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産廃処分所跡地の住宅開発
〜住民は終の住処を守れるか〜


池田こみち

2007年12月12日
無断転載禁


◆神田愛知県知事への申入書(PDF)

 現在、渡辺行革大臣が独法の統廃合・整理解体に向けて各省庁・大臣と大詰めの折衝を行っている。

 民営化のリストに上がっている独法のひとつに、独立行政法人都市再生機構(略称:UR都市機構、正式英文名称はUrban Renaissance Agency)がある。最近テレビコマーシャルも見かけるが、聞き慣れない諸氏も多いと思う。

 以下にその組織概要を示す。平成16年7月1日に都市基盤整備公団と地域振興整備公団の地方都市開発整備部門が合体してできた公益法人である。

 主務大臣 国土交通大臣(現在は、公明党の冬柴氏)
 代表者  理事長 小野邦久(前国土交通省事務次官)
 資本金  8,843億円(平成18年3月末現在)
 職員数   4,157人 (平成19年4月1日現在)

 役員(理事・監事)の多くは国土交通省、財務省、防衛庁からの天下りが名を連ねている。

 http://www.ur-net.go.jp/aboutus/yakuin/ 

 事業の詳細については機構の公式Web Siteとともに、投資家向けの企業業績案内などを参照されたい。

 有利子負債の額は平成17年度で15兆円を超えているが、77万戸の賃貸住宅が国民共有の資産であり、経営は順調である豪語している巨大デベロッパーである。

 今回取り上げる事件は、独立系メディアでは、昨年9月、愛知県知事と報道各社への公開質問状として、地元住民の丸山さんが既に紹介しているhttp://eritokyo.jp/independent/komaki-col0001.html が、改めてその問題の本質を詳しく紹介することとする。

 桃花台ニュータウンの軟弱地層及び産業廃棄物による沈下問題に関する愛知県知事への公開質問状

  愛知県小牧市城山 第5区長 木下 博
  愛知県小牧市城山 地盤沈下問題を考える会代表 丸山直希
  掲載日2006年9月17日 
  
 先週末12月9日(日)の午後、地元の小牧勤労センターにおいて、この問題をどう捉えるのか、という本質的な議論をするために、一大環境イベント、「環境フォーラム」が開催された。

 これに先だって、2007年12月3日に地元住民グループは愛知県公害審査会に調停申請したことがひとつのきっかけとなっている。

 環境フォーラムのプログラムは次の通りである。

講演1
 愛知県環境部による法制度や環境政策についての概説

講演2
 地元考える会委員長丸山氏による
 調査結果の報告と問題点の整理

講演3 
 「問題解決に向けての考察」と題して
 池田こみち(環境総合研究所)


が調査結果を踏まえて、問題のとらえ方、解決方策について講演



 これらの講演の後、熱心な質疑応答や意見交換が行われた。残念ながら、愛知県環境部や建築部などから参加した5名ほどの職員は講演2の後にいつの間にか姿をくらませていた。




関連法制度を説明する愛知県職員


土壌汚染対策法について説明する愛知県職員

 以下に、この問題の概要を説明しておくこととする。

<事件の概要>

 桃花台ニュータウンは、名古屋市の北部20kmの小牧市内に位置し、人口3万人ほどの名古屋市のベッドタウンである。問題が発覚したのはニュータウンの一角、城山5丁目Cブロック107世帯のエリアである。静かな戸建て住宅地である。

 ことの発端は、平成13年に桃花台ニュータウンの城山五丁目Cブロック内の隣接する2軒の住宅から寄せられた地盤沈下の苦情であった。このニュータウンは、愛知県が土地を取得し、造成したうえで、UR都市機構に販売、UR都市機構がデベロッパーとしてニュータウン整備を行い、分譲したという経過である。

 UR都市機構は、さっそく地盤沈下の苦情があった2軒についてボーリング調査を実施、被害の状況を確認したが、最終的に、この2軒を買取り、更地にした上で、平成18年に同敷地内で大規模なテストピットによる掘削調査を開始した。


これまでの経緯を説明する丸山直希氏

 この間、周辺の住宅からも地盤沈下の苦情や油臭などの苦情が寄せられるようになり、問題は次第に広がりを見せていった。そもそもなぜ、購入から20年もたった今頃になってこのような被害が生ずるのか、地元では不安と怒りが渦巻いていった。

 自治会では、この問題の発覚を契機に「地盤沈下問題を考える会」(代表丸山直希氏)を発足させ、桃花台ニュータウン開発の経緯、土地利用の変遷などあらゆる視点から情報収集を行い、原因究明と問題の本質についての調査を行ってきたのである。愛知県やUR都市機構に対しても執拗に情報公開・情報提供を求め、
問題の解明に努めてきた。

