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”原発依存症”に陥った
福島県双葉町の小さな町の実態

青山貞一
Teiichi Aoyama
掲載月日:2011年5月7日
 独立系メディア E−wave
無断転載禁


 ECCS(緊急炉心冷却システム)など先端技術の粋を集めたはずの原発だが、福島第一原発大事故を見ると、3月の事故直後から5月上旬の現在に至るまで、その対策の多くは、ただ毎日、毎日原子炉建屋の上から水をかけるしかないのが実態なようだ。 何ともおそまつきわまりない。

 こんなおそまつな原発が、狭くて人口が多い日本の沿岸域に54基も設置されているのだから、私たちは夜もオチオチ寝ていられない。 また世界に冠たる日本の技術や経済が、かくも稚拙で恐怖に満ちた原発による電気に多くを依存してきたかと思うと、まさにぞっとする。

 ではなぜ、かくも原発がこの狭い日本の沿岸部、それも過疎の寒村にたくさん出来たのかと言えば、それはいうまでもなく、原発を立地する地元の基礎自治体に、巨額の「電源3法交付金」と呼ばれるカネが落ちるからである。

 電源3法交付金とは何か? 

 まず最初にその概要を示そう。

 電源3法交付金は、「安定的かつ低廉な電気の供給を確保することは、国民生活、経済活動にとって重要であり、計画的な電源立地が必要です。また、発電所の計画的かつ円滑な立地を図るためには、発電所を受入れる地域の福祉向上を図り、地元の理解と協力の下に立地を進めることが必要です。このための中心的な施策が電源三法交付金です」なのだそうだ。

 具体的には、電源3法とは、昭和49年度に創設された(1)電源開発促進税法、(2)電源開発促進対策特別会計法、(3)発電用施設周辺地域整備法の3つの法を総称するものであり、法の趣旨を見ると、「電源地域の振興、電源立地に対する国民的理解及び協力の増進、安全性確保及び環境保全に関する地元理解の増進など、電源立地の円滑化を図るための施策が行われます」とある。

 次に、発電用施設周辺地域整備法に基づいた「電源立地地域対策交付金」を紹介しよう。
 
 「電源立地地域対策交付金」は、発電用施設の立地地域・周辺地域で行われる公共施設整備事業や住民福祉の向上に資する事業に対し交付金を交付することを意味し、発電用施設の設置に係る地元の理解促進等を図ることを目的としているとされている。

 この「電源立地地域対策交付金」は、平成15年10月に電源立地促進対策交付金、電源立地特別交付金などを統合し創設されたものであり、従来の対象事業に加え、新たに地域活性化事業が交付の対象事業に追加され、幅広い事業が実施可能となっている。

 政府の電源特別会計予算全体を見ると、以下にあるように、<電源立地>と<電源利用>の双方で実に2004年度ベースで5046億円に達していることがわかる。ちなみに2004年度は2003年度に比べ<電源立地>と<電源利用>ともに、3.9%増えていることもわかる。



 ところで、ある調査によると2004年度の「電源3法交付金」のうち、原発が立地されている都道府県への交付金は、予算ベースで約824億円に上るとされている。

 その内訳を見ると、福島第1、第2原発を抱える福島県には約130億円、柏崎刈羽原発を抱える新潟県には約121億円、敦賀、美浜、大飯、高浜原発を抱える福井県には約113億円、六ヶ所村核燃料再処理施設や放射性廃棄物管理施設を抱える青森県には約89億円が交付されている。

 上記の額は、あくまでも単年度(1年)当たりの交付額である。したがって、1970年代初頭から原発を立地してきた福島県の場合、1974年に制定された「電源3法交付金」の累積額は巨大なものとなる。さらに発電所の運転開始後は、固定資産税をはじめとする事業税などが、長期間にわたって税収として入ることになる。

