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  埼玉東部松葉ダイオキシン類調査報告会
〜東埼玉資源循環組合
 第二工場本格稼働前の現況把握調査〜

池田こみち
環境総合研究所顧問
環境行政改革フォーラム副代表

掲載月日:2016年5月26日
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 一般廃棄物、すなわち、家庭から出されるごみの処理は基礎自治体の自治事務の典型とされており、それぞれの市町村が独自に「一般廃棄物処理基本計画」を策定し、将来の削減目標、資源化率の達成目標などを定めています。しかし、ここ30年くらい、ごみ処理(主として中間処理)の効率化を図るという目的から、隣接する複数の自治体が広域に連携し、一部事務組合をつくり、ごみ処理を始めとするさまざまな行政サービスを行うようになってきています。

 今回、新しい清掃工場が本格稼働する前に、現状の地域の環境を把握するため、市民参加による松葉を生物指標としたダイオキシン類及び金属類の調査が行われ、その結果の報告会が2016年5月26日、埼玉県草加市内で開催されました。

 問題の地域は、「東埼玉資源循環組合」がごみ処理を行っている、埼玉東部地域の五市一町(越谷市・草加市・八潮市・三郷市・吉川市・松伏町)、人口約90万人のエリアです。


 写真1 対象エリア、構成自治体の図 (講演pptより)

 現在、同地域には、関東地域でも最大の規模を誇る第一工場(越谷市増林:200t×4炉)が稼働していますが、老朽化(竣工から約20年が経過)したことを理由に、新たに第二工場を草加市柿木町に建設することとなり、2016年4月本格稼働となりました。


 写真2 第一工場の写真 (出典:東埼玉資源循環組合Webサイトより)

 第二工場の建設を巡っては、地域のごみ排出量も減っていることや費用負担の問題、地域住民や周辺地域への環境影響の問題などから反対の声も強かったようですが、結局、予定通り建設され稼働を始めています。一方、第一工場については、閉鎖されるわけではなく、国からの交付金や地方債を発行することにより、長寿命化のための工事を行い引き続き使用することとなっています。


 写真3 第二工場の写真 (出典:東埼玉資源循環組合Webサイトより)

 そこで、第二工場が建設される草加市の市民や生活クラブ生協組合員などが協力し、第二工場が本格的に稼働する前の大気中のダイオキシン類や金属類の実態を把握するため2015年度に調査が行われました。そして、2016年5月726日(木)午前10時〜12時まで、草加市内において、その結果の報告を行いました。

 報告会参加者は約30名ほどでしたが、構成自治体の議員のみなさんが8名も参加され、また、草加市や八潮市の廃棄物担当職員の参加もあり、大変熱心に私からの報告を聞いて頂きました。これはなかなか画期的です。


 写真4−1 報告会の様子


 写真4−2 池田講演中


 写真4−3 池田講演中

 第二工場は、PFI方式でJFEのガス化溶融炉が新たに建設されました。既に見学会なども行われ、市民からは、素朴な疑問も組合側に投げかけられたようですが、いずれも「高温で焼却するので問題ない」、「バグフィルターがあるので問題ない」、「一酸化炭素を測定しているのでダイオキシンを連続的に監視する必要は無い」など一方的な情報を吹聴され、市民の中にはそれを鵜呑みにしたり、地域サービスとして行われる道路整備や憩いの広場、市民プールの整備などによってすっかり焼却炉を歓迎してしまっている方も多いとのことでした。

 建物一体型となった煙突(60m)からは、水蒸気すら見えません。臭いも色もなく、ダイオキシン類や水銀など有害な化学物質が排出されていても気がつかないのが実態です。
さて、本格稼働前の環境はどうだったでしょうか。

【事前調査結果】
 もともと、埼玉県は全国でも大気中のダイオキシン類濃度が高いエリアです。図は、平成17年度から26年度までの10年間の埼玉県平均と全国平均を比べたものです。どの年も埼玉県の濃度が高くなっています。


 写真 4.5 大気中ダイオキシン類濃度経年変化 (講演pptより)

 また、このエリアは第一工場だけでなく、周辺に大きな清掃工場があり、また、ダイオキシン類対策特別措置法の規制対象となっている民間の事業所もあり、既汚染地域となっている可能性が高かったのですが、案の定でした。

 この地域が既汚染地域である一つの理由として、現在、第一工場で燃やされているごみに含まれる廃プラスチック類(ビニール、合成樹脂、ゴム、皮革類)の割合が50%にも達していたのです。


 写真5 ごみの組成のグラフ (講演pptより)

 第二工場稼働前から風上地域に比べて風下地域のダイオキシン類濃度は約2倍高くなりました。金属類については、風下地域でアンチモンと水銀が風上地域より高くなりました。今後、本格稼働したらどう変化するか、市民の監視活動は今後も続きます。

 まだまだ農地が広がるこの地域ですから、ごみを何でも燃やすのではなく、しっかり分別し、減量化、資源化を進めれば第二工場は不要だったのではと思います。莫大な借金をして、財政的負担 のつけを次の世代に残すのは問題です。

 その背景には、一部事務組合での議論が市民に開かれたものとなっていないこと、市民参加が行われていないことがあります。

 構成自治体の議員の中には一部事務組合の議員をやりたいと手を挙げる方が多いとのことですが、年に数回の組合の議会に出席するだけで、議員報酬がかなりよくて、ほとんどなんの議論もしないで視察旅行に行けるなど議員にとってはメリットがあるようです。
 一方で議会に出てもまったく市民に対して報告がない、と形骸化した空疎な一組議会の実態が指摘されていました。

 一部事務組合がごみ行政を市民・自治体から奪っている、とすら言える構造です。市民が知らないうちにいろいろなことが決まり、進められてしまうという一部事務組合という屋上屋の自治体組織こそ見直すべきではないでしょうか。