 調査の結果、次のようなことが明らかになった。

<地歴・土地利用の変遷:考える会の調査結果より>

・この地域は江戸時代から亜炭の採掘が行われてきた地域であり多数の炭坑が 存在していた。

・昭和23年にアメリカ軍が撮影した航空写真に始まり、国土地理院の航空写真などを経年で収集し土地利用の変化や自然災害による地形の変化などを追跡した結果、台風や豪雨の度に、繰り返し陥没や水害などの被害に見舞われていたというのである。

・愛知用水建設用地であり、繰り返し、土木工事が行われていた。

・その後農用地としての開拓が進められ、入植も行われた地域である。

・城山5丁目地区では、昭和29年から地元企業である王子製紙の子会社(王春工業)により、大量の違法と思われる産廃埋立が行われてきた。

・愛知県は昭和47年に王春工業に対して産廃処分業の許可を与えている。

・愛知県はその土地の売買契約を昭和49年に結んでいる。

<テストピットから採取した試料の分析結果から>

・テストピットの中はまるでコールタールか廃油を流したような黒光りした油が壁面から浸みだし、真っ黒な汚泥状の物質で溢れていたのである。

・これらの油混じりの土壌、廃棄物からは鼻を突く異臭があり、揮発性の有害物質の存在も危惧された。

・高濃度の油(鉱物油、動植物油、石油系炭化水素類)が検出された。

・ダイオキシン類も土壌環境基準は超えないものの、一般の土壌に比べて4〜6倍の濃度が検出された。

・鉛などの重金属類も土壌環境基準を超えて検出された。

・埋立廃棄物には多量の有機物が含まれている可能性が明らかになった。

・地盤沈下は地下に大量の油混じりの廃棄物が投棄されていたことが原因と考えられた。







 考える会の丸山代表は、独自に分析調査を実施し、地下3〜4mに埋め立てられていた廃棄物に含まれる油をはじめ、各種有害物質の実態を把握した。なんと言っても最大の問題は、購入時には誰もこの土地が以前、産廃処分場であったことについて、知らされていなかったことである。

 それどころか、愛知県が土地を取得し造成し、その上で公益法人であるUR都市機構が分譲しているニュータウンということから、民間事業者による開発事業に比べて公共性も高く信頼して購入したということがさらにショックを大きくしているのである。

 地元町内会では、その後もUR都市機構や愛知県に対し、様々な要求、質問などを行ってきたが納得のいく回答は得られていない。そしてついにUR都市機構は愛知県を提訴するに至り、両者は住民そっちのけで裁判闘争を繰り広げているのである。UR都市機構は既に多額の費用を掛けた調査を実施しており、その費用の負担を県に求めているという。

 この間、地元では、「噂の東京マガジン」や「テレビ朝日スーパーJチャンネル」などマスメディアにも情報提供を行い、広く問題提起を行ってきた。そして、平成19年12月3日、愛知県公害審査会に対して公害調停の申請を行うに至ったのである。

 分譲住宅の購入は、誰にとっても人生最大の買い物であり、終の棲家として安心して暮らせることが購入の大前提であることは言を待たない。にもかかわらず、購入してから20年もたってから、家の地下に大量の油を含む廃棄物が埋まっていて、しかも地盤沈下の危険があると知らされた住民の怒りと不安はどれほどだろう。立ち退けば済む問題ではない。20年間に育まれた地域への愛情、コミュニティの絆はどうなるのか、購入した土地は資産としての価値を持つのか、子や孫に残せるのかなど不安が尽きない。

 昨日9日に開催された環境フォーラムには、80名もの地元住民が参加し、小牧市市議会議員、小牧市役所職員などの姿もあった。この問題を巡って法律は住民を救えるのか、行政はどう対応してくれるのか、またこれまでの調査結果をどう見ればいいのかなど多面的な視点から、情報の共有化と議論が行われた。

 住宅地としての環境がすでに損なわれている。地盤沈下、悪臭、土壌汚染などである。しかしそれだけではない。安心と安全が失われ、住宅地としてのアメニティ、快適性が根底から失われようとしているのである。問題解決にはどのような道筋があるのか、方策があるのかについても議論が行われた。

 9日の環境フォーラムを契機に、地元の結束力はさらに強まり、また一歩、力強く前進していくことになる。こうした地元のねばり強い運動を支える専門家や弁護士の役割が改めて問われている。

 独立行政法人の改革の中でUR都市機構がどのように処理されていくのかについても見守っていきたい。民間のデベロッパーの開発した住宅地でこのようなことがあれば、企業としての存続は難しいのではないだろうか。

 また、一方の当事者である愛知県の責任も厳しく問われなければならないだろう。土地の売買に係る手続きは正当なものだったのか、処分場であった土地でのニュータウン開発は技術的、科学的にみて妥当な者だったのか、今からでも厳しく検証されなければならないだろう。まさに公共事業の必要性、妥当性、正当性が問われる事件である。