 資源エネルギー庁の説明によれば、モデルケースの場合、最新型の原発を誘致した基礎自治体は45年間で2,455億円もの巨費を受け取ることができるという。ただし、交付金の額は一定ではなく原発の着工から運転開始までの7年間が総額433億円だが、それを過ぎると、8年目以降は前年の4割程度に落ちる。

 そこで”原発立地依存症”にとりつかれた基礎自治体は、2号機、3号機と同じ基礎自治体内に原発を増設してゆくことになる。まさに、これが”原発立地依存症”の本質である。麻薬同様、一度手を出すと抜け出すことが困難、いや不可能となるゆえんである。

 ちなみに福島原発の場合、福島第1号原発では、 第1号機 〜第6号機 が福島県双葉郡大熊町と双葉町にまたがって臨海部に立地されている(下の写真参照)。


東京電力 福島第一原子力発電所 出典:東京電力


出典:東京電力

 また福島第2号原発では、第1号機〜 第4号機 が 福島県双葉郡富岡町と楢葉町にまたがって臨海部に立地されている(下の写真参照)。 写真左の2機が楢葉町、右の2機が富岡町に立地しており、敷地面積は20万平方メートル、東京ドーム32個分である。


東京電力 福島第二原子力発電所 出典:東京電力

 私たちは、福島第一原発が立地されている大熊町と福島第二原発が立地されている楢葉町における「電源3法交付金」の交付実態及び使用実態を探るべく、2011年4月17日(日)、福島県いわき市の広田法律事務所で、それぞれの関係者を対象としたヒヤリングを4時間に渡って4人の弁護士とともに実施した。

 その実態はまさに、”原発立地依存症”に陥った小さな自治体そのものであり、麻薬同様、一度手を出すと抜け出すことが困難であることがわかった。たとえば、この原発麻薬は、まちそのものを根底から変える。地図を見れば明らかだが、福島県の双葉郡には人口が数千人から1万数千人の小さな町がたくさん並んでいる。

 北から双葉町、大熊町、富岡町、楢葉町、広野町である(下図参照)。


福島県市町村図 出典:マピオン

 上述のように、双葉町と大熊町は東京電力福島第一原発、富岡町と楢葉町は東京電力福島第二原発、そして広野町には東京電力広野石炭火力発電所がそれぞれ立地している。

 地図で見えるか見えないかの小さな町だが、普通ならこのような過疎の寒村は財政的に立ちゆかなくなり、過去幾度か行われてきた市町村の広域合併によって合併し、ひとつの市になるはずである。

 だが、上述してきた「電源3法交付金」の魔力により双葉郡の双葉町、大熊町、富岡町、楢葉町、広野町は、それぞれ合併もせず、また北海道の夕張市のように財政破綻をすることなく現存しているのである。

 事実、小さな基礎自治体が財政難にあえぐ中、上記の町は、平成21年度の総務省の財政力指数で見ても、全国平均が 0.55 また福島県が 0.44 であるのに対し、双葉町が0.78、 大熊町が1.50、  富岡町が0.92、 楢葉町が1.12、 広野町が1.25と、全国平均を大きく上回り、とくに福島第一原発で発電機が多数立地している大熊町では、1.50と飛び抜けて大きいことがわかる(財政力指数は大きい方が財政力があることを示している)。

 ちなみに原発や巨大石炭火力の立地がない、周辺の町村では、川内村が 0.27、 浪江町が 0.47、 葛尾村が 0.14、飯舘村が 0.24と、いずれも全国平均の0.55を大幅に下回っている。

