[フェーズ1|フェーズ2|フェーズ3 |フェーズ4]

諌早湾閉め切り開放に伴う
潮流の予測・評価に関する自主調査研究
(中間報告:フェーズ4:結果の評価)

青山 貞一 環境総合研究所所長
池田こみち 同副所長
鷹取 敦 同主任研究員
since 2001.1

  本研究論文の転載を禁じます。

1.予測結果の評価

1−1 代表評価ポイントの流速の評価

 諌早湾内の代表12ポイントの工事前に対する流速の割合を表1−1にまとめて示す。
 以下の流速変化の評価では、いずれのケースも満潮時、干潮時を含めた回復割合(%)としている。
 また、各ケースとも100%を超えている場合は、水門付近での流速が潮受け堤防建設工事前より
大きくなっていることを示す。但し、本調査における水門の幅はいずれも250mを仮定している。

(1)ケースA 諌早湾口(No.1〜3)の平均流速の評価

 完全閉め切り後のケースの流速は工事前のケースを100%とした場合、51%〜68%に低下している。これに対し、
@水門を1つ開けたケース3ー1の流速は工事前に比べ、73%〜87%回復している。
A水門を2つ開けたケース3ー2の流速は工事前に比べ、87%〜96%回復している。
B水門を3つ開けたケース3ー3の流速は工事前に比べ、93%〜94%回復している。
 いずれのケースでも流速は大幅に回復していることが分かる。

(2)ケースC 調整池外側の堤防寄り(No.7〜9)の平均平均の評価

 完全閉め切り後のケースの流速は工事前のケースを100%とした場合、17%〜38%に
大幅に低下している。これに対し、
@水門を1つ開けたケース3ー1の流速は工事前に比べ、64%〜103%回復している。
A水門を2つ開けたケース3ー2の流速は工事前に比べ、58%〜116%回復している。
B水門を3つ開けたケース3ー2の流速は工事前に比べ、63%〜106%回復している。
 いずれのケースでも流速は大きく回復している。

(3)ケースD 調整池内(No.10〜12)の平均流速の評価

 完全閉め切りのケースではほぼ完全に流れが停滞してしまっている。
これに対し、
@水門を1つ開けたケース3ー1の流速は工事前に比べ、58%〜198%回復している。
A水門を2つ開けたケース3ー2の流速は工事前に比べ、60%〜155%回復している。
B水門を3つ開けたケース3ー3の流速は工事前に比べ、64%〜120%回復している。
 ここでは、水門を3つ開けた場合が工事前に最も近くなっています。

 調整池外側の堤防よりと調整池内については、地点別にみると水門近くでは流速は非常に速くなり、
水門から離れた地点では流速は遅くなっている。水門の数が多いほど流速は平均化され極端に流速の
速いポイントが極端に流速の遅いポイントが緩和され工事前に近くなっている。

表1−1 代表ポイントにおける流速の工事前に対する割合
代表地点 工事前比
大潮時 中潮時 小潮時
閉切 水門1 水門2 水門3 閉切 水門1 水門2 水門3 閉切 水門1 水門2 水門3
満潮時 ケースA 諌早湾口平均1〜3 52% 73% 87% 93% 52% 77% 91% 94% 51% 87% 96% 93%
ケースB 中間地点平均4〜6 36% 65% 82% 90% 36% 70% 87% 90% 42% 84% 95% 90%
ケースC 堤防寄り平均7〜9 19% 64% 95% 99% 23% 73% 102% 100% 38% 98% 116% 106%
ケースD 調整池内平均10〜12 0% 117% 133% 120% 0% 139% 141% 118% 0% 198% 155% 119%
ケースE No.1〜12全地点平均 37% 67% 88% 94% 37% 73% 93% 94% 44% 89% 101% 96%
ケースF No.1〜12全地点最大 51% 130% 104% 88% 53% 151% 111% 89% 74% 182% 118% 97%
干潮時 ケースA 諌早湾口平均1〜3 56% 76% 81% 84% 56% 77% 83% 85% 68% 87% 90% 94%
ケースB 中間地点平均4〜6 39% 72% 76% 78% 38% 75% 78% 79% 44% 89% 88% 86%
ケースC 堤防寄り平均7〜9 17% 77% 58% 63% 18% 81% 61% 66% 24% 103% 74% 74%
ケースD 調整池内平均10〜12 0% 58% 60% 64% 0% 65% 65% 68% 0% 96% 84% 80%
ケースE No.1〜12全地点平均 38% 75% 72% 75% 38% 78% 74% 77% 46% 93% 84% 85%
ケースF No.1〜12全地点最大 63% 130% 94% 86% 63% 137% 98% 87% 68% 158% 105% 93%

1−2 水域毎の流速評価

 ここでは、「調整池内」、「諌早湾調整池外」、「有明海北部(諌早湾・島原湾を除く)」、
「有明海(諌早湾を除く)および八代海北部」、「有明海および八代海北部における」、それぞれ
の水域における流速の全平均の工事前に対する割合を表1−2の表にまとめた。以下の流速変化
の評価では、いずれのケースも満潮時、干潮時を含めた回復割合(%)としている。また、各ケース
とも100%を超えている場合は、水門付近での流速が潮受け堤防建設工事前より大きくなっていることを示す。

