[フェーズ1|フェーズ2|フェーズ3 |フェーズ4]

諌早湾閉め切り開放に伴う
潮流の予測・評価に関する自主調査研究
(中間報告:フェーズ2:現況再現)

青山 貞一 環境総合研究所所長
池田こみち 同副所長
鷹取 敦 同主任研究員
since 2001.1

  本研究論文の転載を禁じます。

1.現況再現シミュレーション

1−1 現況再現の目的

 本格的な潮流シミュレーション調査を行う前に、シミュレーションの科学的妥当性を検証するため、
長崎県が諌早湾で実測した潮流(流速及び流況)データおよび環境影響評価書に示されている
潮位差データを用いて現況再現シミュレーション結果のの評価、検証を試みる。

1−2 ケースの設定

潮流 潮位
ケース1 諫早湾干拓工事前
ケース2 諫早湾潮受け堤防工事後(閉め切り後)
○:実測値による現況再現の対象とする
−:実測値が無いため現況再現としない

1−3 評価の方法

 1−2のケース設定にもとづき、表1−1に示すように大潮時の上げ潮最強時、下げ潮最強時について
コンピュータシミュレーションを行い、長崎県が行った実測値の結果と比べる方法により評価を行った。
表1−1 評価の方法
大潮
潮流 (1)流速(cm/sec)
・調整池堤防から諫早湾口までの流速
上げ潮最強時
流速
下げ潮最強時
流速
(2)流況(→で流れの向きを表示)
・調整池堤防から諫早湾口までの流況
上げ潮最強時
流況
下げ潮最強時
流況
潮位 (3)潮位差(潮差)(cm)
・潮位実測地点における潮差(図1−1)
潮差:満潮時潮位と干潮時潮位の差
(4)潮位の位相差(時間)
・満潮・干潮時刻の地点によるずれ
位相差:干潮時時刻の地点によるずれ

図1−1 潮位差(潮差)とは

1−4 現況再現シミュレーション評価用の実測データ

(1)潮流

 潮流の評価に用いた実測データは、長崎県県民生活環境部環境保全課が平成12年8月8日
の第16回諌早干拓地域環境調査委員会に資料として配布した(文献(5))@閉め切り前(平成
元年)、A閉め切り後(平成10年、11年、12年)の実測データである。平成元年、平成12年の
データを図1−4から図1−7に示す。
長崎県による潮流実測調査(文献(5))は、大潮期の上げ潮及び下げ潮の流速
最強時において行われているため、本自主調査の潮流シミュレーションもそれと
同一条件下で評価を行うものとした。

(2)潮位

 潮位の評価に用いた実測データは、文献(1)(「諌早湾干拓事業計画(一部変更)に係る環境影
響評価書(案)」)において現況再現に用いられている有明海内10ヶ所の潮差実測データ(表1−2)
および、口之津と住之江の位相差約1.1〜1.2時間(グラフより読み取り)である。
表1−2 大潮時潮位実測値
地 名 潮位[cm]
富岡 278
口之津 290
柳ノ瀬戸 338
三角 354
島原 406
竹崎島 454
三池 456
大浦 453
住ノ江 494
出典:文献(1)

図1−2 潮位観測地点


出典:文献(1)

1−5 現況再現シミュレーションと評価結果

(1)潮流

 図1−3に現況再現シミュレーションと実測値との比較のグラフを示す。また表1−3〜
表1−5に数値比較表を示す。図1−3をみると、個々の地点の流速には、ばらつきがあ
るものの、概ね実測結果とシミュレーション結果が対応していることが分かる。相関係数は
0.88であった。また、潮流の方向についても実測結果とシミュレーション結果は概ね同
方向を示している。
実測(文献(5))は海面下2m層(諌早湾内外)、水深1/2m層(諌早湾外)に
おいて行われており、シミュレーションは単層で行っており、水深の条件が異なる
など、実測とシミュレーションが必ずしも同一条件にはない。

図1−3 流速の実測値と計算値の比較(工事前後:大潮期、上げ潮・下げ潮最強時)

図1−4 流況実測図(大潮上げ潮最強時、平成元年1月)

出典:文献(5)

図1−5 流況実測図(大潮下げ潮最強時、平成元年1月)

出典:文献(5)

図1−6 流況実測図(大潮上げ潮最強時、平成12年1月)

出典:文献(5)

図1−7 流況実測図(大潮下げ潮最強時、平成12年1月)

出典:文献(5)

表1−3 流速の実測値と計算値の比較(工事前:大潮期、上げ潮・下げ潮最強時)
調査地点 上げ潮最強時流速 下げ潮最強時流速
実測値 計算値 実測値 計算値
1989/1大潮 平均 大潮
1層
1989/1大潮 平均 大潮
1層
海面下
2m層
水深
1/2m層
海面下
2m層
水深
1/2m層
湾内 堤防内 北側 西側 44.8 44.8 33 50.4 50.4 22.5
東側 43.1 43.1 42.9 50.4 50.4 29.7
南側 37.2 37.2 36.7 43.3 43.3 27.5
堤防外 北西側 西側 32.7 32.7 41.4 34.2 34.2 26.5
東側 38.8 38.8 46.7 40.0 40.0 34.2
中央 44.0 44.0 45.6 44.0 44.0 37.6
南西側 南側 43.5 43.5 41.9 43.2 43.2 33.4
北側 42.7 42.7 41.5 43.9 43.9 35.4
有明海側 北側 23.4 23.4 24.2 22.9 22.9 15.8
中央 38.4 38.4 48.3 38.4 38.4 45.9
南側 53.3 53.3 63.5 60.2 60.2 60.0
湾外 北側 27.8 30.0 28.9 52.2 30.8 31.4 31.1 44.9
中央 67.7 38.4 53.1 66.9 62.8 34.8 48.8 63.9
南側 76.4 75.1 75.8 80.5 82.6 72.2 77.4 74.5