 このことは、何も福島第一原発、第二原発立地域の町村だけでなく、全国に54基ある原発や青森県六ヶ所村の核燃料廃棄物再処理工場についても妥当することである。

 ちなみに北海道電力の原発がある泊村の財政力指数は、1.17、原子燃料サイクル施設などの原子力施設がある青森県六ヶ所村は1.71、東北電力の女川原発がある宮城県女川町は1.41、日本原子力研究開発機構、日本原子力発電東海発電所・東海第二発電所など多くの原子力施設がある茨城県東海村は1.78、東京電力柏崎原発がある新潟県刈羽村は、1.53、北陸電力の敦賀原発がある福井県敦賀市は1.11、中部電力の浜岡原発がある静岡県御前崎市は、1.48、九州電力の玄海原発がある佐賀県現会長は、1.49など、のきなみ全国平均の0.55を2倍以上も上回っており、3倍上回っている町村もある。

 逆説すれば、これらの市町村は、電源3法交付金や固定資産税によって財政力を得ているが、いつおこるとも知れない福島第一原発事故のような甚大なリスクを抱えているとも言えるのである。

 今回の福島第一原発事故でわかるように、原発を立地している小さな市町村は、ひとたび大きな原発事故が起きれば、事故後、数10年間にわたって土地利用が規制され、町全体がチェルノブイリ事故周辺地域のように、ゴーストタウンとなる危険性を絶えずもっていることになる。

 日本の大マスコミはまったく報道しなかったが、日本の原発で使用した核燃料廃棄物の再処理を請け負ってきたイギリスのセラフィールドの工場で大量のプルトニウムが海に流出した前代未聞の事故もある。

 このように、こと原発に関しては、国民や立地域の住民に知らされるべきことが知らされない、知る権利が制限され、経済的側面が強調されてきたことは間違いがないころろであろう。

 やはり日本の大マスコミはほとんど報道してこなかったが、仮に福島第一原発のような大事故に至らなくても、日常的に原発の運転、維持管理に伴い必要とされる作業員は、常時、放射線被曝(外部被曝、内部被曝)のリスクを抱えている。

 現在、政府から全面操業停止の指示を受けている中部電力浜岡原発の作業員が29歳の若さで白血病(血液のガン)で亡くなったことも記憶に新しい。

 さらに東海村のJCO事故で2名の作業員が10シーベルト単位の放射線に被曝し、これ以上なく悲惨な姿で亡くなられている。

 日常的にも、原発依存症の財源は住民の暮らしもマヒさせている。発電所が立地されている基礎自治体では、電気料金が大幅に割引される。原発施設の地主は特定の商売で独占権を与えられている。

 ヒヤリングによれば、雇用面でも福島原発周辺、とくに大熊町では町民の9割が直接、間接的に東京電力に関連する仕事をしているという。

 その結果、大熊町を例に取ると、下のグラフで明らかなように、原発が立地される前より原発立地後の方が人口が大幅に増えている


福島県双葉郡大熊町の人口推移  出典:総務省統計局/国勢調査

 しかし、経常収支比率で見ると、電源3法交付金の使途が限定されるため、大熊町以外は、全国市町村平均値と比べ決して良くはない。

 全国平均は91.8,大熊町は68.3と飛び抜けて経常収支比率が低い。この比率は高い方が財政が硬直化していることを示す。

 ヒヤリングでは、楢葉町の場合、「電源3法交付金」の多くがダムや道路など土建公共事業に拠出されており、町民にとって直接的な効果は薄いという報告もオンブズマンや町会議員から出された。

 そのあげくの福島第一原発事故である。原発立地に依存せず、まちづくりを本気で考え活動してきた町民にとっては、踏んだり蹴ったりとなっている。

 これら町民へのヒヤリング、インタビュー結果をもとに詳細な報告をしてみたい。

 なお、以下は日刊ゲンダイで報じられた福島原発と政治家に関連する記事である。あわせてお読みいただきたい。

◆福島原発と渡部恒三、半世紀の癒着
 【原発・大震災 報じられない裏と事件簿】


 日刊ゲンダイ 2011年(平成23年5月2日)掲載

 福島原発の暴走は誰も止められない惨状だが、そんな中、この人の責任がなぜかあまり報じられていない。厚相だった1984年、「原発つくれば国民は長生き」の舌禍で叩かれた民主党最高顧問の渡部恒三(78)だ。59年に26歳で福島県議に初当選。69年に国政に転じ、半世紀以上にわたって原子力行政に深く関わってきたのが渡部なのだ。

