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南相馬
産廃処理設置許可取消訴訟
仙台高裁控訴審も勝訴

青山貞一
掲載月日:2013年2月16月
 独立系メディア E−wave Tokyo

無断転載禁


 週刊金曜日の2013年2月1日号に以下の記事が掲載された。執筆したのは、以前私のところに南相馬の産廃訴訟で取材されたジャーナリストの瀬川牧子さんである。

福島県南相馬市の産廃処分場めぐり――設置許可を取り消さない県
 (週刊金曜日) 
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20130201-00000301-kinyobi-soci
週刊金曜日 2013年2月1日(金)17時42分配信

 福島第一原発から二〇キロに位置する福島県南相馬市大甕に建設予定の産業廃棄物最終処分場をめぐり、県(佐藤雄平知事)に設置許可取消し命令を出した昨年四月の一審判決(福島地裁・潮見直之裁判長)を不服とし、産廃業者が提起した控訴審の判決が一月二四日に出される。

 県(当時・佐藤栄佐久知事)が一九九八年に設置許可した「原町共栄クリーン」の最終処分場をめぐっては、周辺住民らが建設差し止めなどを求め一〇件以上の訴訟を提起。最高裁で係属中の訴訟もある。処分場は建設がストップし稼働していない。

住民側が勝訴した一審では共栄クリーンの元訴訟代理人弁護士の所得税法違反事件や経理的基盤の脆弱さなど問題企業ぶりが明るみに。過去の裁判では暴力団の関与も指摘されている。

 処分場反対運動には同市の櫻井勝延市長も参加。叔父の櫻井文雄さん(七一歳)は「許可取消しを聞いた時、嬉しくて涙が出た。裁判中に多くの産廃反対の住民らが高齢そして津波で死んだ。悔しかったな」と涙ぐむ。県は一審判決を受け入れて控訴を見送ったが、県側の補助参加人だった共栄クリーンが控訴。

 その後、控訴人という立場になった県が共栄クリーンの行なった控訴を取り下げた。昨年一二月六日に第一回弁論が仙台高裁で開かれ、県の控訴取り下げの有効性が争点に。「二四日の判決で、県の控訴取り下げが有効だったら裁判は終了。しかし無効だったら結果によっては業者と住民側の闘いになるだろう」と住民側の坂本博之弁護士は話す。

 一方、県は控訴を断念しながらもまだ設置許可を取り消していない。同県産廃課の山田耕一郎課長は「取消し判決と言ってもまだ一審の状態。裁判の推移を見守りたい」と話す。これに対して坂本弁護士は「県は取り消そうと思ったら取り消すことができる。

 県の本心は、あの産廃施設の場所がほしいのだ」と指摘する。福島県内の放射性廃棄物が手付かず状態の中、二〇キロ圏の同産廃施設は県にとっておあつらえ向きの立地だ。設置許可から一五年。長引く裁判に「われわれにまだ重荷を背負わせたいのか」と、原告の鈴木烝さん(七三歳)や反対運動の会長・大留隆雄さん(七五歳)らは県の姿勢に憤慨している。

(瀬川牧子・ジャーナリスト)
 
 瀬川牧子さんは、2011年5月に以下の記事を書いている。

◆暴力団も関与の産廃処分場建設で、時の人、櫻井勝延南相馬市長が窮地に

筆者 - 瀬川牧子  2011年 5月 23日(月曜日) 06:00

 江戸時代に作られた「ため池」と里山が織り成す美しい農村風景が広がる福島県南相馬市原町区大甕(おおみか)。その昔ながらの自然景観を残す地区で、櫻井勝延市長(55歳)を筆頭とする住民らは、現在、差し迫っている放射能の恐怖の中、地元の産業廃棄物処分場建設に反対し、裁判を通じて暴力団の影と戦い続けている。

 11年前、櫻井市長の大甕の自宅から約1キロ離れた場所(福島第1原子力発電所から約20キロ北方で、4月22日に立ち入り禁止の警戒区域に指定された付近)で、ゴミ処理業者の「原町共栄クリーン」が首都圏からのゴミを焼却する産廃処分場を建設することを決定した。

 「産廃から命と環境を守る市民の会」の大留隆雄会長(73歳)は、「法律で定められた15品目を焼却する予定だった。にもかかわらず、医療廃棄物やインフルエンザにかかった家畜の死骸なども持ってこようとした。放射能以外は何でも」と話す。

