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札幌市のごみ政策と
市民参加の松葉ダイオキシン調査

池田こみち
環境総合研究所 副所長
掲載月日:2012年3月1日
 独立系メディア E−wave


 2012年2月29日、閏日のこの日、東京で大雪が降りしきるなか、札幌は久しぶりの好天に恵まれた。札幌駅前のエルプラザ2Fの環境プラザ研修室で午前10時〜12時まで、生活クラブ北海道主催による「2011年度 松葉ダイオキシン及び金属類調査 結果報告会」が開催された。私にとっては、2009年春の報告会以来3年ぶりの札幌入りである。参加者は主に生活クラブの組合員だが、松葉を提供した一般の方も参加され、熱心に調査結果の報告を聞いて頂いた。

 札幌市では平成20年度から、一般廃棄物の有料化に踏み切り、これまで分別していたプラスチックごみのうち、容器包装類を資源化、それ以外を焼却する措置をスタートさせた。それに伴って、環境への影響を危惧する市民グループが松葉を生物指標とした大気中のダイオキシン類及び金属類の濃度の監視活動を行うこととなった。廃プラ焼却本格稼働前の2008年10月に事前調査を実施し、今回は丸三年経った時点での事後調査と位置づけられていた。

 札幌市内には2008年当時、4箇所の清掃工場(発寒清掃工場、白石清掃工場、駒岡清掃工場、篠路清掃工場)があった。


図A 札幌市内清掃工場位置図

 2008年時点の廃棄物処理量は、人口が微増する中、なかなか大きな削減が見込めない状況となっていた。そこで、市が導入したのが「スリムシティさっぽろ計画」だ。
http://www.city.sapporo.jp/seiso/keikaku/slimplan/

 詳細は市のWebサイトをご覧いただくとして、その成果は、概ね図1に集約されている。


図1 札幌市が処理するごみ量の推移

 計画を導入した2008年度以降、一人当たりのごみ排出量は大幅に減少し、資源物の回収量も大きく増加した。その結果、4つある清掃工場の内、老朽化した篠路清掃工場(300t/日×2炉:タクマ製ストーカー炉、昭和55年12月竣工、バグフィルター付き)を閉鎖することが可能となった。

 分別の徹底、ごみの減量化の結果として、東西42.30km・南北45.40kmの広大な札幌市内に稼働している焼却炉は3施設となり、大気中のダイオキシン類濃度も大幅に改善されることとなった。とはいえ、清掃工場など迷惑施設は北部に集中しているため、その周辺は若干それ以外の地域よりはダイオキシン濃度も高めとなっている。

 ただし、まったく監視されていない水銀、鉛、カドミウム等の重金属類については、ダイオキシン類のような改善は見られないことが今回の調査で明らかとなった。

 筆者等が再三指摘しているが、日本はこれほど焼却炉に大きく依存し「焼却主義」を標榜しているにもかかわらず、有害物質の発生源としての監視や規制は極めてお粗末である。規制されている項目は、@窒素酸化物、A硫黄酸化物、B煤じん、C塩化物・塩化水素、Dダイオキシン類であり、重金属類やPAH類などの監視や規制は行われていない。

 今回、札幌市内のダイオキシン類濃度は大きく改善し、清掃工場周辺地域と一般環境地域との差がなくなりつつあることがわかったが、一部の金属類については、上昇に転じているところも見られた。特に、気化しやすい水銀に着目すると、すべての検体(3つの清掃工場周辺地域と清掃工場から6kmほど離れた住宅地)について、水銀の濃度が上昇傾向を示した。東京並の濃度である。

 東京23区では廃プラ混合焼却を開始して以来、排ガス中の水銀濃度の上昇が原因による焼却炉の停止が相次いだ。ダイオキシン類濃度さえ下がれば焼却を継続しても問題ないというスタンスをそろそろ見直すべき時期ではないだろうか。東日本大震災に伴い発生したいわゆる瓦礫(災害廃棄物)の処理に関しては、放射性物質にばかり注目することにも問題がある。

 札幌市では、人口が微増となっているにもかかわらず、横浜市と同様、市長のイニシャティブによりこの3年間で目標を前倒しする勢いでごみが減り、資源化の量が増えたことは大いに評価すべきことである。
 横浜市では中田市長の政策で「ごみ減量、よこはまG30計画」で清掃工場を3カ所閉鎖することに成功している。翻って東京23区に目を向けると、区民の努力でごみは減少しているにもかかわらず、東京二十三区清掃一部事務組合の主導による焼却炉の強化に歯止めがかからない。災害瓦礫も全国に先駆けて受け入れている状況だ。札幌市は災害瓦礫の広域処理については、明確に受入を拒否している。

 一般廃棄物の処理が市区町村(基礎自治体)の自治事務であるとするなら、区長はどのような廃棄物政策を推進するべきなのか、区民参加で独自の政策を打ち出すべきだが、まったくその気配もない。東京23区のごみ政策には自治がない、といっても過言ではない。ハード依存、焼却依存からの脱却への道のりはまだまだ遠いように思える。

 同時に、すべてのごみ処理を自治体が取り仕切ることにも問題がある。排出者責任、使用者責任をより強化した法制度の見直しも急務である。ペットボトルなどの飲料容器へのデポジット制度の導入や拡大生産者責任の徹底など、ソフト面で強化すべきことがあるはずだ。また、市民・消費者も現状のごみ処理のあり方について自分の問題として政策決定に関与していく必要がある。