エントランスへはここをクリック!  

環境省の温暖化対策に
名を借りた壮絶な無駄を問う

池田こみち

 2008年8月6日 無断転載禁

 福田改造内閣で公明党から初めて環境大臣が任命された。東京新聞のインタビューに対し、斉藤鉄夫環境相は、次のように答えている。「公明党は『環境の党』を掲げている。これまで以上に大きな役割を頂いたと思っている。まずは京都議定書の目標の確実な達成に向けて、さらなる技術開発、排出量取引、環境税なども視野に入れて検討していく必要がある。

 温暖化防止活動は、クールビズもふくめてまだまだ浸透が足りない。国民と対話し、理解を深めていただく機会を積極的に設けようと思っている。」(東京新聞2008.08.05朝刊 刷新背水内閣の閣僚インタビューを筆者がまとめたもの)

 さて、改造後、福田内閣の支持率はご祝儀相場もあってわずかに上昇したようだが、評価はまさにこれから。厳しさを増す国民生活、経済状況をどう克服していくのか、「安心の実現」を国民が実感できて初めて内閣が評価されるのは言うまでもない。

 ところで、来年度予算の審議を控え増大する社会福祉の負担増をどうしていくのか、増税路線か上げ潮路線(経済成長)か、はたまた、ばらまき型公共事業や国庫補助の拡大へと進むのか、といった議論が喧しいなか、右から左まで異論がないのが、いわゆる「行政の無駄の削減」である。

 参議院のねじれ状態が功を奏し、この間、様々な行政の無駄が明らかになった。居酒屋タクシーならぬ高額タクシーチケット問題、マッサージ器などの福利厚生グッズ購入問題に始まり道路・空港・ダムなど大規模公共事業にまつわる無駄、公益法人と所管省庁との癒着、あげく社保庁職員などの犯罪的な所行なども様々明らかになってきている。

 しかし、環境省の予算執行については、あまり大きな批判はないようだ。昨今の地球環境問題への関心の高まりを背景に、温暖化対策など地球環境対策の予算は増え続けてきた。

 平成20年度の環境省の予算額は一般会計分が約1840億円、特別会計分が約400億円となっており、合計2200億円規模に達する。*1 もちろん、環境分野は幅広く、この予算が必ずしも十分かどうかは、政策効果がでているかどうか、によって評価せざるを得ない。

 ちなみに米国環境保護庁EPAの2008年度予算額は当初72億ドル(約7,800億円)*2 となっているので、一般会計分だけ見れば、日本の4倍ほどである。

 環境省の予算2200億円のうち、温暖化だけに限ってみると、一般会計から26億円と特別会計から400億円で合計426億円となり、特別会計の400億円が乗っかって、廃棄物・リサイクル政策(約800億円)に次ぐ予算規模である。今や環境省は事業官庁であり、予算もハードに費やす分が意外と多いのだ。

 ところで、特別会計と言えば、「道路特会」ばかりに関心が集まりがちだが、環境省の予算に組み込まれている特別会計は、「エネルギー特別会計」*3である。その総額は借入金の償還及び利子の支払い分を加えて総額2.2兆円にものぼり、その中から環境省が温暖化対策費として400億円あまりを使っているのだ。

 そもそも「エネ特会」のうちのエネルギー需給勘定は、@燃料安定供給対策、Aエネルギー需給構造高度化対策、のための会計であり、広く解釈すれば省エネや代替エネルギー開発・普及等を通じての温暖化対策もそれに含まれることは理解できる。しかし、「国民運動の推進事業」というのはどうだろうか。

 以前にも指摘したが、平成17年度からエネ特会をつかって、環境省は巨額の予算を広報活動に投じている。題して、「温暖化防止国民運動推進事業」である。17年度から20年度まで毎年30億円が予算化されてきた。そして、毎年、企画コンペによる随意契約で博報堂が受注しているのである。

 その内容は、クールビズの普及、チームマイナス6%運動の普及など、テレビ等のマスメディアを通じての広報活動や各種キャンペーンが主な内容となっている。20年度は今のところまだ執行されていないようだが、17年度から30億円×4年で120億円の巨額である。

 温暖化防止のPRに年間30億円も税金を投じている国が他にあるだろうか。しかも広告代理店への発注である。それが二酸化炭素排出削減や電力使用量の削減、あるいは代替エネルギーの普及促進に大きく貢献し、事実上効果があったのならまだしも、二酸化炭素の排出量は増加し続けているではないか。

 これについては、何回もマスコミ関係者にも情報提供しているが、一切報道されたことはない。それもそのはず、博報堂といえば、民放はコマーシャルとの関係で切っても切れない仲だろう。下手に批判して広告が減っては元も子もないのである。 

 確かに、クールビズの知名度は高いし、チームマイナス6%運動への参加団体・個人も増えているかも知れないが、肝心なことは知名度ではなく削減効果であり、実効性である。この事業は企画コンペで、環境省内外の審査員が審査を行って決定しているとは言うものの、初年度に博報堂が選定されて以来、毎年、博報堂に委託されているのである。

 ということで、冒頭に紹介した新環境相のインタビューに戻る。「温暖化防止活動は、クールビズもふくめてまだまだ浸透が足りない。」というご認識だが、17年度から19年度まで約100億円もかけてやってきた「国民運動推進事業」で足りないというのなら、この事業が効果をもたらしていないということではないだろうか。

 また、「京都議定書の目標の確実な達成に向けて、さらなる技術開発、排出量取引、環境税なども視野に入れて検討していく必要がある」とのことだが、検討ばかり延々と続けていて実行できないことが環境省の最大の問題であることを反省してほしい。

 「国民運動推進」のために3年間にわたって毎年投じられてきたは30億円は、決して小さい額ではない。これは環境省の予算のほんの一項目に過ぎないが、温暖化対策の名の下に、無駄な予算執行が続けられている一例である。

 地球温暖化問題は20年前から指摘されていた課題である。今頃それで焼け太りしている環境相の予算執行状況については、今後も厳しい監視を行っていく必要がある。

−−−
*1 環境省予算関連資料 http://www.env.go.jp/guide/budget/
  環境省平成20年度予算のポイント         
  http://www.mof.go.jp/seifuan20/yosan012-8.pdf

*2 FY2008 EPA Budget in Brief 2008
  http://www.epa.gov/ocfo/budget/2008/2008bib.pdf

*3 エネルギー特別会計 
  http://www.mext.go.jp/a_menu/kaikei/tokubetu/080124.pdf
  平成20年度予算案(エネルギー対策特別会計)
  http://www.env.go.jp/guide/budget/h20/tokukai/energy2.pdf