 産廃処分場建設を巡り、これまで住民と業者との間で、20件以上もの訴訟がくり広げられている。

 「産廃処分場が完成すれば、業者は約500億円の収益をあげると予測されている。だから、業者は絶対に建設をあきらめたくない。それにしても、ここまで泥沼の戦いになるとは思わなかった」(大留会長)

 5月13日、記者は産廃処分場の建設現場を視察した。すぐ隣には農業用貯水池があり、周辺にはビニールハウスや畑が広がっている。その先には住宅地も見える。環境的な配慮がされていないことに言葉を失った。

 長年、福島県の産廃問題にかかわってきた東京都市大学環境情報学部の青山貞一教授は、自分自身が運営する独立系メディア『E-wave Tokyo』で、こう記載している。

 「もし、一度でも現地に足を運んでいれば、県が安易に下した設置許可がいかに人格権や環境権を踏みにじる暴挙か、がわかるというものである」 青山教授は4カ月間かけて、産廃処分場が建設された場合、焼却炉から飛散するダイオキシンや重金属などで、どのように大気が汚染されるか、3次元流体シミュレーションを行ったという。

 環境問題に加え、業者の株式の所有を巡り、暴力団がかかわっていることが関
係裁判で明らかにされた。住民らの代理人、広田次男弁護士は「最初は稲川会、
次に山口組、そして住吉会と暴力団のオンパレード」と言う。

 大留会長は就任時、周囲から「暴力団に刺されたり、拉致されたりするのではないか」と心配されたという。幸い、そのような直接的な暴力はないものの、無言電話が頻繁にかかってきたり、大留会長を誹謗中傷するポスターが貼られたりするという。

 斉藤文子さん(60歳)は目に涙を浮かべながら、「私は気管支が弱く、ぜん息持ちなので、ここに産廃処分場ができたら、出ていくしかない。自分の生活を守るため、怖いけど、反対しています」と話してくれた。

 ここで忘れてはならないのは、原発も産廃処分場も、大都市、大企業が過疎地の住民から搾取する構図であることだ。青山教授は『E-wave Tokyo』で、「東北地方は、永年にわたって東京など大都市で発生し、あるいは燃やされた『産廃』が最終的処分される場所となっています」と指摘する。


 ところで、2013年1月下旬、上記の件で友人の坂本博之弁護士から電話があった。

 内容は、南相馬の原町共栄クリーン(産廃業者)に関する一連の裁判のうち、もっとも重要な裁判、すなわち福島県がひとたび下した廃棄物処理施設の設置許可の取り消しを求めた行政訴訟(抗告訴訟)に関するものだった。

 現在、南相馬市の市長をされている櫻井勝延さんたち(市議や市長になられる前)が起こしたこの産廃処理施設設置許可取消訴訟に対し、福島地裁は昨年6月、設置許可を取り消した。

 下は2009年時点での南相馬市大甕地区の産廃処分場建設予定地。現在は見るも無惨に造成されている。


2009年時点の南相馬市大甕地区の産廃処分場建設予定地
撮影:青山貞一、Nikon CoolPix S10 2009.12

2009年の現地調査時の南相馬市大甕地区の産廃処分場建設
動画撮影:青山貞一

2009年の現地調査時の南相馬市大甕地区の産廃処分場建設
動画撮影:青山貞一



2011年6月時点の南相馬市大甕地区の産廃処分場建設現場
撮影:鷹取敦


櫻井勝延(南相馬市長)
撮影:鷹取 敦


南相馬市大甕の産廃処分場建設現場視察
左から地元住民、青山貞一(中央)、池田こみち(右)
撮影:鷹取 敦

 判決後、福島県は設置許可を取り消したが、行政訴訟に訴訟参加していた原町共栄クリーン(産廃業者)が仙台高裁にこの件で控訴した。

 2013年1月下旬、仙台高裁は、この共栄クリーンによる控訴を却下だか棄却したとのことだ。 もし共栄クリーンが上告すれば最高裁審理はあるものの実質的に、この15年間、20もの裁判が起こされた南相馬市の産廃問題は櫻井勝延市長ら住民側が完全に勝つことになるとのことだ。

 ただし、産廃業者による櫻井市長等への民事訴訟で仙台高裁まで業者側勝訴となっていた3億円にのぼる損害賠償事件は未決着であり、現在最高裁で審理中とのことである。

◆福島・南相馬の産廃処分場建設:損賠請求訴訟。
仙台高裁も「世界の100人」に選ばれた南相馬市長らに賠償命令(毎日)

