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災害廃棄物の
広域処理をめぐる諸課題
池田こみち  
環境総合研究所副所長

掲載月日:2011年11月8日
 独立系メディア E−wave


 岩手県宮古から東京都に運ばれた災害廃棄物(以下、瓦礫)約1万トンは既に分別・焼却などの中間処理を終え、東京都の中央防波堤沖最終処分場に焼却灰などが埋立処分が始まっている。

 この間、マスコミの社説や一部知識人の発言などで、広域処理の推進は当然であり、反対するのはまるで国賊のような論調が展開されている。石原都知事に至っては、都内での焼却処理に反対する声が多く寄せられていることに対して、「黙れ、と言えばいい」とまるで、独裁政権そのものの態度である。果たしてそうだろうか。

 非公開の災害廃棄物安全評価検討会(環境省)においては、早い段階から福島県浜通り、中通り地域であっても会津地域と同程度の空間線量の廃棄物については、焼却処理することは問題ないとの方針が示されていた。

 その根拠は科学的な説得力に欠けるものの、バグフィルター付き焼却炉(適切な排ガス処理装置のついた焼却炉)であれば、放射性セシウムは99.9%除去できるという過去の京都大学の論文や、その後行われた福島県伊達市の伊達地方衛生処理組合清掃センターで電気集塵器でも問題ないというたった1回の実験のみである。

 その後、被災三県以外の廃棄物焼却炉の焼却灰、飛灰から高濃度の放射性物質が検出され、福島県内の瓦礫以前に既に放射性物質による汚染は広域に広がっていることが明らかとなっている。各自治体や複数自治体で構成する一部事務組合などでは焼却炉の排ガス中からは放射性物質が検出されていないことをホームページなどで公表している。

 なお、都民が排出する一般廃棄物の焼却は東京二十三区清掃一部事務組合(清掃一組と略す)で行っているが、今回の岩手県の瓦礫は、産業廃棄物処理業者が受注し、分別・破砕を行った後、東京電力グループの臨海リサイクルパワー株式会社が焼却している。東京都は最終的な埋立処分を受け持つといったスキームである。

 都民の一般ごみについては、焼却処理を担当する清掃一組において、7月初旬から排ガス測定を開始し、その結果をWeb Siteに掲載している。
排ガス(煙突)の放射能濃度測定結果
http://www.union.tokyo23-seisou.lg.jp/topics/haigas.htm

都内一般廃棄物焼却施設における飛灰等の放射性物質等測定
結果について
http://www.kankyo.metro.tokyo.jp/resource/general_waste/
attachement/houshanou-sokuteikekka_20110908.pdf
 結果はすべてND(不検出=定量下限値未満)となっている。公表された内容を見ると、測定方法は、「緊急時における食品の放射能測定マニュアル」(平成14年3月、厚生労働省医薬局食品保健部監視安全課)となっており、注として、
※1 使用測定器 : 仏キャンベラ社製 ゲルマニウム半導体検出器 7500SL
※2 排ガス測定値は、排ガス中のガス状及び粒子状の放射性物質を合計したもの
と記載されている。しかし、肝心な排ガスのサンプリング方法や定量下限値については記載がないため、各方面に電話ヒアリングを行い情報を入手した。

 それによると、まず、排ガスのサンプリングについては、国のマニュアルやガイドラインはなく、各自治体や一部事務組合がそれぞれ独自に仕様を設定し、業者に発注しているとのことだった。

 東京都の場合には、JIS-Z8808に準拠したサンプリングを行い、排ガスの吸引は4時間を原則としているとのこと。さらに、放射性物質を三段階で捕集しているとのことである。まず、フィルターで粒子状物質を捕集し、その後排ガスを水に通して水溶性の放射性物質をキャッチ、さらに活性炭を等して吸着させるということになっており、定量下限値は各段階でそれぞれ異なるとのことだった。そのため数字が多くなるので公表していないとの回答だった。

 ちなみに、2011年9月5日に測定された練馬区光が丘工場の場合、それぞれの項目ごとかつ捕集の段階ごとに定量下限値は次のように設定されているとのことだった。

表:練馬区 光が丘清掃工場の場合の定量下限値
2011年9月5日測定

  粒子状 水への溶出 活性炭への吸着
I-131  0.18  0.41  0.34
Cs-134  0.14  0.25  0.21
Cs-137  0.12  0.34  0.26
単位:Bq/m3

