環境総合研究所(ERI)では、従来より緊急時、災害時に各種環境影響シミュレーションを行い関係行政機関、報道機関等に公表してきました。
今回、1997年1月2日に日本海島根沖で浸水したCIS船籍のナホトカ号事故による流出重油に関連して、1月中旬より表面海流のシミュレーションを実験的に行ってきました。
本シミュレーション実験は、環境総合研究所(ERI)のNGO活動及び自主研究活動の一環として実施しているものであり、国の行政機関、国公立研究機関とは一切関係なく実施しているものです。
一方、本シミュレーション実験は、福井、石川、富山などの現地に所在する大学、自治体、ボランティアの方々との間でのインターネットのメーリングリスト*による情報交流に支えられた形で実施されています。現地からの海洋地形、気象、海流、漂着データを逐次送っていただくことにより、シミュレーションモデル及び各種パラメータ、入力データの検証を繰りかえしながら実施しています。
日本海の海流は複雑です。海流の成因は、原理的には両極での対流など地球規模の大循環、地球上の風系が海面に及ぼす影響、地球の自転の緯度の差による影響など地球規模の要因が考えられます。一方、潮流は同一緯度での地球の自転による潮の満干によって引き起こされます。
前者には、たとえば黒潮(暖流)や親潮(寒流)など、日本の太平洋岸を南北に向かう大きな海水の流れです。日本海側では対馬海流などもあります。さらに、流出した重油の漂流については、上記の海流、潮流に加え風の応力の影響が大きなファクターとなることが過去の観測、実験で分かっています。漂流重油は、海流、潮流による移動に加え風の応力によって直接海面上を移動することになります。
これら外洋の海流、潮流、漂流物への風を総合的に考慮した流出重油の流れを正確に模擬実験(シミュレーション)可能な数値モデルは、きわめて高度なものであり、過去、一部の大学、国立公立研究機関等で試みられてきました。
しかし、日本海の海流は海洋地形や気象条件によって太平洋側の海流に比べさらに複雑な挙動を呈しており、その全貌を再現する数値モデルの開発は現状では困難であると考えられています。
また、流出油の海面での漂流は、上述のように海流、潮流とともに風向、風速に大きく影響されるので、数値モデルにいかに風向、風速による影響を含めるかも大きな課題となっています。
環境総合研究所(ERI)グループでは、過去、瀬戸内海、大阪湾、ペルシャ湾などの閉鎖性水域や琵琶湖などの湖沼を対象に開発し、潮流、水質汚濁の環境アセスメントに活用してきた多層位(3次元)流体力学モデルをもとにしたコンピュータシ・ミュレーションシステムを、今回、一部分改良し外洋における海流の流れを限定的にではあれ考慮することが可能なモデルとしました。風の影響は、すでに限定的に考慮可能としてあります。
その改良モデルを、今回、日本海沿岸の重油流出にともなう潮流シミュレーションに援用しています。
数値モデルやコンピュータシミュレーション技術の詳細は、別途、自主研究報告書等に示しますが、このシミュレーションでは、原則、1日単位で潮の流れを流況(流向と流速)について模擬実験計算し、コンピュータのCRT画面上に時々刻々画像として示します。このシミュレーションを継続することにより、数日から1週間と油の流れる方向と速度を推定することになります。 但し、上述のように本モデルでは、地球の自転による潮の流れ以外は、シミュレーションの対象となる地理的な範囲での境界条件の一部として外生的に与えることから、期間内に気象条件が大きく異なるような場合、それを十分結果に反映することはできません。
この種のシミュレーションには、災害時、緊急時ではなくとも絶えず限界がつきまといます。まして、今回のような突発的な事故に際してはなおさらです。
しかし、一定の前提条件、制約条件、境界条件のもとで、概括的にシミュレーションや予測を行うことは可能ですので、現在進行中の内容を一部公表します。現地から寄せられる重油の漂着情報によってシミュレーション結果が検証されることになりますが、非常に限られたデータのなかで行っているものであることをご理解頂き、参考として頂ければ幸いです。
シミュレーション結果の一部(カラー画像)を環境総合研究所の常設ホームページに掲載します。なお、本シミュレーション実験は継続中です。今後、本ホームページ及び現地メーリングリストを通じて速報を提供します。
なお、本報告やインターネットのホームページにおいて、時々刻々シミュレートする画像を継続的に示すのは無理であることから、画像は計算の経過のごく一部を参考事例として示します。
画像中、矢印(→)が流況をその長さが流速を表します。
以上をご理解の上、シミュレーション実験の速報を現地情報を補完する目的でご利用頂ければ幸いです。
本シミュレーションの検証は、過去から現在の現地における県警等のヘリコプター*1及び海上保安庁*2などの船舶による海洋監視情報と沿岸域における自治体、大学関係者、住民の方々による漂着情報によって行っています。それらはインターネットメーリングリスト*3及びファックスにより研究所に届けられています。
それらの情報により現況再現上変更する必要がある部分の前提条件、境界条件等を一部変更し、将来予測シミュレーションに生かしています。
環境総合研究所
若狭湾から能登半島ぞいに潮は地形にそって比較的ゆっくり北上(実際は北東)した後、能登半島の猿山岬沖から七つ島周辺にかけて流が早くなり、珠洲岬で巻き込む形で富山湾方向に南下します。
富山湾内に入った流れは湾内にとどまるものと、その一部がゆっくり上越方向に北上(これも実際には地形にそって北東方向に移動)するものとがあります。 |
