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薩摩川内市役所訪問 

原子力防災計画について

  池田こみち

掲載日:2014年6月3日
独立系メディア E-wave Tokyo
無断転載禁



 真夏日が続く5月末の5日間、鹿児島県薩摩川内市に出かけた。

 2012年6月に災害瓦礫広域処理の問題で鹿児島市内での講演を行うために立ち寄って以来2年目の帰郷となる。


鹿児島県 薩摩川内市   出典:グーグルマップ

薩摩川内市役所訪問
 薩摩川内市原子力防災計画について
 

 薩摩川内市は、九州電力川内原発の事故時に甲状腺被ばくを防ぐ安定ヨウ素剤の服用に関する住民説明会を6月中旬に開始し、7月27日に一斉配布すると発表した。

 川内原発は原子力規制委員会の優先審査を受けている。規制委が示した手順に基づき配布されるのは初めてとなる見通しで、配付対象は、原発から半径5キロ圏内(PAZ:滄浪、寄田、峰山、水引の4地区)に住む3歳以上の約4万7千人(約2400世帯)とされている。

 いよいよ再稼働を目前にして、自治体の対応が現実味を帯びている。

 一方、原発から半径30kmまでにUPZエリアを対象に策定された原子力防災計画では、どのような対策、避難の計画が盛り込まれているのか確認してみることとする。

 高齢者が多い親戚の家には、厚手のビニール製ケースに入った「原子力防災ハンドブック」、「薩摩川内市原子力防災計画のおしらせ」、「広域避難計画」などが一式入れられたものが市役所から配付されていた。

 しかし、どの家も、そのパッケージは居間の棚の奥にしまわれていて、あまり身近な情報となっていない様子だった。具体的な被害の想定や避難の方法等についての説明会などもまだ行われていないと聞いた。

 折しも、南日本新聞の一面に私達の環境総合研究所(東京都目黒区)が実施した川内原発の事故時シミュレーション4風向のカラーグラフィックスが掲載された翌日の5月29日、薩摩川内市役所を訪ねた。

 対応してくださったのは総務部防災安全課の課長代理 寺田和一氏である。私は名前は名乗らなかったが、陽成地区の者として、原子力防災計画について説明を求めた。

 事前に薩摩川内市のホームページを見たが、トップページには一切、原子力防災計画のバナー等はなく、検索してやっとPDFが見られるといったお粗末な情報提供ぶりだったので、市民への説明や情報提供も推して知るべしなのではと危惧された。

薩摩川内市 Webサイト 原子力防災計画 計画編、資料編の掲載ページ
http://www.city.satsumasendai.lg.jp/www/contents/1368765753815/index.html

 まず、市民に配付されている以下資料を頂戴した。

@薩摩川内市原子力防災計画のお知らせ (PDF)
A薩摩川内市広域避難計画 陽成地区用 (PDF)
Bあなたと家族を守る原子力防災ハンドブック(薩摩川内市)(PDF)
C原子力防災のしおり(鹿児島県)

 その上で、以下の項目について確認した。

Q1 原子力防災計画についてどのように市民に説明しているのか。
Q2 説明会への参加状況はどの程度か。
Q3 今後はどのように市民に情報提供していく予定か。
Q4 SPEEDIの活用についてどう考えているのか。
Q5 なぜ、地区ごとに1カ所の避難先なのか。

<防災計画・避難計画の説明会>

 まず、防災計画や避難先の資料は、全戸にプラスチックケースに入れて配付した。それは、紙だけで配付すると広告と思われて廃棄されてしまうので、捨ててはいけない資料ということが分かるようにケースに入れたとのこと。ただ、それでもどれだけの市民がしっかり目を通してくれたかについては心許ないという。

 高齢者が多い親戚の家には、厚手のビニール製ケースに入った「原子力防災ハンドブック」、「薩摩川内市原子力防災計画のおしらせ」、「広域避難計画」などが一式入れられたものが市役所から配付されていた。


写真:薩摩川内市が各戸に配布している防災関連資料パッケージ

 説明会は、これまでに、市内ではわずか1回、5月26日の入来文化ホールで開催されたのみであった。これは樋脇、入来、東郷、祁答院の4地区を対象としたもので、対象人口は21,000人を超えるが、参加したのは70名と少なく、広域避難先や避難方法について不安の声が上がっていたという。

 市は、今後、毎月26日に各地で説明会を開催するとのことで、第二回目は6月26日(木)の夜(19時〜21日)は川内文化センターホールにおいて薩摩川内市民全員を対象に鹿児島県と共催の説明会が開催される予定となっているという。市の案内を見ると、事前の参加申し込みが必要となっていた。

 しかし、市民にしっかりと防災計画の中身や避難について説明するためには、よりきめ細かく、公民館単位での説明会も不可欠となるだろう。まして、6月は田植えなどで農家は繁忙期となり、参加が難しい人も多いはずだ。