 排ガス中に放射性セシウムが検出されるかどうかは、サンプリングの方法が適切かどうかにかかっている。しかし所管する文部科学省では、これについてまったく関知しておらず、外郭団体の財団法人日本分析センターに聞いて欲しいという無責任ぶりである。

 電話して確認したところ、いわゆる公定法はなく、JIS-Z8808に準拠しているが、排ガス量1立方メートルを目安として、吸引し、フィルターのみで補足しており、水への溶出や活性炭は使用していないとのことだった。

 JIS-Z8808は排ガス中のダスト濃度の測定方法に関する規格であり、高温でガス状となった物質については捕集されない可能性が高い。

 採取したサンプルの最終的な放射能の測定は、「緊急時における食品の放射能測定マニュアル」に準じているとのことだが、何時間(何秒)カウントしているのかも明記されていない。
4.発生源排ガスのサンプリング
http://www.env.go.jp/earth/coop/coop/
materials/13-tbsemj/13-tbsemj-23.pdf
 次に、排ガス中の放射性物質濃度の評価基準が問題となるが、これについては、「東日本大震災により生じた災害廃棄物の広域処理の推進に係るガイドライン(環境省 平成23年8月11日)」を適用する、とされており、具体的には、セシウム134が20Bq/m3、セシウム137が30Bq/m3を下回ってること、となっている。この値は、「実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則の規定に基づく線量限度等を定める告示」で示された濃度限度に準じたものである。
災害廃棄物の広域処理の推進について
(東日本大震災により生じた災害廃棄物の広域処理の推進に
係るガイドライン)
平成23年10月11日 一部改訂
http://www.env.go.jp/jishin/attach/memo20111011_shori.pdf
 福島県内の災害廃棄物以前に、都内でも植木剪定ごみなど一般ごみにも放射性物質が付着していたことが原因で焼却残渣に高濃度のセシウムが濃縮・残留する事態となっている。清掃一組や東京都下水道局の公表データを見ると、都内の清掃工場から排出される焼却灰、飛灰、下水汚泥、焼却汚泥残渣、スラグなどからも高濃度のセシウムが検出されている。都内では特に江戸川工場の飛灰の放射能レベルが高いことが明らかとなっている。
焼却灰等の放射能濃度測定結果 平成23年10月31日 (清掃一組)
http://www.union.tokyo23-seisou.lg.jp/topics/data/shokyakubai-231017.pdf
そうした状況のなかで、被災地の災害廃棄物を遠路輸送し、都内の焼却施設でさらに濃縮し、排ガス中や焼却残渣に放射性物質を拡散・集中させることについては、より慎重な対応が求められる。

 都民から寄せられる不安に対して、都は、岩手県の瓦礫の放射能レベル、瓦礫近傍の空間線量率、輸送中、到着後の放射線レベルなど全18回もの測定を行っているというが、膨大な瓦礫の放射能レベルはわずか1サンプルで代表できるとは思えない。

 日本の焼却炉の排ガス規制はヨーロッパなどに比べてあまく、規制項目・監視項目も5項目(煤塵、硫黄酸化物、窒素酸化物、塩素・塩化水素、ダイオキシン類)に過ぎない。せめて災害廃棄物の処理に際しては、よりきめ細かく未規制物質や放射性物質のしっかりとした監視体制を構築すべきではないだろうか。

 東京都では、今回の宮古の廃棄物の引き受けを皮切りに、平成25年度までの3年度で約50万トンを処理する予定としているが、人口密集地で焼却炉の密度も全国一の23区内での焼却処理が長期的に都民に対してどのようなリスクをもたらすことになるのか、丁寧な説明が必要である。まして、焼却処理は東京電力グループの臨海リサイクルパワー株式会社、一社が行うというスキームにも疑義を感じる。

 なによりも広域処理を進める議論を公開で行うことが重要なのではないだろうか。こそこそ非公開で議論(災害廃棄物安全評価検討会)して、十分な情報や説明もないまま、いつのまにかそれが正義のように押しつけられるのはやめて欲しいものである。

環境省の信頼性損なう正当性のない意思決定手続き〜放射性廃棄物の処理方針の決定〜
環境行政改革フォーラム 事務局長 鷹取 敦
   同        副代表  池田こみち
http://eritokyo.jp/independent/eforum-col101.htm