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長野県に見る
広域ごみ処理計画
の行き詰まり

池田こみち

 April 2009 無断転載禁
初出:独立系メディア「今日のコラム」

 春爛漫、東京の桜も満開を迎えた。入学式に桜、平和な春の光景だ。

 新しい年度になっていろいろな計画、事業が動き出す季節でもある。新年度初日に長野県の岡谷市でごみ問題の学習会が開催された。そこで見えてきた日本の自治体がかかえるごみ処理の課題をまとめてみたい。

 4月1日夜7時、長野県岡谷市のイルフプラザ*1)の講義室には、霙が降る寒い中、大勢の市民が集まった。信州生活者ネットが主催する「ごみ処理問題を考える」と題した学習会である。依頼された演題は「大型ごみ処理施設に莫大な税金は使わせない!私たちにできること」と、なかなか過激である。まず、この地域の現状を説明しておこう。

 長野県には10の広域連合があり、岡谷市を含む地域は「諏訪広域」といい、長野県のほぼ中央に位置している。構成自治体は6市町村だがごみ処理に関しては、諏訪南(茅野市・原村・富士見町)と湖周地域(岡谷市・諏訪市・下諏訪町)に二分されている。


 図@ 長野県の広域行政地図

 それぞれの地域では、構成自治体の人口や産業構造、ごみの排出量などが異なるため、なかなか一体的なごみ処理が行いにくい状況にある。諏訪南地区では、数年前から新たに【灰溶融+焼却炉】の新設計画が持ち上がったが、結果的に合意が得られず頓挫している。同様の混乱が湖周地域でも数年続いていた。

 現在、岡谷市、諏訪市、下諏訪町にはそれぞれごみ焼却施設があるが、いずれも古く建て替えの時期が迫っている。規模が小さく古いため、基準値はクリアしているものの、結構高い濃度のダイオキシンを排出しているのだ。一方、焼却灰の埋立処分場も余裕がなく、抜本的にごみ処理のあり方を見直さなければならなくなっていた。そんな折、国の交付金を利用するのであれば、やはり【灰溶融+焼却炉】か【ガス化溶融炉】でないと、ということになり、平成17年3月に「湖周地域ごみ処理基本計画」と「廃棄物循環型社会基盤施設整備事業計画」が策定され、新たな施設は【灰溶融+焼却炉】とし規模は136t/日、費用は80億円、設置場所は岡谷市の現焼却施設跡と決定さた。

 しかし、計画の実現に向けて議論を進める過程で、2市1町の間では費用負担のあり方などを巡り混乱が続き、当初2011年には稼働する予定が、すっかり遅れるどころか、わずか4年で新たなごみ処理基本計画を策定する羽目となったのである。首長や行政相互の主張がかみ合わないことに加えて市民の間でも、灰溶融炉は各地で事故が多発するなど技術的にも未熟ではないか、あらたに80億円もの税金を投入して借金を次世代に残すのはいかがなものか、といった議論も噴出し、計画は絵に描いた餅となったのである。


図A;2市1町のごみ量


図B:リサイクル率のグラフ

 それよりも何よりも、計画の前提となったごみの減量化や資源化が計画通りに
進んでいないという致命的な問題が明らかとなったのだ。@現在の焼却炉が古くなった、A処分場も満杯になる、B新しい溶融炉や焼却炉を作って灰を減らさないと、という三段論法は事実上破綻している。基本計画には申し訳のように、ごみ排出量減量化目標として平成22年度までに平成9年度比6.2%の削減、平成30年度までに同11.2%削減としたものの、基本計画作りに市民は全くと言って良いほど参加していないため、目標が設定されていることも十分周知されておらず、2市1町の市民の間には新たなごみ処理施設の建設問題に対する温度差が広がっていたのである。そもそも、20年でわずか11%の削減目標とはあまりにみみっちい。

 新年度を迎え、新たな基本計画が公表されるようだが、これもコンサルタントに委託して策定されたもので、どこまで市民が自分たちの問題として参加し、監視しているかは心許ない。

 こうした状況は全国各地で見られる課題である。一般廃棄物の処理は基礎自治体の重要な仕事であるが、それは、ごみ処理施設の整備以前に、どれだけ市民参加によって現状のごみ処理の問題点を明らかにし、将来の展望やビジョンを共有化して、問題解決に向けた対策を一緒に進めていけるかが問われている。

 新計画策定の裏では、新しいごみ処理施設の規模120t/日程度に縮小すべきだ、溶融炉より炭化炉の方がよさそうだ、民間委託も導入しては、といった議論が続いているようだが、それ以前にもっと議論すべき事がある。現在、この地域では、可燃物の割合が8割以上を占めており、その組成を見ると、紙ごみ、プラスチック類、生ごみ・木・藁などが大きな割合を占めている。まさに資源が煙と灰になっている。そうした実態をしっかりと見極めて、市民が自分たちの問題として新しいごみ処理のあり方を考えなければ問題の解決には繋がらない。

 学習会では、焼却炉に依存しないゼロ・ウェイストの事例も紹介した。国からの交付金の条件にばかり縛られず、市民参加で自立した廃棄物政策を立案することが問われている。そうすれば自ずとローテク、ローコスト、ローリスクをどう実現するか真剣な議論が出来るはずである。

 湖周地域はまさに諏訪湖をとりまく地域であり、地域の環境と産業を考慮した未来志向の廃棄物政策が検討されなければならないだろう。地域のごみ量、ごみ質を踏まえ、地域の人材や技術を活かして、市民が納得できるビジョンを描くことから始めて欲しい。そうすれば、みんなが活き活きとごみを減らして、資源化する行動に積極的に取り組むことになると確信する。ごみ処理計画を行政やコンサルタントに任せずに、将来の世代のためにも議会の役割、市民の役割を是非、果たして欲しい。諏訪から、長野初のゼロ・ウエイスト宣言が出されることを大いに期待したい。

*1)イルフプラザ
 「イルフ」という名称は、岡谷市出身の童画家武井武雄が「古い」という言葉を逆に読み、「新しい」という意味をつけたもので館の愛称である。集会施設や子供向けの施設が整っている。武井武雄の作品を集めた童画美術館も隣接している。イルフ童画美術館 http://www.ilf.jp/