 「選挙区の会津には、猪苗代水系を使った東電の水力発電所が12カ所もあり、昔から東電とのパイプは太かった。60年には同郷で東電社長の木川田一隆氏の原発計画に呼応し、県議会の一員として原発用地の提供を申し出た。恒三サンは原発の生みの親のひとりなのです」(福島県政関係者)

 国政では自民党・田中派に所属し、石油危機後に通産族として原発推進の旗を振った。74年には「電源3法交付金」の制定に尽力。電力会社から吸い上げた税金を原発立地自治体にバラまく仕組みを完成させ、地元・福島で豊富な交付金を差配し、権勢を振るった。

 その後も党電源立地等推進本部の事務局長として、福島第2原発や柏崎刈羽原発の用地買収に関与。80年には党商工部会長となり、前年比45.1%増のエネルギー関連予算を獲得し、「史上空前の予算増」で通産省にも恩を売った。81年発行の自著にはこう書いている。

 「原発をやらないと、21世紀のエネルギーは確保できない。政治生命をかけてもいい」

 通産相就任は91年。ついに原発行政のトップに上り詰めたのである。

 「民主党参加後は電力労組に接近。東電と東北電という2つの労組の票を束ね、元秘書で甥の佐藤雄平・現福島県知事や、玄葉光一郎・現国家戦略相、増子輝彦・前経産副大臣と子飼いの政治家を次々と政治の表舞台に送り込んだのです」(前出の福島県政関係者)

 昨年、佐藤知事と増子副大臣は佐藤栄佐久前知事が抵抗した福島原発のプルサーマル計画を承諾し、それが恐怖の3号機の暴走につながっていく。そんなのが最高顧問の民主党に原発処理は任せられない。
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なぜ小沢一郎の岩手には原発がないのか
 【原発・大震災 報じられない裏と事件簿】


 日刊ゲンダイ 2011年(平成23年5月5日)掲載

 東北地方の太平洋側には日本の原発の4分の1が集中している。その数、実に14基。福島から青森までボコボコと建てられているが、なぜか岩手だけ外れている。原発がないのだ。

 「岩手の面積は北海道に次ぐ広さですが、人が住めるのは全体の25%程度と少ない。特に海沿いは平地が狭く、原発建設に適した土地がないのです。沿岸部は交通の便も悪い。新幹線や高速道路が通っている内陸部から、クルマで2〜3時間かかります。30年に1度は津波被害もあり、候補に挙がることはありませんね」(地元関係者)

 日本では、原発を受け入れた自治体に、ベラボーなカネが転がり込む仕組みができている。

 資源エネルギー庁のモデルケースによると、最新型の原発を誘致した自治体は、45年間で2455億円もの巨費を受け取ることができる。

 ただし、支給金額は一定じゃない。着工から運転開始までの7年間が最も手厚く、総額433億円だ。

 「支給額は、着工から7年を過ぎるとガクッと減らされます。これがクセモノで、8年目は前年の4割程度に落ち込むのです。不足分の穴埋めには、新たな原発を誘致するのが手っ取り早い。電力会社に牛耳られた地方財界や政治家も後押しする。そうやって1号機、2号機……と同じ場所に原子炉が建設されていくのです。原発は麻薬と同じ。一度手を出すとやめられません」(電力業界関係者)

 この麻薬は住民の暮らしもマヒさせる。電気料金は大幅に割引されるし、原発施設の地主は特定の商売で独占権を与えられる。雇用面でも福島原発の周辺は、3、4人に1人が東電関連の仕事をしている。

 原発マネーと無縁の岩手は幸運だが、その裏には原発に頼らなくてすむ経済がある。これは政治の力ではある。