この間国会等において種々の問題が提起され、そのつど、多くの答弁資料・参考資料等が作成されて来ている。本稿は、執務に資するため、国会議事録及びこれら資料等を能う限り参照しつつ、地位協定の法律的側面についての現時点における政府としての考え方を綜合的にとりまとめたものである。なお、本稿は、条約課担当事務官の執筆になるものである。

昭和四八年四月

条約課長

安全保障課長


【目次】

〔一般国際法と地位協定〕…一(ページ)

〔日米地位協定の一般的問題〕…二

〔第一条〕(米軍人等の定義)…五

一 米軍構成員の定義…五

二 軍属の定義…六

三 家族の定義…七

〔第二条〕(施設区域の提供、返還、共同使用)…一〇

一 施設・区域の提供…一〇

二 施設・区域に関する協定の再検討、返還…一七

三 II―4―(a)共同使用(三条使用を含む。)…一七

四 II―4―(b)共同使用…二一

〔第三条〕(施設・区域内外の管理)…二七

一 施設・区域の管理権(施設・区域の法的性格)…二七

二 施設・区域の近傍における措置…三二

三 電気・通信関係に関する措置…三四

〔第四条〕(返還施設・区域の原状回復・補償)…三六

〔第五条〕(船舶・航空機等の出入・移動)…三八

一 施設・区域外の港・飛行場からの出入国…三八

二 施設・区域たる港・飛行場からの出入国(原潜寄港問題を含む。)…四二

三 日本国内における移動の自由…四四

〔第六条〕(航空交通)…四六

一 航空交通管理・通信体系の協調・整合…四六

二 領空侵犯排除措置関係…五〇

〔第七条〕(公益事業の利用)…五二

〔第八条〕(気象業務の提供)…五四

〔第九条〕(米軍人等の出入国)…五五

一 出入国及び在留…五五

二 強制退去…五六

〔第十条〕(運転免許証及び車両)…五八

〔第十一条〕(関税・税関検査)…六〇

一 関税免除…六〇

二 税関検査…六二

三 特権乱用防止のための協力…六二

〔第十二条〕(調達・労務)…六四

一 調達に関する一般的問題…六四

二 調達物資の免税…六五

三 労務問題…六六

〔第十三条〕(課税)…七一

〔第十四条〕(特殊契約者)…七三

〔第十五条〕(才出外資金諸機関)…七五

〔第十六条〕(日本法令の尊重)…七八

一 米軍に対する日本法令の適用(一般論)…七八

二 第十六条の意味…八一

〔第十七条〕(刑事裁判権)…八二

一 米軍当局の裁判権…八二

二 日本側の裁判権…八四

三 専属的裁判権…八五

四 競合裁判権の分配…八六

五 逮捕・身柄引渡し等の相互協力…八九

六 被告人の保護…九一

七 警察権(施設・区域内とその近傍)…九三

八 警察権(施設・区域外)…九六

九 その他…九七

〔第十八条〕(民事請求権)…九八

一 防衛隊の財産に対する損害…九八

二 国有財産に対する損害…一〇〇

三 軍人の公務中の死傷…一〇二

四 米軍の公務中の行為による私人の損害…一〇三

五 海事損害…一〇八

六 軍人等の公務外の行為による損害…一一二

七 民事裁判管轄権・調停…一一三

八 その他…一一四

〔第十九条〕(外国為替管理)…一一六

〔第二十条〕(軍票・軍用銀行施設)…一一七

〔第二十一条〕(軍事郵便局)…一二〇

〔第二十二条〕(在日米人の軍事訓練)…一二一

〔第二十三条〕(軍及び財産の安全措置)…一二二

〔第二十四条〕(経費の分担)…一二三

一 日本側が負担すべき経費…一二三

二 米側が負担すべき経費…一二八

三 共同使用施設・区域の経費分担…一三〇

〔第二十五条〕(合同委員会)…一三一

〔第二十六条〕(発効・予算上及び立法上の措置)…一三三

〔第二十七条〕(改正)…一三四

〔第二十八条〕(終了)…一三五


【一般国際法と地位協定】

地位協定(外国に駐留する軍隊の当該外国における地位につき当該軍隊の派遣国と接受国との間で締結される協定)は、主として第二次大戦後に関係国間に締結されたものであり、その典型的なものとしては、ナト当事国間のナト地位協定(一九五一・六・十九署名)がある。日米地位協定も基本的にはナト協定を踏襲したものである。

