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インドネシア研修生に
日本の環境政策の実態と課題を伝える

池田こみち Komichi Ikeda 
環境総合研究所顧問
掲載月日:2012年10月22日
 独立系メディア E−wave  無断転載禁

 
 環境総合研究所(本社、東京都品川区)では、米国テンプル大学日本校からの依頼で海外、とくに東南アジア諸国からテンプル大学日本校(東京都港区麻布)に来ている方々に、日本における環境政策の実態と課題を講義形式と現場視察の両面でお伝えしています。言語は全て英語です。


インドネシアからの研修生と一緒に。中央清掃工場入り口にて

 2012年10月前半の水・木の二日間、私はインドネシアから研修に来ていた25名のみなさん(主に大学の先生や自治体の職員)に、日本の廃棄物行政の現状と課題、見習うべきカナダ・ノバスコシアのゼロ・ウェイスト、日本の環境計画と環境アセスメントの制度と実態について講義し、午後の時間には、中央清掃工場と港区資源化センター、中央防波堤沖最終処分場をご案内しました。

港資源化センター
(港区の施設ですが、指定管理者に委託して運営しています)

 容器包装プラだけでなく、その他プラを資源化しているのは23区内 では港区だけです。また、このような資源化施設をもっているのも 23区内では3区くらいしかありません。この施設でしっかり前処理 (禁忌廃棄物の除去、分別の徹底、輸送しやすい形状への結束処理) を行うことで、資源の質を高め、より高価格で買い取って貰うこと が可能となるとのこと。分別無しでごみを積み上げているインドネ シアのみなさんにとってなかなか見応えのある施設のようでした。

中央清掃工場(東京23区清掃一部事務組合が運営)

 港清掃工場がたまたまメンテナンス中だったので、中央清掃工場に初めて行ってみました。工場長のご挨拶の後、担当者から設備の概要の説明を受け、英文版ビデオで23区のごみ処理について学び、その後施設内を見せていただきました。見学コースは港工場より充実しているようでした。説明のポイントは以下の通りで特に私たちにとって目新しいものはありません。

・一切の公害を工場から出さないことを旨としている。
・工場の建物外周に緑地を設けて、地元に公共緑地として解放してい
 いる。
・水銀の問題も引き起こしていない。23区の清掃工場はすべてコンピュ ータでネットワークされているため、他の工場で水銀トラブルが起 きたときも、区内では、一切ごみ収集の遅滞が生ずることなく、余 力のある清掃工場でごみを引き受け処理を行うことができた。 つねに工場相互の連携で処理をおこなっている。
・溶融処理したスラグからは一切の有害物質が浸出しない。焼却でごみの嵩は1/20になり、焼却灰を灰溶融炉をもっている他の清掃工場に運んで溶融処理すれば、もとのごみの1/40に減らせ、最終処分場の延命化が可能となる。
・スラグは路盤材や歩道のブロックに利用しているが、有害物質の浸出は一切ない。それを入れた水槽で金魚を飼っている。
・災害廃棄物を最初に処理したが、一切排ガス中に放射性物質は出て
 いない。
・煙突の建て屋のデザインは正三角形になっていて、海側はグレー、陸側はブルーにして、空と海の色に調和するようにしている。
・見学のための設備を充実させ、子供たちへの教育に力を入れている。
など、全体を通じてよいことばかりの説明でした。見学する前に、研修生には、日本の焼却主義も問題点をじっくり講義してから行きましたので説明を「鵜呑み」にすることはありませんでした。

 研修生から、スラグからの有害物質の溶出問題についてするどい質問がありましたが、JIS規格に適合しているので問題ない、などと繰り返してました。

 水銀に関しては、歩きながら担当者に水を向けたところ、「やはり廃プラ焼却を始めてから分別意識が乱れたことが大きな原因ではないか」、と話していました。

 それにしてもびっくりしたのは、清掃工場にぴったり寄り添ったかたちで高層マンションが林立していることです。今のところ全く何の問題もないとのことでしたが、こんなところに新規住宅開発を認めるのは明らかに問題です。

 (以下のGoogle mapsの切り出しをご覧下さい) とは言うものの、練馬の光が丘工場は4万人の住宅団地の真ん中にあるので、今更ではありますが。あのような立地のマンションに高いお金で入居する人がいるということに驚きます。


上は立面写真、下は平面写真
清掃工場にぴったり寄り添って高層マンションが林立している
左側に経っているのが港清掃工場の煙突

 インドネシアからの見学者たちは、一様に、超豪華な設備、建設コストが290億円もかかっていることなどに驚きの様子でした。住宅が隣接して建てられていること、スラグからなにもしみ出さないというのはちょっとおかしいのではないか、発電していてもそれではまかなえないエネルギーを使っていること、など疑問が出されていました。

 おそらくいわゆるダウンドラフト、ダウンウォッシュが激しく起きているのではないかと推察されます。


講義で使った焼却炉からの煙がダウンウォッシュ、ダウンドラフト
している模様を3次元流体シミュレーションで再現したパワーポイント
出典:環境総合研究所(東京都品川区)


シミュレーションモデルの違いによる結果の違いについて
これは渋谷清掃工場の事例のパワーポイント
出典:環境総合研究所(東京都品川区)

中央防波堤沖最終処分場(東京都管理)

 中央防波堤沖最終処分場では、小学校四年生が大勢見学に来ていました。ごみの分別や3Rの重要性を学ぶのは良いのですが、どこへ行っても現在の焼却・埋立には全く問題ない、ということばかり聞かされるのはやはり問題です。

 インドネシアには焼却炉がありません(医療廃棄物用を除き)。中央防波堤沖の処分場の見学の際には、都の環境整備公社の担当者(都清掃局OB)が「インドネシアには焼却炉はありますか?」という質問をしてちょっとしらけました。中防の管理事務所は東京都環境整備公社の管理ですが、職員はすべて都のOBとのことで500名もいるそうです。

 中防の最大のネックは、雨水の処理です。年間25億円の経費がかかり、全体の費用の半分を占めているとのこと。また、中防処分場のコンクリート擁壁の建設費は高く、深さは45mもあるそうですが、1mつくるのに3000万円かかるとのことで、コストの面から到底インドネシアでは無理といった感想が漏れました。

 バスに担当者が乗り込んでガイドをしてくれましたので、私が通訳して施設内を回りました。粗大ごみの破砕分別施設では、ふとんが一日に1500枚自転車が500台以上持ち込まれること、ベッドマットは最も前処理が困難な粗大ごみであることなどが説明されました。

 中防にある風力発電2基も見ました。たった2基ではお粗末ですね。いずれにしても、焼却炉でも処分場でも異常なほどお金がかかってます。こんなシステムは決して世界のお手本にはなりませんね。ともあれ、ハードな二日間が終わってほっとしています。