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 今なぜ、水銀問題か
−水俣病と世界の水銀問題
 国際シンポジウムに参加して−

池田こみち
4 December 2010
独立系メディア「今日のコラム」
無断転載禁


今なぜ、水銀問題か
−水俣病と世界の水銀問題 国際シンポジウムに参加して−

日時:2010年12月4日(土)13:00〜17:00
場所:JICA研究所 国際会議場(新宿区市谷)
主催:化学物質問題市民研究会
支援:欧州環境事務局(EEB)、国際POPs廃絶ネットワーク(IPEN)

<プログラム>

はじめに

 開会挨拶 主催者代表 藤原寿和さん

 水銀条約と日本の水銀問題の概要 安間 武さん
      (化学物質問題市民研究会)

第1部 水俣病から学ぶ

 ◆水俣病被害者の闘いと今後の課題
        谷洋一さん(NPO法人水俣病協働センター理事)




 ◆水俣病被害者の報告
        佐藤秀樹さん、スミエさん
         (水俣病被害者互助会会長)


水俣病被害者(佐藤夫妻)

 ◆水俣から学ぶ
     原田正純先生(元熊本学園大学教授)


原田正純先生

第2部 世界の水銀問題

 ◆事例の基づく世界の水銀問題とNGO活動
        Joe DiGangiさん(IPEN)



 ◆途上国における小規模金採鉱:フィリピンの事例
        Richard C.Gutierrez さん(Ban Toxics!)




海外からの講演者ふたりと 

 「水銀」といえば、日本の公害の原点である水俣病に思いを馳せない日本人はいないはずである。

 今から半世紀余りも前に起きた痛ましい公害はまだ本質的な解決をみないまま、2009年に水俣病特措法が議会を通過したことにより次第に人々から忘れ去られようとしている。

 しかし、加害企業チッソの分社化により被害者を置き去りにしたまま水俣病問題の終息を図ろうする国のやり方に被害者の多くは納得していない。

 人類が初めて経験した食物連鎖を通じての有害物質による中毒事件である水俣病、初めて胎盤を通過して胎児にまで影響が及んだ水銀中毒である水俣病を日本がどう解決するか、世界が注目しているが未だに世界に誇れる対応はできていないのが実態である。

 そうしたなか、国連環境計画(UNEP)は2002年に世界水銀アセスメントを行い、水銀は現在も広く環境中に存在していること、世界中に残留し循環し続けていること、その毒性は極めて強く、世界的な取り組みが不可欠であることを明らかにした。

 さらに、2013年の水銀条約制定に向けて、水銀に関する政府間交渉委員会(Intergovernmental Negotiating Committee:INC)を2010年6月からスタートさせ、協議に入っている。その第二回会議が2011年1月に千葉の幕張で開催され
ることが決まっている。

 今回の国際シンポジウムはこうした水銀をとりまく国内外の情勢を踏まえ、水俣病を発生させてしまった日本で開催される国際会議(INC2)に向けて、改めて水銀問題を今日的な視点で捉え直し、NPO・NGO、そして市民一人ひとりの立場からやるべき事は何か、情報発信すべき事は何かを問い直す会議であったと思う。

 今や多くの日本人は水銀問題が今なお身近にあること、世界で重大な問題となっていることを知らない。また、目を向けようともしていないのが実態である。

 だが、水銀=水俣病ではなく、今も、私たちの身の回りには多くの水銀を含む製品があり、使い終わったものの一部は回収されて再び諸外国に輸出されている。

 その量は年間100tにも及んでいる。また、廃棄されたものの多くは埋め立てられ、焼却されていることを知らなければならない。また、世界に目を向ければ、フィリピンや南米諸国の貧しい人々が水銀を使って劣悪な労働環境のもとで金の採掘を行っており健康を害しているばかりでなく、環境・生態系の汚染を続けている。

 EUはこうした世界の状況にいち早く反応し、水銀にかかわるさまざまな調査を行い、有効な対策を講じてきている。そのひとつが製品中の含有濃度規制、そして焼却炉の排ガス規制、さらには前倒しされた輸出規制措置である。法的規制に消極的であったアメリカですら、オバマ政権になってから大きくその姿勢を転換し、2013年に輸出禁止法が発効することとなっている。

 一方、日本はと言えば、半世紀を過ぎてようやく水俣病の被害者は10万人を超える規模であったことが明らかになりつつあり、多くの被害者が救済されないまま苦しみ続けているのが現状である。今頃になって指摘されているのは、胎児性水俣病のような劇症の水俣病(水銀中毒)だけが水俣病ではなく、微量の水銀によって長期間にわたり健康を害してきた多くの見捨てられた被害者に目を向けることが重要であるということである。

 すなわち、有機水銀(メチル水銀等)の有害性に着目するだけでなく、どんな形であれ環境中に排出された水銀はなくなることはなく環境中を循環し、最終的には食物連鎖で濃縮されていくことを知らなければならないということに他ならない。講演の中で原田正純先生は次のように言われた。

 「希釈放流法」、すなわち「薄めて流せば毒でなくなる」という考え方がある。それは事実だが、一方で「薄められたものはどこかで濃縮される」という事実、自然界では両面が起こりうることに気がつかなかった私たちはおろかだった、と。

 日本の水銀鉱山は既に閉鎖されて存在していない。製造過程で水銀を発生させる塩素アルカリ工場もすでに閉鎖されている。日本における水銀の発生源の多くは廃棄物焼却施設ではないだろうか。

 都内の清掃工場で水銀濃度が規制値を超える事故が発生した。しかしその原因は解明されず、これもまた人々から忘れ去られようとしている。水俣病を経験した私たちは、改めて今日的な水銀問題に目を向けなければならない責務を負っていることを強く感じた。

 貴重な報告を頂いた皆様にこの場を借りてお礼を申し上げたい。

◆会場では、質疑応答の際に、私からは次のような問題提起と質問を行った。

@日本は世界の焼却炉の2/3が集中するといわれるほどの焼却大国だが、そこから水銀が排出されていることにほとんどの人が無頓着である。水俣病を引き起こした有機水銀だけが水銀問題ではなく、無機水銀、金属水銀も大気中に排出されれば最終的に食物連鎖で濃縮され魚類を汚染することになる。これについての対策無しに、日本で開催される国際会議で市民やNGOがめざす「強い水銀条約」などあり得ないのではないか。

A日本では廃棄物処理を焼却炉に強く依存しているにも関わらず、現状では水銀などの金属類の排出規制を全く行っていない。途上国の現状を見るに付け、水銀の輸出禁止を早急に導入すべきであることは間違いないが、同時に、排ガスの規制を行うことが必要だと考えるがそれについてどう思うか。

 シンポジウム終了後に講演者と少しだけお話しする時間があったのでお尋ねし
てみたところ、海外からのお二人は廃棄物の焼却問題は極めて重要であり、水銀は消えてなくならないことを踏まえた対策が必要だと指摘された。今後も情報交換を継続し、協力していくこととした。