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2008年度
 市民参加による
松葉ダイオキシン調査
〜札幌市と川口市で報告〜

池田こみち 

環境総合研究所副所長
全国松葉ダイオキシン調査実行事務局長
 2009年2月23日 無断転載禁


 マツの針葉を生物指標として大気中のダイオキシン類濃度を測定監視する活動も1999年にスタートしてことしで10年目を迎えようとしている。2008年度も次の地域からの参加があり、ようやくすべての分析が終了したところである。



<2008年度の参加地域:北から>
 @北海道札幌市:清掃工場周辺を対象とした製品
    プラスチック焼却開始前のプレ調査
 A宮城県仙台市:産業廃棄物焼却炉の継続的監視活動
 B宮城県大和町:廃棄物処理工業団地本格稼働前のプレ調査
 C栃木県大田原市:一般廃棄物焼却炉の継続的監視活動
 D茨城県笠間市 :公共関与型産廃処理施設
   (ガス化溶融炉と最終処分場)の監視活動
 E埼玉県川口市:ガス化溶融炉周辺地域及び市内全域の継続監視活動
 F愛知県名古屋市:隣接市の産廃処理施設からの継続的な影響監視活動
 G愛知県春日井市:春日井市広域の環境監視活動、環境教育活動
 H福岡県古賀市:ガス化溶融炉周辺の継続的監視活動
 I福岡県宗像市:市役所による継続的環境監視活動
 J熊本県八代市:市内中心部発生源周辺地域と農村部の環境監視活動
 K大分県大分市 清掃工場周辺の継続的監視活動

 これらのうち、先週は@札幌市とE川口市で結果報告会が開催された。

●札幌市での報告会

 今回の調査は、生活クラブ生協北海道の組合員活動(環境委員会)による取り組みとして行われたものであり、99年からまる9年を経ての二度目の調査となった。

 目的は、札幌市が今まで分別し埋立処分していた製品プラスチックを焼却処理する方針に切り替えたことにより、プラスチック焼却前と後で調査を行い、その変化を監視しようというものである。



 事務局(環境総合研究所)との共同研究として、札幌市内の4つの清掃工場周辺(2km以内)と、清掃工場から6kmほど離れた住宅地の比較を行った結果、ダイオキシン類は清掃工場から離れた住宅地の濃度が低いことが明らかとなった。

 また、重金属類についても、相対的に焼却炉周辺地域が濃度が高い傾向を示し、一部には、東京都内の発生源の集中している地域と同程度の高濃度となった項目もあった。


講演する筆者(札幌にて)

 ダイオキシン濃度が低い札幌市において、焼却炉からの排出されている有害化学物質はダイオキシン類だけではないことを知る上で重金属の調査は大きな意味があったと思う。

 報告会には、生活クラブ北海道の理事をはじめ一般組合員の皆様40名ほどが参加され、ダイオキシンと日本のごみ処理の課題、札幌市のごみ処理の状況などについての2時間半にわたる報告に熱心に耳を傾けていただき、活発な質疑応答が行われた。



 99年の第一回調査には参加していなかった組合員の方々も多かったようだ。

 今回の調査活動の一環として、市内を車で走り回って住宅の庭のクロマツを探したり、松葉採取に協力していただくために知らないお宅をお尋ねして調査の趣旨を説明するといった活動に楽しみながら取り組まれた様子も紹介された。

 苦労して採取した松葉からさまざまなことが明らかとなり、環境学習活動としても改めてその意義が見直されることとなったことは、実行委員会事務局としても大変有り難いことである。

 幸い、札幌市内のダイオキシン類濃度は今回の調査からは非常に低く維持されていることが明らかとなったが、今後、製品プラスチックの焼却処理によってどのように変化するか、不安も高まっている。


●川口市での報告会

 川口市は鋳物の町として全国的にも有名である。

 市内での松葉によるダイオキシン調査は2001年度から継続的に8年間行われてきた。04年と05年には川口市役所との共同調査も行うなど、市役所を巻き込みながら、川口市内のダイオキシン問題を解決するために熱心に取り組みが行われてきた。市民グループの名称は、ずばり、「ダイオキシン問題を考える市民の会」である。



 過去8年の間には、市内を4分割してどの地区のダイオキシン類濃度が高いをきめ細かく調査し、市内の汚染の実態を明らかにしてきた。その結果、毎年、南平地区(南東部)の濃度が高く、その地区にある一般廃棄物処理施設(朝日環境センター:流動床式ガス化溶融炉)が主な発生源なのではないかと危惧されてきた。

 周辺には住宅も密集していることから、大規模なガス化溶融炉の影響に関心が集まったが、川口市にはそれ以外にも無視できない発生源が存在していた。


2008年度 川口市の松葉ダイオキシン調査

 それは、小型焼却炉である。市民の会では、メンバーが自転車で市内を走り回ったり、通勤通学の途中やお買い物の途中などに市内を観察し、小型焼却炉の稼働状況を調査し、市役所に指導を働きかけてきたのである。

 最新の情報によると、南平地区だけで、すでに数百の小型焼却炉の稼働停止(閉鎖・撤去)を実現し、現在市役所が指導の対象としている炉は22炉まで絞られてきたという。調査を通じて、大気中のダイオキシンは必ずしも煙突からだけ出るのではなく、小型焼却炉内に残された灰、掻き出された焼却灰、敷地内に積み上げられた焼却灰が舞い上がって松葉に吸収されたり、付着したりする可能性もあることが浮かび上がってきた。


会長の渡邉千鶴子さんのご挨拶

 市民グループが独自に行ってきた松葉ダイオキシンの測定調査は、市役所を動かし、市内の汚染を改善する上で大いに役立ってきたことは間違いない。2008年度の調査は、川口市の市民活動助成金を受けての活動であったため、2月21日土曜日にはその成果報告会が行われたのである。

 午後1時半から4時すぎまで、公民館のお座敷で、寺子屋風のしつらえでの報告会となった。

 内容的にはダイオキシン類だけでなく、重金属類、PAH類、PBDE類などこれまでに行ってきたさまざまな未規制化学物質の分析結果も踏まえ、きわめて高度な内容を含めて8年間の調査活動を総括する報告と質疑が行われた。

 10年間松葉ダイオキシン調査の実行委員会事務局として全国各地で報告会を行い、多くの方々と交流できたこと、成果を共有できたことは私にとっても大変貴重な経験であり財産となった。

 また、市民参加による調査の成果が国際的にも学会発表を通じて情報発信できたことも大きな成果の一つである。

 この場をお借りして、全国の皆様に改めて感謝の意を表したい。