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ゼロ・ウェイスト目前のニセコ町
 ごみ処理施設を視

池田こみち
環境総合研究所顧問
掲載月日:2012年10月16日
 独立系メディア E−wave  無断転載禁

 
 2012年10月2日〜3日、一泊二日の日程で北海道虻田郡ニセコ町を訪れる機会を得た。

 本来の目的はニセコ町が原子力防災計画を策定することに関連し、10月2日夜に町民を対象に原子力防災に関連した第二回目の講演会に講師として青山、池田が講演を行うこと、そして10月3日午前中に原子力防災有識者会議の委員に青山貞一が就任したこともあり、その委員会にオブザーバーとして参加することにあった。


講演する池田こみち
撮影:ニセコ町

 これについては、以下をご覧頂きたい。

<関連ブログ>
◆青山貞一・池田こみち:ニセコ町の市民参加による原子力防災計画策定
◆北海道ニセコ町の市民参加による原子力防災講演会(写真集)
◆青山貞一・池田こみち:ニセコ町と有島武郎

 さて、現衆議院議員の逢坂誠二氏が町長の頃から、ニセコ町はゼロ・ウェイストに取り組んでいる町と聞いていたこともあり、また環境行政改革フォーラムの研究発表会に参加された片山ニセコ町長から、ニセコ町における廃棄物処理の実態を伺っていたこともあり、この機会に是非、堆肥センターなどニセコ町の廃棄物処理施設を見学したいと思っていた。

 10月2日、夕方6時半から市民向けの講演会が始まるのでそれまでの間、急ぎ足で片山町長に堆肥センターと屋根付き管理型埋立処分場をご案内いただいた。

(1)ニセコ町のごみ処理の現状

 ニセコ町の人口は約5000人、一般廃棄物の収集運搬は委託業者により行われており、中間処理は、可燃ごみの焼却処分を倶知安町清掃センター(平成14年12月〜)、不燃・粗大ごみの破砕選別処理を蘭越町破砕処理施設(平成15年10月〜)、生ごみの堆肥化をニセコ町堆肥センター(平成14年12月〜)において一部広域連携による処理体系が確立し、資源ごみは民間委託にて選別・保管管理を行い、各指定ルートにて資源化を図っている。

 また、最終処分は、焼却施設からの焼却残渣及び破砕不燃物について、ニセコ町一般廃棄物最終処分場(平成14年12月〜)において埋立処分を行っている。

 ニセコ町は夏は羊蹄山の登山、冬はアンヌプリでのスキーなどに訪れる観光客が多く「北の軽井沢」とも言われ、人口に対してごみ量は少なくない。

(2)ニセコ町堆肥センターの概要

所在地       :北海道虻田郡ニセコ町豊里2-1
供用開始年月日   :平成14年(2002年)12月01日
施設全体の敷地面積 :6,081 m2
処理能力(量)   :9,579トン/年
年間処理計画(量) :牛糞 6,675トン、生ごみ 1,206トン、下牛道汚泥 400トン
施設管理者名    :ようてい農業協同組合(指定管理者制度を導入)
維持管理費     :約2400万円/年
維持管理人員(常勤):2 人
事業名       :平成13年度 畜産環境整備特別整備対策事業
事業主体名     :ニセコ町
総事業費      :6億1500万円
利用した助成制度名 :畜産環境整備特別整備対策事業
助成主体名 :農林水産省

 日本におけるごみ処理は、収集運搬→中間処理(焼却)→最終処分(灰の埋立処分)と一方通行で「ごみ」として処理されるのが一般的であり、そのため、国際的にみても極端に焼却炉への依存度が高い国としてつとに有名である。

 現在でも全国の一般廃棄物の焼却施設は1220施設を数え、日々、集められた廃棄物が煙りと灰になっている。ごみの焼却率は全国平均で約75%と高い。


ニセコ町の堆肥化センターにて 左は片山ニセコ町長
撮影:青山貞一 Nikon Coolpix 2012-10-2

 しかも、北海道から沖縄まで全国一律に高額な焼却炉やガス化溶融炉が環境省の「循環型社会形成推進交付金」によって建設されている。どんな過疎地であっても生ごみを800℃〜1000℃で焼却したり溶融したりしているのである。

 しかし、生ごみや家畜の糞、下水汚泥などは有機物であり、適切な処理をすることにより資源として活用することが可能である。また、堆肥化施設などは建設費などのイニシャルコスト、運営時のランニングコストともに焼却炉、ガス化溶融炉よりも廉価であり、稼働中の環境影響も極めて少ないことから、本来、もっと積極的に導入されるべき施設であるはずだが、なかなか導入が進まないのが実態である。


ニセコ町の堆肥化センターにて 右は片山ニセコ町長
撮影:青山貞一 Nikon Coolpix 2012-10-2


ニセコ町の堆肥化センターを視察する青山貞一
撮影:池田こみち Nikon Coolpix S10 2012-10-2

 ニセコ町では、概要に示したように、環境省の交付金ではなく、農林水産省の助成制度を活用し、牛糞、生ごみ、下水汚泥の3種類の有機物を一箇所の堆肥化施設で処理し、焼却量とともに埋立処分量を大幅に減らすことに成功している。

