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以下は、ゴミ弁連のメーリングリストにおける議論から梶山正三弁護士がバグフィルターがもつ問題点、留意点について書かれた部分を当人の承諾を得て掲載するものです。 現在、政府ががれき広域処理において焼却処理する際に、バグフィルターにより放射性物質が99.99%除去されるなど、およそ根拠薄弱かつ第三者による実証試験データがないまま、基礎自治体、市民に言い放っています。 梶山弁護士は、従来のダイオキシン類などの有害物質に加え放射性物質の除去についても言及されています。参考にしてください。 バグフィルターについては、材質的には現在多数のものが実用化されています。 私は、バグフィルターの構造、機能、その限界については、多数の書面を書いていますが、そのほとんどか裁判所向けの文書です。 比較的最近(といっても、2〜3年前です)書いたものとして、2つ添付します。 なお、バグフィルターの機能に関しては、先月、東京地裁立川支部で 相手側技術者の証人尋問を担当しました。そこでの尋問内容も一部、下記に取り入れています。 構造、機能の概要については、添付ファイルに要点を述べています(準備書面16の15p以下等)。 上記文書の説明に補足して要点を述べます。 1 バグフィルターの濾過効果は、「確率的」です。 その意味は、粒径が大きいものとは濾過される確率が高まるが、全部濾過されることはない。その逆に粒径が小さいものでも、低い確率で除去されることになります。つまり、ある粒径を境に、それ以上は濾過されるが、それ以下は濾過されないというall or nothingの関係は成り立ちません。 2 バグフィルターの濾過効果は、日々変動します。 バグフィルターはいわば「自らの目詰まりを利用して濾過効果を高める」という原理に基づいているので、未使用のバグフィルターほど濾過効果は低い(準備書面16の16ページのグラフ)。 使用するにしたがって、粒径の小さいものでも、濾過される確率は高まりますが、それとともに圧力損失が高まり、破裂の危険が増すので、定期的に「払い落とし」(ジェット気流による吹き払い方式もあります)をするので、その直後には、圧力損失は減少し、同時に濾過効果も低くなります。 3 いずれにしても、バグフィルターの濾過効果については、以下のことが言えます。 第1に、気体状(気体分子)のものは濾過できない。 第2に、2μmという比較的大きな粒子(バクテリアの平均粒径の2倍程度)でも、未使用のバグフィルターでは50%程度しか除去できない。 逆に濾過効果は「確率的」ですから、そのようなバグフィルターでも、0.05μmという小さな粒子でも、その一部は濾過できる。 4 現実に使用されているバグフィルターがどの程度、有害物質の除去に効果を上げているかというのは、「理論的な視点」と「実証的データ」で議論する必要があります。 前者の「理論的視点」とは、主として、バグフィルター入口温度における「当該物質のガス化割合」(蒸気圧)の問題です。 5 前者の「理論的視点」に関して、廃棄物焼却炉では、以下の点に特に留意すべきです。 ・廃棄物焼却によって生ずるダイオキシン類に関しては、その15〜20%は除去できない(200℃におけるダイオキシン類のガス化割合) ・重金属については、その融点(MP)又は沸点(BP)以下でもガス化する(蒸気圧が観測される)ので、常にその一部はバグフィルターを通過して、環境中に排出される。 ・注意すべきは、多くの論者は、バグフィルターにおける重金属の「ガス化割合」を当該温度における重金属の「単体」の蒸気圧で論じているが、このような想定は現実的ではない。 ・廃棄物焼却炉中では、多くの重金属は、「単体」ではなく、塩素化合物、硫酸塩、炭酸塩、酸化物等になっています。注目すべきは、「塩素化によるMP及びBPの低下」現象です。 塩化物の多い廃棄物(多くの廃棄物がこれに該当します)中では、主たる燃焼室で多くの重金属が塩素化合物になります。