(1)ケースG 調整池内の平均流速の評価

 完全閉め切りのケースでは流速はほぼ完全に停滞している。
これに対し、
@水門を1つ開けたケース3ー1の流速は工事前に比べ、67%〜202%回復している。
A水門を2つ開けたケース3ー2の流速は工事前に比べ、76%〜162%回復している。
B水門を3つ開けたケース3ー3の流速は工事前に比べ、80%〜136%回復している。
 ここでは水門を3つ開けた場合が工事前に最も近くなっている。

(2)ケースH 調整池を除く諌早湾内平均流速の評価

 完全閉め切りのケースでは流速は工事前を100%とした場合、49%〜62%と大幅に低下している。
これに対し、
@水門を1つ開けたケース3ー1の流速は工事前に比べ、73%〜92%回復している。
A水門を2つ開けたケース3ー2の流速は工事前に比べ、81%〜97%回復している。
B水門を3つ開けたケース3ー3の流速は工事前に比べ、83%〜93%回復している。
 このようにいずれのケースも工事前近くまで大きく回復している。

(3)ケースI 調整池の外側の有明海の北部(島原湾よりも北側)の平均流速の評価

 完全閉め切りのケースでは流速は工事前を100%とした場合、92%〜97%に低下している。
これに対し、
 @水門を1つ開けたケース3ー1の流速は工事前に比べ、94%〜98%回復している。
 A水門を2つ開けたケース3ー2の流速は工事前に比べ、96%〜99%回復している。
 B水門を3つ開けたケース3ー3の流速は工事前に比べ、97%〜99%回復している。
 このように、@、A、Bともに工事前と同程度まで回復している。

(4)ケースJ 諌早湾を除く計算対象範囲全体(有明海・八代海北部)の平均流速の評価

 完全閉め切りのケースでは流速が工事前を100%とした場合、94%〜97%に低下している。
これに対し、
@水門を1つ開けたケース3ー1の流速は工事前に比べ、97%〜98%回復している。
A水門を2つ開けたケース3ー2の流速は工事前に比べ、98%〜99%回復している。
B水門を3つ開けたケース3ー3の流速は工事前に比べ、98%〜99%回復している。
 このように、A、Bでは工事前と同程度まで回復している。

(5)ケースK 諌早湾を含む計算対象範囲全体(有明海・八代海北部)の平均流速の評価

 完全閉め切りのケースでは流速が工事前を100%とした場合、92%〜96%に低下している。
これに対し、
 @水門を1つ開けたケース3ー1の流速は工事前に比べ、97%回復している。
 A水門を2つ開けたケース3ー2の流速は工事前に比べ、98%〜99%回復している。
 B水門を3つ開けたケース3ー3の流速は工事前に比べ、98%〜99%回復している。
 このように、A、Bでは工事前と同程度まで回復している。
表1−2 水域における流速平均の工事前に対する割合
対象水域 工事前比
大潮時 中潮時 小潮時
閉切 水門1 水門2 水門3 閉切 水門1 水門2 水門3 閉切 水門1 水門2 水門3
満潮時 ケースG 調整池内 0% 127% 146% 136% 0% 150% 154% 133% 8% 202% 162% 128%
ケースH 諌早湾内(調整池外) 50% 73% 87% 93% 49% 77% 90% 92% 53% 90% 97% 93%
ケースI 有明海北部(諌早湾外) 95% 95% 96% 97% 94% 95% 96% 97% 92% 94% 96% 97%
ケースJ 有明海・八代海(諌早湾外) 97% 97% 98% 99% 96% 97% 98% 98% 95% 97% 98% 98%
ケースK 有明海・八代海(含諌早湾) 95% 97% 98% 99% 95% 97% 98% 98% 93% 97% 98% 98%
干潮時 ケースG 調整池内 0% 68% 76% 80% 0% 76% 83% 85% 1% 112% 106% 99%
ケースH 諌早湾内(調整池外) 54% 79% 81% 83% 54% 81% 82% 84% 62% 92% 91% 90%
ケースI 有明海北部(諌早湾外) 97% 98% 99% 99% 96% 97% 98% 99% 93% 96% 97% 97%
ケースJ 有明海・八代海(諌早湾外) 97% 98% 99% 99% 97% 98% 99% 99% 94% 97% 98% 98%
ケースK 有明海・八代海(含諌早湾) 96% 97% 99% 99% 95% 97% 98% 99% 92% 97% 98% 98%

図1−1 工事前の流速に対する割合(大潮・満潮)


図1−2 工事前の流速に対する割合(大潮・干潮)


図1−3 工事前の流速に対する割合(中潮・満潮)


図1−4 工事前の流速に対する割合(中潮・干潮)


図1−5 工事前の流速に対する割合(小潮・満潮)


図1−6 工事前の流速に対する割合(小潮・干潮)