流況速報について(詳細)
以下は主に風が北西から北東に吹いている場合のシミュレーション結果を読みとったものです。
沿岸部の潮の流れは基本的に海岸線にそって能登半島から富山湾に向かっています。時間により、能登半島先頭部沖の流速が海洋地形及び陸、海の地形的要因により速まります。(図1ー図2参照)
その後、能登半島から富山湾に入り恒流を形成しますが(図4〜図6)、一部は上越方面に海岸線に沿って北上します(図4〜図5)。時間により能登半島の先端部で猿山岬沖から七つ島方面の北に向かう潮の流れがあります(図5〜図6)。しかし重油の流れる基本方向は、能登半島をかすめ珠洲岬から富山湾に向かうものです。
北風ケースでは、富山湾への流入の時期が速まりますが、北西ケースのケースでも地形の関係から富山湾に入ります。富山湾流入後は、海洋地形及び湾の地形の影響からか湾の北側で恒流となります。さらに1日単位でみると富山湾内の恒流は次第に消え、能登半島から上越方面に流れが変わりますが、流速はそれほど大きくありません(図6)。
一方、沿岸ではなく沖合いでは、時間により風の影響や大きな海流の流れよりも地球の自転による潮の満干による影響がまさり、沿岸とは180度逆に潮が流がれます。おそらくこれが重油を京都、鳥取、島根方向に漂着させている大きな要因であると考えられます(図4〜図5)。
若狭湾→越前→加賀→輪島とつづく沿岸部では、北風系(北〜北西)の場合、シミュレーション結果が示すように、いずれの時間帯でも若狭湾から輪島に連なる福井→石川→富山→新潟の方向(→の方向)に潮が流れています(図1〜図6)。沿岸部での潮の流れが基本的に一定方向である点は、流出重油対策上きわめて重要なポイントとなります。
以上、時間によっては沿岸部とその沖合いの潮の流れが逆になることはありますが、重油の発生源の位置にかかわらず、対策は福井、石川沿岸部を北東方向に流れることを考慮することが重要です。また、能登半島から富山湾に重油が流入した場合には、地形及び海洋地形から湾内で恒流となることが想定されますので、オイルフェンス等でできるだけ湾内への流入を抑えることが肝要となります。
沖合いの潮流は1日単位のシミュレーションにおいて、ある時間帯は西側に向かいます。したがって壱岐島、京都、兵庫、鳥取、島根方面(西側)に重油が流れつくことが十分考えられることにご留意ください。
佐渡、新潟方面を含めた広域シミュレーションを昨日深夜から今朝にかけて突貫で行いました。
1月20日までの若狭湾から能登半島までのシミュレーションでは、風向は北西、風速は10m/sを与えていますが、広域でも風向は北西、風速は10m/sとしています。
気象庁の予報では、1/21日以降は、風向は北西ですが、海面での最高風速は20m/sとなっているようなので、もし20m/sクラスが吹くとさらに沿岸部(新潟市方面)への漂着が速まることが想定されます。
ホームページは、最低1日に1回、「解説、速報、シミュレーション画像」ともに改訂しています。
繰り返しますが、本ホームページで連日公開しています表面海流のシミュレーション結果は、あくまで前提、制約、境界条件のもとで行っており、その一部が変われば結果はかわります。したがって、海上保安庁、警察などの観測情報とあわせて参照くだされば幸いです。
また、油の漂流、漂着情報、風向、風速、海流、潮流情報などを環境総合研究所東京本社まで提供頂ければ、シミュレーションノ精度が向上します。ぜひ、ご協力ください。なお、本シミュレーションは、環境総合研究所の自主研究活動,NGO活動として実施しています。
広域シミュレーションによる表面海流の速報をみると、佐渡の北部への漂着は流向からほとんどなく、能登半島先端から南下した潮が再度北上することにより佐渡島南部に到着する流れたあります。すでに、佐渡島南部に漂着しているとの速報が入っています。
今日の風向、風速では、まず佐渡島北部への漂着は考えられませんが、万一あった場合には、すぐにお知らせください!これがひとつの検証ポイントとなるので!
沿岸部の表面海流は、若狭湾から石川、能登の場合と同様、たえず北東方面に上る恒流となっています。すなわち、沿岸部では沖合いの流れにかかわらず、新潟、秋田へと北上することが予想されます。
一方、佐渡の沖合いでは、福井、石川同様、時間によっては、西に向かう流れがありますので、壱岐の島を含め島根、鳥取方面への漂着も考えられます。
富山沿岸部は、富山湾に一部油が流入しているとの情報がありますが、富山湾に流入した場合でも富山湾の渦流の存在により、再度上越方面に流出することが予想されます。
すでに、上越方面で漂流が確認されているという情報が届いています。
日本海海底地形
シミュレーション結果は、時事刻々の流れとして示される。 掲載事例は、北西→南東(北東)に風が吹いている場合の特定時刻の状況を示している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
出典:環境総合研究所、「湾岸戦争の地球環境への影響」表紙より、 1992
Source: Environmental Research Institute, Report of Impacts on Global Environment by Gulf War, 1992
(C)Copyright by 株式会社環境総合研究所
本ホームページの内容、掲載されている仕様、グラフィックデータ等の著作権は株式会社環境総合研究所にあります。無断で複製、転載・使用することを禁じます。