その結果MP及びBPの低下が生じ、ガス化割合が著しく高まるのです。つまり、バグフィルターで補足されず、大気環境中に多くの重金属が「ガス化」して放出されます。 ・一例を挙げます。銅は、「1300℃」程度のガス化溶融炉でも「ほとんどガス化しない」と論ずる人が多いのですが、その論拠はMP1084℃、BP2567℃ということにあります。もちろん極微量であれば、1300℃でもガス化は否定できませんが、通常は「無視できる程度」とされます。ところが、塩化銅はMP498℃、BP993℃と劇的に低温になります。 その結果として、1300℃では容易に全量ガス化してしまいます。仮にバグフィルターの入口温度を200度まで下げても、銅の単体の場合と比して、桁違いに大量の銅が環境中に放出されます。 バグフィルターではなく、仮にサイクロンだけを使用していた場合には、「ほぼ全量が大気環境中に排出される」という結果になります。 6 セシウム、ヨウ素、ストロンチウムなどの、放射性同位元素については、その化学的性質は、安定型同位体と理論的には、ほとんど変わらないはずです。 セシウム単体は、MP28℃、BP671℃と、常温では液体に近い。当然、単体の場合には、極めて蒸気圧が高く、200℃程度でも多量のセシウムがバグフィルターを通過するとみなければなりません。 しかし、現実には、余ほどの還元的雰囲気でない限り、単体では存在せず、塩化セシウム等の塩類になっているはずです。この場合は(他のアルカリ金属元素の通有性ですが)銅などと異なり、MPとBPは上昇します。それぞれ645℃と1295℃です。いずれも、ガス化溶融炉ではほぼ全量ガス化しますが、バグフィルターの入口温度では相当の部分が固体化して、ガス化したままで放出されるのは一部にとどまります(その程度については、実証データが必要です)。 ヨウ素は、MP114、BP184℃と、単体では極めてガス化しやすいのですが、廃棄物焼却炉中ではその多くはナトリウム塩、カリウム塩と推定されます。ヨウ化ナトリウムはMP660℃、BP1304℃と重金属の塩化物の場合と逆に高くなります。この場合、200℃でも一部はガス化してバグフィルターを通過します。その程度については実証データが必要です。 ストロンチウムの場合は、いささか他の元素と異なる現象があります。ストロンチウム単体はMP777℃、BP1382℃です。塩化ストロンチウムについては、6水和物結晶体の存在が知られていて、6水和物のMPは61℃と極めて低温なのです。ところが無水物のMPは874℃、BPは1250℃です。つまり、無水物については、塩素化による低温揮発現象は顕著ではありません。 7 放射性元素の廃棄物焼却炉における挙動については、多くの理論的仮説(推定)は可能ですが、結論としては実証データが不可欠です。 いずれにしても、「バグフィルター神話」(バグフィルターで100%除去できる」は成り立ち得ません。問題は、「どれだけのものが環境中に排出されるのか」という程度問題です。私が担当している裁判では、その点に関しても興味あるデータが得られています。添付の準備書面23にその一部を記述しています(14p以下)。 ・焼成系はバグフィルターを二重に装備し、乾燥系はバグフィルターを1つ装備しているが、水銀は1日当たり40グラムを大気環境中に放出している。 ・粉じんについては、焼成系はバグフィルターを二重に装備しているが、バグフィルターを2つとも通過する(濾過されない)粉じん量は1日当たり20グラム、年間7.3キログラムに達する。 ・窒素酸化物(これ自体はガス状ですが、バグフィルター入口前で消石灰と活性炭噴霧で固体粒子にしているはず)は、バグフィルターを二重に通過させても、焼成系、乾燥系の合計で142kg/日、年に300日稼働として、年間42トンの窒素酸化物を大気中に放出しています。 ・これらの実証データは、事業者による「いいとこどり」のデータに基づいているので、「過少評価」の可能性が高いのですが、それでも、バグフィルターによる有害物質除去機能は、とても欠陥の多いものだと言うことは言えます。 