地位協定が第二次大戦後の一般的現象となった理由としては、次のことが考えられる。

即ち、第二次大戦以前には、特定の例外的場合を除き、平時において一国の軍隊が他国に長期間駐留するということが一般的にはなかったということである。いわゆる戦時占領的な駐留は、歴史的に多々存在したが、この場合には、一方が勝者であり他方(被占領国)が敗者であるという関係から、被占領国における占領軍の地位は、そもそも問題になり難い面があったろうし、又、戦時占領に関連する特定の問題については多数国間の一般的条約で一定の準則が設けられた(一九〇七年の陸戦ノ法規慣例ニ関スル条約)。ところが、第二次大戦後には友好国の軍隊が平時において外国に駐留することが一般的になり、かかる軍隊の外国における地位を規律する必要が生じたことである。この場合、従来、外国に寄港中の軍艦の地位については一般国際法上一定の原則が確立していたとみられる(例えば当該軍艦内における刑事事件については旗国が第一次裁判権を有する等)が、これも必ずしも網羅的なものではなく、又、陸上に平時において駐留する外国軍隊の地位については歴史的な実績がないため一般国際法といえる如き原則は存在しなかった(従来、歴史的に問題になりえたのは、たかだか他国の領域を通過中の外国軍隊の地位であり、この場合についても何が一般国際法上の原則であるかについては必ずしも確立したものは存在しなかった。)ので、一般に第二次大戦後の右で述べた如き外国軍隊の地位を明確に規律するために地位協定が必要とされたものである。

【日米地位協定の一般的問題】

安保条約第六条第二文は、「……施設及び区域の使用並びに日本国における合衆国軍隊の地位は、……行政協定に代わる別個の協定……により規律される」旨定めており、地位協定は、右の「別個の協定」として締結されたものであるが、安保条約第六条及び地位協定に共通する問題として次の諸点がある。(なお、安保条約第六条の一般的考え方については昭和四八年二月五日付け条・条ペーパー参照)

1 安保条約第六条第二文及び地位協定の標題にある「日本国にある合衆国軍隊」との関連で、「在日米軍」とは何かということが問題とされる。「在日米軍」については、安保条約及び地位協定上何ら定義がなく、「日本国にある合衆国軍隊」と同義に使用される場合には、(イ)(事前協議に関する交換公文にいう)日本国に配置された軍隊、(ロ)寄港、一時的飛来等によりわが国の施設・区域を一時定に使用している軍隊、及び(ハ)領空・領海を通過する等わが国の領域内にある軍隊が含まれることとなる(注1)。

(注1)「装備における重要な変更」に関する事前協議が前記(ロ)及び(ハ)の軍隊にも適用があることにつき政府の考え方は一貫している。(ロ)の軍隊につき地位協定の適用は明らかであるが、(ハ)の軍隊についても、例えば、領空通過中の米軍機がわが国において墜落して民家に損害を与えた場合等の補償問題が地位協定第十八条により解決されることからも明らかである。

以上から明らかなとおり、第三国を本拠として駐留する軍隊であっても、前記(ロ)又は(ハ)に該当することとなる限り「日本国における合衆国軍隊」として安保条約及び地位協定の適用を受ける。これらの軍隊が日本の領域内において在日米軍司令官の「指揮下」に入るか否かは本質的には米軍内部の問題であって安保条約及び地位協定の問うところではないと考えるべきである(注2)。

(注2)この点については、日本に配備された軍隊と一時的に日本にある軍隊とに分け、前者については在日米軍の指揮下に入るであろう、後者についてはその区署を受けることとなろうとの説明が行なわれることがある(例:衆・安保特五月四日及び十八日議事録、山内一夫「施設及び区域」時の法令昭和三五年第三六一号)が、本質的にはこれらの点に拘わる必要はないと考える。

また、在韓国連軍たる米軍がわが国にある際は「在日米軍」であるか「国連軍」であるかという議論は、これら米軍の日本国における地位が安保条約・地位協定により規律されることとなっている(吉田・アチソン交換公文等に関する交換公文第三項)ので実益がない。(注3)

(注3)この点については、「このような軍隊はある場合において国連軍たる性格と在日米軍たる性格と二重に持っている」との趣旨の岸総理答弁がある(衆・安保特四月十三日議事録)

