はじめに
がれき広域処理量の大幅見直しと31基に及ぶ被災地に設置する仮設焼却炉・溶融炉により「がれきの広域処理」は、もはや何ら根拠がなくなったことが合同調査により判明した。
これは本年2月から環境省及び被災地自治体である宮城県、岩手県、仙台市、関連市町村への現地調査、直接ヒヤリング調査などを行ってきた環境行政改革フォーラム特別調査チーム(※1)と奈須りえ議員調査グループ(※2)による合同調査チームが徹底調査してきたもので、この度、がれきの広域処理は、定量データ収集とその解析により、その必要性に関する合理的な根拠がまったく存在しないことが判明した。
※1 環境行政改革フォーラム特別調査チーム
青山貞一代表(環境総合研究所顧問、東京都市大学名誉教授)
池田こみち副代表(環境総合研究所顧問、元福島大学講師)
鷹取敦事務局長(環境総合研究所代表取締役、法政大学講師)
がれき広域処理問題特設ページ
※2 奈須りえ議員調査グループ
奈須りえ(東京都大田区議会議員)
大田レディース(東京都大田区の女性調査スタッフ)
ブログ:奈須りえ日誌
根拠とした詳細データを添えた告知は6月9日におこなう予定である。
ここでは以下に、2012年6月1日に環境行政改革フォーラムの事務局で実施した合同調査チームの調査概要を速報する。またYou Tube / USTREAM の動画による第三回目の座談会でも本件について詳報する予定である。
以下は合同チームからの速報である。
@見直しにより広域処理希望量は大幅に激減
2012年5月17日、参議院議員会館102号室で行われた緊急議員学習会で青山貞一が講演・報告の中でも国会議員、地方議員伝えたことだが、この4月、村井宮城県知事が会見し、宮城県内の焼却対象となる可燃・木質がれきの多くが太平洋の洋上に流出したことで、当初、想定していたがれきの総量が大幅に削減したことを報告した。
その結果、宮城県が当初予定していたがれきの広域処理希望量は当初の1/4程度に大幅に減少している。以下は宮城県知事の会見の概要(河北新報)である。
河北新報(2012年4月24日
県外がれき処理、350万トンより圧縮 洋上流出予想以上
村井嘉浩宮城県知事は23日、東日本大震災で発生した宮城県内のがれき約1570万トンのうち、国や県が県外処理を必要とする350万トンについて「かなり圧縮できる」との見通しを示した。同日あった細野豪志環境相との会談後、記者団の取材に語った。村井知事は、会談で新たに6府県に広域処理を要請する方針が示されたことを受け「県外へのお願いはこれで打ち止めと受け止めている」と述べた。圧縮理由について知事は「津波で洋上に流されたがれきが予想以上に多かった。総量は相当程度減るのではないか」と説明。
|
上記の村井知事会見では具体的な数字を示していないが、奈須大田区議らが、宮城県に直接電話などでヒヤリングしたところ、数値が明らかになった。 当初、石巻市分を中心に広域処理希望量が圧倒的に多かった宮城県では希望量が大幅に減った。
一方、岩手県は見直しにより一旦広域希望量が増えたものの、増えた多くは焼却処理以外のものであることがわかった。 さらに、岩手県では可燃物の多くをセメント会社などで処理していることからから、もともと宮城県に比べると可燃物の広域処理希望量は大幅に少ない量となっている。その結果、可燃の広域処理希望量は、見直し前の124.8万トンから27.9万トンへと大幅に減っている。
表1は、合同調査チームによる情報収集と解析の結果分かった現時点での仙台市分を含む宮城県の焼却処理量である。当初の広域処理希望量が圧倒的に多かった宮城県における見直し前後のがれき処理量と広域処理希望量の数値である。焼却処理の広域処理希望量の見直し前後をご覧頂きたい。
表1 宮城県受託分のがれき量(仙台市への焼却委託分10万tを含む)
処理方法 |
総量[万t] |
県内処理計画量[万t] |
広域処理希望量[万t] |
見直し前 |
見直し後 |
見直し前 |
見直し後 |
見直し前 |
見直し後 |
再生利用 |
592.8 |
385.6 |
490.2 |
331.5 |
102.6 |
54.1 |
焼却処理 |
295.5 |
203.4 |
170.7 |
175.5 |
124.8 |
27.9 |
売却 |
68.7 |
46.0 |
68.7 |
46.0 |
0.0 |
0.0 |
最終処分 |
132.1 |
77.9 |
56.1 |
38.7 |
76.0 |
39.2 |
小計 |
1089.1 |
712.9 |
785.7 |
591.7 |
303.4 |
121.2 |
出典:環境行政改革フォーラム+奈須議員+大田レディース合同調査チーム
もとより、国(環境省)、県の当初見積もりがきわめてアバウトであり、洋上流出を含めもともとの焼却の対象となる建設廃材などの木材系のがれきの量が大幅に減ったことが大幅な見直しの主因となっている。これらについては宮城県を中心に担当部署に電話などで直接確認した。しかし、本合同調査では、環境省が高額の予算を取るために、がれき処理量をはじめから水増ししていた疑惑も浮上している。
A被災地で全面稼働する31基の仮設焼却炉・溶融炉で処理能力激増!
