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魚介類中のダイオキシン類濃度は

依然高止まり


池田こみち(環境総合研究所 顧問)

掲載月日:2013年11月30日
 独立系メディア E−wave
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 東日本大震災以降、関心はもっぱら放射性物質による食品汚染となっている。確かに、福島第一原発からの汚染水の漏出はとまらず、魚介類への放射性物質の濃縮が心配されている。当初の海面表層を生息域とする小魚から次第に底層の魚類へと汚染が進み、除染を行っても山から川、湖へと移動する汚染は依然として深刻な状況であることは間違いない。

 一方、一頃高い関心を集めていた魚介類の有害化学物質のうち、久しぶりにダイオキシン類の最近の状況がどうなっているのか、確認してみた。

 今から15年前、魚介類のダイオキシン類は水産庁が測定していながらそのデータを公表しないというので、私たちは国会議員(中村敦夫参議院議員ら)の協力を得て全面開示させたことを鮮明に思い出す。

 下図は、平成10年当時の全国各地のムラサキイガイ(ムール貝)のダイオキシン類濃度をグラフにしたものである。


 図1 平成10年度ムラサキイガイのダイオキシン類濃度
 出典;環境庁 グラフはERI作成

 当時から、大阪湾、東京湾、瀬戸内海などの閉鎖性水域の魚介類、なかでもスズキ、タチウオ、コノシロ、アナゴなどの濃度が高かったが、最近はどうなっているのだろうか。

 水産庁の当該Webサイトを見てみると、以下の通りである。

◆水産庁の魚類など食品のダイオキシン濃度
http://www.maff.go.jp/j/press/syouan/tikusui/pdf/120511-01.pdf

 10年前には、多種多様な魚種、貝類を多数分析していたが、最近では、魚類については、スズキ、タチウオ、ホッケの3種類のみで、それぞれ30検体、合計90検体を調査しているに過ぎない。

 これは、以下の通り、「ダイオキシン対策推進基本指針」(平成 11 年 3 月ダイオキシン対策関係閣僚会議決定)及び「食品の安全性に関する有害化学物質のサーベイランス・モニタリング中期計画」(平成18年4月20日公表。以下「中期計画」という。)に基づくものであるという。

 スズキに注目すると、相変わらず大阪湾が高く3検体の濃度は、6.7〜7.8pg-TEQ/gとなっており、東京湾の6検体(濃度範囲 1.7〜3.3pg-TEQ/g)の2倍から4倍の高い濃度であることがわかった。また、30検体のスズキのうち、19検体が1.2pg-TEQ/gを超過していた。

 図2 平成22年度測定結果(魚類)一覧

 1.2pg-TEQ/gは、アメリカ環境保護庁(EPA)が、サケなどの主要な魚類について、調査を行い、1.2pg-TEQ/gを超える魚介類については、妊婦への食事指導を行う指針となっている。すなわち、「1.2pg-TEQgを超えた魚は、月に1回も食べてはいけない」という指針である。たとえ一回でも高濃度の汚染魚を妊婦が食べれば、胎児に影響が及ぶからである。

 水産庁の報告書から平成20年度調査との比較の部分を以下に引用する。
 水産物 3 魚種 90 検体のダイオキシン類濃度範囲は、0.096 から 7.8pg-TEQ/g 湿重量でした。今回の調査結果を、現行と同じ方法及び同じ魚種で調査した平成20年度の調査結果と Mann-Whitney の U 検定を用いて魚種別に比較しました。その結果、スズキ及びタチウオについては有意な差は見られませんでした(P<0.05)。 一方、ホッケについては、平成 22 年度の結果が平成 20 年度よりも有意に高くなりました。その理由は今回の調査では不明であり、農林水産省では、引き続きホッケについてダイオキシン類の経年変化を調査していく予定です。ちなみに、環境省が毎年実施しているダイオキシン類に係る環境影響調査によりますと、平成 20 年度から平成 21 年度まで、わが国の公共用水域での水質と底質のダイオキシン類濃度は概ね同程度で推移しています。
 情報は、国民が分かりやすいように提供されなければ意味がない。もっともこの国ではプレスリリースしてもメディアが関心を示さなければ小さな記事にもならないという問題があるが、放射性物質の問題にばかり関心を向けているとその裏で、重大な問題が見過ごされることを改めて感じるデータだった。