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環境立県
滋賀県の産廃委員会事情(4)
〜出続ける汚染〜


池田こみち

掲載日:2007年9月27日



連載<審議会>


 滋賀県栗東市小野の産業廃棄物最終処分場対策を検討する滋賀県設置の委員会は、8月に第6回委員会が開催され、委員会の終了間際に最終議題として、委員3名(梶山:弁護士・早川;滋賀大教育学部教授・池田:ERI)の連名による対策工法の提案を行った。
(PDFのURL:http://eritokyo.jp/independent/rd-proposal.pdf

 第7回委員会では、その提案について委員相互による議論が行われることを期待したが、結局、梶山委員と池田の都合がつかない日程に委員会が設定され、提案者としての思惑と期待が大きく外れた格好となった。しかし、こうした事務局側の日程調整のあり方には、地元住民の反発も強く、委員会をボイコットする動きにまで発展している。県当局は、定足数に満たなくても開催する意向を崩していないようだ。

 というのも、会議はいよいよ大詰めの段階に入っており、今後は、追加的な調査結果の報告に基づいて、「生活環境上の支障」についてさらに検証し、支障を除去するための対策(工法)について検討を行っていく段階に入っているからである。

 県側は、国の補助金(産廃特措法)の適用を受けた上で、最低限の財政的負担により「適切」な対策を講じるとしているが、処分場及び焼却施設が稼働している頃から長年にわたり、多大な影響を被り生活の安全と安心を脅かされてきた市民の間では、違法に処分された膨大な有害廃棄物や汚染された土壌は「全量撤去」を前提に対策工法の検討を行うべきであるとの意向が強く示されている。

 実際の所、昨日(2007.06.26)県が記者発表した追加調査結果をみると、次のような汚染と違法操業の実態が新たに明らかになっている。(主要な部分)

◆廃棄物量
 埋立許可容量の1.8倍の約72万立方メートルと推計された。(ちなみに、香川県の豊島の廃棄物埋立量は汚染土壌を含み58万m3とされており、その量を大きく超える規模であることが明らかとなった。)

◆孔内ガス濃度
 孔内のガス温度は18.1〜32.0℃であり、廃棄物が埋設されていない部分の温度20℃を超える地点も見られた。また、硫化水素濃度は、掘削後に3箇所で測定した結果、12ppm、25ppm、630ppmが検出されており、依然として高濃度である。(ちなみに、600ppmを超える濃度は約1時間で致命的中毒を引き起こすとされ、労働安全衛生法の管理基準は5ppmである。)

◆焼却炉
 ・特別管理廃棄物(医療系など)を焼却していた焼却炉煙突壁面からは、3,900ng-TEQ/g(3,900,000pg-TEQ/g)、基準の1300倍のダイオキシン類が検出された。また、密封保管されていた焼却灰やばいじんからは、10〜39ng-TEQ/g(10,000〜39,000pg-TEQ/g)、基準の3倍から13倍のダイオキシン類が検出されている。

 ・コンクリートで囲われた灰出しピットに貯まった雨水から1.8pg-TEQ/L(環境基準の1.8倍、ただし、排水基準の10pg-TQ/gは満たしている。)のダイオキシン類が検出されている。(コンクリート壁の劣化度合いは不明だが、貯まった雨水は少しずつ地中に浸透し地下水を汚染している可能性が危惧される。)

◆浸透水と地下水
 ・浸透水:全量分析では、これまで同様に砒素、総水銀、鉛、ダイオキシン類、CODについて一部の試料から安定型処分場の維持管理基準を超える濃度が検出されている。

 ・地下水:一部の試料から砒素、ホウ素、ダイオキシン類、総水銀、鉛などが基準を超えて検出されている。(浸出水や地下水の汚染について、濾過した後の試料からは検出されていないことを県はことさら強調しているが、重金属類などの物質は粒子に付着して移動するため、濾過後の分析結果を重視する意味はない。ちなみに、水中のダイオキシン類については、浮遊物、有機溶剤、油脂等を含めて「水質」として分析することが環境省の見解としても示されている。)
http://www.env.go.jp/press/file_view.php?serial=1402&hou_id=1904

◆ボーリングコア
 採取したコア試料からは、特定有害産業廃棄物判定基準を超える汚染は見られなかったとしている。しかし、油分含有量が5%を超える試料はみられなかったものの、油分濃度(TPH:総石油系炭化水素類)は100mg/kgから2600mg/kgの範囲で検出されている。

 日本においては、TPH汚染についての評価基準(環境基準等)は設定されていないため1)、汚染の程度、レベルの評価はできないが、米国等、すでにTPH汚染について先進的に取組を進めている国の制度を参照すると評価も可能である。汚染土壌の修復・浄化のための基準を定めている米国ワイオミング州の例をみると、ガソリン等の比重の軽い油による汚染の場合、TPH濃度の目安は28mg/kg以上となっている。また、軽油や原油などの比重の重い油による汚染の場合には2,300mg/kgとされている。2)

 今回の分析結果についてみると、分析方法の制約から油種の限定はできないが、最高濃度が2,600mg/kgであることから、すでに浄化の対象となるレベルの濃度であることがわかる。万一、検出されたTPHが揮発性の比重の軽い油であった場合には、地下水等に浸透しやすい性質を持っているため、注意が必要である。

 また、オレゴン州においては、土壌中のTPH濃度は100ppm(mg/kg)以下になるまで何らかの処理を行わなければならないと規定しており、それと比べた場合には、今回の汚染は極めて高い濃度と評価できる。3)

 いずれにしても、調査を行う度に、さまざまな汚染が明らかとなる当該処分場については、ここに至った県の責任を踏まえつつ、開かれた議論をつくし、早急に将来ビジョンを示すと共に、「適切」な対策工法について、しっかりと検討し合意を得ていくことが望まれる。この場に及んで性急な小手先の対応だけは決して避けなければならないだろう。これ以上地域の将来に禍根を残してはならないからである。

(参考資料)
1) 油汚染対策ガイドライン−鉱油類を含む土壌に起因する油臭・油膜問題への土地所有者等による対応の考え方−、平成18年3月、中央環境審議会土壌農薬部会土壌汚染技術基準専門委員会
2) Soil Cleanup Level Look-Up Table Under the Voluntary Remediation Program, Department of Environmental Quality, State of Wyoming, USA
3) TPH Soil Testing at Unerground Storage Tank Sites, State of Oregon, Department of Environmental Quality

 つづく