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「共謀罪」
与党が民主党案丸呑み

〜政治の世界は一寸先は闇


弁護士 海渡 雄一

2006年6月1日



1日の事態の急展開

 今朝は今国会見送りと思われていた共謀罪が、与党の民主党案丸飲みという信じられない展開の中で、明日にも採決かという緊迫した情勢を迎えている。

 本当に「政治の世界は一寸先は闇」といわれるとおりの展開だ。

 昨日1日、政府与党国対は共謀罪に関して民主党案に賛成する意向を民主党国対に明らかにし、法務委員会理事会で、民主党が与野党協議で述べている論点についても修正するとの意向を示した。本日2日の法務委員会において、与党修正案を撤回し、民主党の明朝新たに提案する修正案に賛成する意向を明らかにした。

 犯罪の越境的性質を要件とすること、対象犯罪を大幅に限定すること、犯罪の予備的行為を必要とすること、自首減軽の規定を原則として削除する、共謀の定義を明確化することなどの修正を政府・与党が受け入れることを意味する。

これまでの虚偽答弁の責任は

 しかし、ここには重大な落とし穴が隠されている。これまで、政府、与党は民主党案によって、条約の批准はできないのだと主張してきた。このような政府の見解が、180度転換されたのだろうか。もし、民主党案によっても、条約の批准は可能であるというのであれば、これまでの政府・与党の答弁は全くの虚偽答弁だったことになる。その政治的責任の所在を明らかにすることなく、単に法律を成立するためにご都合的に態度を変更するだけですまされる問題ではない。

重大な落とし穴が

 もし、民主党案によって、条約の批准が可能であるかどうかは今後の政府の交渉に待たなければならないというのであれば、このように性急に成立を急ぐ必要は全くない。

 政府が国連事務局と折衝し、批准できることの見通しをつけてから、民主党案と同内容の案を政府案として提出してこれを成立させればよいのである。

 どうして、政府・与党はこのような当然の手続きをとろうとしないのか。

 与党首脳は、いったん共謀罪を成立させて、あとで(越境性をはずすような)修正を掛ければいいといったとも伝えられる。

 本国会において民主党案を可決成立させた場合、政府は後にこの法律内容では批准は不可能であったとして、次の臨時国会以降に現在の与党修正案の内容に沿った再修正案を提案してくる可能性があると見なければならない。

 このような選択肢を残すために、政府与党はみずから修正案を再提案するので
はなく、民主党案に賛成するという通常では到底考えられない手段をとり、このような修正提案への逃げ道を残しているのである。


民主党は追いつめられた政府・与党を救済するな

 いまやるべきことは、明確だ。これまで、修正案を掲げて法案に反対してきた民主党にとって、与党の民主党案賛成という展開の中で反対を貫くことにとまどいもあるであ ろう。

 しかし、多くの国民の期待は共謀罪を今国会で成立させることでないことは明らかだ。与党提案には、このような落とし穴が隠されている危険性を指摘し、今国会における採決には反対して、民主党案を軸に協議を継続するよう意見を集中しよう。

 この法案は国民の基本的人権の保障と刑事司法体系の根幹に関わる重大な立法である。こんなバタバタとしたやり方で決着を付けるやり方は絶対におかしい。明日の法務委員会は午後1時からである。

 結論はまだついていない。あきらめるのは早すぎる。やれることをやりきろう。