8 バグフィルターのメンテナンス、破裂等の事故発生の蓋然性、バグの交換のための差圧測定等、他にも興味ある問題はありますが、長くなるので捨象します。ただ、バグの使用については、通過速度が100cm/min程度が最適とされています。 これを超えると濾過効果は落ちてくると見ていいでしょう。 9 電気集塵機(EP)については、EPがダイオキシン類の「デノボ合成装置である」という事実が多くのデータで実証されているので、廃棄物焼却炉では、現在ほとんど使用されていません。 希に、「化石」としてみることはあります。 長くなって失礼しました。とりあえず、終わりにします。こ バグフィルターの機能についてメールしましたが、大切なことを忘れていました。 ご存じの方も多いと思いますが、補足します。 1 重金属類に対するバグフィルターの濾過機能については、既存の多数の廃棄物焼却炉(バグフィルター付き)が稼働しているので、そこで 実証データが得られるのでないかというご意見があるかも知れません。 2 ところが、ご存じのように、廃棄物焼却炉については、排ガス中の重金属については、排出規制が一切ありません。そのため、ルーティンワークとしては、 重金属の測定データはないのです。重金属類の排出を一切規制しないという異常事態は、多くの識者には理解不能と思いますが、それが現実です。 3 水銀については、その周知の有害性の故に(その意味ではヒ素、カドミウム、鉛等も同様ですが)、事業者としても若干は気が咎めることろもところもあるのでしょう。規制はないが「自主規制」と称して、測定するところも少しずつですが増えています。 4 東京都などでは、年に1回程度「排ガス中の重金属濃度」を公表していますが、これは、データ(及び測定方法)を見れば分かるように、「排ガス中の粉じんに含まれる重金属濃度」であって、「気化してバグフィルターを通過した重金属濃度」ではないのです。似て非なるもので、これでは重金属排出の実態は分かりません。 5 重金属の塩素化による気化とその排出量はおそらく予想外に多いと思います。重金属の塩素化による気化とそれを利用した除去技術はセメント業界では古来から周知の技術で エコセメント製造施設でも同様です。先月の裁判所における事業者側技術者もその点は明確に認めていました。単体よりもはるかに気化しやすくなるという点に特に留意する必要があります。 今日は。梶山です。煙突からの水蒸気量(厳密には、目で見えるのは「湯気」であって水蒸気ではありません)(未燃の炭化水素の可能性や塩化水素の水和蒸気の可能性もあります)は、水分含有量と排ガス温度、それに外気温で決まります。 ですから、寒い日は水蒸気(湯気)は多くなります。バグフィルター自体は、水蒸気を捕捉する能力はないので、バグフィルター使用の有無と水蒸気は直接の関係はありません。EPに比べて低温の排ガスになるので、一般に目に見える水蒸気量(湯気)は増えます。 ただし、バグフィルターを使用した場合は、水蒸気が「湯気」になるのを防ぐため、及びその後の触媒分解反応をさせるため、排ガスの再加熱装置を付けて湯気の発生を防ぐのが通常です。 産廃焼却炉ですから、それはやってないのでしょう。「バイパス」の件ですが、これがないと、立ち上げ、立ち下げ時にバグフィルターが破裂する危険があるので、あるのが普通ですが、県によっては指導要綱などで禁止しています。その点県に確認してください。 なお、「禁止」は、バイパスを常時使用するのを防ぐ趣旨ですが、禁止すると逆に、立ち上げ・立ち下げ時には、バイパスもなく、しかも、バグフィルターも使用できないという最悪の状況を迎えることになります。つまり、この場合は、排ガスを煙突以外の場所から排出するか、場合によっては、冷却塔も通さずに煙突に直結する別のバイパス設置の危険もあるのです。 濛々たる白煙の「排ガス分析」が必要と思います。咽喉の「イガイガ」は塩化水素が排出されている疑いがあります。 完(まとめ 池田こみち) 2012.3.30 |