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3月1日水曜日の朝、なんの気なしにテレビをつけたら、<明快!まとめるパネル(テレビ朝日グッドモーニング)>というコーナーで、東京二十三区清掃一部事務組合(以後、「清掃一組」と略す)の議員が高額海外視察する、という話題が取り上げられていてびっくり。 朝の忙しい中、あれっと思って仕事の手を止めて見てみると、おおよそ次のような内容だった。
東京二十三区清掃一部事務組合のWeb この番組では、主として、マレーシアやシンガポールへの視察に一人当たり66万円は高すぎるという点が問題として取り上げられていたが、確かに、通常なら10万円そこそこのマレーシア、シンガポール旅行が66万円というのは看過できない異常な高さである。 しかし、旅費がバカ高い、税金の無駄遣いは間違いないが、この問題の本質、真相はそれほど単純な話ではない。これについて、すぐに朝日新聞が以下の記事を出している。
テレビと新聞の報道をもとに、問題の本質を解説しておきたい。 1.清掃一組という組織の役割 清掃一組は、年間予算規模700億円前後、職員数1100余人という国内ではおそらく最大規模の一部事務組合(特別地方公共団体)である。主な業務は; (1)可燃ごみの焼却施設(当該施設と一体の溶融固化施設及びごみ運搬用パイ プライン施設を含む。)の整備及び管理運営 (2)前(1)に掲げる施設以外のごみ処理施設の整備及び管理運営 (3)し尿を公共下水道に投入するための施設の整備及び管理運営 となっている。 注)一部事務組合(いちぶじむくみあい)とは、複数の普通地方公共団体や特別区 が、行政サービスの一部を共同で行うことを目的として設置する組織で、地方 自治法284条2項により設けられる。 東京二十三区清掃一部事務組合は、清掃事業が東京都から区の事業に移管になった平成12年以降、ごみの収集運搬は各区が行い、可燃ごみの中間処理は、一定期間、特別区の共同処理とする。また、不燃ごみ・粗大ごみ、し尿の中間処理は、特別区の共同処理とする、としてスタートした組織である。 まさに東京23区に21ある清掃工場の運転管理が主な仕事となっている。 そんな清掃一組が、あろうことか、平成23年度からJICAの委託を受け、東京23区のごみ処理方式を途上国にも普及させようと、「国際協力事業」と銘打って、アジアを中心とする途上国に社会インフラの整備を促進する働きかけを始めたのだ。まさに、ごみは集めて焼却することが一番であり、焼却炉導入のためのお手伝いをするというのである。詳細は以下の組合のホームページに記載があるので参照していただきたい。 ■国際協力事業の取組について http://www.union.tokyo23-seisou.lg.jp/kokusai/main.html ■東京23区清掃事業の国際協力に関する基本方針 個別事業計画(改定) http://www.union.tokyo23-seisou.lg.jp/seiso/documents/kobetujigyokeikaku-h27kaitei.pdf 世界を見回しても、東京23区ほど大規模な焼却炉が集中している都市はない。この二十年間で大規模なダイオキシン対策を行った結果、さすがに排ガス中のダイオキシン類濃度は低く維持されていることとなっているが、一方で、日本は、焼却炉の排ガスに対する規制が甘いため、重金属類やその他有害化学物質に対する規制がなく、監視も行われていないのが実態である。それにもかかわらず、廃プラスチック類を混合焼却に切り替えるなど、一層、焼却への依存を高めて、それに伴う大気中の有害物質への影響が危惧されているのである。 そうした中で、「区と協力し」といいながら、焼却炉を途上国に普及するような仕事は、明らかに清掃一組の業務を逸脱していると言わざるを得ない。実際、筆者等の研究所には、23区内でも清掃工場周辺に居住する住民からは排ガスに対するさまざまな心配がよせられており、また、新たに焼却炉が導入されようとしている途上国の市民グループや議員達からも清掃工場建設の妥当性、正当性について危惧する声が寄せられている。 「焼却こそが最善の方法」という考え方はまさに組織としての清掃一組の論理であり、あたかも23区民がそれを是としているように途上国にまで普及するというのはいかがなものかと言わざるを得ない。 