この1年かけ環境省が被災地自治体である宮城県、岩手県、仙台市(政令指定都市)に新規に設置する仮設の焼却・溶融炉、合計31基がこの7月中には全面稼働することになった。これにより日量で4700トンの処理が被災地の現場で可能となることが判明した。
これも参議院議員会館での緊急議員学習会で青山が報告したことだが、当時は27基と考えていたものがその後の調査で27基が31基に4基も増えていた。
表2は、合同調査チームによる処理能力調査結果である。
これは、奈須議員らによる宮城県などへの直接ヒヤリングにより判明したことだが、6月1日に池田こみちが実施した環境省担当部署への直接電話ヒヤリングでも同じ内容が確認され、環境省の公表資料でも同数値が確認された。
宮城、岩手、仙台市の被災地で31基もの仮設焼却炉・溶融炉が7月中には全面的に稼働開始すること、これらの基数と各焼却炉、溶融炉の1日単位の処理可能量などについては環境省担当部署に確認、さらに建設費、維持管理費は宮城県のウェブサイトから確認済みである。
表2 宮城県・岩手県の仮設焼却炉の処理能力等
仮設焼却炉 |
焼却炉数
[基] |
処理能力
[t/日] |
宮城県 |
気仙沼
ブロック |
南三陸処理区 |
3 |
285 |
気仙沼
処理区 |
階上地区 |
2 |
400 |
小泉地区 |
2 |
300 |
石巻ブロック |
5 |
1,500 |
亘理・名取
ブロック |
名取処理区 |
2 |
190 |
岩沼処理区 |
3 |
195 |
亘理処理区 |
5 |
525 |
山元処理区 |
2 |
300 |
東部ブロック |
2 |
320 |
宮城県(仙台市以外)合計 |
26 |
4,015 |
仙台市 |
3 |
480 |
宮城県合計 |
29 |
4,495 |
岩手県 |
宮古地区 |
1 |
95 |
釜石地区 |
1 |
100 |
岩手県合計 |
2 |
195 |
宮城県・岩手県合計 |
31 |
4,690 |
出典:災害廃棄物の広域処理、平成24年21日環境省及び被災地自治体ヒヤリング
以下に計画されこの7月から稼働を開始する仮設の焼却炉・溶融炉の処理能力をグラフに示した。
図1 宮城県・岩手県の仮設焼却炉の処理能力等
被災地に仮設される31基に及ぶ焼却炉・溶融炉は、表2に示したように宮城県(26基)、岩手県(2基)、仙台市(3基)と被災地の6〜7の地域ブロックごとに計画されている。
それらの焼却炉、溶融炉の建設費用と収集運搬、維持管理などの費用は、ブロックごとに異なり、それぞれ193億円〜647億円、石巻ブロックを含めない段階で2633億円、石巻ブロックの推定額を含め5895億円という途方もない金額で宮城県においてゼネコンを中心とするJVに発注されている。
引き受ける側は、なぜか焼却炉・溶融炉メーカーではなく、ここでも除染事業同様、ゼネコン各社となっている。しかも、きれいに大手ゼネコン各社に分配されていることが分かる。
どうみても、ここでは市場原理は働いているとは思えず、大手ゼネコン全体で価格が調整されていることが伺える。これについては、別途詳細調査(談合調査)を行っている。いずれにしてももっとも廃棄物処理量が多いとされる石巻市の業務価格が未公表なので同価格が分かり次第、表3は改訂する。→宮城県廃棄物対策課に照会し石巻ブロックの参考業務価格を掲載した。(2012/6/8)
表3 宮城県の災害廃棄物処理業務・参考業務価格等
ブロック |
自治体 |
参考
業務価格
(億円) |
災害廃棄物
推計量
(千t) |
JV代表社 |
石巻ブロック |
石巻市、東松島市、女川町 |
2,290 |
5,582 |
鹿島建設 |
亘理・名取
ブロック |
名取処理区 |
名取市 |
193 |
526 |
西松建設 |
岩沼処理区 |
岩沼市 |
283 |
327 |
間組 |
亘理処理区 |
亘理町 |
647 |
508 |
大林組 |
山元処理区 |
山元町 |
394 |
738 |
フジタ |
宮城東部ブロック |
塩竈市、多賀城市、七ヶ浜町 |
280 |
607 |
JFE
エンジニアリング |
気仙沼
ブロック |
南三陸処理区 |
南三陸町 |
261 |
365 |
清水建設 |
気仙沼処理区 |
気仙沼市 |
575 |
1,435 |
大成建設 |
合計 |
4,923 |
10,088 |
|
資料:宮城県災害廃棄物処理業務プロポーザル審査結果、
環境省資料(災害廃棄物推計量)
合同調査では、ホームページに告知されている情報及び環境省、被災地自治体への直接インタビューにより業務発注の形態(入札、指名競争入札、プロポーザル方式、総合評価方式、随意契約など)、落札価格、落札JV業者名などを確認している。
また費用に関しては、焼却炉・溶融炉の建設費、がれきの収集運搬、維持管理、終了後の撤収費など内訳を聞いたが、環境省側はその内訳については現状では把握していないという。
B仙台市分はもともと仙台市自身が処理し広域処理を希望していないこと
仙台市分はもともと仙台市自身が処理し、広域処理を希望していない。加えて、仙台市は、宮城県が他県経由で全国の基礎自治体などに広域処理を希望している量の一部を仙台市内で処理するとしている。
C結論:広域処理はなくても期限内に可燃物のがれき処理は十分可能!
