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 NHKスペシャル、原発解体
世界の現場は警告するを見て


池田こみち
(元原子力円卓会議委員)

2009年10月12日 無断転載禁


 秋の夜長、NHKならではのドキュメンタリー「原発解体〜世界の現場は警告する〜」は、久しぶりに見応えがあった。


出典:NHKスペシャル、原発解体

 現在、国内では「ふげん」と「東海発電所」の二基の原子力発電所がその役目を終え、解体処分されようとしている。そのこと自体、どれほどの国民が関心をもって監視しているのか、この番組を見て改めて私たち日本人の無頓着さを思い知らされた。


出典:NHKスペシャル、原発解体

 世界は今、温暖化防止に向けて大きく舵を切ろうとしている。その背後には、伸び続けるエネルギー消費をまかなうため、「稼働中は二酸化炭素を排出しない」エネルギー供給源として原発への依存を高めようとしているのである。

 日本の原発はすでに17施設55基にも及び、電力依存率は4割を超える世界第三位の原発大国である。


出典:NHKスペシャル、原発解体

 そして、さらに今後、9基の増設が予定されている。そんな中で、進められている「ふげん」と「東海」の解体処分については、最終的に原子炉部分を解体する技術(遠隔ロボット制御による解体作業)が確立されないまま時間ばかりが過ぎていく現状を伝えるところから番組が始まった。

 開発当時はいつの日か必ず来る原発・原子炉の「解体・処分にまで思いが至らなかった」と当時の研究開発の責任者が語っているように、今まさにその付けが世代を超え重くのしかかっているのである。


出典:NHKスペシャル、原発解体

 膨大な量の放射性廃棄物の処分(地中埋め立て)やリサイクルを喜んで受け入れる地域はない。これは世界共通の課題である。

 番組では、ドイツ、イギリスなどの事例も現地取材し、鋭くその問題点をえぐり出していた。


出典:NHKスペシャル、原発解体


出典:NHKスペシャル、原発解体

 ドイツでは、放射性廃棄物を埋め立てた処分場の地質が軟弱であることが処分後に判明し、地下水が噴出するなど、およそ放射性物質の貯蔵には不適な処分場であることが判明したが、その事実は長いこと地元住民には伏せられてきた。

 すでに処分した廃棄物をどうするのか、ドイツ政府、自治体、住民が頭を抱えている。どのような対策を講ずるにせよ、膨大な資金が必要となり、未来永劫放射能のリスクは消えないことだけが事実として突きつけられている。

 予定していた解体工事は技術開発の遅れにより大幅に遅延し、それがさらにコストの増大を招いている。もちろんそうした現場で作業する労働者や技術者のリスクに対しても対策が不可欠である。


出典:NHKスペシャル、原発解体


出典:NHKスペシャル、原発解体

 一方、イギリスでは、セラフィールド核廃棄物再処理施設にすでに3兆円の費用がかかり、現在進めようとしている原発の解体処分には総額で11兆円の巨額の費用がかかることが既に明らかとなっている。

 日本と同様、どこの自治体も処分場受け入れには反対が根強いが、受け入れを表明した自治体は巨額の見返りを求めることを条件としているため、さらに地元対策費が必要となるのである。


出典:NHKスペシャル、原発解体

【関連論考】
■英国セラフィールド核廃棄物再処理施設から漏れ出る放射能汚染
青山貞一:(1)河野太郎議員の問題提起
青山貞一:(2)その位置と施設の概要
青山貞一:(3)プルトニウム30kgを紛失
青山貞一:(4)莫大な放射性物質の漏洩
青山貞一:(5)環境汚染の実態
青山貞一:(6)今回のコラム執筆で分かったこと
青山貞一:どこまで続く日本原電の情報隠蔽体質〜英セラフィールド再処理施設事件〜

 今から12年前の1997年12月、米国エネルギー省(DOE)は、エネルギー分野と廃棄物処理分野のD&D(DecommissioningとDecontamination)をテーマとした国際シンポジウムをマイアミの大学と共同で開催した。


