|
|
●焼却依存体質日本の実態 日本の焼却炉の数は世界で群を抜いている。一説には世界中の焼却炉の7割が日本に存在しているとも言われている。平成5年度(1993年)国内の一般廃棄物焼却施設数は1854であったが、最新の平成24年度(2012年)の数値を見ると、1188施設まで減少している。約20年で666施設の減少である。 この10年間の変化を見てみると; 平成14年度 平成24年度 変化 ごみ処理量 5,145万トン/年 → 4,262万トン/年 -883万トン 17%減 直接焼却量 4,031万トン/年 → 3,399万トン/年 -632万トン 16%減 ごみ焼却施設数 1,490施設 → 1,188施設 -302施設 20%減 処理能力 199,000トン/日 → 184,000トン/日 -15,000トン 7.5%減 上記より、ごみ処理量が17%、直接焼却量が16%減少し、この間に焼却炉等は302施設20%減ったにもかかわらず、処理能力は10年でわずか、15,000トン/日減(7.5%減)にとどまっており、このことからも過度な焼却依存の実態が見て取れる。 実際、3.11では、膨大な災害瓦礫が発生したが、その発生量の積算は杜撰を極め過剰なものだった。最終的には、国が主導して3年間かけて広域処理の名の下に、2兆円余りの国費を投じて処理が行われた。その根底には、全国にあまねく設置されている余力のある焼却炉の有効活用がある。 宮城県亘理ブロックがれき焼却施設 撮影:青山貞一 Nikon Coolpix S8 2012-11-25 宮城県亘理ブロック(亘理町)がれき焼却炉前の青山貞一 撮影:池田こみち、Nikon Coolpix S10 2012-11-25 放射性物質が付着している可能性や津波によって未規制の有害物質が付着している可能性のある瓦礫を、高額の輸送費を掛けて遠く北九州市や大阪市にまで運搬し、受け入れる自治体ばかりか最終的には受け入れない自治体にも交付金が配付されるという前代未聞の事態を招いた背景に、「ごみは焼却するのが一番」であり、「日本の焼却炉は高性能で安全」という思い込みがある。プラントメーカーはここでも被災地に仮設焼却炉を立地し、大いに存在感をアピールすることとなった。 ●焼却炉の大型化・高度化・複雑化の背景 1999年の所沢市における野菜のダイオキシン汚染を契機に、2000年以降には、国内のダイオキシン対策法の制定、整備が進み、焼却炉の数は減り、新規建設や設備更新、大型化(=広域化)、排ガス高度処理対策などが次々と進み、一大焼却炉景気となったことは間違いない。20年ほど前までは、地域で出たごみは地域で処理する「一般廃棄物処理は地方自治体の自治事務」として各自治体ごとに対応してきたが、その後国の誘導もあり、より効率的に地域の課題に対応するとして広域行政圏の整備が進み、特別自治体である一部事務組合に加えて、広域連合などが主要な政策を推し進めるようになったことも焼却炉の集約化・大型化に拍車を掛けた。 結果として、焼却施設の数は減ったが、同時に、廃棄物最終処分場の逼迫と新規立地の困難性から処分場の延命化が全国自治体の主要な命題となり、さらなるごみの減容化、焼却残渣の減容化が強く求められるようになっていた。その結果、焼却炉に加えて、1000℃以上の高温で溶融処理するガス化溶融・ガス改質炉などの新技術の開発が進み、その数は着実に増加し続けている。通常のストーカー炉に焼却灰だけを別途溶融する灰溶融炉を取り付ける自治体が増加したのもこの間の特徴である。ガス化溶融・ガス改質炉本体と灰溶融炉を加えると、その数は全国で250施設(2011年12月時点)となっており、その後も増加している。 もうひとつごみ処理プラントの変遷を見る上で重要な点は、ごみ焼却施設を「高効率発電施設」と称して、国の補助金・交付金の対象としてきたことがある。