 堆肥センターは牛糞のラインと生ごみ・下水汚泥処理ラインの二つのラインからなり、水分調整のための間伐材や抜根破砕チップを混合し、全長117mの一次発酵棟で27日間かけて発酵させ、次に隣の二次発酵等で65日間かけて熟成させる。


ニセコ町の堆肥化センターにて 
撮影:青山貞一 Nikon Coolpix 2012-10-2

<手順>有機資源の混合→前処理(異物の除去や水分調整)→一次発酵(攪拌しながら自然発酵)→異物除去(金属等)→第二次発酵(熟成)→出荷

 施設内は、もちろん牛糞や生ごみの臭いはあるものの、ほとんど異臭・悪臭という感じはなく、熟成した堆肥を直接さわっても、においをかいでも不快感は全くなかった。まさに、ごみを資源に換える重要な施設であり、町の農業にとっても大きな役割を果たしている。


ニセコ町の堆肥化センターにて 左が片山町長、右が青山貞一
撮影:池田こみち Nikon Coolpix S10 2012-10-2

 町民は生ごみを指定の袋に入れ、町がこれを週2回回収する。袋はドイツ製の素材をもちいたBiodegradableな(生物分解性のある)プラスチックとのことで通常のゴミ袋に比べて値段が高いが、町民が参加して議論の上で決められたルールであるため、しっかりと守られているという。


ニセコ町の堆肥化センターにて 
撮影:青山貞一 Nikon Coolpix 2012-10-2

 国から高額の補助金や交付金を受けて、維持管理の難しいガス化溶融炉などを導入することに比べて、地域のごみ質や量、産業構造などを踏まえて町民が選択したシステムは環境にもやさしく、また町の財政にもやさしい持続可能なシステムと言える。ハードにお金や時間をかけるより、ルール作り、制度づくりに時間
を掛けるのがニセコ流ということなのだろう。


できあがった堆肥を説明する片山ニセコ町長
撮影:青山貞一 Nikon Coolpix 2012-10-2

○ニセコ町堆肥センターの設置及び管理に関する条例 平成17年6月21日条例第23号(ニセコ町堆肥センターの設置及び管理に関する条例(平成14年ニセコ町条例第41号)の全部を改正)
http://www1.g-reiki.net/niseko/reiki_honbun/aa07006101.html

(3)ニセコ町一般廃棄物クローズド管理型最終処分場

 ニセコ町では可燃物を倶知安町の焼却施設、倶知安町清掃センターで処理している。同施設は1987年12月から稼動を開始した日量22トン×2炉の准連続型焼却炉である。そこで焼却したあとの焼却灰は、ごみ処理量に応じて各自治体が持ち帰り、最終処分場に埋立処分している。また、この施設では不燃物の埋立も行っている。


ニセコ町のクローズド管理型最終処分場 
撮影:青山貞一 Nikon Coolpix 2012-10-2


ニセコ町のクローズド管理型最終処分場 
撮影:青山貞一 Nikon Coolpix 2012-10-2

 この処分場の特徴は、管理型処分場でありながら、屋根を持っている遮断型タイプであることである。町では自然環境や景観に配慮したクローズド・システムの最終処分場として、徹底した維持管理を行っている。特に町を流れる尻別川の水質への影響に配慮し、高度な水処理を行い、ダイオキシン類も低く維持されているという。


ニセコ町のクローズド管理型最終処分場の水処理施設 
撮影:青山貞一 Nikon Coolpix S8 2012-10-2


水処理施設を視察する青山貞一  
撮影:池田こみち Nikon Coolpix S10 2012-10-2


水処理施設を説明するニセコ町長 
撮影:池田こみち Nikon Coolpix S10 2012-10-2

 この処分場を建設するに際しては、1994年(平成6年)に町長に就任された逢坂誠二氏(現衆議院議員)が環境省に補助金申請をしに行った際に、「屋根付きの管理型処分場などは前例がなく、できるわけがない」などと若い職員に机を叩いて意見されたという苦労話を何度となく伺っている。

 堆肥センターも処分場も丘陵地に造成され、外部からも見えにくい立地となっているが、施設はいずれも清潔かつ整然と維持管理されており、町の自慢の施設であることがわかる。

○ニセコ町一般廃棄物最終処分場(施設の概要と維持管理状況)
http://www.town.niseko.lg.jp/machitsukuri/kankyo/images/shisetsugaiyou.pdf
http://www.town.niseko.lg.jp/machitsukuri/kankyo/syobunjyo.html

 上記の施設によって、ニセコ町のゼロ・ウェイスト化はあと一歩のところまで進んでいる。現在、倶知安町清掃センターに持ち込んでいる可燃物をどれだけ減量化・資源化できるかが次の大きな課題である。


クローズド管理型最終処分場の前で 右は片山町長
撮影:池田こみち Nikon Coolpix S10 2012-10-2

 羊蹄山のふもとに広がるニセコ町が北のゼロ・ウェイスト先進自治体としてさらに前進するよう、これからも応援していきたい。


ニセコから見た羊蹄山
撮影:青山貞一