出典:NHKスペシャル、原発解体

 私たち株式会社環境総合研究所にもDOEから招待状が届き、その貴重な会議に参加する機会を得たが、すでに10年以上も前からアメリカやドイツでは、いずれ訪れる原発や廃棄物処理施設の「始末」をどうしていくのか、について技術面、社会的合意形成、手続き、情報公開、国際協力などさまざまな観点から議論を進めていた。

 アメリカはその分野の技術を主導することにより新たにD&Dの国際マーケットで主導権を握ろうとしていたことは間違いない。

 翻って、我が国の場合はと言えば、この間、代替エネルギーや自然エネルギーに本来振り向けられるべき資金予算が原子力分野に過度に配分されてきたこともあり、いわゆる産・官・学(今では政治・官僚・業界・学会(学者)に報道の現状追認ペンタゴン)の堅い「絆」のもと、国民はさておかれ、原子力依存を強化し、これから役目を終える原発が次々と出てくる時代になっても、解体や処分の方法などについてはほとんど情報すら提供されていない。


出典:青山貞一、環境と官僚政治、東京都市大学 2009年市民講座レジメより

 そればかりか、さらに9基から14基もの新規原発を予定しているのである。

 山口県の上関原発で現在も地元漁民や住民の体を張った反対運動が続いているが、番組最後に登場した後半に出てきた内閣府原子力委員会の近藤委員長の言葉には怒りを禁じ得なかった。

 国民への十分な説明や情報提供もなく、一方的に理解を求めたり、言い方は悪いが金で頬をたたくようなやり方での地元取り込みで、原発を作り続けた暁の責任を誰がどうとるのか、少なくともこの時代に生きた大人として私たち一人一人が責任を感じこれからどうしていくのかを改めて考え発言していくときである。

 民主党もこの点についての政策を再度見直す好機である。まさか温室効果ガス25%削減の前提が「原発推進」であると思いたくないのは私だけではないだろう。


池田こみち氏(青山貞一からのコメント)

 環境総合研究所副所長。環境行政改革フォーラム副代表。1997年12月、米国エネルギー省主催の通称、原発の安楽死プロジェクトをどうすすめるかについて南フロリダ大学で開催されましたD&D国際シンポに、米政府から招聘され、日本のNPOを代表し論文発表をしています。この会議には、池田さんと東京電力など事業者、東京工大教授以外日本人は参加していませんでした。もう12年も前のことです。

 D&DはDecommissioningとDecontaminationの意味です。

 また池田さんは科学技術庁(当時)主催の原子力円卓会議の委員に指名され、10数回に及ぶ円卓会議でご承知のように忌憚のない意見の吐露をされるなど、当時、この分野で大いにがんばってきました。


NHKスペシャル「原発解体〜世界の現場は警告する〜」
http://www.nhk.or.jp/special/onair/091011.html

再放送予定:NHK総合 10月14日(水)【13日深夜】
午前0時45分〜1時45分「原発解体〜世界の現場は警告する〜」


 深刻化する地球温暖化。各国のエネルギーの獲得競争。世界を巡る環境が大きく変わる中、今、原子力発電が注目されている。火力発電所に比べて大幅に二酸化炭素の排出が少なく、発電の出力が大きいからだ。

 チェルノブイリ原発事故以降、脱原発の政策を続けてきた欧米。中国・インド・ロシアなどの新興国。そして産油国までも建設に舵をきった。世界で新たに導入の準備がすすむ原発の総数は100基にのぼる。

 その陰で初期につくられた原発が役割を終えて解体されている事はあまり知られていない。閉鎖された数は既に120基あまり。私たちは原発の大解体時代をむかえていたのだ。

 国内にも「ふげん」と「東海発電所」の2つが解体に着手。取材クルーははじめて、知られざる原発解体の現場に密着した。そこでは放射線という一般の建物にはない特殊な環境下での厳しい作業が続いていた。次々と関係者の事前の想定を越える壁が立ちふさがる。さらに原発の解体は別の課題を抱えていることもわかってきた。解体した後に発生する大量の放射性廃棄物を処分する場所が未だに決まっていないというのだ。

 世界の社会経済環境が大きく変わる中で高まる原子力発電へのニーズ。

 一方で未だ解決の道筋がみえていない解体からでる廃棄物の行き先。この難しい問題にどう私たちは答えをだすのか。解体現場の取材からの報告。