従来は分別し埋め立て処分してきたプラスチックごみを可燃ごみとすることにより、ごみ焼却施設における発電効率を高め、エネルギーを生み出すことが大きな役割となったのである。 ごみ処理プラントはこうして、次第に装備を増やし高度化・複雑化することにより、非常に高額な公共事業として全国津々浦々に浸透していったのである。 つまり、ごみ処理プラントメーカーにとっては、20世紀の間には数を売って儲け、21世紀に入ってからは、数が減った分を高度化・複雑化したことで売り上げを維持することが出来た、と言うことができる。 こうした背景のもと、国内の主要なメーカーは、ストーカー炉技術に加え、ほとんどがガス化溶融・ガス改質炉の販売を手がけるようになっていった。 三菱重工環境・化学エンジニアリング 流動床式ガス化溶融炉 神鋼環境ソリューション 流動床式ガス化溶融炉 川崎重工 プラズマ式灰溶融炉 新日鉄住金エンジニアリング コークス式ガス化溶融炉 シャフト式ガス化溶融炉 JFEエンジニアリング コークスヘッド式ガス化溶融炉 荏原環境プラント 流動床式ガス化溶融炉 タクマ キルン式ガス化溶融炉 日立造船 流動床式ガス化溶融炉 三井造船 キルン式ガス化溶融炉 IHI環境エンジニアリング キルン式ガス化溶融炉 (出典:環境関連施設発注状況一覧などより整理) ●国内焼却炉市場の飽和化と海外への進出 しかし、ここ数年、ガス化溶融炉の維持管理費が高騰していることやトラブルの頻発を背景に、市町村のガス化溶融炉離れが進んでいる。導入時には国の補助があるものの、本格稼働後の維持管理、点検整備には膨大なコストがかかるケースがめだってきたことがある。 いったんは溶融処理がごみの減容化や焼却灰の有効利用(スラグ化)に有効であるとして導入が進んだが、コスト面に加えて、スラグの資源化は思ったほど進まなかったり、3.11以降、溶融処理により放射性物質の濃縮が進むことに伴う問題も顕在化し、高コストな溶融処理にも行き詰まりが生じていることは否めない。 国内でも、最近では、ガス化溶融炉より従来のストーカー炉への回帰が目立っている。プラントメーカー各社は、敏感にそうした市場の動きを察知し、「次世代型ストーカー炉」なる「売れ筋」の開発と販促に余念がなかった。 また、炉の大型化に関しても、近年人口の伸びが頭打ちとなり、住民の環境意識の高まりなどからごみの排出量も減少傾向が続き、焼却炉の高度化・大型化といった従来路線の延長上の国内需要の伸びは見込めない状況となっている。平成25年度の環境関連施設発注状況をみても、熱回収を伴う新規プラント建設は26件、税抜きの建設費は約4000億円程度、基幹改良事業については、30件で約500億円程度にとどまり、一時の焼却炉景気の頃に比べてマーケットは著しく縮小している。 (参考資料:「環境施設」No.136、2014年6月号) ●海外展開する国内ごみ処理プラント そうした折、日本のプラントメーカーの海外展開が活発化しているという特集記事が週刊ダイヤモンドに掲載された。
記事は、編集部の精力的な取材に基づいた非常に興味深い内容となっていた。なかでも、国内のプラントメーカーが積極的に海外のプラントメーカーを買収し、自らの技術分野を補完したり、マーケット戦略の多様化を図るなど生き残りのための努力をしていることが生々しく報じられていて編集部の熱意が感じられた。 まずは、EU内の企業を買収しEUでの販売実績を作った上で、巨大市場であるアジアの中進国に進出しようという戦略である。 国内ではもっぱら大手数社による談合的な受発注ばかり目にしているので、海外、なかでもドイツ、フランス、スイスなどEU諸国に国際的にも競争できるプラントメーカーが存在しているという実態を知ることは大きな意味がある。談合体質で高止まりとなっているプラントの建設費を国際入札にすることにより、適正な競争が働いて、適正な価格で導入することも可能となるからである。 <照会されていた海外メーカー> 記事では、2008年から2012年までの累積シェアを調査に基づき分析しているが、その中に、日本企業としては、EUの企業をそれぞれ買収した日立造船と新日鉄住金が席を占め、EU市場に食い込んでいたのである。以下は、記事中の図より、シェアの多い順に並べたものである。なんと、スイスのストーカー炉の老舗Inova社を買収したことにより、日立造船INOVAがトップに立っている。 順位 企業名 シェア(%) 1 Hitachi Zosen Inova AG 21 2 Keppel Seghers 14 3 Fisia Babcock Environment GmbH 11 4 CNIM 13 5 MARTIN GmbH 10 6 Standardkessel Baumgarte 7 7 Volund Denmark 7 8 Doosan Lentjes 6 9 Others 11 出典:もとのグラフの掲載頁 http://diamond.jp/articles/-/54176?page=3 ●ごみ処理プラントの海外輸出の落とし穴 3.11の後もトルコやエストニアなどに原発を売り込むのと同様、国内の市場が飽和状態であることから海外に展開しようというわけだが、果たしてそれは導入した地域の環境や地域住民に問題なく受け入れられるのか課題も残る。 日本では現在、というより3.11以降は特に、ごみの焼却処理に対する関心が薄れ、分別意識も低下してきているが、実際には大きく報道されないだけで、全国の焼却炉ではさまざまな事故や故障が頻発し、運転管理、維持管理のコストがかさんでいる。 また、排ガス中や焼却残渣中の有害物質の監視が甘いことから、未規制の有害化学物質が野放しの状態となっている点も見逃せない。 プラント導入時のイニシャルコストはもとより、維持管理費、設備点検費、環境モニタリング費などが付随的に発生し、ひとたび高度なプラントを導入すると、最低でも20年から30年にわたり自治体の財政を圧迫し続けることとなる。ましてや、プラント周辺に住宅地などがあれば、その間、そこに居住する人々は、住居の移転もままならないことから、長期にわたり排ガスの影響を受けることになり、立地地域とそれ以外の地域の不公平・不平等も顕在化する。 迷惑施設として、地域に過剰な地元対策(周辺道路整備や公園、スポーツ施設、公民館等の建設など)を行うと、そのための費用は自治体負担となるので、さらに財政を圧迫することになる。それらの維持管理も必要となるからだ。 アジアの中進国は経済成長が著しいが、その一方で、経済格差も著しく、ごみの山や処分場からの拾得物で生活を維持する人も多い。そうした中で、高度に複雑化した技術に依存したごみ処理が果たしてその地域の問題解決につながるかどうかは慎重な判断が必要となる。若い世代が多く、人口も多い途上国や中進国にあっては、豊富な人材の活用をはじめとする地域資源の活用・活性化を伴わないごみ処理プラントの導入は慎重にすべきである。 今必要なことは、人々への徹底した教育と仕組みの構築である。ごみは資源であり、資源とするためにはどのように分別し管理することが必要か、まさに、廃棄物資源管理の視点から戦略を練り直し、市民に応分の役割を担ってもらうことこそ必要なことであろう。 技術はいきなり高度で複雑なものを導入せず、順次、Human Scaleで、Appropriate な代替技術、Alternative Technologyこそ見直されるべきではないだろうか。 このことは、途上国だけでなく、日本にも当てはまる。現在は、沖縄の離島から北海道まで全国一律にガス化溶融炉や灰溶融炉を導入しているが、地域の実態にあった、ごみ処理のあり方を模索する必要がある。そのためには、市民の意識の転換が必要だが、まずは、一方的に行政とコンサルタントでつくられる「廃棄物処理基本計画」の策定段階にいかに市民が関与できるかにかかっている。 |