以上により、本年の7月以降は、がれきの広域処理をしなくても、被災地に仮設する31基の焼却炉・溶融炉によって、当初の期限内に十分、被災地内処理が可能なことが判明した(図2参照)。
上記はヒヤリング調査結果、仮設の焼却・溶融能力調査、既存の処理能力調査、災害廃棄物量の内訳調査などをもとにしており、来週後半に詳細な報告書とパワーポイント、同PDFをつくり公開する予定である。
図2 宮城県内の災害廃棄物処理分担イメージ
出典:環境行政改革フォーラム+奈須議員+大田レディース合同調査チーム
◆すでに行われている広域処理の課題について
環境省は、2年間で1兆数1000億円かけ被災地における仮設焼却、溶融炉建設、稼働、維持管理、撤去に金を投入するとともに、他方で広域処理に手を挙げた自治体(都道府県、政令指定都市、基礎自治体)に補助金、交付金の形で湯水のような財政支援をしている可能性が高い。
自治体へのがれき処理関連の補助率は95%とされており、機材、機器、維持管理、固定費などなどありとあらゆるものが対象となっている実態がある。これらは税金、公金の二重投資であり、環境省は即刻がれき広域処理を停止させなければならないだろう。
この間、全国各地から呼ばれ広域処理問題について行った講演会で指摘してきた通り、受け入れを表明している自治体には、まさに、この機に乗じて焼却施設の更新、バグフィルターなどの機材の更新、通常の維持管理費、固定費を国から得ようとしている事例も多くある。
またがれき広域処理に都道府県や市町村が民間の産廃業者を絡ませ、産廃業者に1トンあたり高額の処理費を支払い最終的に環境省に請求書を出すことが推察される。
さらに都道府県、政令指定都市、基礎自治体の中には自治体が出資した第三セクターで処分場をもっている場合があり、その焼却施設や処分場に1トンあたり通常よりはるかに高額の処分料を自治体が支払い、それを国に請求することが推察される。
※通常の産業廃棄物は1トンあたり1.8万円から3万円程度であるが、今回の
広域処理では、1トンあたり最高6.8万円(運送費含む)という異常に高額の
例もあることが分かっている。
上記の中には、業務の再委託などで地方自治法、地方財政法に違反する可能性がある事案も見受けられている。
◆政策提言
被災地のがれき広域処理の合理的根拠はなく、
環境省は、即刻、広域処理の停止を宣言すべきである!
以上速報したように、すでに震災がれきの広域処理の根拠はまったくないことが分かった。ここに報告した内容は環境省自身が十分把握しているはずである。
。
仮に放射能濃度が低い場合であっても、放射性物質はじめ焼却することで各種汚染物質が発生する可能性が高い災害瓦礫を1000km以上運搬し、住宅地近くの既存の焼却炉・溶融炉で焼却処理することはLCA(ライフサイクルアセスメント)から見ても地球温暖化対策の観点から見ても愚行であると言わざるを得ない。
日本は先進諸国で最もゴミを燃やし埋め立てるいわゆる「ゴミ焼却主義」大国である。日本のゴミ政策は、何でも燃やして埋める思考停止の施策しかない。このゴミ焼却主義は、巨額の費用がかかり、かつ燃やさなければ出ない多くの種類の有害化学物質により空気と水を汚染する。
◆青山貞一:災害廃棄物広域処理への疑問 岩波書店「科学」,2012年5月号
もとよりゴミは分別すれば資源であり、カナダノバスコシア州における20年近くに及ぶ社会実験では、燃やして埋める日本的ゴミ処理に比べ、脱焼却と5Rにより雇用が10倍近く増加したという実証的報告もある。
巨額の税金、公金を浪費し、放射性物質、有害化学物質、温室効果物質を増やす広域処理は即刻中止しなければならない。その意味で、環境省はいち早く、「撃ち方止め」宣言を行い、がれきの広域処理は不要なことを宣言すべきである。
全国で受け入れをめぐり紛争が起きており逮捕者、けが人まで出している現状をいち早く終息すべきである。
また私たちが昨年夏以来、政策提言(以下を参照のこと)しているがれきによる防潮堤、防波堤づくりだが、横浜国大名誉教授の宮脇昭さんの提案についても、環境省はいろいろ揚げ足を取って反対してきたが、私たちの案を受け入れれば、巨額の公金、税金によって仮設の焼却炉をつくる必要もなく、今後の津波にも備えうる防潮堤、防波堤も地元の力で構築でき、一石二鳥、一石三鳥となる!
本速報の文責は青山貞一
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