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疑惑がふくらむ、災害がれき受入に係る市民意向調査の問題点 中央環境審議会廃棄物・リサイクル部会長田中勝氏が関与か 池田こみち(環境行政改革フォーラム副代表) 週刊金曜日2012.4.13発行第891号に、原子力開発を推進する日本原子力開発機構(原研)が災害がれきの受入についての意向調査を行ったという記事が掲載されている。 ◆「がれき受入」導くアンケート調査の裏側 環境省・部会長が経営する会社が実施 週刊金曜日記事PDF この記事をまとめるに当たり、編集部成澤氏より筆者にコメントの依頼があり、以下のアンケート票がファックスされた。 ◆災害廃棄物の広域処理に関するアンケートへのご協力のお願い アンケートPDF 金曜日の記事によると、このアンケート調査は、原研の人形峠環境技術センターが民間の廃棄物工学研究所に委託したものであるにもかかわらず、発注元が明記されていない点や災害がれき受入の賛否の回答欄の前に、政府の説明文が記載されていて回答を誘導しているといった問題点とともに、東工大の牧野淳一郎教授(計算天文学)のコメントとして、電話帳からのサンプリングはアンケートとしての公平性に問題があることが指摘されている。 また、重要な点として、調査を請け負った「廃棄物工学研究所」では、以前にも原研の同様の委託調査を受け、人形峠のウラン鉱石採掘によって発生した放射性物質を含む残土の処理をめぐり、原研側の主張を前提とした意向調査を行っていたこと、また、代表者は岡山大学名誉教授 田中勝氏であり、環境省の中央環境審議会廃棄物・リサイクル対策部会の部会長を務めていること、などを挙げ、瓦礫の広域処理を推進する環境省の政策を審査する立場にありながら、一方で市民の意向を誘導するような調査を行っているのは利益相反に該当しないかと言う点も指摘している。 さて、このアンケート調査に関連して、私のコメントは週刊金曜日には採用されていないのでここで紹介しておくこととする。送付された調査票からは一切、原研の名前や田中勝氏のことはわからないので、いわゆる通常の社会調査、意向調査として見た場合、どのような問題点があるかという観点からの指摘となっている。 ◆災害廃棄物の広域処理に関するアンケートの問題点 2012/04/08 ERI 池田こみち 1.このアンケート調査の実施主体(発注元)はどこなのか。 委託調査であれば委託元を明記していない調査は問題。 自主調査であるなら研究目的を明記すべき。 2.調査対象地域はどこなのか。岡山県?岡山市? なぜ、岡山なのか。 3.調査受託機関の実態は? 鳥取環境大学・廃棄物工学研究所・岡山大学 とはどういう関係なのか。 どのような発注形態なのか。 −入札 or 企画コンペ or 随意契約 4.委託費及び業務の仕様はどのような内容か。 委託金額(発注額)はいくらで、どのような仕様となっているのか。 5.結果が公表はいつどのように行われるのか。 アンケート票には、3月末には廃棄物工学研究所のホームページで 公表の予定としているが、今の時点ではまだ公表されていない模様。 どのように一般の人が結果を入手できるのか。 6.調査の方法及び内容について 6.調査の方法及び内容について 6−1 調査方法について (1)調査対象は1000世帯となっているが、なぜ個人を対象とせず世帯を対象としているのか。これでは、結果の統計的な意味がなくなるのではないか。 (2)「同じものがもう一通入っています。ぜひ、もう一通をご家族・知人の方にお答えいただければ幸いです。」という依頼は何を意味しているのか。この種の意向調査、アンケート調査で、「家族、知人に渡して」、というアンケート方法は聞いたことがない。2通を1世帯に送ることで調査数を水増ししようとしているようにも見える。 また、このようにがれきな受け入れに誘導するような内容のアンケートを人に渡すのは受け入れ賛成派のみと考えられる。結果として受け入れ賛成の回答を増やす効果もありアンケートの結果に影響を及ぼす可能性がある。 (3)電話帳から無作為抽出としているが仕様書がそうなっているのか。通常は対象となる自治体の協力を得て、住民基本台帳などから階層二段抽出などを行うのが一般的である。電話帳に住所を記載している人は一定の年齢層等、かたよりが想定される。 (4)調査の目的は研究目的とあるが、このアンケート調査の目的は何なのか、何の研究に用いるのか。研究機関とはどこか。 6−2 調査内容について (1)質問順:以下の順番には違和感を感じる。 