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都内の土壌中セシウム濃度の実態

池田こみち
21 May 2011
独立系メディア E-wave Tokyo
無断転載禁


 5月の新茶の季節になり、神奈川、栃木、茨城など各地の茶葉から国が定める暫定基準値(500Bq/kg)を超える高濃度のセシウムが検出され、すでに福島第一原発からの汚染が300km圏に迫っているのではないか、という不安が広がっている。

 そうした折り、5月15日の朝日新聞に東京都内の土壌中のセシウムの濃度が茨城県を越す高濃度であったことが報じられた。調査は、近畿大学の山崎秀夫教授(環境解析学)が行ったもので、新聞には以下のようなデータが掲載されていた。

表 首都圏の土壌の放射性セシウム濃度(数値はBq/kg)
試料採取地 濃度 採取日
東京都千代田区二重橋横           1904 4月10日
東京都千代田区皇居東御苑天守閣跡  1311 4月10日
東京都中央区築地  1147 4月10日
東京都江東区亀戸  3201 4月16日
埼玉県朝霞市荒川土手   484 4月10日
千葉県千葉市千葉モノレール天台駅前  1327 4月11日
千葉県千葉市JR千葉駅前   358 4月14日
千葉県館山市   127 4月20日
茨城県神栖市   455 4月20日
福島県福島市光が丘 27650 3月19日
出典:朝日新聞2011年5月15日 朝刊

 見ると、都内4地点の中で江東区亀戸は3000Bq/kgを超えており、飛び抜けていることがわかる。この記事をみた多くの読者の間に、都内の土壌中の汚染はどの程度なのかと心配が広がっている。場合によっては、子供たちを外で遊ばせない方が良いのではないかという不安である。

 水田における稲作の作付け制限となる濃度は、セシウム134とセシウム137の合計値で5000Bq/kgとされている。そこまでには至らないものの、3000Bq/kgは明らかに高い濃度だからである。

 東京都環境局に問い合わせたところ「都民の方から都内の土壌について測定はしていないのか、測定すべきではないか、といった声が多く寄せられているが、現時点ではまだ東京都としての測定は行っておらず、現在、寄せられている都民の声を「上」にあげて検討しているところです。」とのことだった。

 そこで、都内の土壌中放射性物質の濃度は平常時どの程度なのかについて調べてみると、次のようなことがわかった。環境中の放射能測定については、各県が毎年行っており、平常時のバックグランド濃度として国が集約し、取りまとめている。それを、「日本の環境放射能と放射線」として、全国の経年のデータが公表されている。文部科学省の委託業務として(財)日本分析センターが運営しているサイトである。現時点で、項目や解析の内容によって異なるが、2008年度あるいは2009年度までのデータが公表されている。

 それを見てみると、東京都の場合、新宿区内の草地1地点での測定であることがわかる。それ以外に水産庁が都内の水田と畑地について1カ所ずつ測定している。

 以下の図は、2000年度から2009年度までの放射性セシウム137の濃度をグラフ化したものである。表層土壌と深層土壌を含めた全データである。(グラフ作成は筆者)

 図  2000年度〜2009年度の放射性セシウム137の濃度推移

 出典:文部科学省.“環境放射線データベース”.
    http://search.kankyo-hoshano.go.jp/servlet/search.top
     (参照 2011-05-19)

 注)毎年同じ日に4つのデータがあるのは、下記に示すとおり表層土壌、深層土壌が各1検体で重量あたりの濃度(単位:Bq/kg)と面積あたりの濃度(MBq/ku=Bq/u)をそれぞれ別の測定器で測定しているためである。
 データベースを見て分かりにくい点があったので、日本分析センターに電話して、確認したところ、新宿区内の草地については、表層土壌(0〜5cm)と深層土壌(5〜20cm)の二つの層についてそれぞれ1検体を採取し、各サンプルを二つに分けて、別々の機器で測定しているとのだった。そのため、結果は、同じサンプルについて2つの結果が二つの単位で示されているのだ。

 ひとつはBq/kgで重量当たりの濃度が示されており、もうひとつはMBq/kuと単位面積当たりの濃度で示されている。MBq/kuとして示される分析は、土壌採取器を用いており、結果は平方キロメートル単位で出るため、特定の変換係数等を当てはめて計算値で出しているものではないとのことだった。

 まず、Bq/kgのグラフを見ると、この10年間(平常時)の都内の土壌中のセシウム濃度は表層と深層を区分しない場合、年平均が1.9〜4.5Bq/kgで推移している。したがって先に紹介した近畿大学の測定による都内の濃度は亀戸以外についても1000Bq/kgを超えていることから極めて高いということになる。亀戸の濃度は、平常時の1500〜600倍に相当することになる。

 23区内は土壌が少なくなっているとは言え、江戸川区、足立区、練馬区などでは農地も残っている。また学校の校庭、公園などには砂場や花壇、など土も多い。東京都は、早急に都内の土壌の汚染実態について把握し、適切な対策を講じるべきである。

 石原都知事は事故後も、原発無しでは日本の経済が成り立たない、として原発推進を明言しているが、経済以前の問題が今起きていることをもっと真摯に見つめるべきではないだろうか。

 なお、先に示した近畿大学が測定した江東区亀戸の土壌中セシウムの濃度3201Bq/kgをリスクを評価するために単位面積当たりに換算してみる。土壌の汚染レベルを判断する上で、国際的な基準と比較するためには、u当たりの濃度が必要となるからである。

 チェルノブイリの場合、ベラルーシ政府が居住禁止区域に設定したのは555kBq/uとされている(参考資料より)。

 3201Bq/kgに、Bq/u=Bq/kg×20〜75(参考資料より)の式を当てはめてみると、64,020〜240,075Bq/uとなる。ベラルーシの値と比較するために単位をkBq/uに直すと、64〜240kBq/uとなり、最大でも240kBq/uなので、3201Bq/kgでもまだ居住禁止区域までは至っていないものの、決して低い値とは言えない。

*参考資料:公立大学法人首都大学東京 東京都立産業技術高等専門学校
      吉田研究室 講義用 PPT 原子力緊急講座(2回目)
      http://www.metro-cit.ac.jp/~kenyoshi/jyugyou/radiation2.pdf