清掃一組の仕事は、区民、すなわち区行政と一体となって、いかにこの人口が密集する23区から清掃工場をひとつでも減らしていくことができるかこそ考え実践するべきことである。 2.清掃一組議員の役割 平成29年度の清掃一組の予算は、前年度比6.2%増の735億5,500万円へと上昇している。その背景には、杉並、光が丘、目黒の三清掃工場の建て替えや、有明工場の延命化事業費が含まれる。そうした予算を審議するのが清掃一組議会である。議会の構成は先に述べたように、23区各区議会の議長が充て職として就任している。議会は年四回、どんな高額な事業の審議があってもほぼ1時間で終了するいわゆるしゃんしゃん議会として知られている。議員は、一体、一組の業務の何をチェックし審議しているのかまさに疑問であり、どんなにごみの総量が減少してもごみ清掃工場はいっこうにその数がへらず、ますます立派に整備される一方となっている。 今回、国際協力事業の一環として、終了したマレーシアのプロジェクトの成果を見るため議員全員23名が一人当たり66万円をかけて海外視察するというのである。 環境総合研究所(ERI、東井教と目黒区)はこのJICAの委託業務について非常に疑問を持って監視を継続しており、2015年には、情報開示請求を行いその問題点を指摘している。 ◆池田こみち:東京二十三区清掃一部事務組合による海外技術協力の実態 http://eritokyo.jp/independent/ikeda-col12393...html 誰が何処に視察したのか、引き受けた研修の講師は誰かといったことまですべて黒塗り、まさに海苔弁状態の資料に唖然とするばかりだった。各区の議長は、一組の議員であるまえに、各区の議員としてごみの問題をどのように捉えているのか、こそが問題となる。ごみの中間処理が主な業務である清掃一組がJICAの委託を受けて清掃工場の普及を行う事になんの疑問ももたないことこそ大問題である。 清掃一組の事業費の中でもっともコストのかかる部分が清掃工場の維持管理であり更新事業であることは間違いない。コストの面ばかりで無く、狭いエリアに21清掃工場が林立し、日夜排ガスを出し続ける現状をどう捉えているのかこそ問題である。廃プラ焼却を開始して以降、延べ20の清掃工場で排ガス中の水銀濃度が上昇し清掃工場を停止するトラブルが発生、その対応に5億円以上が費やされている実態も無視できない。 区民の健康や環境保全に責任を持つべき区議が、マレーシアにでかけて、何を見てくるのか知らないが、あまりにも不見識というべきである。 行政や一組から提供される情報だけを鵜呑みにして、清掃工場からの本来の環境影響に目を向けようとしないのは議員として怠慢と言われても仕方が無い。月額19400円の報酬をもらっているようだが、報酬以前に、清掃一組議員として本来なにをすべきか、胸に手を当てて考えて欲しい物である。 3.向かうべき方向 処分場(東京の場合には東京湾中央防波堤沖最終処分場)の延命化のため、一般廃棄物は廃プラをはじめ多くの物が焼却されるようになり、発電(=売電)ができて経済的にもメリットが大きいとされ焼却依存が高まっているのが現状である。しかし、ごみは着実に減り続けている一方で、処理コストは横ばいから上昇傾向がつづき、次世代への環境負荷と経済的な負担が続くことになる。区民達は、自ら松葉を採取して見えない大気汚染を監視する活動を継続してきた。その結果廃プラ焼却後には、大気中のダイオキシン類濃度も上昇し、水銀を始めとする重金属類も焼却炉が集中する沿岸部で高濃度となっていることが明らかになっている。 規制の甘い現状に甘んずること無く、選ぶことの出来ない空気の質をいかによりよくしていくことが出来るのか、区民とともに考える時期に来ている。すべてのごみを区民の税金で集めて燃やすという体制から、製造者責任、使用者責任を明確にしたルール作りを徹底し、燃やす物を如何に減らして清掃工場そのものを減らすことができるのか、が区民全員のビジョンとなるように政策転換をする必要があるだろう。 小池知事は環境大臣時代からごみ問題にも熱心に取り組んでこられた方なので、東京都から清掃工場を一つでもなくせるかどうか、大きな課題にチャレンジして欲しい物である。まさに「もったいない精神」が発揮されるはずである。燃やしてしまえばすべての資源が灰と煙となって海や大気を汚染することになるだけなのだから。 |