表1−4 流速の実測値と計算値の比較
(閉め切り後:大潮期、上げ潮最強時)
調査地点 実測値 計算値
1998/1大潮 1999/1大潮 2000/1大潮 平均 大潮1層
海面下
2m層
水深
1/2m層
海面下
2m層
水深
1/2m層
海面下
2m層
水深
1/2m層
湾内 堤防外 北西側 西側 8.9 5.3 7.5 7.2 10.0
東側 10.7 9.7 11.8 10.7 18.8
中央 18.7 15.9 16.2 16.9 24.1
南西側 南側 3.8 4.5 3.7 4.0 7.0
北側 11.3 11.7 10.3 11.1 11.1
有明海側 北側 18.7 16.3 15.6 16.9 22.5
中央 39.4 30.6 34.0 34.7 41.5
南側 50.2 51.0 45.6 48.9 55.4
湾外 北側 40.2 48.1 28.3 48.2 35.6 45.4 41.0 56.2
中央 60.1 68.1 51.8 59.3 56.1 58.9 59.1 65.4
南側 62.7 76.8 51.3 83.2 60.9 71.9 67.8 79.3

表1−5 流速の実測値と計算値の比較
(閉め切り後:大潮期、下げ潮最強時)
調査地点 実測値 計算値
1998/1大潮 1999/1大潮 2000/1大潮 平均 大潮
海面下
2m層
水深
1/2m層
海面下
2m層
水深
1/2m層
海面下
2m層
水深
1/2m層
1層
湾内 堤防外 北西側 西側 7.7 7.4 8.2 7.8 10.0
東側 10.4 10.1 12.5 11.0 18.8
中央 19.0 14.9 16.6 16.8 24.1
南西側 南側 4.3 2.9 4.1 3.8 7.0
北側 11.9 12.9 9.2 11.3 11.1
有明海側 北側 16.2 13.3 13.5 14.3 22.5
中央 36.2 31.0 33.9 33.7 41.5
南側 53.4 54.0 51.7 53.0 55.4
湾外 北側 44.1 39.1 38.2 35.6 37.2 27.7 37.0 56.2
中央 53.9 56.4 63.4 55.5 52.4 46.5 54.7 65.4
南側 64.3 69.1 63.6 68.5 64.6 62.6 65.5 79.3

(3)潮位

 表1−6、図1−14に大潮時の潮位差の実測値および計算値の潮位差を示す。富岡において
潮位を与えているため富岡の潮位差は実測値と一致してる。富岡以外における潮位差の実測
結果と計算結果の比は、おおむね90%程度〜一致の範囲にある。なお、表1−6には参考として
諌早湾内の潮位差も合わせて示している。
表1−6 大潮時潮位差の検証
地 点 実測値 計算値
潮位 潮位差
[cm]  [cm]  実測比
諌早湾外 富岡 278 278 100%
口之津 290 272 94%
柳ノ瀬戸 338 337 100%
三角 354 314 89%
島原 406 350 86%
竹崎島 454 403 89%
三池 456 403 88%
大浦 453 407 90%
住ノ江 494 447 90%
諌早湾内 A湾口No.2 404
B湾口と堤防の中間No.5 408
C調整池外堤防寄りNo.8 410
D調整池内No.11 413
実測値出典:文献(1)

図1−14 大潮時潮位差の検証


(4)位相差

 文献(1)(「諌早湾干拓事業計画(一部変更)に係る環境影響評価書(案))によると、
昭和29年長崎海洋気象台観測結果より、口之津と住ノ江の干潮時刻のずれ(位相差)は、
グラフよりおおむね1.1〜1.2時間程度と読みとることが出来る。
 本調査のシミュレーションにおける口之津と住ノ江の干潮時刻のずれは1.2時間であり、
観測結果とほぼ一致した。

2.参考文献

(1) 諌早湾干拓事業計画(一部変更)に係る環境影響評価書(案)、平成3年8月、九州農政局
(2) 建設省河川局河川計画課「流量年表」(平成9年)
(3) 杉ノ原信夫、大西行雄、「数値研究−その手法−」、昭和52年度文部省科学研究費補助金
による特定研究、海洋環境保全の基礎的研究(中間報告書U)
(4) 大牟田市一般環境測定局気象観測データ(1999年度)
(5) 第16回諫早湾干拓地域環境調査委員会資料、平成12年8月8日、長崎県県民生活環境部環境保全課
■お問い合わせ先■
株式会社 環境総合研究所

連絡先メールアドレス: office@eritokyo.jp
ERI LOGO