(6)流速評価のまとめ

総合すると、諌早湾内(潮受け堤防の有明海側)の流速は、工事前を100%とした場合、
49%〜62%まで大幅に低下し、一方、調整池内では流速が0%〜8%と、ほとんどなく なる。
これに対し、水門を開けた場合、水門付近で流速が著しく増加するケースがあるものの、
調整池内外(諌早湾内)の流速は、工事前に近い状態まで回復することが分かった。
水門は、1つより2つ、2つより3つ開放した方が流速は大きく回復し、また水門付近で突出
した水流も緩和され工事前に近づくことが分かった。

1−3 満潮時の流況(流れの方向)の変化

 満潮時における閉め切り後の流況を工事前と比べると、全体的に流速が低下しているのみでなく、諌早湾口
において湾内に向かって流れ込んでいた流れが、湾口北側で湾の外側にそれるような向きに変わっている。
また潮受け堤防の直前でやや南側に向きに流れを変えている。この傾向は大潮より中潮、中潮より小潮に
おいて顕著である。小潮の場合は、潮受け堤防の北側から流れが、渦をまき南側から湾の外を向かっている。

(1)水門1つ開放のケース3ー1

 諌早湾口の流れは、閉め切りの場合と変わらないものの、全体的に水門に向かって流れ、水門に近付く
に従い流れが強くなっている。水門部分で最も流れが速くなった後、調整池内で本明川と調整池の南に
向かい二手に分かれ流れている。

 潮受け堤防に着目してみると、堤防の内と外では、堤防に平行で反対向きの流れとなっていることが分かる。
これは工事前及び閉め切り後とも異なる流れである。

(2)水門2つ開放のケース3ー2

 諌早湾口付近の湾内に向かう流れが回復する。また、諌早湾内で平行に湾奥に向かう流れも回復している。
ただし、潮受け堤防付近で二手に別れ、堤防の中央部に流れる非常に弱い部分が生じている。調整池内では
本明川に向かう流れと調整池中央に向かう流れが生じているが、調整池中央部で非常に弱い流れが生じている。

(3)水門2つ開放のケース3ー3

 2つの場合(ケース3ー2)と同様に、湾口付近の湾内に向かう流れも回復する。湾内で平行に湾奥に向かう
流れも回復している。さらに潮受け堤防付近でも、停滞する部分は非常に狭く、工事前の状態に近づいている。
調整池内では全体として本明川に向かう流れが形成され、堤防付近で流れが弱いほかは、工事前の状態に
近付きつつあると言える。

1−4 干潮時の流況(流れの方向)の変化

 干潮につき閉め切り後の流況を工事前と比較すると、全体的に流速が低下しているのみでなく、諌早湾口から
有明海に流れ出す勢いが弱く、やや南向きに流れの方向が変わっている。
 この傾向は大潮よりも中潮、中潮よりも小潮において顕著でる。小潮の場合は湾口北側から湾内に大きく流れ
込んでいる。

(1)水門が1つの場合(ケース3ー1)

 湾口の流れもやや回復している。調整池内では本明川と南側から水門に向かって流れ、水門で最も流れが
速くなった後、水門から諌早湾内に向かって広く流れ出している。堤防に着目してみると、堤防の内と外では、
堤防に平行でかつ反対向きの流れとなっていることが分かる。これは工事前とも閉め切り後とも異なる流れ
である。

(2)水門が2つの場合(ケース3ー2)

 湾口付近の湾内に向かう流れもほぼ回復し、諌早湾内をほぼ平行に湾口に向かう流れも回復している。
ただし潮受け堤防付近で両方の水門から合流しており、堤防の中央部に流れの非常に弱い部分が生じて
いる。調整池内では北側水門に向かう流れと南側水門に向かう流れが生じているが、調整池中央部でも非常
に弱い流れが生じている。

(3)水門が3つの場合(ケース3ー3)

 2つの場合(ケース3ー2)同様に、湾口付近の湾内に向かう流れが回復し、湾内を湾口に平行に向かう流れ
が回復している。さらに堤防付近の停滞する部分は、水門が2つの場合(ケース3ー2)と比らべ狭く工事前の
状態に近付いている。調整池内では本明川から湾の幅に広がる流れが形成され、工事前の状態に近付きつつあると言える。


1−5 流況(流れの方向)の変化のまとめ

総合的にみると、満潮及び干潮の場合ともに、大潮・中潮・小潮に関わらず、水門が3つの
場合(ケース3ー3)は、工事前の流れにかなり近い水準まで流況が回復することが分かる。


2.参考文献

(1) 諌早湾干拓事業計画(一部変更)に係る環境影響評価書(案)、平成3年8月、九州農政局
(2) 建設省河川局河川計画課「流量年表」(平成9年)
(3) 杉ノ原信夫、大西行雄、「数値研究−その手法−」、昭和52年度文部省科学研究費補助金による
特定研究、海洋環境保全の基礎的研究(中間報告書U)
(4) 大牟田市一般環境測定局気象観測データ(1999年度)
(5) 第16回諫早湾干拓地域環境調査委員会資料、平成12年8月8日、長崎県県民生活環境部環境保全課
■お問い合わせ先■
株式会社 環境総合研究所

連絡先メールアドレス: office@eritokyo.jp
ERI LOGO