 寺田氏は、住民の側から声をかけてもらえれば、市から説明に出向くので市民も積極的に機会を設けてほしいと話していた。南日本新聞が一面に取り上げた事故時シミュレーションマップが市民の関心を高める上で大きな役割を果たしたことは間違いない。

 説明会では、どうしても高齢者や農業者、女性には馴染みのない難しい専門用語も多く、取っつきにくいものとなりがちである。実際に、細かいところまで理解してもらうのは難しく、寺田氏は「PAZ、 UPZ、EAL、OILなどの意味はともかく、まずは言葉を字面や音で覚えてもらって、防災無線などからそういう言葉が聞こえたら、自分の家が含まれる地域のことだとして、行動してほしい」と話していた。なかなか前途多難である。

 福島から遠く離れた鹿児島では、福島県民が経験し、今も味わっている避難の際の不安や避難生活の苦労をなかなか実感できないのも無理はない。だからこそ、より分かりやすい情報をいかに提供できるかが重要となる。

◆【読売/西日本本社】
川内原発の防災・避難計画 薩摩川内で説明会

2014年05月27日
http://www.yomiuri.co.jp/kyushu/news/20140527-OYS1T50052.html

 県と薩摩川内市は26日、九州電力川内原子力発電所1、2号機の防災と避難計画に関する説明会を同市入来文化ホールで開いた。川内原発から30キロ圏内の9市町で順次行っており、立地自治体では初めて。樋脇、入来、東郷、祁答院地域の住民約70人が出席した。

 県の担当者が、原子力災害時の行政の役割などを盛り込んだ防災計画について説明。市の担当者は、30キロ圏内に住む住民約9万3400人を対象とした市の避難計画の概要を話し、避難先や避難経路、安定ヨウ素剤の効用などを解説した。

 避難先は鹿児島市、垂水市、南さつま市など6市1町。原則、自家用車で逃げることになっているが、車を持たない住民向けには薩摩川内市がバスを用意するとしている。

 説明会に参加した住民からは「自家用車がなく、バスで避難する人は多いと思う。どう手配するのか」といった質問が挙がった。これに対し、市側は「県バス協会と協定を結び対応する予定だ」などと答えた。


<放射性物質の拡散予測とSPEEDIの活用>

 川内原発がもし事故を起こした場合、放射能を含む風はどこまでどのように流れるのか、は市民にとって最も関心の高い問題である。しかし、国会質疑において山本太郎議員が避難に際してのSPEEDIの活用の可能性について質問したところ、事前に各自治体にSPEEDIによる予測情報を提供することは考えておらず、事故後の予測と実測値を元に避難を指示するとの回答を行っているように、開発に数100億円をかけたSPEEDIは無用の長物となっている。

 薩摩川内市の場合はというと、既に国(SPEEDIを所管する文部科学省の外郭団体である原子力安全技術センター)に薩摩川内市の気象データと地形データを提供してあり、予測できる体制となっているが、事前の予測結果は提供されていないとのことだった。

 つまり、ここでもSPEEDIは事前に市民に対して、事故時の汚染状況を提供することはなく、あくまでも事故後に行うというのである。また、寺田氏は、市内には60数カ所のモニタリングステーションがあり、また、市役所職員がもっている放射線測定器などで測定し、避難の方向などについて市民に連絡する予定となっていると話した。

<広域避難計画と避難方法>

 薩摩川内市の広域避難計画を見ると、以下のように、市内をいくつかの地域と地区に分け、地区ごとに、避難先を定め市民に示している。いずれも避難先は30km圏外の自治体で、避難先として受入の合意を得た地域とされている。

■PAZエリア(5km圏内)
 川内地域:滄浪地区、寄田地区、峰山地区、水引地区  →  鹿児島市

■UPZエリア(10km〜30km圏内)
 川内地域:亀山地区、湯田地区、西方地区        → 姶良市
 川内地域:可愛地区                      → 霧島市
 川内地域:育英地区                      → 曽於市
 川内地域:川内地区、平佐西地区、平佐東地区、隈之城地区→ 鹿児島市
 川内地域:八幡地区                      → 垂水市
 川内地域:高来地区、城上地区、陽成地区、吉川地区   → 湧水町
 樋脇地域:樋脇地区、倉野地区                → 鹿児島市
 樋脇地域:野下地区、藤本地区、市比野地区       → 南さつま市
 入来地域:副田、清色、朝陽、大馬越、八重の5地区   → 南さつま市
 祁答院地域:上手地区、大村地区、等々力地区、藺牟田地区→ 南さつま市
 里地域:里地区                        → 上甑町
 上甑地域:上甑地区一部(中野、上甑町江石)      → 上甑町

 ちなみに、陽成地区(人口は700名弱で高齢化が進んでいる過疎集落)にすむ住民に話を聞くと、部落でマイクロバスを出し、避難先の湧水町体育館まで行ってみたところ、平常時でも到着まで1時間以上かかり、事故が起きたときにほんとうに安全に避難できるのか心配になったとのことだった。

