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八丈島の処分場問題・
住民運動の行方
岩崎由美(八丈島)
 2008年11月5日 無断転載禁

 東京都八丈島で今、最終処分場建設計画をめぐる問題が大きくクローズアップされており、先日、池田こみちさんにより「島嶼地域のごみ処理のあり方を問う」として、ブログにも紹介していただいた。

 この問題は、のんびりとした島に脈々と続いてきた「事なかれ主義的行政体質」 に対し、住民が大きく切り込む近年まれに見る機会となったようだ。ここでは、住民の立場からこれまでの問題点と現在の状況について報告しようと思う。

処分場予定地となっている水海山(みずみやま)
出典:林冬人氏(八丈島在住)

1,候補地を選ぶにあたっての「条件」は

 八丈島における最終処分場建設計画において、03年8月、21カ所の候補地から最初の予定地が選定される。当初事業主体である東京都島嶼町村一部事務組合(一組)は「買収には自信はある」と明言したが、2年半にわたる地権者との用地交渉が決裂し06年4月同地での建設を断念。その後6カ所の候補地から新たな予定地 「水海山(みずみやま)」が示されたのが06年12月であった。 町長自身「できれば手をつけない方がいい」と言っていた場所である。

 この時、一組が最も優先した候補地の条件は「水資源への安全性」や「環境への配慮」よりも、「買収に手間取らない場所である町有地」に絞られた、それがそもそもの誤りの第一歩だったように思う。

2.計画に対する住民の不安

 07年9月から実施設計と生活環境影響調査が始まり、08年4月住民説明会で初めて具体的な計画が示された。最初の候補地より環境や水資源へのリスクが高い場所であったにもかかわらず規模の縮小は検討されなかった上、水源などへの影響に関する調査が実施されていないことが明らかになり、計画に対して住民の不安の声が上がり始める。

 八丈島をフィールドとする地質学関連の研究者も計画に対しては懸念を示唆。町議会でも安全性が議論になり、詳細な調査と第三者機関の設置を求める要望書が有志議員によって一組へ提出されるものの、現行の調査以外は実施しないとの回答だった。もしもこの時点で、専門家の意見を仰ぐなど住民の不安に対して配慮し、その意見をくんでいいたならば、今とは異なる展開になっていたことだろう。

3.信頼できない調査内容

 9月に生活環境影響調査結果が縦覧され、22、23日に住民への説明会が開催される。この席で一組は、住民の質問に対して「法令に沿っている。安全性に問題はない」との回答に終始し、追加調査や第三者機関による検討機関の設置を否定するなど強気の姿勢をみせていた。

 しかし説明会の終盤、前日の説明会で「(この件に関して)多くの専門家を知っている」と豪語しておきながら、「あれは勘違い。学者は知らないし、相談したことはない」と発言。この瞬間、調査結果と町執行部への住民の信頼は一気に失われていった。

 ある研究者はこの調査結果について「開発面積に対して全体に調査不足。理解できない地質図が示されるなど、住民を素人となめきった調査内容である」と評している。しかしその素人でさえ多くの疑問を感じる調査内容であり、水海山に処分場を建設することへの不安はますます増大していった。

4.住民たちは行動する

 調査結果を受け、「調査に対する意見書の提出の呼びかけ」と「納得できないままの計画凍結などを求める署名活動」という2つの住民運動が起こる。署名については「計画に反対するのでなく、住民と行政が一体になってよりよい施策を見いだしていくための時間がほしい」という純粋な思いがその基盤であったが、行政側にはそれが伝わらなかったようだ。

 島外からの「八丈島島民のエゴ」なる匿名投書を地元紙に町の広告として掲載したり、活動の中心人物に対して耳を疑るような言葉を投げかけるなど、品性に欠けた行動には多くの住民が失望している。もちろん、そういった動きはほんの一部で、その他の町職員はこの問題を真摯に受け止め憂慮していると信じたい。それにしても、住民の合意を得られぬままの計画の遂行をなぜここまで急ぐのか、それについても大きな疑問が残る。

5.学びの機会に

 人口およそ8,500人の八丈島。これまで多くの島民は、行政施策に対して強く異議をとなえるようなことはなかった。ゴミ問題についてもほとんどを行政任せにしていたという反省は大きい。しかしこれを契機に、島におけるゴミの処理に関する課題、ゼロ・ウェイスト宣言に見る国内での先進的事例、再資源化の新しい技術、施設の建設計画の流れやそれに付随する予算など、私たちは多くのことを学び始めている。

 最も大きな意義は、実はそこにあるのかもしれない。11月17日に一組の議会が開催され、予定地についての最終的な判断が下されるという。結果はどうあれ、ここに関わった住民は今後八丈島のゴミの問題に積極的に取り組むはずだ。その時、行政担当者は今の自らの行動をきっと後悔するだろう。この後の展開についてはまだ未定であるが、八丈島における新しい時代を自分たち開いていこうという信念は、少しずつ具体的な行動につながっていくことだろうと私は確信する。


三原山全景
出典:岩崎由美(八丈島在住)