2 安保条約第六条は、施設・区域の使用を許される主体として「(アメリカ合衆国の)陸軍、空軍及び海軍」を挙げているが、ここにいう「陸海空軍」とは、米軍隊を綜合的に表現したもの、即ち、米国の軍隊に属するもの全部の意と解すべきであって、施設・区域を使用する特定の部隊が米軍隊であると観念される限り、当該部隊の名称が陸海空軍のいずれにも当らなくても問題はないと考えるべきである。ちなみに、英文も「land, air and naval forces」とあって例えば「army,air force and navy」となっていないのは、通常の陸軍、空軍、海軍を意図した規定でないことの証左である。この点については具体的には海兵隊及び沿岸警備隊(後者は、ロランC―施設・区域―の運営維推に当っている)が問題とされるが、一九五六年の Armed Forces Act の第一〇一条は、「軍隊とは陸軍、海軍、空軍、海兵隊及び沿岸警備隊をいう」旨規定している。特に問題とされる沿岸警備隊は、平時は運輸省に所属する(戦時は海軍の一部として行動)が、いずれにしても常時米軍隊の一部である旨規定されている(The Department of Transportation Act of October 15,1966)。(注4)

(注4)ちなみに、「日本における沿岸警備隊の活動は、米国防省の任務を支持するものであり、沿岸警備隊の指命と同時に在日米軍司令官の指令下にある」旨の在日沿岸警備隊指揮官の昭和三四年六月十六日付米保長宛書簡がある(本件書簡が国会等で引用されたことはない模様)。

3 次に、安保条約第六条に基づく施設・区域の提供は、米軍隊に対してなされるものであり、従って、米軍がこれら施設・区域を利用して第三国軍人を訓練することは認められない。この点は、昭和四六年六月十七日の沖縄返還協定署名に際してのマイヤー駐日米大使の声明においても「地位協定が沖縄返還と同時に沖縄に適用され、同協定には日本における第三国人の軍事訓練を許可するいかなる規定もないことにかんがみ、米国政府は、米陸軍太平洋情報学校を沖縄から撤去します。」旨述べられている。

なお、第三国人が視察、連絡等のため施設・区域を訪問したりすることがあるが、かかることは、米軍が同意する限り、わが国民による場合を含め、当然認められてしかるべきである。なお、右の第三国人は、地位協定非該当者であり、従って、出入国に当って通常の手続を踏むべきことは当然である。

4 最後に、施設・区域の使用は、米軍隊に対して認められるものであるから、軍の機関ではない通常の米政府機関が施設・区域を使用することは認められない。従って、沖縄返還前に沖縄で通常の政府機関として活動していたFBIS(外国放送情報局)は、そのままでは復帰後施設・区域の使用を認めえなかったので交渉の結果、米側は、これを在沖縄米陸軍の一部に編入するとの内部手続をとった。(注5)

(注5)FBISの任務は、外国(主として共産国)の通常のラジオ放送を傍受し、これをとりまとめたもの等を米政府機関に配付することであり、CIAの管轄下にある(政府としてはCIAということはできる限り避けている。)。FBISの機関は、在京米大使館の一部としてその人員を有しており、財政その他管理面で同大使館の援助を受けている。なお、千歳の米通信基地(施設・区域)の中にもFBISがあり、これも、沖縄の場合と同様、米陸軍に編入されている。

復帰前後を通じて沖縄のキャンプ桑江(復帰後施設・区域)で活動していた米国務省の一機関たるAID(後進国援助を任務とする。)は、復帰後その実体が明らかとなり、昭和四八年三月AID事務所は、施設・区域外に移転された。(注6)

(注6)沖縄のAIDの主たる任務は、米軍の廃品を譲り受けこれを援助に振り向けるための軍隊との調整・連絡等であったので、米側としてはAIDのかかる活動は、軍隊としての側からみれば必要(廃品の処理)な活動であるので地位協定上問題なしと判断していたものとみられる(米軍は、安保条約・地位協定違反をしないとの建前からすれば、日本政府としては少くともこのように説明せざるをえない。)が、いずれにしろ米政府の通常の機関が施設・区域内に事務所を構えて活動することは地位協定上説明が困難なので、交渉の結果、米側としても当該事務所を施設・区域外へ移転させることとしたものである。

つづく