 渋滞も予想されるし、高齢者が集合場所の公民館まで歩いて行くのもままならない。また、避難先はいずれも町立の体育館などで、80歳を過ぎた高齢者が避難生活を送れるのかという不安も口にしていた。一部の高齢者は、「そうなったら、避難せずに家にじっとしている」と話している。

 こうした実態を市役所に問いかけると、できるだけ地区内で高齢者、障害者、要介護者などの状況を把握し、相互扶助で避難して頂くことになるが、市役所から支援に行くことも検討しているとの回答だった。指定避難先に避難しない場合にはどこに行くかを地区の人に伝えてもらいたいとも話していた。

 それよりも何よりも、各地区の住民が自分たちの避難先は「○○町」と固定的に考えていることが大きな問題となる。まさに、事故時の気象条件によって避難すべき方向はまったく異なるからである。また、事故の規模によっては、30km圏外にでただけでは不十分なこともあり得る。

 現時点では、指定された避難先に二つのルートで避難することが計画書に記載されているが道路名だけではわかりにくいとのことで、道路を色分けした広域の地図を作成し、今年度中に各戸に配付する予定とのことだった。

 しかし、薩摩川内市に編入された甑島の住民(人口約5000人)については、北部の里地区と上甑地区が対象地区となるが、避難先は同じ上甑町で、島から外にでる選択肢が示されていない。万一、東の風が強い時期であれば、まったく逃げ場を失い、途方に暮れることだろう。

 同様に、沿岸域や島嶼部の住民の避難路については多様な交通手段、避難方法を検討しておくことが不可欠である。

終わりに

 5月30日の新聞各紙、TVニュースでは、鹿児島県が行った避難に要する時間を予測した結果を公表した。


 鹿児島県は29日、九州電力川内原発(同県薩摩川内市)の重大事故を想定した避難時間の推計を公表した。原発近くの住民に最初に避難を指示した後、半径30キロ圏内の緊急防護措置区域(UPZ)に住む9市町の住民約21万5600人の9割が30キロ圏外に出るまでの時間は最短9時間15分、最長で28時間45分とした。

(中略)

【解説】九州電力の玄海、川内両原発で、事故時の住民避難時間の推計が出そろった。スムーズな避難には(1)5キロ圏の住民を先に逃がす(2)5〜30キロ圏の住民は5キロ圏の住民が避難している間、屋内で被ばくを避け、放射性物質の数値が大きく上昇すれば30キロ圏外へ向かう−という「2段階避難」が有効と結論づけた。

 一方で、事故に不安を感じた5〜30キロ圏の住民が、行政の指示がないまま一斉に自主避難すると、緊急性が高い5キロ圏住民の避難が遅れる上、30キロ圏全域で避難時間は大幅に伸びる。住民がパニックに陥らずに屋内退避を決断するには、「放射性物質はどの方向に放出されたのか」「福島第1原発と比べ事故の規模はどの程度になりそうか」などという基本情報が提供されることが大前提となる。

 福島原発の経緯から、事故直後に行政や電気事業者が適切な情報を出せるのか、いまだに国民の不安は根強い。テレビやインターネット、地域の情報インフラを使いながら情報提供の仕組みも確実にしないと、原子力規制委員会や自治体側が推奨する2段階避難は、絵に描いた餅になりかねない。 

出典:西日本新聞Webサイト
http://www.nishinippon.co.jp/wordbox/word/7721/10470

 このニュースを見て、市民の不安は一層大きくなったことは間違いない。果たして、薩摩川内市総務部防災安全課が市民98000人を安全に避難させ、その後に災害関連死などが多発しないように市民に安心を提供できるのか、これは一自治体の力では到底対応が難しい問題であると改めて感じた。

 今も続く福島第一原発の避難者の実態から、私たちは何を学ぶべきなのか、冷静に考える必要がある。答えはひとつしかない。避難を考えなくても良いエネルギー政策への転換、すなわち、人間としての尊厳や幸福を奪うような原発を止めること以外にない。止めてもなお、莫大なコストと環境負荷を余儀なくされるのが原発なのだから。

 さすがに、第3号機の建設計画は3.11以降、ストップしているが、薩摩川内市商工会議所や市長、市議の多くは、経済活性化の面から再稼働はもとより、3号機の建設推進を求めている。3号機は改良型加圧水型軽水炉(APWR)で世界最大の159万kW定格出力が予定されており、平成31年に稼動開始とされていた。

 薩摩川内市内にも民間事業者による風力発電が動き始めている。豊富な太陽、豊かな海と風、地熱など自然の資源を生かしたまちづくり、エネルギー開発こそ市民に幸福をもたらすものであることを改めて確認するための議論こそ始めるべきである。

つづく