Q1 災害廃棄物の受入について Q2 放射性物質への対応と放射線に係る単位について Q3 放射線のリスクや情報源への信頼について Q4 放射線のリスクについてあなたが信頼できると思う情報源 Q5 災害廃棄物の受入についてもっと周知すべき情報 (2)質問内容 Q1:災害廃棄物の受入について 選択肢に入るまえの説明文章が不正確であり、事実を的確に説明していないため、誘導尋問となっている。岩手、宮城で発生している災害廃棄物量のうち、広域処理を希望している量はそれぞれ岩手で12%、宮城で22%程度にすぎず、全体の瓦礫処理の予算執行状況を見ると、3年分の1/3に当たる額は順調に執行されている。 この説明のような一方的な解説は回答者をミスリードする。設問を作る側(調査の実施主体)が問題を理解していないことが明らかである。そのために設問や選択肢が誘導的なものとなっている。 回答の選択肢には必ずしも「災害廃棄物の受入について」と直結しないものがあり整理されていない。たとえば、以下のような流れで選択肢を整理しないとわかりにくい。 ・一般論として受入に賛成か反対か ・自分の地域での受入に賛成か反対か ・賛成の理由/反対の理由 −国や行政の政策立案への信頼性 −学者や研究者に対する信頼性 −技術(力)に対する信頼性 −マスメディアの広報からの影響 −政策立案プロセスの透明性についてのポイント −個人としての被災地に対する思い入れ −自治体としての自治、自主的判断の観点から 等 ・自由意見の記述欄が必要 Q2:放射性物質への対応と放射線に係る単位についてそもそもこの設問が極めておかしい。放射性物質やその他の汚染物質等に汚染されているおそれのある廃棄物を広域処理することへの対応の是非を問う設問の中で、単位がわかるかわからないかを聞くのはおかしい。 ここでも、選択肢に入る前の説明文及び図が不正確。図中の言葉は専門用語の解説がなく一般の市民が理解するのが難しい。また、選択肢が整理されていない。放射性物質の対応について質問するのであれば、たとえば次のような項目についても整理が必要。 1)焼却について ・被災地の瓦礫の放射能レベルは低いとされているが、信頼できるかどうか・バグフィルタ(説明が必要)で99.99%除去されるという指摘について信頼できるかどうか・検出下限値以下という言葉は説明がなければわからないが、検出下限値以下であるということで信頼できるか・モニタリングについて、測定値が低ければ問題ないか。 2)灰の埋立について ・作業員や周辺住民への影響について信頼できるか ・8000Bq/kgで埋め立てた場合、処分場周辺や地下水等への影響について問題ないと考えるか ・モニタリングについて、基準値以下なら問題ないと考えるか。 3)基準値等について ・国(行政)が決めた基準値は信頼できるか ・専門家、学者が関与して決めた基準は信頼できるか ・国際的に通用する値であれば信頼できるか ・第三者的な機関、専門家が評価したものであれば信頼できるか ・自治体が納得できるものなら信頼できるか ・市民の関与に関する選択肢(市民に対する説明と合意がなければ認められないなど) 設問に使用されている言葉が不適切である。例えば、「測定がきちんとされていれば」などという表現は曖昧である。回答者によって判断や評価に大きな違いが生ずるような設問は避けるべきである。同様に、処分場や焼却炉から「たくさんの放射性物質が」しみ出して、というような表現は不適切である。「たくさん」という表現は主観的であり人によって違いうる。上記の質問とは別に、単位や言葉についての周知度、認知度などを確認するのはよいがこの中で一緒に聞くのはおかしい。 (3) 全体としての印象 「アンケート」の体裁を取っているが、アンケートの設問を読み、回答することを通じて、調査対象者を「啓蒙」(価値観の押しつけ)することを目的としたもののように感じられる。アンケートに回答しようとしている人に対して影響を及ぼそうとしている意図が感じられる内容となっている。 このアンケートは、放射線に関して無知な人(単位の意味も知らない人)は広域処理に反対し、「正しく」理解している人は受け入れ、という集計結果が出るよう意図して設計していると思われる。少なくともそのような思い込みを前提として設問が作成されていると考えなければ不自然な内容となっており、第三者的、中立的なアンケートになっていない。 このような偏った内容の調査に国や自治体、その外郭団体等が関与しているとすれば、極めて問題である(週刊金曜日の記事では「原研」が委託したとされている)。仮に自主調査であったとしても、第三者性もなく、目的も明確でない調査は、調査実施過程においても、その結果においても、市民を誘導し、混乱させるだけなので問題が大きい。 |