5月 16th, 2011

 福島県南相馬市の産業廃棄物処理施設の建設を巡り、産廃会社「原町共栄クリーン」(同市)が不当に工事を中断させられたとして、反対派の住民ら6人を相手取り、3億円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が12日、仙台高裁であった。

 佐藤陽一裁判長は同社の請求を全額認めた1審判決を変更し、住民側に約1億5478万円の支払いを命じた。

 6人のうち1人は福島第1原発事故で政府の対応を批判し、米タイム誌の「世界で最も影響力のある100人」に選ばれた櫻井勝延市長で、就任前に反対運動をしていた。

 判決などによると、6人は建設予定地の地権者2人から土地を買収。01年に福島地裁いわき支部に建設差し止めの仮処分を請求し認められた。その後、最高裁で仮処分の取り消しが確定していた。

【長田舞子】

 下の写真は2011年6月、福島県内放射線測定調査で南相馬に行ったときに撮影したものである。


相馬太田神社にて 左から青山貞一、櫻井勝延市長、池田こみち
撮影:鷹取 敦

 今回の行政訴訟が最高裁で結審し、勝訴すれば民事の損害賠償事件にも影響があり、最終的に3億円問題が解決する可能性もあると思う。

 詳しくは坂本弁護士からメールでの連絡が入ると思われるが、何度も原ノ町、南相馬にでかけ応援してきた者として嬉しい限りである。

 昨年は片道6時間半で南相馬市の再生可能エネルギー推進ビジョン策定会議に委員として参加していたが、未だ復興のめどがたっていない三重苦の過酷な現実のなかで、櫻井さんらに大きな光がさしてきた。


南相馬市海浜部の津波被災地
撮影:青山貞一


東日本大震災によって冠水した南相馬市の地域(赤色部分)
撮影:青山貞一

 以下は坂本弘之弁護士から届いた詳報である。

ごみ弁連の皆様

 青山さんから速報がありましたが、南相馬市大甕地区に建設が予定されている、原町共栄クリーンという業者の産廃処分場を巡る行政訴訟について、1月24日に仙台高裁で判決がありました。

 この訴訟は、福島県が被告となり、原町共栄クリーンが被告側の補助参加人となっていました。
 
 訴訟の内容は、設置許可取消を求める義務付け訴訟で、昨年4月24日に福島地裁は、被告福島県に対して、設置許可取消を命ずる判決を言い渡しました。その後、補助参加人野原町共栄クリーンが控訴しましたが、福島県は控訴しませんでした。

 補助参加人が控訴すると必然的に福島県が「控訴人」になるようですが、控訴人福島県は、5月22日、補助参加人が行った控訴を取り下げました。

 そこで、この控訴人福島県による控訴取り下げが有効かどうかが、控訴審の入口における争点になりました。

 民訴法45条2項には、補助参加人の訴訟行為は、被参加人の訴訟行為と抵触するときは、その効力を有しない、という規定があり(旧民訴時代からこのような規定があります)、この規定をそのまま適用すれば、原町共栄クリーンの控訴は効力を失うことになります。

 一方、以前から「独立当事者的補助参加人」と言われる概念があり、被参加人と独立した法的利益を有する補助参加人には、被参加人の意思に反する訴訟行為も許される、と言う解釈がありました。

 昭和40年6月24日最高裁第一小法廷判決は、本件と同様な事例で、独立当事者的補助参加人が行った控訴を被参加人が取り下げた行為は無効だ、と言う判断を示しました。詳しくは、判決文を読んでいただければと思いますが、今回の判決は、その後の行訴法改正により、共同訴訟参加と言うやり方が認められるに至っており、それにも関わらず民訴法上の補助参加というやり方を選択した以上は、民訴法45条2項が適用される、ということで、控訴人福島県による控訴取り下げは有効だ、というものです。

 共栄クリーンは今後も最高裁に上告をして争ってくるものと思いますが、この処分場計画に対する住民の争いは大きな山場を越えたように思います。また、共栄クリーンの控訴を取り下げる藏ならば、福島県は、積極的に設置許可取消をしてしまえばいいのにとも思いますが、それはまだやっていません。

 まだ、住民に対する損害賠償事件が残っています。住民団体、弁護団ともに完全勝利まで戦い抜きたいと思っています。

坂本博之(弁護士、つくば市)